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155話

 午後10時、空中ドライブからはなんとか無事に帰還。

 スラはご機嫌だったが俺は戦場帰りの兵士みたいな気分だ。

 寝るには少し早い時間だったが心に傷を残さないようにする為にそのまま就寝した。


 朝起きていつも通り登校し、いつも通りに特等席に着席する。

 とても平凡な日常だ。


 ドライブが終わった時、『久しぶりの濃密なスキンシップができてほくほくです!そんなに喜んでくれてスラちゃんも嬉しいです!』とか言ってたから、スラはきっとまたドライブに誘ってくるだろう。

 乗りたくないがまた流されて乗せられてしまうかもしれない。

 だから少しでも生存率上げるために、今のスラの車の問題点と改善点を分かりやすくスラに説明しないといけない。


 カバンから子供が遊ぶ用のおもちゃの飛行機を取り出す。

 このおもちゃの飛行機を使って分かりやすく説明すれば分かってくれるかもしれないと考えて持ってきたのだ。

 さぁ、今の空いた時間を利用して、何て説明すれば良いのか整理してみよう。

 ポイントはスラの頭でも理解できるよう簡単に言う事だ。


 「はぁい!!今ヒコーキがお空をブウウウウン!!って飛んでるよ!ブウウウウウウウウン!!って!!」


 「……」


 おもちゃの飛行機を手に持って空を飛んでるように演出する。

 ふむ、これならスラでも簡単に理解できるだろう。


 「パキっ!!あっ!?片方のツバサが折れちゃた!!でもこのヒコーキは強いからへっちゃらだよ!!ブウウウウン!!」


 「……な、なぁ、君」


 左翼を手に握って右翼だけで飛んでるように演出する。

 昨日起きた出来事だからここも理解できるはずだ。


 「あ、ここでヒコーキに謎のスライムの体当りが!!片方のツバサでしか飛んでなかったからヒコーキのバランスがおかしくなってそのまま地面にドドーン!!」


 「……な……夏野……君?」


 「あらら、ヒコーキに乗ってる、なお君が死んじゃった!!両方のツバサがちゃんと付いていたら死ななかったのにね!どんなアクシデントが起きても安全に飛べるようにヒコーキにはいくつもの安全対策が必要だったんだね!!ブウウウウン!!」


 「ちょっ、ちょっ、ちょっ、夏野君!!」


 「はい」


 学年主任が俺の肩を揺さぶって心配そうにしている。


 「……」


 休み時間だと思っていたら、どうやら学年主任の授業中だったらしい。

 どっちの時間も俺にとっては実質、自由時間みたいなもんだが授業中だったら他の奴らに迷惑がかかる。

 少し反省。


 教室を右から左へと見渡す。

 俺の目線に合わせるように1組の奴らが俺から目を背けて机に目を伏せていった。


 「すいません、邪魔してしまいました」


 「いやいやいや、それはいいんだよ。それより夏野君、本当に大丈夫かい?」


 いつも嫌味で憎たらしい学年主任が今日はやけに雰囲気が違う。

 まるで孫を心配するおじいちゃんみたいな感じだ。


 「ええ。とりあえず何が大丈夫かよく分からないですが私はいたって正常ですよ?あ、ところで先生はさっきの私の説明は理解できました?」


 「え?何?全然理解できないんだけど?私には夏野君が何を言いたいのか全然分からない」


 「そうですか。やっぱりブウウウウン!!って飛行機が飛んでる音をもっとリアルぽくコオオオオオオ!!みたいにした方が良いですかね?でもやっぱりーー……」


 「うんうん。夏野君が言いたい事、私にはよーく分かった。ちゃーんと伝わった。慣れない環境で疲れたんだよね?分かる。とても分かるよ!」


 「え?私は別に疲れてなんかーー……」


 「そうだね。そうだね。ああ、そうだ。夏野君は今日はもう早退したまえ。人間、休む事も大切だ。君たちも夏野君にあまり苦労をかけさせないこと。いいね?」


 皆が学年主任の問いかけに対して小さく頷く。

 そして、学年主任は財布から2000円ほど取り出して渡してきた。


 「これでコンビニで弁当を買って、海岸で広い海で見ながら食べると嫌な事なんて簡単に吹き飛ぶ。夏野君もそうしたまえ」


 「え?いやいや、お金は受け取れませんよ」


 ごそごそ


 「そんな事言いながらちゃっかり自分のポケットにしまい込むのは実に夏野君らしいが……まぁいいでしょう。ゆっくり羽を伸ばしてきなさい」


 「え、ええ。それでは……」


 何だかよく分からんが金までもらえてラッキーだ。

 言葉に甘えて今日はサボってしまおう。


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