35話 ミニスラちゃんとモブキャラでは終わらない赤神先生
学年主任の説明が終わり、15分後の午前11時から早速ゲームが始まる。
ゲームが始まる前に記憶力の良い数人がメモを片手に実力確認テストの結果を確認しにった。
「スラ~こっちにおいで~」
「うにゅ?もしかしてさっき、ボクがなお君のフォローをした件でのご褒美ですか!」
スラがトコトコと近くにやってくる。
「……その件については合宿後にゆっくりとな」
合宿後のスラの飯はしばらくインコ用の餌を用意してやろう。
「はい!楽しみにしてます!」
そのままスラを連れて周りからばれないように目立たない場所へ移動する。
「いきなりで悪いんだが、スラってさ、スライムらしく分裂して分身とか作れたりするのか?」
例えばスライムの時のスラにトラックに潰されたり、高所から落ちたりして強い力がかかると、トマトペーストのように液体が四方に飛び散る。
そして時間を置くと、その飛び散ったスライムの破片がのそのそと動き1箇所に集まってやがて元の形状に戻る。
破片がそれぞれ動くのならば、もしかしたら分身とか作れるんじゃないかと思ったが果たしてどうだろうか?
「できます、私の分身力は53体です」
ネタなのか本当なのか分からん答えが返ってきた。
「なら分身を作って、遠隔操作で他のクラスをこっそり偵察することはできるか?他のクラスの行動とその結果について把握することができれば有利になる」
「可能です!むしろボクたちの得意分野と言っても過言ではありません!ですがボクの力を使うのは卑怯ではないですか?人間にはできない能力ですよ?」
「くっくっくっ……今回は学年主任様から『特別な力』を使っても良いと許可をもらったからな。何も問題はない。それに他クラスの偵察くらいはどのクラスでもやると思うぞ?ルール違反ではないからな。ほら、あれを見ろ」
ガラのよくなさそうな奴らが3人、こっそり俺たちを見ていた。
「こ、こんにちは~」
すっ
目が合うとどこかに消えてしまった。
……あの3人組、ずっと昔にどっかで会ったような気がするが……忘れたな。
何か嫌な予感がするが後回しだ。
「じゃあやってみますがあまりアテにしないでください!ないよりマシ程度に思っていて欲しいよ!」
「さっき得意分野だとか言ってなかった?」
「実はボクはやった事がないので。では行きますよ~。いでよ、ミニスラちゃん!他のクラスの偵察をお願いします!」
スラは手から拳くらいのサイズのミニスライムを4体出す。
そして3体はぴょんぴょん跳ねて偵察をしに行ったが、残りの1体は俺の手に乗りぴょんぴょん跳ねていた。
「ミニスラちゃんだっけ?こいつは何してるんだ?」
「役目を放棄して遊んでます!」
「早いよ!?まだ始まってすらねぇじゃん!?スラが遠隔操作してるんじゃないの!?」
「ふふ~ん、基本独自行動です!勝手に考えて勝手に行動します!」
スラはいつものドヤ顔である。
「ドヤ顔したって別に偉くねぇからな?」
スラの分身が勝手に行動するのか……ちょっと不安になってきた。
◇◇◇◇◇
手の上で跳ねていたミニスラちゃんを遠投して無理やり偵察に行かせた後、皆が集まっている広場へ戻る。
陽菜が少し心配そうに話しかけてきた。
「どこ行ってたの?」
「トイレだ」
「スラを連れて?」
「ああ、連れションだ」
「……で、ぶっちゃけスラを使って何の小細工したの?」
「スラの分身、ミニスラちゃんを作って他クラスの偵察をしてもらっている」
「それ、大丈夫なの?色々と」
「ばれなきゃ大丈夫だろう」
「それが心配なのよ。とにかくぴょんぴょん跳ねてじっとすることができないスラに偵察は絶対向いてないって」
スラは陽菜の背中から抱き着いて抗議する。
「陽菜ちゃん!ボクは日々成長しているのだ!偵察もよゆーです!」
「だったら今、他のクラスは何してるのよ?」
「分かりません!」
うおおおおい!?分からないの!?偵察の意味ねーじゃん!?本当に大丈夫なの!?
「5組の奴ら。忙しい時に悪いが少しだけいいか?」
クラス全員が声がした方を向いた。
そこには赤い髪をサイドテールにしてスーツを着こなしている、スラよりもちょっと小さいロリがいた。
「今回、5組の採点担当になったのは私だ。よろしく」
誰かがぼそっと言う、
「赤神先生か……これ終わったな」
ほう、赤神先生が俺たちの採点担当か。
ある意味で俺が一番注目している教師だ。
だって、スラよりも小さいロリが教師なんだぜ?注目しない訳がない。
もちろん皆も同じように思ってらしく、入学当初はすごい話題になっていたが1ヶ月もすれば慣れてしまいその話題はなくなった。
誰かが赤神先生に声を掛ける。
「へへ……赤神先生、ぜひ今回の採点はお手柔らかに」
ギロリ
「ああ、もちろんちゃんと公平に採点してやる」
「で、ですよね~!よろしく願いします……」
赤神先生は厳しい先生で知れ渡っているため畏怖の対象である。
これまで、ロリキャラだと思って舐めた態度とった何人かの学生が被害にあっている。
例えば、学生をロープで縛って体を動けなくして廊下に放置したり、バケツで学生に水をぶっかけたりしているのを知っている。
今の時代なら余裕で体罰で問題になるが、被害にあった学生は誰も文句は言わない。
いや、言えないように証拠を揃えてから体罰を行っているのだ。
それが問題になったら赤神先生をクビにすることも十分可能だが、告発した自身も何かしらの処分が下る可能性があるのだ。
そう言った意味では、学生と対等に向き合うことができる良い教師なのかもしれない。
ついでに言うと、ローブで縛られたり水をぶっかけられたりされているのはいずれも俺だ。
せっかく授業以外で赤神先生に近づけたんだ。俺も挨拶をしておこう。
っというより赤神先生のせいでかなりみんなが固くなっている。
このままではゲームに悪影響だから少しでも雰囲気を柔らかくしておこう。
「赤神先生~よろしくお願いします~。ちゃんと採点できたら、ご褒美にたかーいたかーいしてあげるね~」
「……ほう?」
赤神先生の頭をなでなでしようとすると陽菜がそれを阻止した。
「や、やめなさいよ!今、ナオが特攻したら私達も巻き添え食らうのよ!?」
「赤神ちゃ~ん、もし3位以内だったら、今度ファミレスで赤神ちゃんの大好きなハンバーグ奢ってあげるよ~?」
「ナオの自殺に私達を巻き込むな~!赤神先生!すいません!その、ナオに悪気はないのです!」
「……いや、どうみても悪気の塊だろ」
「ほら!ナオも謝る!」
そんなやり取りを見てか、クラスメイトがそれぞれ話をしている。
「夏野君って、何でかいつも赤神先生に対してすごいつっかかるよね」
「うん、何でだろうね?」
「でも、結構赤神先生と夏野君って仲良さそうに見えるよね。すごく先生に殴られてるけど」
俺はそのやり取りに答える。
「俺はな、赤神ちゃんみたいな可愛い生き物俺は大好きなんだ。小さいのにしっかりとがんばる赤神ちゃんを見てたら男なら誰でも守ってやりたいと思うだろ?」
赤神先生は顔を赤くさせながらちょっとぷるぷるしている。
「お前……合宿始まって早々家に帰りたいのか?」
「いえ、そんなことないです。数々の非礼をお詫びします」
「もう今更謝っても手遅れよ。私達5位確定よ……」
「陽菜、俺が何も考えなしに行動してると思うのか?」
「どういうこと?」
「赤神先生は確かに厳しい教師かもしれないが、ちゃんと公平に採点してくれる良い先生だ。それはこの1カ月の過ごして皆も分かるだろう?俺は赤神先生でとても有利だとさえ思っている」
「でもナオが今特攻したせいで……」
「いや、採点開始まで後1分ある。公平な赤神先生なら今の俺の行動は何も採点に影響させないはずだ。ですよね、先生?」
「ああ。でも個人的には殺意が芽生えてる事は忘れるなよ?」
「な?とても良い先生だろう?」
「ははは!本当に夏野君って面白いよねー」
「いくら可愛いからって先生にそんなこと言えないよ~」
「採点始まってからはそんなことしちゃダメだからね!」
硬い雰囲気が少しだけ和らぐ。
テーマは協調性・団結力、なんだから楽しく自然にワイワイとする方がポイントが高く得られるはずだ。
さて、俺のやる事はやったから後はまかせたぞ。
「それでは、採点を始めます」
アナウンスが流れる。
ゲームスタートだ。