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162話

 それから3日間、俺は一人で赤神ちゃんがスライムだという証拠を見つけるために放課後の時間は赤神ちゃんの尾行に費やした。

 数時間も尾行してたら何か証拠を得られるだろう。

 そう思っていたがなかなか思うようにはいかない。

 尾行して得られたのは赤神ちゃんがとても悲しい日常生活を送っているという事だった。


 尾行1日日、赤神ちゃんがコンビニで酒を買おうとするも外国人の店員に売ってもらえなかった。

 赤神ちゃんは慣れた手つきで店員に免許証を見せて未成年じゃないぞと勝ち誇った顔をしていたのに偽造免許証だと疑われ、警察官を呼ばれてトラブった。


 尾行2日目、夜10時に秋葉原のゲームセンターでUFOキャッチャーをプレイしようとすると未成年がやってはいけない時間だと店員に注意されて追い出された。

 不貞腐れた顔をしながら夜の秋葉原を散歩してたら警察官に職質されてまたトラブった。


 尾行3日目、赤神ちゃんの家の近所のスーパーで酒を買おうとする。

 流石に何度も足を運んでいるであろうスーパーでは赤神ちゃんの本人確認ができてるらしく、免許証を提示する必要もなくレジのおばちゃんと短い談笑をしてあっさり酒を買えた。

 しかしそのやり取りの一部始終を見ていた客のおっさんが、未成年に酒を売るんじゃないとレジのおばちゃんに怒鳴りつけた。

 レジのおばちゃんが赤神ちゃんが学校の先生でちゃんと大人だと説明しても聞き入れてもらえず、おっさんに警察官を呼ばれてまたまたトラブった。


 警察官がスーパーにやってきて赤神ちゃんを見たのと同時に呟いた一言が『また君か……』


 現在尾行4日目なんだが……赤神ちゃんが可哀想になってしまって尾行する事に萎えてしまった。


 うねうねうね


 ミニスラちゃん(1匹)が目の前でうねうねし始める。


 「へいへい。これが欲しいんだろ?」


 俺は手に持っていたレタスの葉をミニスラちゃんが食べやすい大きさに千切ってミニスラちゃんの前に出す。


 むしゃむしゃむしゃ


 するとミニスラちゃんはレタスを美味しそうにむしゃむしゃと食べ始める。

 まるで人間がハムスターに餌をやるような感じだ。

 ドッグフードやるとしょんぼりするくせにレタスは人間が普段食べる物だからと言う理由でスラとミニスラちゃんに与えてもしょんぼりしないしむしろ喜ぶ。

 よく分からん。


 「それにしてもドレッシングとか塩とか何もつけてないのに、良くそんな美味そうに食うよな。一応、ちゃんと味覚はあることはこの前のスラのモンペチ実験で証明できたが」


 むしゃむしゃむしゃ


 目の前のレタスに夢中になってるせいで返事が返って来ない。

 今のミニスラちゃんの優先順位が『レタス≫俺』になってしまってる事に俺しょんぼり。


 「ミニスラちゃんは自由気ままに生きてるよなぁ」


 「お前もな。何勝手に私の家でくつろいでるんだよ?」


 「あ、おかえり赤神ちゃんー。俺は別にくつろいでいませんよー。赤神ちゃんの所に研修に行ってるミニスラちゃんの事が心配で様子を見に来たんですよー」


 そう、萎えて尾行を中止した俺はその代わりとして赤神ちゃんの部屋に滞在して赤神ちゃんの帰りを待っていたのだ。


 そもそもよく考えたら尾行ってまるでストーカーみたいでキモいじゃん?

 それにストーカーは犯罪。

 リアル犯罪はNGだ。


 赤神ちゃんが玄関にあるバットを手にとって、


 「そもそも何でお前は私が帰ってくるよりも前に私の部屋にいてミニスラにレタスやってるんだよ?どうやって部屋に入ってきたんだ?排水溝からか?あん?」


 赤神ちゃんが戦闘態勢になっている。

 どうやら俺が不法侵入したと誤解しているようだ。


 「た、確かに許可もなく勝手に部屋に入ったらそれは不法侵入だってことは俺も分かってます。ですが今回、俺は不法侵入していません。何故ならばこの部屋のもう一匹の住人であるミニスラちゃんが俺を招き入れたからです。つまり合法だから俺に正当防衛で暴力はふることは出来ない。さぁ、その振りかぶったバットを元の所に置こうか?」


 「ほう、つまりこのバットの振り下ろす先は研修生の分際で勝手に魔物を私の部屋に入れたミニスラってことでいいんだな?」


 むしゃむしゃーー……


 ミニスラちゃんがレタスを食べ終わると同時にしょんぼりしながら文字を書く。


 かきかき


 「" (TдT) れたす おいしゅうございました "」


 バットで弾け散らされると悟ったミニスラちゃんは遺言めいたことを書いていた。


 俺が無断で部屋に入ったのが原因なのに身代りとしてミニスラちゃんが弾け散らされるのは流石に黙っていられない。

 赤神ちゃんの気をそらしてみよう。


 「まぁまぁ赤神先生、そうイライラせずにこれでも飲んでウェーイと」


 前回赤神ちゃんの家に来た時と同様に家から持ってきた親父の缶ビールを手渡す。


 「……そうやってスラと同じように私を餌付けできると思うなよ?」


 赤神ちゃんはそう言いながらも缶ビールを受け取ってゴクゴクと飲んだ。


 「ぷはー!神の力が体にしみわたるー!ここ数日忙しかったから全然飲めなかったんだよ」


 「そ……そう」


 神の力って何だよ赤神ちゃん自身が神だろおい。


 「てかミニスラはいつまで私の家にいるんだ?夏野の家に帰れって言っても帰らないし」


 「さぁ?スライムなんて気まぐれな生き物ですからねぇ。ほれ、むしゃむしゃせい」


 レタスを千切ってミニスラちゃんにあげるとミニスラちゃんは美味しそうにむしゃむしゃを再開した。


 本来の約束ならば俺は5組に帰るのと同時に人質となってるミニスラちゃんも俺の家に戻ってくるはずだった。

 だけども俺は事前にミニスラちゃんに頼んでもう少し赤神ちゃんの家に居座るよう秘密の取引を結んでいるのだ。

 何故ならばミニスラちゃんが赤神ちゃんの家にいる限り俺はミニスラちゃんが心配で様子を見てきたと言う大義名分で堂々と赤神ちゃんの部屋に侵攻できるからだ。

 一応その秘密の取引の代価として一玉500円の朝採れレタスミニスラちゃんに支払ったがこれで赤神ちゃんの部屋フリーパス券がゲットできるなら安い安い。


 今日は赤神ちゃん俺の嫁計画は中断してまったり過ごそう。

 この一時を大切にするんだぁ(キレイな目)


 「ところでな、夏野」


 「ん?赤神ちゃんもむしゃむしゃしたいのですか?」


 「したくねーよ。酒だけもらっておいて何だけどよ、今日はこれから忙しくなるから夏野の相手をしてる暇はないんだ。だから帰れ」


 「え?」

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