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44話 ウェイターとの交渉

 俺は皆が話し合っている途中で抜け出して少し先の厨房付近にいる、ウェイターに声をかける。

 

 「そこのウェイター君。忙しい所、申し訳ない。いくつか質問したいことがあるのだがいいかね?」

 

 俺はわざと金持ちのお坊ちゃんみたいな口調で話しかけた。

 て言ってもお坊ちゃんのイメージなんて漫画やアニメで出てくるようなキャラクターしか思い浮かばないのだが。

 まぁ、本来こんな最高級ホテルに来る宿泊客の餓鬼なんてこんなもんだろう。


 「……なんすか」


 ウェイターをよく見るとなんと、なんと一瀬先生だった。

 

 「間違えました~」


 なんでウェイターの服着てるのだろうか知らないが、他の奴を探さなければ。


 「いやいや、間違えてないぞ俺がウェイターだ!」


 「……4組の採点はいいのですか?あれっすか、先生辞めてウェイターに転職っすか?」


 「ちげぇよ!俺はずっと先生で生きてくんだよ!」


 「ここに4組はいませんが?」


 「……そのな……採点係を学年主任に交代されちまったんだ」


 「……」


 「聞いてくれよ~!夏野ぉ!俺の採点が甘すぎる可能性があるってことで無理矢理交代されたんだぜ!?俺、普通に採点したんだぜ?」

 

 一瀬先生の採点クラスは1年4組、マイナス58点で最下位の所だ。

 4組の詳しい行動は知らないがちゃんと採点してるような気がするが。


 「一瀬先生と学年主任の採点基準にズレがあったっということですよね?何か思い当たる所はありますか?」


 「さりげなく情報を盗もうとするなっちゅーに。これで俺が口を滑らしたらもっと減給されちまう!」


 ちっ


 一瀬先生は俺と同じ「めんどくさいことは極力回避してズルして楽に生きたい」属性を持っている。

 同じ属性同士だからこそ、俺の考えは見通されやすい。



 「で、何もすることねぇんだったら忙しいウェイター手伝っとけ。どうせ客は自分とこの学生だけだから問題ないしホテル側も社外実務研修としてOKしてる、みたいなこと言われたんですか?」


 「夏野は何でも知ってるなぁ~……しくしく」


 「……」


 どうしよう、このまま一瀬先生に質問を続けるべきなのか他をあたるべきなのか。

 今は一瀬先生の相手をするよりもミニスラちゃんと山坂の二つを解決したいんだが。

 

 「で、要件はなんだ……?ただ、俺は今このホテルのウェイターとしての立場でしか答えないぞ?」


 「それ、約束できます?むしろそっちの方が好都合なんですが」


 「あ……ああ」


 俺の不適な笑いに一瀬先生も嫌な予感がしたのだろう。

 だが、ウェイターとしての立場でしか答えないのだったら都合が良い。


 「先生……いや、君は何時からここでウェイターをやっているのかね?」


 「その口調、続けるんだ……。え~っと、丁度ランチタイムが始まる11時30分からだ……です」

 

 なんでだよ!?

 速攻で採点を交代されてるやん!?

 どんな甘い採点してたんだよ!?


 「では、ランチタイムが始まってから一人ボッチで食事をとりに来た学生はいるかね?」


 「いないな……です。必ずクラス単位でランチを取りに来ています」


 そうか、つまり山坂は昼飯を食べている可能性が少ない。

 わざわざここのランチを食べずに外に出て外食してる可能性もあるが、今はそれを考えても仕方がない。

 一瀬ウェイターが逆に質問してくる。 


 「そういえば、5組の皆様は全員揃っいるのでしょうか?私、ウェイターですがお一人様足りないような……ほら、あの……山……なんちゃらってお客様です」


 自分のクラスと掛け金30万を心配をして聞いてきたんだろうが、ちょっとそれはウェイターの立場として聞いてくるのは厳しいぞ!?

 ここのホテルのウェイターは超能力者かよ!?


 「ああ……山なんちゃらね……彼はボクチンの相部屋の奴で今、体調(心)が優れないようなのだ。だから、ボクチンが直接部屋に彼の分の食事を持って言っても良いだろうか?」

 

 「その一人称はちょっと……ないな」

 

 「うるせぇ、……で、どうなのかね?」

 

 「確認してきます。少々お待ちください」


 そう言うと一瀬先生は他のウェイターに事情を説明して判断を仰いだ。

 

 ……


 えっ?あの一瀬先生がちゃんと上の人に報告・連絡・相談をしてるぞ!!

 あの人だったら『いいぜ~好きなだけ持ってけ!』って即答すると思ったのだが、思ったより社会人だった!

 見直したぞ一瀬先生!



 「確認してきました。持って行って大丈夫です」


 「素晴らしい……素晴らしいぞ君!」


 一瀬先生の肩をぽんぽん叩く

 

 「え?……はぁ」


 「では最後の質問なんだが、実はボクチンに今、来客が来ているんだ。その来客はここの宿泊客ではないのだが、どうやら腹ペコらしい。別途その来客分のランチ料金を払うからそいつの分も一緒に部屋に持って行きたいのだ」

 

 ほれほれ、責任者に聞きに行くのだ。


 「申し訳ありませんが、当ホテルは宿泊客のみしかランチをとることができません」

 

 一瀬先生が責任者に聞きに行かずに判断をした。

 これは予想外。しかも良くない結果だ。


 「補足して言いますが、恐らく他のウェイターに聞いても無理だと思います。このホテルのルールみたいなものですから……」 


 「……何で即席のウェイターである君がそんなルール知っているのかね?」


 「私は昔、このホテルでランチ料金だけ払ってバイキングを楽しんでいたのですが……人の何倍も食べたり、タッパーに食べ物を入れて持ち帰りをしてる間に出禁になりました。その時に決められたルールなので……」


 「……(絶句)」


 俺の一瀬先生に対する尊敬度の獲得点数はマイナス点となった。

 

 ……だが一瀬先生の事を少し理解した。やはり俺と同属だ。

 自分が楽をするためにルールや決め事の抜け穴を真剣に摸索し、常にグレーゾーンを歩く人間だ。

 最も、バイキングでタッパーお持ち帰りは黒だと思うが……。

 それでも今回は好都合だ。


 「頼むよ、俺が無意味な行動をする人間じゃないってことは知ってるだろう?君の協力がゲームを有利にするかもしれないぞ?もちろん、先生ではなくウェイターとしてな」


 そして俺はポケットに予め用意していた物を無理矢理一瀬先生に握らせる。

 諭吉さん5枚分である。


 「俺はこの事を他言しないし、このお金が"どこに行こうが"知ったことではない。ただ、ここは最高級ホテルのウェイターとしての気の利いたサービスをしてくれよ」

 

 「お客様……これは」


 一瀬先生の心が揺らいでいる。

 きっと買収されてはいけないと思いつつも5万円は強く握ったままだ。 


 「……人助けだと思って、な?」


 「……分かりました。私は、お客様が何をしても見なかったことにします。なので持って行ってください」


 「いいや、ウェイターの特別サービスとして認めろ。見なかったフリではまるで俺が犯罪者じゃないか。なぁに、俺は先生に後で迷惑をかけるようなミスはしないよ」


 「……いや、しかし」


 「ここで断れば、今持ってる5万、そして掛け金30万がパァーだぞ?いいのか?」

 

 「……分かりました。この場は全て私が責任を持ちましょう」


 そう言うと一瀬先生は5万円を懐にしまった。

 これで買収完了だ。


 俺は一瀬先生に食事を持っていく台車を借り2つのトレー皿を置き、食べ物を盛る。

 1つは山坂の分で、もう1つはペット達用に山盛りにする

 盛り付けが終わったらトレーを台車に乗せて俺の部屋に向け出発。


 食堂を出た所でミニスラちゃん達が被ってるダンボールが1メートルくらいの高さでぴょんぴょん跳ねて俺についてくる。

 よっぽど嬉しいのか知らないが、もうちょっと忍んで移動して欲しい…… 

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