133話
俺は玄関に入るとすぐに用意していたビニール袋を開いて、空中でファッサ、ファッサする。
「ヤーレン、ソーラン!ソーラン!ソーラン!ソーラン!ソーラン! ハイ!ハイ!声を嗄れよと、唄声上げて~――…… 」
しっかり括って空気でパンパンになったビニール袋の出来上がりだ。
その行動に対して赤神ちゃんが冷たい目で少し首をかしげながら言う。
「何してんだ?」
「ああ、俺自身へのお土産です。女の子の家に初めて入りましたからね。持ち帰って後ですーはーすーはーするんですよ。ほら、あれですよ。高校球児だって甲子園の土、持って帰りますよね?それと一緒です」
「一緒じゃねーよ!がんばって努力して甲子園に出た奴らと一緒にしてんじゃねーよ!そしてまさかお前を家に入れてたった数秒で戦慄させられるとは思わなかったよ!お前天才だなぁ!?」
「だろ?」
やはり褒められるのは悪い気がしないな。
うねうねうね
赤神ちゃんとのやり取りで気づくのが遅れたが、すぐ近くでミニスラちゃん5号がいつものお帰りの舞で出迎えていた。
スラがミニスラちゃんを片手に乗せて、スラと同じ目線の高さまで持ち上げる。
「数日ぶりです!研修の調子はどうですか?」
ぴょん!
ミニスラちゃんは1回軽く手の上で跳ねた。
「ふむふむ、そうですね!でもボクはフルアーマーガンダムも大好きですよ?あのジャズはなかなかセンスがあると思います!」
んんっ!?
俺はその様子を目で追いながら居間に向かって歩こうとしたが足を止める。
つっこまずにはいられなかったのだ。
「ミニスラちゃんがテレパシーで返事してるのは分かるんだが、話の流れおかしくね!?1回軽く跳ねただけで何で研修の話からガンダムの話になってるんだ!?ニュータイプかよ!?」
「数日ぶりの会話だったので通信量が多くなっちゃいました!ですが、どんなに頑張っても刻を見ることはできません!」
「……へぇー」
こいつらのテレパシー通信の凄さに思わず感心する。
一瞬でそこまで情報共有出来るんだったら戦争時代に他の神々をフルボッコに出来るわけだ。
……まぁ、今となってはそのテレパシー通信の能力はガンダムの話みたいなどうでもよさそうな事にしか使われてないが……。
何故あいつらはそこまでの能力の高さがあるのにも関わらず、その力を有効活用しようとしないのか?
もっとエロい事に使えよ、エロい事に。
「おい、夏野のオールドタイプの方。そのクーラーボックスは何なんだ?変な物持ち込まれてないか気になって仕方がないんだが」
「ああ、これですか?普通に先生へのお土産ですよ?俺が先生の家に行っても部屋に入れてくれないかもしれないと思いまして。その対策として餌で釣ろうと用意してたのですが……先生がチョロすぎたんで使うまでもありませんでしたね!HA!HA!HA!」
「……」
赤神ちゃんは楽しくガンダムの話をしているスラからミニスラちゃんを奪い、そのままミニスラちゃんを強く握りしめてーー……
ぱーん!!
握力に耐えられなくなったミニスラちゃんは無残にも弾け散った。
「……ちょっと私の弱み握ったからってあまり調子に乗るなよ?お前もこうなるぞ?」
「何するんですか赤神ちゃん!ミニスラちゃんいじめよくない!」
スラは慌ててミニスラちゃんの欠片をかき集めてまとめると数秒の内に元通りになった。
「ふむふむ、そうですよね!びっくりしましたよね!こうなったらたくさんやきとり食べて復讐しましょう!赤神ちゃんの取り分を少なくするのです!」
スラはミニスラちゃんをまた片手に乗せて、エイエイオーと言いながら居間へ向かう。
「いや、関係ないのにいきなり弾け散らされたんだから、もうちょい怒ってもいいんだぞ!?」
「赤神ちゃんはなお君とおしゃべり出来てとても嬉しくて興奮してるのです!だからボクたちはこのくらい甘んじてーー……」
がしっ!
赤神ちゃんはスラをアイアンクロー。眉間にシワを寄せながらぐいっと顔を近づける。
「はっ、面白い事言うなぁ。最新の部品使ってるくせにお前の思考回路どうなってるんだ?ぱーんさせて調べてやろうか?」
「な、なお君ヘルプ!!」
美少女状態のスラが弾け散る姿を、焼き鳥パーティ前に見るのはとてもよろしくない。
俺は最悪の事態を想定して、事が終わるまで静かに目を閉じていた。




