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1話 ぐったりしているスライムがあらわれた!

 「暑い……」


 ボクは小学校の夏休みの自由研究を進めるために炎天下の公園に来た。自由研究のテーマは飼育日記。


 この定番中の定番、飼育日記はとても楽なんだ。

 何せ工夫をする必要がないし、頭を空っぽにしながら終わらせることができる。


 毎日てきとーに写真を撮ってノートにポンと貼って、「とても元気だ」と小学生並の感想を書いてハイおしまい。

 例え作品の完成度が低くても毎日欠かさず飼育と観察をがんばりましたとアピールしとけば先生もやり直しとは言ってこない。

 こういうのをコストパフォーマンスが高いって言うんだっけ?


 そしてコストパフォーマンスをさらに高めるなら当然できるだけ楽な生き物を飼育するべきだ。

 そもそも、飼育に手間がかかったら楽して飼育日記を完成することができない。

 そう考えた結果、昆虫ゼリーやっとけばとりあえずなんとかなるカブトムシは最高の生き物だと結論付けた。

 だから一昨年の自由研究のテーマはカブトムシの飼育日記をやった。

 そして去年も同じくカブトムシの飼育日記。

 そしてまたまた今年もカブトムシの飼育日記。

 さすがに3年連続同じテーマじゃ厳しいかもしれないけど、他の生き物に変えるとそれはそれでメンドクサイ。


 とりあえず昨日仕掛けた罠に行ってカブトムシを捕りに行こう。



 ◇◇◇◇◇



 罠を仕掛けたポイントに向かう途中、子供3人が何かを囲んでいるようだった。


 「うわっ何これー?」


 「とりま、魂ageでサッカーボールにしようぜ!」


 「うえ~い!!」


 顔は遠くてはっきりと見えないが服装や言動的に関わらない方が良い奴らだろう。


 面倒ごとを避けて生きるボクは絶対にああいったDQN候補生なんかとは関わらない。

 だけどこのまま無視して仕掛けポイントまで行きたいのにあいつらがいる道を通らないと仕掛けた所に行けない。

  それにあいつらに運悪く見つかってしまった哀れな奴が気になってしまう。

 心配はしていない。ただの野次馬。


 「んー……」


 よし、ならこうしよう。

 奴らの横3メートルくらい距離を開けて自然に通り過ぎる。

 この時の注意点として、ああいう猛獣とは絶対に目を合わせないようにすること。

 もし目を合わせてみろ。

 その瞬間サッカーボールになるのはボクになる。

 そしてあいつらの足元に何があるのかを見るため一瞬だけ顔を向けて確認。

 念のため目と目が合ってしまった時の場合に備えて表情をできるだけ柔らかくしてみよう。

 子供の笑顔は天使なんだ、いつでも何でもどんな奴でもボクの心温まる笑顔を見ればきっと許してくれる。


 すたすたすた


 あいつらの近くまで寄ってきたがどうやらボクにはまだ関心がない様子だ。

 よし……ここらで顔を向けてチラッと確認してみよう。

 あまりジロジロみることはできないから三度見くらいが限界か?


 挿絵(By みてみん)

 チラッ



 「何ジロジロ見てるんだよ!!」


 「えぇーー!?即効!?ちゃんと計画通りにやったはず!」


 「ああん??」


 目は合わせなかったのに何がいけなかったのか。



 ◇◇◇◇◇



 さて、これからどうしたものか。


 たたかう……相手は3人。しかも相手のさくせんはガンガンいこうぜになっている。勝てるわけがない。


 にげる……逃げ足には自信がある。まわりこまれてしまうことはないだろうがこれから公園や学校でこいつらに怯えながら過ごすのも嫌だ。


 とくぎ……そんなものはない。


 ああっダメだ!考えている間に気がついたら目を見開き口をパクパクさせながらボクの顔30cmくらいの距離に迫っていた!


 ほう、人間ってがんばれば魚類みたいな顔ができるものなんだな。


 ……ってそんな事考えてる時間はないだろう!とにかくこれ以上刺激を与えないようにしないと本当にサッカーボールにされてしまおう!


 「いやーちょっとこの道を通りたいなーっと思ってまして」


 「そんな面白い顔でこっち見てきたら喧嘩売りますってことだろう?」


 失礼な、ボクの顔のどこがおかしい!お前の顔の方が面白いよ!


 「やんやん?やんやん?」


 何語だよ!?


 「うえ~い!!」


 うえ~い!!


 ダメだ言葉は通じない分かり合えない。逃げるしかなさそうだ。


 どこに逃げる?うん、逃げる場所は近くの駄菓子屋にしよう。

 あそこには逃げ込めば駄菓子屋「愛死天流」の店番のおば――お姉さまがいる。

 仮にそこまで追いかけられたとしても「根性焼きしにきたぞ年増ぁ!!」っと店の中で大声で挑発すればお姉さまは無差別皆殺し。

 そうなればボクもろともこいつらもあっという間に夜露死苦されるだろう。

 痛みは伴うが仕方ない。それは最後の手段だ。


 『た……しゅ……けて』


 逃げようとした矢先足元くらいから女の子の声が聞こえた、というか感じたような気がする。


 今なんて言ってた?……助けて?


 うるせぇ!今助けて欲しいのはボクの方だ!こんなDQN候補生たちと同じところにいられるか!ボクは逃げるぞ!


 ぐぐっ


 「……足が……重い……?」


 足が重い感覚がして思ったように動けない。

 重いと言うか、これはズボンを下からグイグイと引っ張られている感じだ。


 多分、こいつらにサッカボールされそうになった奴が助けを求めて引っ張ってるんだろうなー。

 しかもさっきの声は女の子ぽかったし……。そんな可愛そうな子を見てしまったらボクだけ一人逃げ辛いんだよ。


 「……はぁ」


 足元を確認してみることにする。

 どっちにしてもこう強く足にしがみつかれていると逃げるに逃げれない。


 もぞもぞ


 だけど……ボクが見たものは女の子ではなかった。

 キラキラと輝いてる水色の何かがズボンにべたーっとへばりついて、もぞもぞ動いていたのだ。


 これが一体何なのか分からない。

 一番イメージに合うもので言うとRPGで雑魚キャラとして登場するスライムだろうか?

 ってことはさっきの声もまさかこのスライム(暫定)なのだろうか?

 いやいやいやありえないだろう、てか生き物なのかこれ!?


 もしかしたらこいつらは知っているかもしれないので聞いてみる。


 「あの、これが何か皆さん知ってます?」


 「サッカーボール」


 あ、はい。やっぱり取り囲んでたのはこれなんですね。


 本当にこれは何なんだ?

 確認するためにズボンから剥がして持ち上げてみてみよう。


 これが泥みたいな気持ち悪いものだったら触らずに足を振って無理やり引き剥がしてたかもしれない。

 だけども、まるでビー玉のように透き通っていてキラキラと輝いているそれを気持ち悪いものだとは思わなかったので触ることに抵抗はなかった。


 持ち上げてみると重いような軽いような、よく分からない重さ――


 「てか、熱っ!?熱つううう!?」


 あまりにも熱さにスライム(暫定)をボクの胸くらいの高さから地面に落としてしまった。そしてその瞬間――


 ベチャッ!!


 「あっ……」


 ……スライムが地面にぶつかりまるで潰れたトマトのようになってしまった!


 えっ!?何!?まさか倒しちゃった!?スライム倒しちゃったの!?

 てことは、もしこれが生き物だとしたらもしかしてボクは生き物を殺してしまったってことか!?


 「あーややこやや!!せーんせいにゆーったーろっ!!」


 「おれ、全然関係ねぇし!お前がやったんだし!」


 「うえ~い↓↓」


 DQN候補生たちは大声を出して叫ぶ。 出たよ出たよ、関係ないアピール出たよ!?

 完全にボクを悪者にしようとしてるよ!!


 だけど、サッカボールにしようとしていたお前らも同罪なはず!ここは一緒にどうするか考えようじゃないか!


 「ちょ、ちょちょっと待って!みんな落ち着いて話そう、ね?」


 「俺たちしーらね!!行こうぜ!!」


 「バリアー!!えんがちょー!!」


 「えっ!?……えぇ~!?」


 少年A,B,Cは逃げ出してしまった。

 少年たちをやっつけたて経験値を獲得したよ!

 って、現実逃避してる場合ではない!


 どうするっ……!!証拠隠滅のために埋めるか!?埋めるか!?

 潰れてトマトペースト状になった元スライムを恐る恐る見てみる。


 そこには潰れる前の姿を取り戻そうとするスライムがいた。

 球体ではなくバブルスライムみたいな状態だったがさっきのペースト状態よりかは随分マシである。


 「良かった……」


 とりあえずまだ生きていることにほっと安堵するのであった。

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