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14話 モブキャラに徹したかった入学式

 教室に荷物を置いた後、入学式を行うため体育館へ。

 指定されたイスに座りいつものようにアホ面でぼけーっとする。


 「アァー……」


 あまりにも退屈すぎてゾンビのうめき声みたいな声を出してしまう。

 隣に座っている男が化け物を見るかのような目で見てくるが気にしない。

 何か面白いものがないかと周囲を見渡してみる。

 流石に偏差値70超えてる進学校。周りの生徒の顔つきも違う気がする。

 何だかキリッ!っとした顔だ。俺を除いて。

 

 俺は鈴木高校に推薦で受けて特待生で合格。

 推薦入試では軽い面接と小論文で終わったのだが、推薦合格者の学力を確かめるということで一般入試と同じ日に同じ試験を受ける必要があると説明を受けた。

 この入試の結果が酷くても合格は取り消されることはないとのことだが、あまりに結果が酷いと学費免除の割合が変わってしまうらしい。

 (推薦入学合格時は100%学費免除だが結果次第では最悪50%学費免除になってしまうとのこと)

 

 俺はとても親孝行ができる人間だと自負している。

 しかもただえさえ人間一人分の食費がかかるスライムを俺のせいで飼ってしまったんだ。100%学費の免除はしっかり勝ち取らなければ。

 そう思ってはいたのだが……結局、怠け者俺は入試対策はおろか入試前日もスラと一緒に漫画を一気読みしてしまったせいで徹夜した状態で一般入試を受けたのだ。


 寝不足だったせいでどんな問題だったかほとんど覚えていない。

 覚えている事は入試対策をしっかりとした本気の状態で挑んでも満点を取ることができないと思うくらいどの科目もすごく難しいテストだったと言う事くらいだ。

 

 そして入試を受ける上である問題を抱えていた。

 それは高得点を取りすぎて目立つことだ。

 特待生だけでも目立つ存在なのにこんな難しいテストを全科目満点取ってしまうと更に目立った存在になってしまう。

 もし仮に1位になってしまったら新入生代表として挨拶だってしないといけないかもしれない。

 そんなめんどくさいことするくらいなら入学初日に退学してやる。

 そんな公開処刑食らうくらいなら入学初日に退学してやる。


 そんな訳で全科目を80点±5点に設定し平均80点くらいになるように調整した。

 しかもご丁寧に配点も書かれていたので調整しやすかった。

 もちろん、手を抜いたことがバレないように"全ての解答欄を埋めて、所々間違えた解答もして自然な結果になるよう工作した。

 平均80あれば学費免除の割合もそこまで減らされることはないだろうし、これより良い成績をとる奴はいくらでもいるだろう。

 そう思い1科目20分くらいで解答を終わらせ残りの時間を睡眠時間に割り振った。

 結果として100%学費免除を維持し、今もこうやってモブキャラの一人として入学式に目立つことなく出ている。

 めんどくさいことが起きなくてなによりだ。


 「以上を持ちまして、挨拶とします」

 

 気が付いた時には校長の挨拶が終わっていた。

 まぁいいや、このまま生ける屍のようにぼけーっとしておこう。

 

 「アァー……」


 「……」


 隣に座っている男は眉間に皺を寄せながら見てきている。気にしない、気にしない。

 

 「続きまして、新入生代表挨拶です」

 

 俺と違う光の世界に生きる住人なんて全く興味ねぇ。早く終わらないだろうか。

 ……いや待てよ。顔と名前だけは確認しておこうか。


 新入生代表なんてどうせ勉強もできるリア充みたいな奴が選ばれるだろ?

 でな、そう言う奴がクラスのリーダーになって周りの人間にちやほやされながら学校生活をハッピーに送るんだろ?

 クラスを巻き込んで何かをやりとげたいっとか言っちゃう意識高い系なんだろ?

 つまり、それは俺の敵となる存在。間違って近づかないように今のうちにそいつを覚えておこう。


 「それでは新入生代表"夏野直人"さん、お願いします」


 ほう、まさか同姓同名が新入生代表だとは!

 嫌だなー新入生代表と同姓同名とか最悪じゃねーか!

 光の夏野直人と闇の夏野直人みたいな感じで区別されそうだ。嫌だなー。

 

 ……

 

 「なぁ、夏野ってお前のことじゃないのか?」


 隣に座ってる男からひそひそと声をかけられる。

 

 「別人だろ。入学式の間ずっとゾンビのようなうめき声出してる奴が新入生代表とかお前、嫌だろ?」


 「いやぁ、確かに嫌だけど……。てか自分で分かってんのかよ」


 「夏野直人さん。お願いします」

 

催促するかのように再びアナウンスが流れる。

 

 ……まじかよ、やっぱ俺の事かよ。 

 

 新入生代表挨拶ってあれだろ?

 事前に指名されて打ち合わせして対価もなしに重苦しい挨拶するボランティアだろ?

 俺そんなことやるって何も聞かされてないんだけど?

 一体どうしてこんな事になったんだ?

 母さんには連絡が入っていたが、俺に伝えるのを忘れたのか?

 いや、抜けた所もあるが、母さんがそんなミスをするわけないか。

 

 って事はもしかして俺が母さんの話をちゃんと聞いてなかったのか?

 いやいや、スラの話はともかく俺が母さんの話を適当に聞く訳ないじゃないか! 

 原因が分からないがこのまま無視し続ける訳にもいかないか。仕方ない。


 すっと席から立ち壇上に向かう。

 この場で、『俺何にも聞いてないし!挨拶なんてしねぇし!』なんて駄々をこねるとそれこそ目立ってしまう。

 めんどくせぇ、めんどくせぇ。 


 「へ~。あいつが夏野か」


 「夏野ってあれでしょ?全国模試毎回1位の……」


 「まじかよ、そんなすげー奴かよ。新入生代表も当然だわな」 


 ヒソヒソと周りから声が聞こえる。


 まじかよ、俺毎回全国模試1位だったのかよ。

 模試の結果なんて確認もせずにそのままシュレッター行きだったから今初めて知ったぞ。

 おい、もっと俺を褒めろ称えろ。

 目立つのは嫌だがこうやって崇め奉るんだったら悪い気がしないでもない。  さぁさぁ、褒めろ褒めろ!


 「でもなんか天才って感じじゃないよな?」


 「なんか、ただのオタクみたいな雰囲気するよね~。猫背で変な顔してるし」 


 「頭が良い奴ほどどっかおかしいんだろ?あんまり近づきたくないな」

 

 周りがどう俺の事を思っていようが気にするな。所詮戯言だ。


 すたすたと歩いて壇上に到着。

 目の前にいる中世の指導者みたいな変な格好したじいさんにお辞儀をする。


 問題はここからだ。

 普段は使わないようなすごく堅苦しい言葉をぺらぺら喋らないといけないのだろう。

 それを準備なし台本なしのぶっつけ本番。こんな多くの人間に見られている状態でミスをして笑われるような事があったら惨めな学校生活を送ることになるかもしれない。


 落ち着けぇ、落ち着けぇ……。

 そうだ、どうせここにいる大半の奴は話を聞いているふりをしているだけで、実際には殆ど話しなんて聞いてない。

 俺と同じように入学式なんて早く終われと思っているはず。

 一部の俺の事を既に知ってる奴以外は誰も今の俺に関心はないだろう。

 当たり障りない言葉を並べとけば良いだけだ。


 「若葉の緑が目にも鮮やかに感じられるこの春、私たちは期待に胸を高めながら鈴木高校の門をくぐりました。今日、この素晴らしい日を迎えることが出来ましたのは家族や先生方など数多くの周りの方々が支えてくださったおかげだと私は思います。また――……」

 

 テンプレ中のテンプレみたいな文章を即席で頭で考えてつらつらと喋る。

 2分くらいにまとめてぱぱっと終わらせよう。

 

 「――新入生代表 夏野直人」


 お辞儀をしてスタスタとそのまま席を戻る。

 

 特に問題なく挨拶を終わらせることができた。

 日本語がおかしい所があるかもしれないがここにいる人間の90%以上はまともに聞いちゃいないから問題ない。

 

 しゃあああああ!!乗り切ったあああああああ!!ざまあみろ!!涼しい顔をしながら心の中で雄たけびをあげてガッツポーズぅ!!

 代表挨拶で俺の名前が晒されて目立ってしまったが傷は最小限に抑えることができたはず!


 さて、やることやったしモブキャラに戻ろう。


 「アァー……」


 「……」


 隣の男がまたまた眉間に皺を寄せて見てくる。おいおい、いい加減慣れろよ?お前の隣座ってるのはただの変人だ。


 「私は入学してきた君達のことをとても優秀だと思っている」


 校長みたいな人が喋る。

 あれ?さっき挨拶してなかったけ?なんでまた挨拶みたいな事してるんだ?誰もアンコールなんてしてねぇぞ?

 まぁどうでもいいやー。


 「ただ、鈴木高校では優秀というのは何もペーパーテストの成績が良いことだけではないと思っている」


 へー。そうだね、プロテインだね。


 「だが、残念なことに現在の学力社会においては紙にお上手に問題を解いたらそれだけで優秀だと判断してしまう」


 お上手に……?随分と皮肉ってますな。


 「しかし鈴木高校ではペーパーテストの成績だけではなくあらゆる角度から生徒を捉え育て上げていくつもりです。……先ほど新入生代表として挨拶を行った夏野君を例に挙げてみましょう」

 

 あ?

 あのあのあの、そういうのいいので遠慮しときますので!

 さっき心の中で変な格好したおっさんと思ってたの見透かしたの?もしかして顔に出ちゃってた!?ごめんね!ごめんね!謝るから!これ以上俺のことを話題に出すのはやめて!


 「実は夏野君には、新入生代表として挨拶をして欲しいということは事前に伝えていませんでした」


 周りがざわつく。俺の心臓がバクバクする。

 

 「恐らく新入生代表の挨拶として突然指名されたことにより彼も驚いていたでしょう。新入生代表の挨拶というものは事前に何を言うかを紙に書いて準備するものであり、ミスがでないよう必要であれば事前に練習も行います」


 まじで……やめて……。

 下に俯いて目を合わせないようにしているが、周りの奴がジロジロと見てきて注目の的になってるのははっきりと分かる。


 「ですが彼はそういった事前準備も一切なく代表として相応しい挨拶をやりとげ、そして誰も疑問にも思わなかったでしょう。君たちもペーパーテストでは測れない機転の利いた総合力の高い優秀な人間になってもらいたいし、我々鈴木高校ではそういった人間を育てていくつもりです」


 校長が挨拶を終わらせると自然と拍手がなった。 

 

 そう、俺はまんまと利用されたのだ。 


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