29話 楽しい合宿前日に起きたハプニング
入学式から1ヶ月がたった。
どうやら鈴木高校の授業はハイレベルらしい。
だが宿題やノートの提出など、めんどくさい作業がほとんどなく、授業中もうたた寝くらいでは先生から注意はされない。
それに加えて何やら楽しそうな学園行事もたくさんあある。
俺にとってはこの高校は案外合うかもしれない。
そして明日は2泊3日の合宿でそれが終わればゴールデンウィーク。
今は昼休みだから24時間後には楽しい合宿を満喫しているだろう。
ついつい浮かれてしまう。
「ナオは明日の合宿の二人一部屋のパートナーって誰にするか決めたの?」
「何そのボッチ炙り出し晒し上げイベント」
合宿前に衝撃の真実が発覚した。
俺そんなこと聞いてないぞ。
「やっぱ聞いてなかったのね……ナオはアホヅラで口を開けながら天井見上げてる時は話聞いてない時だもんね」
合宿前にさらに衝撃の真実は発覚した。
俺はぼけ~っとする時そんな顔してたのか。
これからはキリッとした顔でぼ~っとしよう。
キリッ!
「なお君、異世界で一番かっこいいよ!」
スラの方に向かって、キリッとした顔をすると褒めてくれた。
ん、異世界?ああ、スラにとったらこの地球こそが異世界か。
しばらくこの顔でやっていこう。
キリッ!
「……で、どうするの?パートナーは……」
そうだった。二人一部屋のパートナーを急いで決めないとあまり時間がない。
「陽菜、明日の合宿は俺と寝てくれ(キリッ!」
「ねっ、寝ないわよ!」
「別に一生俺のそばにいてくれなんて言わない。たった2泊、体だけの関係だ(キリッ!」
「それ、ただの最低な男じゃない!」
どうやら陽菜は俺と一緒に寝てくれないらしい。
男は顔だけじゃ、女を落とせないと証明された。
やっぱ金だな。
陽菜がダメなら仕方がない。スラでお茶を濁すか。
「スラ、明日の合宿は俺と寝てくれ」
「はい!」
「『はい!』じゃないから!スラは私と同じ部屋って約束したでしょ!」
「悪いな陽菜。スラは友情よりも飼い主への忠誠心を選んだだけだ」
「ぐぬぬ……」
「別に陽菜はたくさん友達いるだろ~?今回くらいスラは俺に譲れよ?俺ピンチなんだよ」
「そもそも男女で相部屋になれるはずないじゃない」
「ふっ……確か。俺と陽菜だったら絶対に許されないだろう。しかし!スラと俺は親戚という扱いで通っていて、同じ家に住んでるということは先生も知っている!
ひょっとしたら同じ家に住んでるということで相部屋でも大丈夫と許可してくるかもしれない!
「厳しいと思うけどなー。スラは仮にナオと一緒の同じ部屋になれるとして、私とナオ、どっちを選ぶ?」
「なお君です!(即答)」
「……」
あまりにも即答に陽菜はショックを抑えきれない。
離婚する時、母親が子供に『パパとママ、どっちと暮らしたい?』との問いに『パパ!』と即答されてしまった気分だろう。
「まぁ、いいや!試しに一瀬先生に聞いてくるは!」
「いてら~」
スラはふりふりと手を振って俺を見送る。
「はぁ、どうせ無理なのに……午後からは実力確認テストがあるから早めに帰ってきなさいよ。……はぁ、私とスラのとても長かったあの友情はもう戻ってこないのね……」
どうせ無理だって?
無理ということはですね、嘘吐きの言葉なんです。
俺の話術を活用すればどんな詭弁や屁理屈も正論になる。
俺は期待と自信を持って一瀬先生がいる職員室へ向かう。
◇◇◇◇◇
「一瀬先生。明日の合宿の二人一部屋の件っすけど、俺のパートナーはスラにしまっす!いいっすか?」
「いや、いいわけねぇだろ」
「でも、同じ布団で寝てる関係っす!大切にしてまっす!」
「聞かなかったことにしてやるかな?頼むからそれ以上職員室で余計な事を喋らないでくれ。な?」
「うっす!」
体育会系のノリで貫き通せば何とかなると思ってたけど、無理なものは無理なんすよ。
いくらこの鈴木高校が学生の自主性を尊重してくれる所だって、不純順異性交遊は認めてくれねーよ。
このまま帰ってもいいのだが、せっかく職員室まではるばる来たんだ。
もうちょっと一瀬先生と話すか。
「でも先生、仲が良い人同士で二人組み作ってねーっとか余りにも酷すぎる話だと思いませんか?」
「いや、別に?」
「だって、そんなの男友達がいない俺が余るのは必然じゃないですか!そして、『夏野って誰とも組んでくれなかったんだープークスクス』の公開処刑からの『仕方ない、余った夏野は先生と組むぞ~』の追撃ですよ!?俺、先生と明日一緒に寝るのっすか!?明日のために今日ケツを入念に洗ったほうがいいっすか!?」
「少し落ち着け夏野。勝手に地雷踏んで自爆するのはいいが、俺にまで地雷を踏ませないでくれ」
「うっす!返事期待してまっす!昼休みの後の実力確認テストの勉強をしたいので失礼しまっす!」
「何で今日はそんなノリなんだよ。これから体育会系キャラでやってくんだったら、これからちゃんと授業も聞いといてくれ」
「ちゃんと先生達の授業は聞いてますよ?その証拠として俺は授業中、先生たちから注意を受けたことはあまりありません」
「そうなんだよなー。完全に聞いてなさそうなアホヅラしてるのに、問題を答えろって言ったら即答するからたちが悪いんだよ。てか、注意すらまともに聞いてないよな?……で、相部屋の話に戻すが、男子と女子はそれぞれ偶数なんだから余りは出ねーだろ」
「まじすか、誰余ってるんですか?」
「いや、そこまではまだ知らんが……とにかく、がんばれよ?」
「はい、失礼しまっす!」
さて昼休みも残り少ないからちゃちゃっと誘いに行きますか。
職員室を出ようとした時、一瀬先生が隣に座っている赤い髪をした子供に話しかけられていた。
「一瀬、お前も大変だな。あんなホモ野郎の面倒みたいといけないんだからよ?」
「いやいや、可愛いもんだよ。それに俺は5組で良かったと思っている。で、そっちはどうなんだ?赤神ちゃん」
「赤神先生だろう?次ちゃんづけしたら殺すぞ?……まぁ、いい。夏野直人がどんな奴か、合宿でしっかり見極めてやる」
◇◇◇◇
「山坂、明日の合宿の相部屋のやつ、どうせ決まってないだろう?俺と組むぞ」
「……分かった」
「ええええ!?いいの!?本当に!?友達料いくら!?」
「……」
絶対断られるだろうと思って投げやりに言ったが、なぜか上手くいった!
やったぜ!これで憂いなく明日の合宿を楽しむことができる!