3話 スライムってどう飼うの?
「どこにでも行けとは言ったけど付いてこいとは言ってないぞ?」
ボクに飽きたらそのうちどっかに行くだろう。そう考え、10分で家に帰れる道を大回りして1時間かけて帰ってきたのに結局家まで付いてきやがった。
現在地点、家の玄関。もうお手上げ状態。
お母さんごめん。スライムの侵入を許してしまったよ。
靴を脱いで居間に行く。とにかくこれまでのことをお母さんに説明しないといけない。
ぴょーん、ぴょー――
「ちょっと待て」
跳ねて付いて来ようとしたスライムを手でがっちり受け止める。相変わらずスライムは抵抗らしい抵抗はしなかった。
「地面を跳ねてきた奴が入ったら家が汚れるだろう。風呂場に持って行って洗ってやるから。……って言葉が分からないか」
めんどくせーけど仕方がない。家を汚されて怒られるのはスライムを持ってきたボクだからな。
「……ん?」
スライムを抱きかかて気づいたことがある。あんなに地面を跳ねてたスライムはとても綺麗な状態だったのだ。
触ってみても砂誇り一つ付いていないピカピカの状態だ。
……何でこんな新品未開封みたいな状態なのか知らないけど、これならわざわざ洗ってやる必要はなさそうだ。
◇◇◇◇◇
うねうねうね
とうとうスライムを居間まで侵入させてしまった。
そしてスライムは机の上でうねうねしながら謎の踊りをしている。マジで何してんだ?分からん。
まぁいいや。お母さんを呼ぼうか。
「お母さん、ちょっとこっちに来て欲しいんだけど」
「なぁに?」
台所でご飯を作っていたお母さんを呼び出しスライムを見せ、これまでのことを話す。
当然こんな得体の知れないものをいきなり見せたらお母さんもびっくりしていたが、話はちゃんと落ち着いて最後まで聞いてくれた。
「それで、この後どうすればいいと思う?スライムに爆竹をブッ刺してビビらせて追い出してみようか?」
「それは可哀想だよ~そんな事したらお母さん許さないからね~」
「冗談っす」
お母さんと話し合っている横でスライムはボクが飲むために冷蔵庫から持ってきた麦茶を勝手にゴクゴクと飲んでいた。
厚かましいな!てか麦茶飲んでも大丈夫なのか!
コトン
「あっ……こぼした」
スライムは自分の体にコップを倒して不安定な状態で麦茶を飲んでいたところ、コップを傾けすぎて麦茶をこぼした。
まぁ……手がないもんね。仕方ないね。
「雑巾もってくるね~」
お母さんはこぼした麦茶を拭くための雑巾を持ってくる為に離れる。
いい機会だから試しにスライムはこの後どんな行動をするのだろうとボクは何もせず観察してみる。
おろおろ……うねうねうね
お母さんが雑巾を持ってくるまでスライムはただこぼしたコップを立てて元に戻し慌てた様子でおろおろとしていた。
「……ほう」
てっきり麦茶をこぼした事なんて気にもせずに床にこぼれた麦茶をすする野性味溢れる動物的な行動をすると思っていた。
だけど、そんな予想とは違ってスライムはまるで人間の子供のような慌てふためき方をしていてちょっと驚いた。
まさか麦茶をこぼした事に罪悪感があるのか?犬や猫くらいの知能かと思っていたけど、もしかして予想よりかなり賢い生物なのだろうか?
ちょっと実験してみよう。
こぼした麦茶を拭き終え、麦茶で濡れたスライムをティッシュで拭いてからスライムに手を差し出してみる。
「お手」
さぁ、見せてみろ!お前の知能を!
スライムはしらばく考えるような動きをした後、寄ってきて手にスリスリとしてきた。
ふむ……分からん。
実験その2。
「その場で跳ねてみて」
さぁ、どう行動する!跳ねたら言葉が通じる事になるが……。
すりすり
ダメだな、相変わらずすりすりしている。残念ながらスライムの知能は犬や猫並みである、証明終了。
◇◇◇◇◇
その後、何度かスライムを外に放り出すために捕まえようとした時だけ高速移動されて捕まえる事ができなかった。
結局手の打ちようがないからしばらく家で飼うことになった。
まぁ嫌になったら勝手に出て行くだろう。引き続き、晩御飯の素麺をすすりながらこれからについての話し合いを進める。
「なお君、この子の名前はどうする~?」
「ずるずるー……むしゃ、むしゃ……名前?スライムでいいんじゃないかな?」
「んー……もっと、こう名前を付けてあげようよ~」
「じゃあ、スライムだからスラで。そこのネギ取って」
「ふむふむ、スラちゃんか~良い名前だね。はい、ネギ」
「名前なんか付けても飼う気はないからね!こいつが迷惑をかけるような事をしたら無理矢理にでも追い出しますから!」
「それ、普通は親が言うセリフだよね」
だってこんなめんどくさそうな生き物飼いたくないんだもん。出来れば今すぐ出て行って欲しい。
「ところでスラちゃんって何食べるんだろうね~。適当な食べ物あげて体を壊すのもいけないしね~」
「水でいいんじゃないか?」
「多分何か食べるよ、葉っぱとか」
「あー……そういや丁度良いもんがあったな。ちょっと取ってくる」
ボクは部屋からあるものを持ってくる。それはドックフード。
少し前に回覧板を近所の山田おばあちゃんに持って行った時におやつとしてもらったものだ。
呆けてるのか本当にドッグフードをおやつとしてくれたのか分からず「わーい、ありがとー(棒)」作り笑いしてもらってそのまま帰ったが、まさか役に立つ日が来るとは思わなかった。
……賞味期限が切れてから3カ月以上たってるものだけどな!
ドッグフードを少し皿に入れてスライム目の前に置いてみる。
「ほら、餌だ」
すると元気良く跳ねてたスラはドックフードを静かに見つめた後(目がついてないから分からないけど多分)ドックフードをぽりぽりとゆっくり食べ始めた。
……ぽりぽり
だけど、さっきまでの元気良さはどこにいったのか、しょんぼりとした様子でドックフードを食べているような気がする。
まるで今日はご馳走だと期待していたらピーマンたっぷりの野菜炒めが出てきたみたいな。
「……なんか元気なさそう?」
「あれだよ……あまりにもおいしさに集中して食べてるんだよ」
まぁそうは見えないが……。
しばらくするとスラは皿に入れた分のドックフードは全部食べた。
だが、さっきまでの元気な様子とは打って変わって静かなままだった。
しかも少しへこんでいるようにも見える。まさにしょんぼりとした感じが醸し出されていた。
「ああ、そうか。きっと量が足りなかったのか」
追加でドックフードを山盛りで投入してみる。
そりゃそうだ。育ち盛りのスライムがあんな少しのドックフードしか貰えなかったらしょんぼりしてしまうよな!まぁ、育ち盛りかどうかなんて知らないけど。
「どうだ嬉しいだろう?」
んーおかしい。喜ぶと予想してたのに、まだしょんぼりとした様子でぽりぽりと食べている。
どうもお気に召さないらしい。贅沢なスライムだ。
「もっと違うものあげないとダメなのかな?」
するとお母さんは皿に盛られたドックフードを少しつまんで食べて微妙そうな顔をしていた。
「お母さんそれは……いや、何でもない」
賞味期限がきれてることは黙っておこう。
「次はカブトムシ用の昆虫ゼリーでもあげてみるか?ずるずるー…………素麺うめぇ。……んっ?」
スラが素麺を食べているボクに体を密着させるくらい近づき、そして少し自分の体を伸ばしてボクの口元まで接近してきた。
ずるずるー
うにょーん、うにょーん
素麺を食べるのを妨害こそしないがすごく素麺に興味があるような素振りをする。
「素麺を食べたいのか?」
箸で素麺をつまみほんの少しだけめんつゆをつけて与えてみる。
そうするとずるずるっと勢い良く素麺をすすり元気良く跳ながら部屋グルグル周回した。
まるで、薬でもキメたんじゃないかと思うくらいの跳ね方に内心どうしようとびびったけども、素麺の近くまで寄ってきて欲しそうにしていた。
さっきまでのドックフードとは大違いの様子だった。
「スライムって……素麺食っても大丈夫なんだろうか?」
「ふふっ、スラちゃんが喜んでるからいいんじゃないかな?もう一束茹でてくるね~」
お母さんはニコニコしながらスラの分の素麺を作るために台所に向かう。
そしてお母さんが持ってきた素麺をスラは全部美味しそうに平らげた。