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147話

 「んふ~!」


 さっきからスラはドヤ顔待機している。

 マグロの解体をして豪華な弁当を作ったことを褒めて貰おうと待っているのだろう。


 「ほれ、褒美を授けよう」


 箸で大トロをつまんでスラの口に放り込む。


 もぐもぐ


 「おいしいです〜」


 大トロに醤油をつけ忘れたが満足そうにもぐもぐしている。

 これだったら大トロを与えなくても刺身の上に乗ってるタンポポで十分だったかもしれない。

 試しにタンポポもスラの口に放り込む。


 むしゃむしゃ


 「おいしいです〜故郷の味です〜」


 おい、醤油がついていないとは言え、マジで大トロとタンポポも同じように美味そうに食ってるんだが?

 もしかしてスラって食べ物の味の違いが分からないんじゃないのか?

 だって、いつも何食わせても美味そうにしてるんだもん。

 前もスラ自身から、ご飯食べなくても死なないし、食べると幸せだから食べてるって言ってたからもしかすると味覚がない可能性も有りうる。

 ここは直接聞くよりも実験してみよう。


 バックからスラのしつけ用として常備しているミニサイズのモンペチ(キャットフード)を取り出してスラに食わせてみる。


 「シーチキンですか!さすがなお君です!あーん……もぐもぐ…………これ……モンペチ……」


 凄いしょんぼりしながらもぐもぐしている。

 タンポポよりは美味しいと思うんだが、相変わらずペットの餌を食わせるとしょんぼりする。


 「ボク、今日はずっとおりこうさんにしてるのに……理由なき制裁はただの暴力です。ペット虐待です……」


 スラの口に追加でモンペチを放り込む。


 もぐもぐ


 それでも一応食うんだな。


 バックからもう一つ缶詰を取り出す。

 こっちは人間が食べる普通のシーチキンだ。

 シーチキンの缶詰を取り出した瞬間スラは文句を言う。


 「モンペチの味を変えてもペットフードの時点でダメなのです!スラちゃんだってちょっぴり怒りますよ!」


 シーチキンの缶詰を開けてスラの口に放り込む。


 「もぐもぐ……これはシーチキンですか。分かってくれたのですね。心の広いボクは慈愛の気持ちで許してあげましょう」


 実験終了。

 どうやら味の違いはちゃんと分かるらしい。


 遠藤は俺の実験を見て少し険しそうな顔をしながら、


 「こんな美少女にモンペチ食べさせるのは良くないと思うぞ。それに猫の餌なんだから美味しくないだろう?」


 するとスラが答えた。


 「モンペチもドッグフードも味自体はまぁまぁですよ?ただ、気持ち的にしょんぼりして美味しく食べられないのです」


 「味自体はまぁまぁなのか。夏野、ちょっとモンペチひと口くれないか?」


 「モンペチなんて人間が食ったら腹壊すかもしれないものを友達に食わせる訳にはいかんなぁ」


 俺は残っていたモンペチ全てを自分の口に放り込む。

 うむ、思っていた以上には食えるものだな。

 こんなに食えるものだったら制裁的な意味はなさない。

 モンペチをスラの餌として買ってくるのはやめておこう。


 山坂が何やら心配そうにしている。


 「自分で腹壊すかもしれないって言っておきながら食べてるんだけど……大丈夫なのかい?」


 「なぁに、死にはしないだろ。ペットショップの店員もそんなこと言ってたしな……それよりさ……」


 「どうしたんだい?」


 「……今日は二人とも来てくれてありがとな」


 「……ああ、むしろ僕の方こそ感謝したいくらいだよ。こんなに楽しくご飯を食べられるとは思ってなかった」


 遠藤も、


 「夏野なんてモンスターを投入させられた1組がとても不憫だ。だから早く5組に帰ってこいよ」


 「おお!男のツンデレも悪くないな!俺のメインペットになるか?」


 スラは何事もないような涼しい顔をしながら弁当のおかずを箸でつまもうとしてるが、手が震えすぎてておかずをつまめていなかった。


 「それは断る。モンペチ食わされたくないからな……それでさ、ちょっと頼みがあるんだが……」


 「頼み?犯罪にならないことなら何でもやってやろう。ん?今何でもするって言ったよね?言ったよ!何でもするよ!」


 「そこまで張り切ってやってもらうほどの頼みじゃないんだけどな……。実は僕たち、今回の件は夏野の成長の為に、夏野一人の力で解決させようってルールを決めたんだけど……それを破って来たから……」


 遠藤がアイコンタクトで廊下を見ろと言ってきたので

見てみると、


 じー


 陽菜がジト目でドアに隠れながら俺たちの様子を見ていた。

 きっとこのルールの立案者は陽菜で、今回の昼飯会はきっと陽菜に反対されると見越して山坂と遠藤とスラは内緒でここに来たのだろう。


 陽菜もそれに気がついてやってきたが、陽菜自身が立案者である以上、ルールを破る訳にもいかずにあそこで羨ましそうにしてると予想する。


 「ちょっと口説いてくるは」


 俺は陽菜の元に行く。

 陽菜は逃げないものの、おずおずとしている。


 「おっ、丁度良い所に陽菜、発見」


 「な、なによ……?」


 「実はな、俺の為に作ってくれた弁当がまだたくさん残ってるんだ。このままじゃ残してしまうし、生モノが多いから捨てるしかない。まだ昼飯食ってないなら食うの手伝ってくれよ?」


 「……うん……食べる」


 席に戻ろうとすると陽菜がぼそっと言う。


 「いつもそんな感じに優しくて普通だったら今頃友達たくさんいるのに」


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