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158話


 ぎゅるるるる!!


 しばらくしたら飽きるだろうと思っていたが、ミニスラちゃんたちはすっかり回し車にハマってる様子。

 スマホもぐんぐん充電されていった。


 俺は楽しんでる(?)ミニスラちゃんの様子を見ながら漫画を読んで時間を過ごす。


 「ナオ〜。ここが分からないから教えて欲しい」


 「ええー、めんどくさい」


 「この保健体育の教科書のーー……」


 「分からないところがあるなら遠慮なく言えよ?手とり足取り教えてやるから」


 ベットから起き上がり持てる力の限界まで身体能力を使って陽菜の元に駆け寄る。

 すると保健体育の教科書はどこにも見当たらず、机の上には国語の問題集が開かれていた。


 「……また俺を騙しやがったな?」


 「……何回この手に騙されてるのよ。何だかんだ言ってナオもスラと同じくらい学習しないわね」


 「俺はスラと違って100%相手の言うことを信じて来たわけではない。多分ないとは思うけどワンチャン可能性があるかもしれないと思ってここに来てるのだ」


 「……それ何が違うの?」


 「元々相手を信用してないから裏切られたとしても心に傷を負わない。つまり俺はスラの上位互換の精神力を持っていることになる」


 「人格としてはスラの方がはるかに上位互換ね。で……分からない所なんだけど……」


 陽菜が問題集に指をとんとんと置いて指し示す。

 その問題は選択肢から正しい筆者の気持ちを選びなさいと言うシンプルな問題だ。

 しかもこの問題も解いた記憶もある。

 確かこの問題の答えは『可哀想だと思ったから助けてやりたい(小学生並の感想)』と言うのが答えだったはずだ。


 「で、この問題のどこが分からないんだ?」


 「ナオって勉強とセクハラは天才よね?」


 「まぁな!」


 「でもいくら天才だとしても人間の心を理解することが出来ないナオがこの問題を解くことができないと思うの。それなのに何でナオはいつも国語も満点とれるのかなぁって思って。中学の時だって道徳のテストも満点だったじゃん」


 「その系統の問題の解き方は、その問題の答えの解説を予想すれば良いんだ」


 「解説を予想?」


 「そう、問題作ってる奴が後でクレームをつけられないよう、当たり障りない解答の解説を書いた選択肢がその問題の答えだ。ぶっちゃけ筆者の気持ちなんてインタビューでもしないと分からないんからな。問題の製作者にとって一番都合が良い選択肢を選べば良いんだ」


 詳しい解き方を教えてまたベットに戻る。

 漫画を読みながらペットが楽しんでいる様子を見て美少女とイチャイチャする。


 ふふっ……どうだ?

 これが俺の最高の日常ーー……


 「なお君、ちょっと良いですか!」


 「……何だ?」


 日常破壊神のスラがドヤ顔で顔を近づけてきた。

 俺の日常が破壊される気がする。

 でぇじょーぶ、でぇじょーぶだ。


 「この前のドライブでなお君が言っていた、正ペット登用試験というのに挑戦したいのですが!」


 「性ペット登用試験!?なんかオラ、わくわくしてきたぞ!陽菜ーー……!!」


 「辞退します」


 「……もうちょっと考えないか?せっかくのチャンスだぞ?次はないかもしれないぞ?最近は不景気だから安定したーー……」


 「辞退します」


 陽菜となら喜んで性ペット契約したのに。

 残念。


 スラが話を急いで戻すかのように、


 「エッチな意味ではなくて正規雇用の正です!正ペット登用試験です!」


 「ほう、漢字の違いが分かるのか偉いぞー」


 スラの頭をなでなでする。

 スラは喜んでいたが返事が早く欲しそうにうずうずしていた。


 んーそういやそんな事を適当に言った気がする。

 あの時なんかスラがちょっとしょんぼりしてたと思っていたが、その話を真に受けていたのか。


 でもなー、今スラと遊んでやる気分じゃないんだよなぁ。

 今、この平和な時間をまったりと過ごしたいのだ。


 それに正ペット登用試験をクリアされてしまったらそれを口実にされて色々俺にとって不都合になる。

 もしもの時に『捨てるぞ?』と脅せなくなるのは痛手だし、安定した環境に甘んじて成長する事を止めてしまうかもしれない。

 そう、スラが非正規の契約ペットなのは、スラの事を大切に思ってこそなのだ。(ゲス顔)


 「よし……」


 コピー用紙に手書きで適当に枠を書いてスラに渡す。


 「ここに母さんのサインをもらってきて」


 「サインですか?」


 「そうそう。なんて言っても夏野家の正規雇用の登用試験だからな。母さんの承認をもらわないと試験を受ける権利すらない」


 「分かりました!お母様にもらってきます!」


 スラはやる気満々で部屋を出て行く。

 ミニスラちゃんも回し車を中断してスラについて行った。


 「ふっふっふ」


 母さんはおっとりしてるように見えて、こういう事はしっかりしている。

 わけの分からない事を必死に説明するスラに対してサインをするようなことはない。

 こうして俺の平和な時間ーー……


 「サインをもらってきました!」


 「……えっ?マジ?」


 紙を見ると確かに母さんのサインが書かれていた。


 「……何故だ。何故サインが書かれている?」


 「お母様のサインがどうしても必要だから書いてくださいとお願いしたら書いてくれました!」


 「そんな馬鹿な……!母さんが理由も聞かずにサインだと!?俺の時はそんな生易しくないぞ!?」


 「ナオーー……」


 「陽菜、それ以上何も言うな。夏野家の序列の一番下は当然ペットたちだ。いいな?」


 「……」


 こうなったら仕方ない。

 これはやりたくはなかったが、スラの為に心を鬼にしよう。(ゲス顔)


 「次はこの欄に親父のサインと推薦状をもらってきてくれ。推薦状は最低3000文字以上でな」


 「3000文字ですか!?300文字の間違いではないでしょうか!?」


 「いやいや、スラさん。この登用試験は夏野家にとってとても重要な事なんだ。親父が本気でスラを推薦したいと思ったら3000文字なんて余裕だ。そうだろ?」


 「わ、分かりました。それではお父様がお休みの時にーー……」


 「チャンスは突然やってきたり、また消えたりするもんだ。それまでに俺の気が変わらないといいが……」


 「わ、分かりました!ダッシュで行ってくるのでそれまで気が変わらないでいてください!」


 スラとミニスラちゃんは急いだ様子で部屋を出て行った。


 「ふっふっふっ、次こそ勝ったな」


 きっと親父は職場で残業中。深夜時間帯に突入しようとしているこの時間にいきなりスラがやってきて推薦状を書いて欲しいなんて言われたらスラ贔屓の親父でも戸惑うに違いない。


 スマホを取り出して親父に電話をかける。


 「もしもしー。今からスラがそっちに行くと思うんだけど、適当に追い返しておいてくれ。で、ついでにそんな下らない事で仕事の邪魔をするなって言って少し怒っておいてくれ。それじゃ」


 電話を切ってこれで完了。

 少しスラには悪い事をしたかもしれないが、ここで推薦状をもらって来ることが出来ないんだったら正規雇用なんて夢のまた夢。

 そう、既に登用試験が始まっていると言っても過言ではないのだ。


 まぁ

、しょんぼりしながら帰って来るだろうからそのフォローとして後でしっかりもふもふしてやろう。

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