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157話

 赤神ちゃんとの楽しい話に夢中になり良い感じの時間になったので別れを告げて帰宅する。

 帰宅途中に猫に追われるミニスラちゃんを思い出してとある所に立ち寄って買い物を済ませる。

 家の玄関を開けるといつも通りスラとミニスラちゃん、そして黒を抱きかかえている陽菜がいた。

 

 「ただいまー。陽菜、ごはんにする?お風呂にする?それとも俺?」


 「ごはんで」


 「ごはんの後、お風呂にする?それとも俺?」


 「お風呂で」


 「お風呂の後は……俺にする?」


 「寝る」


 「すぅー……」


 どうやらまだ好感度が足りてないせいで陽菜ルートに入ることができていないようだ。

 そのやり取りを聞いていたスラがはしゃぎながら、


 「なお君!ごはんにしますか?お風呂にしますか?それとも、スラちゃんにしますか!」


 「ごはんで」


 「分かりました!今日もおいしいごはんを作りますね!」


 ……スラよ、それでいいのか?それがスラの欲しかった答えなのか?

 まぁいいや。


 とにかく、今日の突然の俺の早退でとても心配してるだろう。

 その経緯を話しておこうか。


 「そういや噂程度には聞いてるかもしれないけど、今日、実は学年主任に早退しろって言われてしまってな。ああ、でも心配するなよ?別に俺は見ての通り健康だ」


 「うん」

 

 「では今日はもっとおいしいごはんを作りますね!」


 何だろう。

 全然心配されてないような気がする。


 「……もうちょっと俺の事、心配してくれてもいいんだよ?」


 「えっ?今更ナオの何を心配するの?」


 「えっ……その……えーと、俺の頭とか?」


 何で俺が自分の頭を心配して欲しいって言わなきゃならない状況になってしまってるんだよ。


 「うーん、頭がおかしいのはずっと前から知ってるから今更心配してくれとか言われてもね。どうせいつもの奇行で先生を驚かせただけでしょ?」


 「……ま、まぁそうだな。で、でも陽菜は俺の事を心配してこうやって見舞いに来てくれたからだよな?」


 戸惑っている陽菜の代わりにスラが俺の質問に答える。


 「今日は一緒に人生ゲームをやりに――……ふぎゅ!?」


 陽菜が手でスラの口をふさいだ。  


 「そ、それは建前よ!今日はナオのお見舞いに来たの!ナオの頭と精神と将来が心配で心配で居ても立っても居られなかったのよ!」


 「……今日は体調がすぐれないからこのまま寝ることにするよ」


 「じょ、冗談だって!ほ、ほらだったら今から一緒に人生ゲームしよ?そしたら気分転換になるから!」



 ◇◇◇◇◇



 「ミニスラちゃーん、かもーん。今日はミニスラちゃんたちにプレゼントがあるんだ」


 ぴょん!ぴょん!ぴょん!


 部屋着に着替えて、ミニスラちゃん4匹を呼ぶ。

 プレゼントと聞いたミニスラちゃんは速攻で近くまで跳ねてきた。

 

 ぼふっ!ぼふっ!ぼふっ!


 ミニスラちゃんたちはテンションが高くなりすぎて残像が見えるくらいの速さでバウンドしている。


 「何ですか!何ですか!何をくれるんですか!」


 呼んでいないスラもすごく嬉しそうにしながら近くまでやってくる。


 「いや、悪いがスラには関係ないプレゼントだ」


 「……」


 スラがショックのせいでフリーズした。

 だが、今回はすぐに持ち直した。


 「いいでしょう!ミニスラちゃんにプレゼントをする言う事はスラちゃんにプレゼントをするのと同じ意味になります!」  


 何そのジャイアン理論。

 まぁ、別にスラを追い払う理由もないから放っておく。


 ちらっ


 陽菜はまるで興味をないかのような涼しい顔で勉強をしていた。

 だが、ペンを持っていた手は完全に止まりちらちらと何度も俺たちの様子をうかがっていた

 すごく興味津々のようだ。


 「実はな、帰ってくる途中にいつものペットショップに立ち寄って――……おい!?」


 ぴょん!ぴょん!ぴょん! 


 まだ話の途中なのに全ミニスラちゃんが逃げ出した。


 「よっと」


 ガシッ!


 逃げ切られる前になんとか1匹だけ捕まえることに成功する。

 捕まったミニスラちゃんは手の中ですごくぷるぷる震えていた。


 陽菜は何かほっと安心したような感じになって勉強を再開。 

 スラは布団の中に潜り込んでいた。

 そして逃げ切ったミニスラちゃん3匹は廊下から半分くらい体を出してこちらの様子を見ていた。


 こいつらにとってペットショップとは俺がお仕置きの為のペットフードを飼ってくる場所だと認識してしまっているようだ。


 「安心してくれ。今日は別にペットフードを買いに行った訳じゃないんだ。本当にプレゼントだ」


 ……


 捕まったミニスラちゃんは相変わらず震えが止まらず、逃げ出したミニスラちゃんはその場から動かない。

 スラはまだ布団の中で籠城していた。 


 かりかり


 ……静かだ。

 陽菜がノートに書き込む音以外、何もしない。


 このまま待っていても多分こいつらはしばらく寄ってこない。

 仕方がないから片手でミニスラちゃんを捕まえたまま、ペットショップから買ってきた物を開封する。


 「今日、ミニスラちゃんが猫に襲われて逃げてる時に思ったんだ。それは夏野家スライムの運動不足問題。スライムって散歩が好きなのに人目につかないようにする為に基本家にいるだろう?」


 陽菜が勉強している手を止めて、


 「散歩が好きかどうかはスライムしだいよ?ほら、黒とか用がなかったら全く動かないスライムもいるし」


 「……あ、そうか。それは考慮してなかった。高速作るくらい散歩が好きなんだらみんな散歩好きだと思ってた」 


 「ま、どっちにしてもスラとミニスラちゃんはスライムの中でもかなりの散歩好きの方だから地球に来てかなり散歩する機会が減ってるわね。運動不足、運動不足」


 陽菜のヒザの上にちょこんと乗ってる黒を見る。

 俺も陽菜のヒザの上に乗りたい。


 「スラは美少女化してるからいつでも勝手に好きな所に行って散歩なり運動なりできるだろう?けどミニスラちゃん的にはそうはいかない。スラよりも小さいから見つかりにくいと言っても人目を気にしながら行動しないといけない。そこで、これだ」

 

 箱から取り出して見せる。

 それはハムスターを飼ってるケージの中に置いてある回し車だ。  

 ただミニスラちゃんはハムスターよりかは大きいからそれを見越してかなり大きめのサイズの回し車を買ってきた。 


 スラが布団から少しだけ顔を出して、


 「……ペットショップではそれ以外何も買っていませんか?」


 「ん?これだけだが?」


 もう袋には何も入ってないとアピールする。

 するとスラとミニスラちゃんがとことこ戻ってきた。

 その様子を見た俺は空になっているはずの袋に手を入れながら少し大きな声で、

 

 「あぁー!?これ忘れてたぁー!?」


 ぴょん!ぴょん!ぴょん!


 バサッ!


 また逃げた。

 どんなけ警戒してるねん。


 「……冗談だ、冗談。本当に何もない。って事で、早速これ使ってみ?」


 回し車の前に捕まえていたミニスラちゃんを置く。

 実を言うとスライムに回し車を使わせたら見ていて面白そうとは前々から思っていた。

 しかしスラがスライムの時はそのサイズ上の問題で断念していた、

  

 からからから!


 ミニスラちゃんは回し車に乗って使い始める。

 成功だ。これで俺にとって良い暇つぶしがまた増えた。


 「ふむふむ、どうだ?これで運動になるだろう?思う存分使ってくれ」


 からからから


 からから


 から……から………


 「あれ?」


 順調に勢い良く回し車を回していたミニスラちゃんの勢いがどんどんなくなっていく。

 能力的にこんな短時間でスタミナ不足になるはずがない。


 ぴょん

 

 ミニスラちゃんが回し車から降りる。

 そしてしょんぼりし始めた。


 「あの、ミニスラちゃん?ど、どうした?」


 もしかしてペットフード同様、ペット扱いされるのが気にくわなかったのだろうか?

 

 かきかき


 ミニスラちゃんが紙に文字を書いて見せてきた。

 

 「" ('A`)むなしい "」

 

 「……」


 スラが布団から出て来て遠い目をさせながら、


 「どんなに跳ねても変らない景色。どんなにがんばっても新しい発見がない。回し車を1周させる度に思う。一体何の為に跳ねているのだろう?その自問自答が胸に強く突き刺さる。そして結論へと導いた。これは飼い主の一方的なエゴだと」 


 「……なんかすまん」


 あまりにも的確な指摘をされてしまい思わず謝る。

 俺は回し車を箱に片付けようとする。

 1度使ってしまった以上、ペットが気に入らなかったと言って返品するのは流石にクレームすぎるか。

 とりあえず押入れに――……


 「ちょっと待った。それ私に貸して」


 「え?まぁいいけど」


 陽菜が回し車をじっくりと見つめる。


 「ちょっとスラの工具箱借りるわよ」


 「うにゅ?それは全然構いませんが何をするのですか?」


 「つまり回し車を回す理由を作ってあげたらいいんでしょ?それなら簡単よ」


 陽菜がスラの工具箱を持って部屋を後にした。



 ◇◇◇◇◇



 ぎゅるるるるるる!!


 ミニスラちゃんがさっきまでは打って変わって勢いよく回し車を回す。

 陽菜が回し車を預かってからわずか15分後の出来事だ。

 ミニスラちゃんたちは列を作って順番待ちをするほど人気アトラクションへと変貌していた。


 「ふふ~ん、我ながら上出来な出来栄え♪」


 「……ああ」


 俺のスマホに充電中のランプが灯っている。

 そしてスマホに繋がっている充電ケーブルは回し車へと繋がっていた。

 つまりミニスラちゃんが回し車を回すエネルギーを利用して俺のスマホを充電できるように改造したのだ。

 

 「" (・∀・)しゃかいのやくにたっている "」


 「……そう。そんなのでいいんだ。ところでさ、回し車を回したくらいの発電量ごときじゃスマホの充電なんて全く足りないだろう?なんかスラの機械女神の力が回し車のどっかに入ってるのか?」


 「ほんのちょっぴりだけ入ってるわ。それでも、どっちかって言うとミニスラちゃんの力で発電してるわ。それと回してる間、絶対に手とか入れちゃダメよ?指が吹き飛ぶから」


 「……ああ。気を付ける」


 ミニスラちゃんが飽きた所を見計らって後で分解しておこう。

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