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129話

  作戦はすごく単純。俺が友達になれそうな奴に話しかけ、スラはバックの中から筆談でアドバイスを送る。それだけだ。

  だったらわざわざスライムにならなくてもスラと陽菜が俺の横でフォローすれば良いんじゃね?いやいや、それは5組で既に実験済み。グリコ現象が起きて失敗だった。グリコ現象とはメインのお菓子とおまけおもちゃの需要の逆転。つまり、俺がメインのお菓子なのにみんなおまけのおもちゃであるスラと陽菜にしか目がいかなかったのだ。結局、俺はみんながわいわいと賑わっている端っこで無言のグリコのポーズをとることだけしかできなかった。

  いかん、いまさら終わったことを振り返る必要はない。今の俺は過去の俺とは違うんだ。

  陽菜と別れてスラ入りバックを持って教室に入る。


  「頼むぞスラ、初動が大切なんだ。ここでせめて1人くらいメルアド交換はしておきたい」


  周りに怪しまれないよう小声で呟く。するとスラは体から自分のスマホとタッチペンを取り出してポチポチと文字を打った。


  「" (´・ω・`) じだいはLineだよ?"」


  「ライン?聞いたことはあるな……だけど悪いが今はそんな少数派しか使ってないものを使う気はない。今回は相手に合わせる事が重要なんだ。メルアドならほとんどの奴が持ってるし安心だ」


  「" (´・ω・`) Lineみんなやってるよ?"」


  「はっはっはっ。自分の周りがやってるからみんながやってるってのは視野が狭いなぁ。視野が狭いと情報弱者になっちゃうぞっ☆」  


  「" (´Д`。) "」


  うーむ、それにしてもさっきからスラのテンションがあまり良い状態じゃない。顔文字もなんか全体的にしょぼりの顔文字だし。テンションが低いスラなんてただのきなこがかかっていない大きいわらび餅だ。仕方ない、ここは餌で釣るか。


  「どうしたテンション上げてこい。どうだ、俺のフレンドリストに一人だけでも加われさせたら遊園地につれてってやるぞ」


  眉間にしわをよせて王子っぽく言う。

  しまった……そういやこのわらび餅、これでも機械女神だった。地球の文明よりはるかに高いテクノロジー持ってる相手に遊園地に連れて行っても大して喜ばれないんじゃね?ほら、サルが人間にバナナの剥き方を教えたとしても人間側からしたらそんなもん既に大昔から知ってる訳で……。 


  「" キタキタキタキタ━━━(゜∀゜≡(゜∀゜≡゜∀゜)≡゜∀゜)━━━━!! "」


  「ちょ!?スラ!?」


  よほど嬉しかったのかスラが突然の狂喜乱舞!バックが飛び跳ねてるって!ここでそれはやばいって!

  ま、まずい!1組に残っている全員の視線がこっちに向けられていようとしている。これはスラをバックごと抑えつけても間に合わないかもしれない。まずい!まずい!まずい!まずい!考えろ!考えろ!!


  俺はすぐにバックをシャツの中に入れると同時に大声を出す。


  「夏野直人!!皆様の友好の証としてここで一発芸いきます!!」


  完全に視線が集まっている。ここでミスは本当に命取りになる。絶対に成功させてみせる!


  「映画『エイリアン』でお馴染みのお腹からエイリアンの赤ちゃんが出てくるシーン行きます!!……オーシットッ!!ファック!!ファーーック!!WOW!WOW!WOW!WOW!」


  スラに合わせて大げさに体を振る!全ての視線よ、俺に集まれ!!


  「WOW!WOW!WOW!WOW!」

 

  今、周りがどう反応を示してるのか分からない。なんて言っても今の俺は腹からエイリアンが出ようとしてるのだ。周りに気を配る余裕なんてないのだ!


  ……


  …………


  しばらくするとスラも気づいたのかピタッと動きが止まった。それと同時に一発芸が終了する。


  「い……以上です!ご清聴ありがとうございました!」


  ……どうだ?セーフか?……それともアウトか?


  静寂が流れる。誰も何も行動を起こさない。

  やれる事はやった……。頼む!いつも通りのドン引きで終わってくれ!なんなら追加でグリコのポーズもしようか!?


  パチ……パチ……パチ


  「……えっ?えっ?」


  予想外の事に戸惑いを隠せない。辺りを見回す。

  何故ならば小さい、本当に小さいが一発芸に対してパラパラと拍手を送られている。拍手をしている人数多くはない。俺の事なんて眼中にないかのように自分の作業に戻る奴もいれば嫌悪感を顔に隠せてない奴もいる。だが、確かに拍手は鳴っているのだ。


  「ど……どうも、どうも……へへっ」


  何だかよく分からない感情が込み上げてくる。顔を向ける事ができない。足が震える。


  「夏野って本当に変な奴だよな。これからよろしくな」

 

  誰かがポンポンと肩を叩いて気さくそうに声を掛けてくる。顔を向けることができない。だけど、返事をしないと……!


  「えっ……いや、……その、……よろしく。じゃ、じゃあ、俺これから用事があるから……」


  「えっ?あ、ああ。また明日」


  「あ……うん。また明日」


  俺はバックの中にスラがいることも忘れて持ち物を乱暴にバックに放り込む。そして早足で教室を出てダッシュで校舎を出る。

  ついさっき起きたことを振り返ってみる。パニックになってるせいで冷静な判断はできないがあの時、拍手の鳴り始めは確かに廊下の方から聞こえた。それに合わせるように教室からも鳴り始めたのだ。一体誰が……拍手のきっかけを作ってくれたのは誰なんだ?



  その頃スラはバックの中でLineを使って陽菜にメッセージを送っていた。  


  「" (`・∀・´)ノどやぁ "」


  しばらく立たないうちに返事が来る。


  「"( -∇-)私がいなかったらちょっとやばかったくせに…… "」


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