132話
こんこんこん
赤神ちゃんの部屋の前まで案内された俺はドアをノックする。インターホンはついていなかった。
少し待つと奥から足音が聞こえてきた。
ガチャ
「……またセールスですかぁー?おかーさん出かけてるから今、私だけなの……」
「えっ?」
「……あ゛ぁ?」
ドアが開くと赤神ちゃんが出てきたが、赤神ちゃんだと気づくのに数秒かかってしまった。
学校ではいつもビシッとスーツで決めてきっちりサイドテールで整えているあの赤神ちゃんが、今は小学生が着るような部屋着を着ていて髪はボサボサで何もしばっていない状態だ。
しかも普段の赤神ちゃんなら絶対言わないような事を言い、上目遣いでちょっと困ったような表情までしてたんだから一瞬で気づくなんて不可能だ。
てっきり赤神ちゃんの妹、もしくは親戚かと思ってが、この子が豚を見るような目で見てきた瞬間に赤神ちゃん本人だと認識できた。
おっといけない。コミュニケーションの基本は会話のキャッチボール。キャッチしたボールは投げ返さないといけない。
「そうなんだ~!よしよし。一人でお留守番できて偉いね~!ママがいなくても寂しくない?メルアド交換する?あ・か・が・み・先・生~?」
赤神ちゃんの頭をなでなでする。
「なっ!?……あっ……ぐっ……!!」
赤神ちゃんは声にならない声をだし悔しさで体をプルプルさせながら涙目になっている。俺は頭をフル回転させて今の出来事を決して永遠に忘れないようにmyソウルメモリに保存した。
赤神ちゃんは俺に指を指しながら大声を出す。
「こ、これが一番セールス野郎が大人しく帰るんだよ!!てか、何でお前がここにいるんだよ!?」
「ボクが案内しました!やきとりごちそうになります!」
「なんでお前もいるんだよ!?」
おや、俺はともかくスラが来ることも知らなかったのか。
「ミニスラちゃんに誘われて……ああ、ミニスラちゃんってのはな――……」
赤神ちゃんは機械女神やスラの正体についてはどこまで知ってる設定か分からないが、迂闊に俺の方から情報を口を滑らすのも良くないな。
そこら辺はあまり俺の方から言わないでおこう。
「ちっ……。だからあいつあんな馬鹿みたいに作ってたのか。来るんだったら事前に私に言っておけよ」
スラは何だか勝ち誇ったように赤神ちゃんに答える。
「きっと事前に伝えると赤神ちゃんが嫌がってなお君が参加できなくなる可能性があったので黙ってたんだと思います!ミニスラちゃんすごい!」
GJミニスラちゃん5号マジすごいぜ!心の中でガッツポーズゥー!
「すごくもなんもねぇーよ!……あぁー……糞が……糞が」
赤神ちゃんは自身の犯した過ちに悶絶している。今日は赤神ちゃんの見たことない表情を見ることができてとても良かった。
さてさて、このまま悶絶し続ける様を観察し続けるのも悪くないが大分腹も減ってきた。そろそろ中に入れてもらおう。
「ま、良くあるミスだと思います。気にしないでください。お邪魔しますー」
「なに自然に入ってこようとしてるんだてめぇ?部屋に入れる訳ないだろう?」
「スラ、どうやらこのアパートはペット禁止らしい。だから悪いな。焼き鳥パーティーが終わるまで外で待っててくれ」
焼き鳥パーティーで幸せ状態になってるスラに突然の『外で待て』命令が下り、焦りの表情になる。
「そ……そんなっ……!で、でもでもミニスラちゃん5号は既に何日も部屋にいます!今さらペットの1匹や6匹、部屋に入ったところで大家さんに怒られるのは変わりません!」
……んん?6匹!?6匹って何ですぞ??まさか――……
「だーかーらー入れないのは夏野の性犯罪予備軍の方、てめーだよ!」
赤神ちゃんはビシッと俺の方に向け指を差す。
ふぅ、まだ予備軍止まりで良かった。やれやれだぜ。
さて、ここで決めてしまおう。
「……分かりました。すごく楽しみにしてたのですが……赤神先生がそこまで嫌がるならこのまま帰ります。ほれ、スラ。クーラーボックス」
担いでいたクーラーボックスを渡す。スラは受け取りながら無言で赤神ちゃんの方を見ていた。
「それでは、また学校で……」
軽く会釈をして立ち去ろうとする。するとガシっと赤神ちゃんに腕を掴まれた。
「……ちっ。待てよ、今さら返せる訳ないだろ。……ちゃんと大人しくするって約束するなら入れてやる」
「よっしゃーっ!!やっぱ小学生はちょろいぜ!!お邪魔しまーす!!」
「あ?」
この後、部屋に入るのにさらに数分間の交渉が続いた。




