136話
「えへへ~楽しいです~」
ただ歩いているだけなのに、スラはとても楽しそうにしている。
まぁ、無理もない。だってここは秋葉原。ある意味では機械女神の聖地だ。
スライムの時に秋葉原は何度も連れてきてやってるが、バックに入れたり犬用の持ち運びケージに入れてたりして持ってきてる。
だからスラ自身が秋原場を自由に動いて観光するのは今日が初めてだ。
ついでに陽菜もついてきている。
「……はぁ」
「陽菜、そう落ち込むなよ?」
「だってぇ……焼き鳥パーティー誘ってくれなかったぁー……私だって行きたかったぁー……」
昨日の焼き鳥パーティーに誘われなかったことにすごく落ち込んでいる。
いつもならスラが陽菜を仲間外れにするなんてことはまずない。
だから誘わなかったのは、数日前に陽菜に騙されてバックに詰められた件を引きづっての報復措置だと思った。
だけど今回は『特別でやむをえない事情』で陽菜を誘えなかったらしい。
その事情は最後まで口を割らなかったがな。
「それにしても、やっぱりスラと陽菜と一緒に外で行動するのは嫌だな。片方連れていくだけでも目立つのに、両方はきつすぎる」
周りの人間からの視線がきつい。
お前ら、普段から二次元にしか興味ないとか掲示板で言ってるじゃないか。
なら自分の道を貫き通せよ、こっち見んな。
「スラと陽菜を見るだけなら好きにすれば良い。だけど俺をそんなに嫉妬している顔で見ないでくれ」
「ナオが見られているのは、そんな顔してるからじゃない?」
陽菜はスマホでパシャッと俺の顔を撮って見せてくる。
強姦殺人の指名手配犯みたいな顔が写っていた。
「誰だこの指名手配犯?今日のニュースは見たんだけど見覚えないなぁ。うわー……これ完全に目がいってますわ。キチガイの顔ですわ。とにかく陽菜も気をつけろよ?で、俺の顔はどんな顔してるんだ?」
俺はスマホで『ジャニーズジュニア』で画像検索。出てきた画像を陽菜に見せる。
「どうせこんな感じだろう?まぁ、実際は俺の方がワンランク上だけどな」
「写真で見せても分からないだったら鏡アプリ使おうか?」
「……なんでそんなひどい事するの?」
「分かってるんだったら、その顔やめい」
「仕方ないだろう?あいつらがチラチラ見てくるんだから、外向けにある程度かっこいいは顔作らないといけないだろう?……やめよ?鏡アプリ起動するのやめよ?分かったから、本当に分かったら!」
陽菜がスマホをこっちに向けてくる。
俺は慌てて風俗店のパネルの写真のように手で顔を覆い隠した。
◇◇◇◇◇
「メイド喫茶のラブリー超メイドです~!よろしくお願いします~!」
「うにゅ?」
メイド喫茶の客引きメイドがスラにチラシを渡す。
スラはチラシを受け取ると、いつものあざといポーズをとってメイドに返事をした。
「機械女神のスラちゃんです!こちらこそよろしくお願いします!」
何を勘違いしたのか知らないが、スラは自己紹介し始めた。
はっはっはっ、いきなりあざといポーズして自己紹介なんかしたら、メイドさんもさぞかしドン引きだろう。
スラよ、精々社会の冷たさを学ぶがいい。
でも機械女神って名乗るのはやめよ?それ、知られたらかなりやばい情報だから。
「キャーなにこの子、すごい可愛い!」
メイドさんがスラの頭を撫でると、スラはドヤ顔になった。
「んふ~!メイドさんも可愛いです!」
「え~?スラちゃんの方がもっと可愛いよ~!」
……おかしい。
吉野家の殺伐とした空間が出来上がると思ったのに、すごく和気あいあいとしてる。
分析した結果、あのメイドさんがプロだからこんな和気あいあいとした空気を作り出せるのだろうと結論を出す。
だったら俺もそれに乗っかって、ちょっと良い思いをしようじゃないか。
それに、そのプロの力を学んで、ぜひとも俺の友達作りにも役立てたい。
俺はメイドさんに近づく。
――――同調、開始!
「なお君です!よろしくお願いします!」
「……すぅー」
あれー?おかしいなぁ?
完全に頭のおかしい奴認定されてる。だって目が笑ってないもん。表情引きつってるもん。吉野家に強盗が入ってビビってる店員みたいになってるもん。
どこで失敗した!?完全にスラと同じ事ができたはずなのに!!




