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145話


 赤ちゃん入りカバンを持って1組の教室に入る。

 そのまま席に向かうと黒板に大きく『1限目の授業は自習。好きにしろ。by赤神せんせー』と書いてあった。

 赤神ちゃんに会えなくて残念だけど、自習時間を友達作りの時間にあてることができて、丁度良かったなー。本当に良かったなー。


 きーんこーんかーんこーん


 朝のホームルームの時間になったが、どうやら赤神ちゃんはホームルームも来ないらしい。

 そのまま自習の時間になった。


 「" あのスマホをいじってるグループに声をかけろ "」


 しばらく様子を見たかったのに赤ちゃんに急かされる。

 まぁ、いいだろう。こっちにはリーダー各の機械女神のがついてるんだ、余裕だぜ!


 俺は席を立ち、教室の後ろでスマホをいじってる少しガラの悪そうな男3人組に近づく。

 しかし何でよりによってこんなガラの悪そうな奴らに。

 もうちょっと低姿勢で、何も言わなくても飲み物を買ってきたりするようような優しそうな奴と友達になりたかった。


 あれ、ところで何て声をかけたらいいんだ?


 「あーん?俺に何か用かよ?天才の夏野ぼっちゃん」


 気がついたら俺はすでにこいつらの前で突っ立っていたらしい。

 しかも俺に対する印象が良くない。天才かもしれないが金持ちのぼっちゃんではないぞ?

 スライムたちの食費をどう節約しようか頭を悩ませている一般家庭だ。


 てか、それよりも、あ、赤ちゃん……俺、なんて言えば……?


 かきかきかき


 「" 殺すぞ "」


 いきなり初対面の人相手に殺すぞって!?いくら何でもそれは世紀末すぎるよ!?

 てか無理に決まってんだろ!?そんな事言ったらどうなるか俺にも分かるって!!


 ああ、少しでも赤ちゃんを信じた俺が馬鹿だった!! こうなったら俺自身の力で友達を作ってやる!!


 「お…お…俺…………俺は」


 ま、まずい。何を言えば良いのか検討もつかない!なんでいつもこういう時、緊張するんだよ俺!

 そ、そうだ!あのコミュ力の塊の陽菜が言いそうな事を言えばいいんだ!

 それなら間違いはないはずだ!えーと、えーと……!!陽菜が言いそうなこと……陽菜が言いそうなこと!


 「ひなっひなにしてやんよ!」


 ああああ、昨日の陽菜がやってたやつに引きづられたあ!!昨日のアレすっげー可愛かったんだもん!!


 「……は?」


 まずい!案の定、反応が良くない!

 目を細めて見てくるもん!汚いものをあまり見たくないみたいな感じな目を細めてるもん!


 こうなったら、一か八か赤ちゃんの提案に乗っておこう、修正だ!きっと何か考えがあるはずなんだ!


 「殺すぞ?(キリッ)」


 「あ?なんだてめえ、調子乗ってんじゃ――……」


 「や、やめとこうぜ。こいつ絶対なんか頭おかしいって。関わらない方がいいって。合宿の時だって3組のあの不良どもをビビらせて土下座させたって噂が……」


 「あんな頭が筋肉で出来てるような奴がこんなのにビビるわけねぇだろ。それともお坊っちゃんらしく親の権力使ったとかか?ねぇ、教えてよ七光りの夏野ぼっちゃん」


 「違うんだよ。こいつが壁に大穴開けるくらい暴れまくってボコボコにしたとか……。あいつビビッて合宿の間、ずっと部屋に閉じこもってたらしいんだって」


 「嘘だろ……?」


 なんか知らない間に俺、一騎当千の強者みたいな扱いになってるんですけど!?

 あの時、ボコボコにされてたのは俺の方なんですけど!?


 「" よし、そのまま壁ドンしろ "」


 か、壁ドン!?なんでここで壁ドン?

 しかも壁ドンって最近、色んな意味があるんだが、どういう意味での壁ドンなんだ!?俺はどんな感じで壁ドンしたらいいんだ!?ええい、こうなったら全部の意味を込めてやってやる!


 ドンッ!!


 「きええええええい!!てめぇ、うるせぇぞボケエエェェ!!黙って俺のことを好きになってればいいんだよ!!レオパァーーー!!」


 「す、すいませんでした!!」



 ◇◇◇◇◇



 「夏野さんって凄いですよね!勉強もできてしかも喧嘩も強いなんて!本当に憧れるっすよ!」


 「……」


 「あの、夏野さん。喉とか乾かないすか?よかったら何か買ってきましょうか?」


 「……」


 「いや~夏野さん、ずっと1組にいてくださいよ!すげー頼りになります!」


 「……」


 流石、赤ちゃん。たった数十秒話しただけで友達が3人も作れてしまった。

 何故あの短時間でこんなにも親しい仲になれてしまったのは分からない。

 だが、今は終わったことをうだうだ考えるよりも先の事を考えよう。


 山坂から借りた、フランス語で書かれた『友達の作り方』本の内容を思い出す。

 人はそれぞれお互い違う価値観を持っていて、それをすり合わせて、そして共有することによってますます親しくなるらしい。

 ならばそれを実践してみようじゃないか。


 「ひなっひなにしてやんよ!はい、どうぞ」


 「……え、俺たちもそれやるんすか?てか、それなんすか……?」


 「ああ、やるんだよ。俺たち友達だろう?」


 「ひ……ひなっ――……」


 「声が小さいんですけど!?ねぇ、ちゃんとやろうよ!?ガキじゃねえんだからさ!」


 「ひなっ!ひなにしてやんよ!!」


 ぱちぱちぱち


 「トレビアン!!(満面の笑み)」


 頑張った友達3人に拍手を送る。友達3人は目線を合わせようともせず下を俯いて唇を噛みしめている。 

 大分こいつらと親しくなったとは言え、まだ友達になってから30分もたっていない。

 きっとまだ俺と話すのが気恥ずかしいのだろう。


 「ねぇ……ナオ。それ、秘密にしてるって約束だったよね?」


 「おおっ、陽菜!?まだ授業中なのに何でいるんだ!?」


 「スラが見当たらなかったから抜け出して探していたのよ。こっちにいるんじゃないかと思ってたけど……はぁ」


 陽菜はため息を吐く。

 そして陽菜は俺の友達3人の方を向き、


 「ごめんなさい、ナオの馬鹿に付き合ってもらって……ほら、ナオも謝る」


 「実はな、もう俺たちはそんな他人みたいな関係じゃないんだ。友達なんだよな?俺たち?だから遠慮はいらねーんだよ」


 「えっ……そ、そうすね。……はは」


 「……ねぇ、ナオは3人の名前、言える?友達だったら当然、言えるよね?」


 「これから教えてもらう」


 「何でそれで友達だって言い張れるのよ。クラスメイトから友達関係になる基準は何のよ?」


 「3分以上会話が続く事」


 「……そんな緩い基準なのに1組でまともに友達1人作れないなんて……」


 私の年収低すぎ、みたいなポーズをとられる。

 

 「とにかくこの子たち、すごく困ってるだからこれ以上変なちょっかいかけない事。いいわね?」


 「なぁ、陽菜。ちょっと確認したい事があるんだが。もしかして俺とこいつら3人って友達じゃないのか?」


 「……むしろ何でそれで友達だって思ったのよ?突然知らない酔っ払いに絡まれて困ってる人みたいにしか見えないんだけど?」


 「だって3分以上会話続いたし、こいつら俺に優しくしてくれるし……」

 

 かきかきかき 


 しばらく静観していた赤ちゃんから紙に何かアドバイスを書いている。

 それを見ると、


 「" うるさいぞ、ひなっひなにしてやろうか? "」


 書いてる事をそのまま口に出す。


 「うるさいぞ、ひなっひなにしてやろうか?」


 「……原因はそれか」


 陽菜はボソッと呟いて自然にかばんをひったくる。


 「それじゃあ、そろそろ私は戻るから、変な問題は起こさないでよね?」 


 そのまま1組の教室から姿を消した。 


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