15話 友達をいっぱい作って楽しい学校生活を送るんだ……
「この机からはなんとも素晴らしい自然本来の木の香りが感じられる」
「……ナオ?」
ぺろぉー
俺の机を舐める。
陽菜が心配そうに声を掛けてくるが関係なぁい。俺は俺の机を舐め続ける。
「味も申し分ない。この無駄のない丁寧に洗礼された机はまさに鈴木高校と言ったところか」
「頭、大丈夫?」
入学式が終わり教室に戻った俺は担任の先生が来るまで悲しみを癒すために机を舐めている。
周りはちらほらと知らない奴らが声を掛け合い友達を作ろうとしていた。
目立たずひっそりと生きたいと思っているめんどうさがりな俺。
しかしぼっちになりたいわけではない。むしろ逆だ。
気を許しあえる友達は多い方が良いと思っている。
つまり目立ちたくはないが友達はたくさんほしい天邪鬼なのだ。
だが現在、俺は他のクラスメイトに少し距離をとられて孤立している感じがする。
「きっとあの新入生代表挨拶せいで俺の事をすげぇ奴だと思ってみんな遠慮して誰も俺に声を掛けてくれないんだろうなぁ」
「いや、それは違うと思う。今のナオがすごく気持ち悪くて声を掛けづらいだけよ。とにかく机舐めるのやめなさい」
「それもそうだな。入学初日にブツブツ言いながら机舐めてる奴なんて声かけたくねーよな。べろぉー」
「分かってるならやめぃ!」
まぁこのまま終わったことで落ち込んでいても仕方がない。
気を取り直して前に進もう。今ならいくらでもやり直せるさ。
「陽菜っちは夏野君と知り合いなの?」
女の子が陽菜にしゃべり掛けて来た。陽菜は笑顔でそれに応える。
「まぁ、小学生の時からの腐れ縁って感じかな」
「へー!じゃあさ、実は二人は付き合ってたりする?」
ここで陽菜がYESと答えるとは思えないが念のために俺が即答してNOだと答えなければいけない。
陽菜は間違いなくクラスのヒエラルキーの頂点に立つ存在になるだろう。
そんな奴の恋人だと思われたら色々面倒事とかに巻き込まれそうで嫌だ。
紳士の心で陽菜を傷つけないようやんわりと否定するのだ。
「付き合ってないがセフレにならしてやってもいいと思ってる」
「うわぁ……」
その女の子はゴミを見るかのような目で見てきた。
何でそんな目で見るんだ?女心は分からんなぁ。
「そのー……ナオはーそう、ちょっとコミュ障の所があるからパニックになって適当に答えちゃったんだよ」
陽菜が慌ててフォローを入れたがこの俺がコミュ障だと?はは、面白い冗談だ。」
「はは……えーと……二人とも仲が良いのは分かったよ。そ、それじゃあ邪魔者はこれにて退散!」
女の子は元いた自分の席に戻って他の女の子と雑談を始めた。
◇◇◇◇◇
がらがらがら
しばらくすると教室のドアが開きスーツをビシッと決めた長髪の男が入ってきた。
年齢は20代後半から30代前半くらいだろう。
ビジュアル的には俺には遠く及ばないがまぁまぁイケメンの部類だ。俺には遠く及ばないが。
長髪のせいかチャライ感じがする。
暴走族の頭とかビジュアル系バンドやってましたーって言われたら簡単に信じてしまう身なりだ。
「よぅよぅ!お前らおはよう!入学式で説明があったと思うが俺の名前は一瀬拓海。今日からお前らの担任だ。よろしくぅ!」
あーやっぱり見た目どおりチャライ奴だな。
ここ偏差値高い進学校だろ?ちょっと場違いじゃないか?
一瀬先生はそのまま学校の事がこれからの事についての説明を陽気にし始める。
最低限の説明を頭に入れて俺はいつもの様に上の空。ああ、空キレイ……。
「以上!じゃあ何か俺に聞きたい事はあるか?学校の事でもプライベートの事でも何でも答えよう」
説明は終わったらしく、質問タイムになる。
どうやらああいったチャラくて陽気にハキハキ喋るDQN系教師は女子生徒には好評のようでちらほらと質問をする為に手が挙がっている。
はーやだやだ。
清く正しく真面目に生きている俺がモテないのに何であんなDQNが女の子にちやほやされるんだろうか?
次は気合入れてオラオラァッ!って言いながら机を舐めてみるか?
「一瀬せんせーって彼女とかいるのですかー?」
「彼女?ははっ!俺の教え子はみんな俺の彼女だ!なーんちゃって!」
……チッ
「まぁ、彼女はいないが教え子に手を出すつもりはないぞ?捕まりたくないからな!で、他に質問は?」
その後、いくつかの質問があったが特に面白そうなこともないと判断し、聞き流す。
「それじゃあ、今日はこれで解散な。明日もきっちりこいよ!」
予定通りの時間に終わり今日のスケジュールは終わった。
さて、ここからだ。ここで真っ直ぐ帰宅するほど愚かではない。今が友達を作るチャンスなのだ!
陽菜は既にグループの中で話をしているから邪魔をしてくることはないだろう。
じゃあ誰に声を掛けてみる?
ここは定石通り席の前後左右に座っている話しやすそうな奴から声を掛けてみよう。
まずは右に座っているゲームや漫画が好きそうな見た目をしている君に決めた!
……あれ?初対面の人相手にどうやって声を掛けたらいいんだ?
分からん……分からんが出来るだけ丁寧に声を掛けてみよう。
「やぁやぁ、我こそは夏野家の長男坊、夏野なお――」
「よぅ、夏野」
「あ?」
せっかく気合入れて自己紹介をしようとしていたのに、横槍を入れられてしまった。
まぁいい、邪魔はされてしまったが声を掛けられたんだ。そっち優先でいこう。
「それがしと朋輩になりたいでござるか?」
「え~っと何言ってるんだ?」
「……」
振り返ると一瀬先生だった。何で早速先生に絡まれるんだよ?
「夏野の中学生活については話を聞いてるぞ?なかなか面白い問題児だったそうだな」
「どこでそんなデタラメなことを聞いたか知りませんが、私は成績優良で素行不良なしの優等生ですよ?」
「そうか?親父がよくお前のこと話してたぞ?」
「親父ですか?」
「俺の名前は一瀬拓海。夏野が中学で3年間世話になった担任の先生の苗字は?」
あの先生の名前何て言うんだっけ?
俺の物語であの先生の名前なんて一切出てなかったような気がする。
「忘れました」
「……まじかよ。3年間担任だった先生の名前くらい覚えて置けよ。俺はお前の担任をしていた先生の息子だよ」
「……」
あー良くないぞこれ。
俺の中学の頃の話が色々伝わってたらとてもにめんどくさい。
「俺の親父が世話になったなぁ、夏野」
「……一瀬先生のお父さんには大変気苦労をかけてしまったのではないかと反省しています」
「あー、いいんだよそんな堅苦しいの。ただ全くの赤の他人って訳じゃないって事だから声を掛けようかなと思っただけだ。これから仲良くしようぜ!」
めんどくさい先生かなぁっと思っていたが話しやすそうな先生だ。
じゃあせっかくだ。さっきから疑問に思ってたことを聞いてみよう。
「一瀬先生、話が変わりますが一つ質問よろしいでしょうか?」
「おう、なんだ?」
「新入生代表挨拶の件ですが、私が指名されたのは一瀬先生が?」
「俺は何にもしてないぞ。単純に入試の総合点数が一番高かったから夏野になっただけだ」
「それは考えにくいのですが。私はそこまで高い点数を取ってはいないはずです。自己採点をしても平均80点くらいでもっと高い点数を獲得してる人はいると思うのですが」
ざわざわ
俺と一瀬先生との会話を盗み聞きしていた――っというよりその場にいたクラスメイトのほとんどが俺の言葉に驚いた表情をしてざわざわしている。
そこまで驚かれる点数でもないはずだが……。
全国模試でいつも1位のくせに平均80点しか取れなかったんだ、ダセーっという驚きなのだろうか?
「いや、総合点数では夏野が1位だぞ」
「そんなはずは――」
「えーっと、ここに結果あるからちょい待ってな。えー国語84点、数学78点、英語80点、理科81点、社会77点で総合400点の平均80点、それが夏野の成績だ。」
うわぁ、調整失敗して綺麗に総合400点になってる。
「でな、まぁ内申点とか色々な要素はあるが入試では総合で100点ほどに取れていたら大体合格だ」
「総合100点!?1科目平均20点で合格ラインなんですか!?」
何が偏差値70超えの進学校だよ!?汚物は消毒だっー!みたいな世紀末高校じゃねーか!!
一応、自分でもネットで検索かけて調べてはみたがここまで情報と違うとは……。
「今年は夏野と同じくらい点数をとった化け物がちらほらいるが、他の普通の受験生に比べたらぶっちぎりで1位だな」
「そうですか」
明日からモヒカンにしてこようかな。 肩パッドも買っておこう。
「国語の論文問題なんて司法試験の過去問から引っ張ってきてるんだぜ?あんな意地悪な問題、普通まともに解けねーよ」
「へぇー……えっ!?」




