127話
……うーん、今回の友達作り作戦はスラの協力が必要不可欠なんだがスラのテンションがいつもと違う。いつもは何もない時ですらコイキングみたいにピチピチ跳ねてるくらい馬鹿元気なスラが今はとても大人しい。
「" ( ゜д゜)ポカーン "」
スラはノートの切れ端にポカーンの顔文字を書いて掲げている。何でこんな状態になっているのか持ってきた陽菜に聞いてみよう。
「随分大人しい……いや、呆然としてるんだが何かあったのか?確かに陽菜に送ったメールには”放課後すぐにスライム状態のスラをバックにつめて1組に持ってきて”としか書いてないから事情は分からんと思うしスラも少しは戸惑うかもしれない。だけど、それにしても呆然としすぎだろ」
相変わらずスラはまるで黒みたいに微動だにしていない。
「えーっとね、スラを確実に持ってこれるようにトラップを使って捕獲したのよ。で、そのまま持ってきたから今のスラは全く状況を理解していない」
陽菜は指でスラをツンツンと優しく突っつくがスラは無反応。ポカーンの顔文字を掲げているだけだ。
ただ、今の俺はスラが何故こうなっているのかと言うよりもっと違う事に関心を示した。
「ほう、それは興味深い。こんなのでも女神の端くれだ。確実な捕獲方法があるならぜひ教えてくれ」
それはスラの確実な捕獲方法。もしもの時の為にスラを無理やり捕獲する手段は俺にもある。”逃げたらスラの晩飯のおかずがしばらく蛇、カエル、ネズミ、ミミズのゲテモノ48のヘビーローテーションになるぞ?そいつらと会いたくなかったら俺と握手!”と脅すだけで簡単に捕獲できるのだ。
だがこれも確実な方法ではない。脅す前に逃げられたら捕獲できないし、あまり脅しすぎると開き直られてネズミ料理を美味しく食べられてしまったこともある。飼い主としてはペットをコントロールする手段は多ければ多いほど良い。きっと陽菜は性格上、脅し以外の方法でスラを捕獲したはずだ。こうやっている間にもどんどん教室から人数が減ってきているが、それよりも今は陽菜がどう捕獲したのかが知りたい。
陽菜はふふ~んと少し自慢げに説明し始める。
「簡単よ。まずスラを人気のない所に連れ出して、”このバックの中にお菓子があるからあげる”って言うの。それでスラがバックの中のお菓子を探す」
「それで?」
「見つからないですと言ってきょとんとしているスラに”確かにお菓子は入ってるからスライム状態になってバックの中をよく探したら?”って答えるの。で、スラがバックの中に入ったところでファスナーを閉めたら捕獲完了よ」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
……
…………
「いやいやいや、やってることそこら辺の動物の捕獲方法と大して変わらねーじゃん!つまりあれか!?このポカーンの顔文字はお菓子が見つからずに陽菜に騙されたと気づいたショックって意味かよ!?てか、サルですらもっと上手く立ち回るぞおい!?」
「う……うん。でもこの方法で今まで失敗したことないから……」
しかも何度もひっかかってるんかい!?そんな何度もひっかかってたらスズメですら学習するぞ!?
おいおいおい……てかこんなのに夏野家の生活費のやりくりをまかせて大丈夫なんかよ。こんなのに騙されるようだったらそのうち俺の家は高級布団やら消火器やら謎の通信教材やらで溢れかえるぞ。
帰ったらとりあえず振り込め詐欺について徹底的に教育しよう。いや、教育しても被害に合いそうで不安だが……
「" ( ゜д゜)ポカーン "」
「……なぁ、陽菜」
「ん?」
「一つ疑問なんだが、わざわざこんなことしなくてもスライム状態になってバックに入って欲しいって伝えればよかっただけじゃね?俺の頼み事だったらスラは断らないだろう」
「……あー……うん。そうね……断るどころか喜んでやったでしょうね」
「じゃあ、何故?」
「……そのー。……もしスラに伝えたら"ふふ~ん、なお君はやっぱりボクを一番頼りにしているのだ!何だかんだ言ってスラちゃんがナンバーワンなのだ!"とかすごいドヤ顔で自慢してくるだろうから……なーんか癪に障るなーっと思って……」
「ああ、そんな感じの事言うだろうな」
「……ごめん」
陽菜はバツの悪そうにボソッと呟く。
「いやいや、陽菜は悪くないぞ。ようはスラの態度のせいでこうなったってことだ。俺からスラに後でよく言い聞かせておく」
「えっ?」
「" (;゜Д゜)エエー!? "」
顔文字が微妙に変わったような気がするが、気にしないようにした。




