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156話

 もらった2000円をそのままゲーム代にしたかったが、学年主任のアドバイス通りにコンビニで唐揚げ弁当とかおつまみとかを買って、学校から一番近い海岸まで電車で行く。

 着いた時にはちょうど良いランチタイムだ。


 「それにしても、今時の若者がオッサンみたいに海を見ながら飯食ったって心が癒えるものなんだろうかねぇ」


 ぴょん!ぴょん!ぴょん!


 海が一番良く見えそうな場所まで向かって歩くと突然、手のひらサイズ野生のスライムが1匹現れた!

 モンスターとのエンカウントに身構える!


 「おいおいおい、こんな所にまでスライムがいるのかよ。故郷から不法入国してくるスライムの数が多すぎないか?ちょっと退治して減らしておくか!」


 うねうねうね!


 野生のスライムは何かを俺に伝えようと必死にうねうねしている。


 「ほう、挑発してるのか?いいだろう、相手になってやる。俺の経験値になれ」


 うねうねうね!!


 野生のスライムはさっきよりも焦っている様子だ。

 筆談をできるツールを持っていないから、ボディランゲージで何とかして俺に伝えようとしてくる。


 「行くぞ!とりゃー!」


 コンビニ袋から細切れされたおつまみ用のチーズ鱈を取り出して野生のスライムの目の前に向ける!


 「で、ミニスラちゃんはこんな所で何やってるんだ?」


 まぁ、流石に5年近く飼ってるペットの分身と野生のスライムの違いくらいすぐに分かる。


 ミニスラちゃんはチーズ鱈を口にくわえると俺の手にスリスリしてきた。



 ◇◇◇◇◇



 跳ねてどこかに向かうミニスラちゃんの後ろについていくと、海の方をボケーと見ている私服姿の赤神ちゃんがいた。

 俺に気がついている様子はない。

 ミニスラちゃんはぴょんと赤神ちゃんの頭の上に乗ってくわえていたチーズ鱈をもぐもぐし始めた。

 ミニスラちゃんが頭の上に乗っかってきても全く動じない赤神ちゃんに声色をいつもより低い感じにして話しかける。


 「ねぇ、おまわりさんだけどちょっといいかな?平日なのに小学校に行かずにどうしたの?不登校?」


 「おとーさんの会社がとーさんして、夜逃げしてるの。だから小学校には行ってないのー」


 「いくら何でもそれは設定が重すぎね!?もうちょっと良い嘘を考えね!?」


 「ウソじゃないもん、ホントだもん…………って、夏野の人間の方かよ!?お前、どこにでも現れるな!」


 俺に気がついた赤神ちゃんは顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうにしていた。

 特に何もせずにまた赤神ちゃんの弱みを握ってしまった。


 「で、仕事はどうしたんですか?さぼるのは良くないですよ?」


 「はっ、夏野のストーカーの方こそ学校はどうしたんだよ?」


 「学年主任に昼飯代を渡されて、今日はもう早退していいから海岸でゆっくりしてこいって言われたんで来てみたのですが、何故かミニスラちゃんがいたんですよ。で、ついてきてみれば……」


 「とうとう金まで渡されて教室から追い出されたか。うっとおしかったんだな」


 「うっとおしかったと言うより、本気で俺を心配してる様子でした。何故そこまで心配してたのかは分かりません」


 「……教室で何やらかしたんだよ?てか、本気で心配されてるのに、その理由を分かっていないお前が怖い」


 時間はたっぷりあるから赤神ちゃんに昨日の空中ドライブの事をかいつまんで説明する。

 ついでに教室でやった事をそのまま赤神ちゃんにやってみる。


 「でね、教室で俺はこう言ったのですよ、はぁい!!今ヒコーキがお空をブウウウウン!!って飛んでるよ!ブウウウーー……」


 「もういい。お前の怖さが改めて分かった」


 「え?まだ全部言ってませんよ?全部言わないと分からないと思いますが?それに怖いのはあんな欠陥車造ったスラの方ですよ」


 「金を渡されて早退されるだけで良かったな。私なら速攻、救急車呼んでた」


 「はっはっはっー大人は何考えてるか分かりませんなぁー。あ、ところでおつまみ食べます?もらった2000円を余らせないように無駄に1000円分のおつまみを買ってますので好きなのご自由に」


 赤神ちゃんは開封されたチーズ鱈をコンビニ袋から取り出してもぐもぐする。

 そして赤神ちゃんはもう1本チーズ鱈を取って頭の上に乗ってるミニスラちゃんに食べさせた。

 いや、食べさせたと言うよりは黒ひげ危機一髪みたいにチーズ鱈をミニスラちゃんにぶっ刺した。

 ミニスラちゃんは俺があげたチーズ鱈をまったりと美味しそうにもぐもぐしてる時に2本目のチーズ鱈をぶっ刺されたせいで必死にもぐもぐしていた。


 赤神ちゃんは海を見ながら呟く。


 「チータラうめぇ……。酒があったら最高なのに」


 「コンビニで買ってきたらどうですか?一応本物の免許証持ってるんですから、たとえ見た目が小学生にしか見えなくても問題なく買えますよね?」


 「はぁ……この広い海の前では夏野でさえちっぽけな存在だな……」


 小学生と言われてキレると思ったが、赤神ちゃんは遠い目をしながら海を眺めている。

 いつもの調子じゃないことは明らかだ。


 「赤神先生の方こそ何かあったのですか?」


 「……気分転換でちょっと高速で酔っ払いながら走ってただけなのに、あいつが飲酒運転とかイチャモンつけてきやがったんだ。スピードだって抑えて500キロくらいだったのに暴走行為とか言って加点されるし……」


 「……」


 「それで禁酒2週間命令とかやってられねーよ。そもそも飲酒運転が駄目なんてそんな決まり何千万年もなかったつーの。日本で走ってないのに日本の法律ではーとか言ってるんじゃねーよ」


 「……それで今日は仕事サボったと言う事ですか?」


 「そうそう。それでなーー……」


 赤神ちゃんがどんどんボロを出してる。

 これ以上聞くのはマズイと思った俺は慌てて遮った。


 「そ、それは大変でしたねー!日本の警察官は真面目な分、融通が聞きませんよねー!」


 「あ?日本の警察官……?…………ああ、そうそう!それだよ、それ!本当にあいつらは融通が聞かねーんだよ!」


 気づいてくれたおかげで助かった。

 赤神ちゃんも根は馬鹿な子なんだなと思った。

 とりあえず、後は他愛ない話でもして赤神ちゃんの好感度でも上げておくか。


 ぽちゃん!


 ぷかぷか


 ミニスラちゃんが何を思ったのか、いきなり海に飛び込んでぷかぷか浮いていた。

 俺はぼそっと呟く。


 「……あれは何してるんだ?構ってほしくて入水自殺でもしようとしてるんか?」


 「腹が膨れたから泳いでくるってよ」


 「……」


 「あっ……。そう、ミニスラなんてそんな事くらいしか考えてないだろうって思っただけだ!と、とにかくミニスラの心配はする必要ない!」


 「……俺、あれを5年飼ってるんですけど、赤神先生はせいぜい数日ですよね?そんな短い日数でミニスラちゃんの行動の意味が分かるんですか?」


 「ちげーよ、そーゆーのは時間じゃねーんだよ!それに、わ、私は教師だぞ?夏野よりもはるかに私の方が人生経験が長いんだ!私にかかれば数日でスライムが何考えてるかくらい余裕で分かる!」


 「……そうですか。ではーー……」


 バシャバシャバシャバシャ!!


 ぷかぷか浮いていたミニスラちゃんは多くの魚に取り囲まれ、餌だと思われて突っつかれている。

 それにビビったミニスラちゃんは海水浴を断念して急いだ様子で陸に上がってきた。


 ニャー!!


 ぴょん!ぴょん!ぴょん!ぴょん!


 陸に上がって安心したのも束の間、今度は野良猫に全速力で襲われていた。

 危機を感じたミニスラちゃんは跳ねて逃げていた。


 「今、ミニスラちゃんは俺たちに何て言ってるとおもいますか?」


 「あれは……助けを求めてるだろうな」


 「……ええ。多分正解です」


 「で、助けてやらないのか?」


 「まぁ、自然の厳しさを思い知る良い機会じゃないですか?運動不足も解消できるし一石二鳥です」


 隠れスポットっぽいおかげで、周りには人が見当たらない。

 ならば思う存分、跳ねていただこう。

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