150話
ジジ……ジジジ……
近所迷惑にならないよう、最小限の騒音で修理(魔改造)が始まる。
まずは壊れた外装を取り外すようだ。
ガパッ
まだ機械女神的な力は使ってないが、まるでF1の整備する場面のような手際の良さで作業が進んでいる。
そういやこの前、スラが地球の技術は機械女神の技術とは違うから勉強し直すとか言ってた気がする。
俺の知らない所で車についての技術本でも熟読したのだろうか?
「車の修理のやり方ってどこで学んだんだ?」
「" (´∀`)ゆーちゅーぶ "」
「は?」
背筋がゾクッっとする。
魂がまるでかつお節を削るかのようにガリガリ削れる。
「い、いいか?車ってのはな、人の命を預ける機械なんだよ。自動車整備士っていう国家資格ってのがあるくらいだ。だから……もうちょっと勉強してから修理しよ?」
「" (´◉◞౪◟◉)?"」
ガコン
外装があらかた外し終えると今度は電装系の修理を始めた。
どうやら止める気はないようだ。
修理が始まってしばらくすると、スラがなんだか少しドヤ顔でとことこやってくる。
「なお君!なお君!スラちゃん逆転勝利です!スラちゃんは悪くなかったのだ!故郷からメールが来て、整備不良の原因が分かりました!ミニスラちゃんたちが故郷に滞在してる間に、茶子ちゃんが勝手に車を弄ったのです!」
「……弄った?まさか勝手に配達された腹いせでブレーキ故障させたとか?お前たち結構どろっどろの関係だな」
「違います!ミニスラちゃんが早く家に帰れるように親切心で加速40%アップとか燃費向上20%アップとか色々アップグレードしてくれたのです。ですが、車を制御しているプログラム技術が故郷にはない技術だったので、そのまま放置して終わってしまったのです」
「それで不具合が起きて今回の事故になったと?」
「ですです。見てください、このリアウイング。茶子ちゃんが取り付けたので見覚えないはずですよね?それとホイールとかエンジン周りとかも弄られてますね!」
「いや、そんなまじまじ見てなかったからそんな些細な違いはちょっと……」
「……なお君には分からないのですか……そうですか。とにかくボクもミニスラちゃんも無罪なのだ!だから安心してこれからも乗れますね!」
「うーん……そうか」
確かに聞く分にはスラとミニスラちゃんは何も悪くない。
だからと言って、だから安心して乗れるかと言われると……安心できないよなぁ。
今まさに車バイクに魔改造されてる真っ最中だし。
なんかペンキみたいので外装をライムグリーンに塗ってるし。
「とりあえず茶子がもし次やって来たらどうしてくれようか?おしおきが必要だな」
「茶子ちゃんは許してあげてください。今、故郷で被告として裁判受けてる最中なので……有罪は免れません」
「え~。故郷の裁判とか生ぬるいじゃん。どうせ有罪でも反省文程度だろ?」
「機械女神の力を最も誤った方法に使ったので下手したら……。まぁいいでしょう!仕方ありません!」
「下手したら何だよ?」
「それよりも今は修理です!」
「……おい」
スラは話をぶった切ってミニスラちゃんの元に向かう。
一体、茶子にどんな罰が下されるのか気になるが、あのはぐらし方はなかなか教えてくれないパターンだ。
まぁ、どうせ大したことないだろう。放っておこう。
ぴょん!
「" (・∀・)スラちゃん、ここわからない"」
「ここですか!ここはボクのオリジナルなのでミニスラちゃんでも分からないと思います!ボクが直しましょう!」
トントントン
ミニスラちゃん4匹がタワーのように積み重なると、潰れたマクドルドのハンバーガーみたいに圧縮した。
そしてスラは出来上がったミニスラちゃんタワーを持って、ミニスラちゃんタワーを車の下に挟む。
プシュー
するとミニスラちゃんタワーが元の大きさに少しずつ戻っていった。
ギギギギ
ミニスラちゃんがタワーの大きさが戻ると同時にそれによってグングン車が持ち上がる。
も……もしかしてミニスラちゃんでジャッキアップ(車のタイヤ交換とかで車体を持ち上げるやつ)してる?
「オーライ、オーライ。オーケーです!」
ミニスラちゃんタワーのジャッキアップで人が車体の下に潜り込めるくらい車が持ち上がる。
するとスラが工具を持って車の下に潜り込もうとした。
「待てスラ!!それはいくらなんでも危険すぎる!!」
「うにゅ?どうしましたか?」
「うにゅ、じゃねーよ!ミニスラちゃんを見てみろ!」
ぷるぷるぷる
「ほら、めっちゃミニスラちゃんぷるぷるしてる!!これ耐えられないって!てか、この時点でもうヒヤリハット!」
「そうですね!早くしないといけませんね!」
「そういう問題じゃねーから!って、おい!」
スラは忠告も聞かずに車の下に潜り込んで作業を始める。
こいつらに常識を問うのは間違ってるが、これはいくらなんでもひどすぎる。
見てるだけで俺のストレスがマッハだ。
「ここも大分傷んでますね!ですがスラちゃんの修理技術があれば――……」
ぶちゅ!!
ぶちゅ!!ぶちゅ!!ぶちゅ!!
ミニスラちゃんの1匹がとうとう重さに耐えられずに弾け散る。
そして残り3体も連鎖して弾け散った。
ぷよぷよかよ!
「うにゅ!?」
ドン!!
「スラ!?」
ジャッキアップがなくなった瞬間にスラが車体の下に挟まれて下敷きになる!?
おいおいおい、これどうなんだ!?大丈夫なのか!?スライム状態じゃないスラはこの場合はどうなるんだ!?
俺は近くに置いてあったジャッキを使って急いで車体を持ち上げようとする!
てか、ジャッキあるじゃねーか!これ使えよ!
うねうね
「黒!?そうか、頼むぞ!」
黒が車体の下に潜り込んでうねうねと体を伸ばす。すると車体が持ち上がった。
俺は急いでスラをずるずると引っ張っる。
「スラ!大丈夫か!?」
「大丈夫です!しっかり直しました!ふぅ~重かったです」
「……いや、重かったってレベルじゃないんだが?」
「とても重かったです!びっくりしました!」
今のは故郷に打ち上げられた時と同じくらい心臓が止まったぞ。
……どうやら美少女化の方も不死身属性は付けられてるようだった。
それならそうと一言教えて欲しかったんだが……。
ぽりぽり
黒は自分へのご褒美か知らないが、せんべいをぽりぽり食べていた。
「なお君、その機械は何ですか?」
「……これ?ジャッキだが?……まさか」
ジャコン、ジャコン、ジャコン
ジャッキを使って車体をジャッキアップする。
するとスラが目を輝かせていた。
「なお君はどうやって車体を持ち上げたのですか!?何でジャコンってやったら車が持ち上がったのですか!?これはもしかしてボクたち機械女神の機械なのでしょうか!?」
「……心が衝撃に耐えられない。ちょっと休憩してくる……」
「休憩ですか!な、なお君!ちょっと待ってください!これ使ってもいいでしょうか!」
「……ああ」
自分の部屋に戻って休憩した。




