2話 スライムが仲間になりたそうに付いてくる
さて、この熱々のスライムをどうしたものか。
とりあえず熱中症だと勝手に断定し水飲み場でスライムを水に浸した後、駄菓子屋からもらった(黙って拝借した)塩をまぶし日陰の涼しい所に持っていく。
これでもまだ弱っていたらどうしよう。お母さんに相談してみようかな。
30分後――
ついさっきまでぐったりしていたスライムがぴょんぴょんと勢いよく跳ねながらボクの周りをぐるぐると回っている。
何をしているのかは分からないけどすごく元気良く跳ねてる。
ちゃんと回復してくれたのか、もしくは消えかけの蝋燭みたいに最後の命の火を燃やしているのだろう。
「で、さっきから何してるんだ?まさかボクと契約の儀式でもしてるのか?まぁ、魔物使いになるつもりなんてないけどな」
ぴょん!ぴょん!ぴょん!(バウンドする音)
返答がない代わりにさらに勢い良くスライムは跳ねる。
試しに1分間に何回バウンドしてみるか測ってみたら120回は超えていた。
これ、まさか本当に暑さでおかしくなったとかじゃないよな?
「んー……日本語分かる?」
ぴょん!ぴょん!ぴょん!(バウンドする音)
「さっきボクに助けてって言ってたのはお前か?」
ぴょん!ぴょん!ぴょん!(バウンドする音)
あ、ダメだ。言葉は通じないし分かり合えない。
これ以上コミュニケーションを取るのは時間の無駄かな。
うん、今日はまともに会話ができた試しがない。
てかこの謎生物を一体どうしようか?
もしかしたら捕獲してテレビ局に持っていったらお金がいっぱいもらえるんだろうか?
そうしたら欲しいゲームが何でも買えるじゃないか!
いいね!ボクお小遣い稼ぎになってくれ!
……あれ?スライムがいない。少し目を離したスキにどっかに行ってしまったのだろうか?
周りを見渡してもスライムの姿が見えないし……目を離すんじゃなかったなぁ。
すりすり
「ん?」
あぐらを組んで座っているボクの膝に柔らかい感触がする。
この感触を例えると……ゴムボールを膝にぐいぐいと押し付けられているような感じかな?
いや、ゴムボールよりももっと柔らかい物だけど、丁度良い例えが思いつかない。
ただ、それはとてもひんやりとして気持ちよかった。
すりすり
膝元を見てみると、どっかに行ったと思ったスライムがボクの膝の上に乗ってすりすりとしていた。
……何してんだこれ?もしかして懐かれた?
ふっはっはっは!まだお小遣い稼ぎのチャンスがあるではないか!これは捕獲するチャンス!
よしよし、まだ逃げる素振りは見せていない。
そのまま大人しくしてろよ……
よし、もう少し……もう少しで捕獲――
シュバーン!
「あれっ?消えた!?」
目の前にいたスライムが突然消えた。
本当に一瞬で消えてしまったのだ。
一体どこに行ったんだ?
ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん
背後からバウンド音が聞こえるので振り返るとそこにはスライムがいた。
……ってことは何だ?あの一瞬でこのスライムはボクの背後に回り込んだってことか?
いやいやまさか。いくら何でも早すぎだろう。
「今だっ!」
ボクの攻撃
ミス!スライムは回避した。
「このっ!」
ボクの攻撃
ミス!スライムは回避した。
「はぁ…………はぁ……お前はメタルスライムか!」
何回か捕獲しようと挑戦したが、目で追うことができないレベルの素早さで逃げられる。
何だよこのスライム!?レベル高すぎだろう!?
スライムは相変わらず、逃げもせず近くで跳ねて続けている。
あん?煽っているのか?煽っているのか?
だけどあんな瞬間移動してるんじゃないかと思うくらい素早く動くスライムを捕まえれる自信はない。
お小遣い稼ぎは諦めるしかなさそうだ……。
それに、日も暮れてきたからそろそろ帰らないとお母さんが心配してしまう。
仕方がない……今日このスライムを見たことは忘れて家に帰ろう。
それにこんなに素早く動けるくらい元気になったんだからスライムを落としてしまった罪滅ぼしはもう十分だろう。
「それじゃボクは帰るから元気でな。がんばって生きろよ」
言葉が通じるとは思えないが別れの挨拶を済ませ、家に帰ることにした。
◇◇◇◇◇
公園を出てからずっとスライムがぴょんぴょんとボクの後ろを跳ねながら付いてきてるんですがどうしましょう!
このまま付いてきてもとても困るんですが!
しかも捕まえようとしても捕まえられないし放って置いても付いてくる。
もしストーカー検定があるとしたら1級をこのスライムに授けたい!
ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん
「……」
このまま家に付いてきても困る。
ひょっとしたら人間を捕食するエイリアン的な生き物の可能性だってある。
このスライムが何なのか分からない以上、お母さんに近づけさせたくない。
逆に服だけ溶かすエッチなスライムだったら最高なんだけどね!学校で一番の美少女の陽菜ちゃんにこのスライムを投げつけたい!
……さて、そんな冗談を言ってる場合じゃないな。
とりあえずスライムを両手で持ち上げて近くで観察してみる。
それにしても軽い。同じ大きさのサッカーボールより全然軽い。
このくらいの軽さならスライムをボクの肩や頭に長い時間乗せても首が痛くならないな。
電気を使う黄色いネズミみたいに肩に乗せてマスコットにしたら学校で人気者間違いなしだぜ!
……おや?
そういやさっきまであんなに苦労して捕まえようとしてたスライムをあっさり抱きかかえてしまっていた。
さっきのように逃げるような事もせずに暴れたり抵抗もせず、すごく大人しい。
「何で急に捕まえられる気になったんだ?」
まさかさっきの邪な考えを見抜かれていたから逃げていたとか?
ははっ、まっさか~。
倒しても経験値2くらいしかもらえなさそうな低級モンスターがそんな事考えないか。
「もうボクはお前をどうこうする気なんてないから後は好きにしろよ、どこにでも行け」
ボクは抱きかかえていたスライムを置いて家に向かって歩き始める。
ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん
そしてスライムはそのままボクの後ろに付いてきた。