124話
鈴木高校では進学校の割にはがんじがらめに授業で拘束されない。その代わりに授業の内容はとても濃くハイレベルらしいんだが、他の高校の授業がどのようなレベルかも知らないしそもそも赤神ちゃんの英語以外授業に耳を傾けた事がないからいまいち分からない。
だがこうやって特別に用意された生贄専用席、ほぼ教師と同じ目線から見れる授業中のこいつらの必死なノート取りにを見るにかなりレベルが高いのだろう。
何もすることが出来ずにただ目の前の光景をぼけーっと見る。社内ニートは仕事がないが何も出来ずに精神的に辛い、とよくネットで言われているがこんな感覚なんだろう。
「皆が一生懸命私の話を聞いてノートをとってるのに夏野君は何もしないので大丈夫ですか?皆頑張ってるのにねぇ」
学年主任うっきうきでワロタ。
どんなに難しい問題を出されても大体即答するから諦められてたのに、別のアプローチで攻撃してきやがったな。
ここで『ノートとか取らなくても授業について行くことはできますので(どやぁ~)』とか答えてしまうとアウト。1組の連中に対して印象が悪くなってしまう。
ならどうする?このまま黙って聞き流すか?いや、それはそれで良くはないだろう。ここは我慢して穏便にやり過ごそう。
「すいません。急に連れてこられたもんだから何も持ってきてないのです。とってきてもいいですか?」
「それでいつものように漫画とかゲーム三昧ですか?いやぁ~流石に入試1位、そして合宿では5組を優勝に導いた天才様は違いますなぁ~はっはっはっ!」
「教科書とノートと筆記用具だけしか持ってきません。それでよろしいでしょうか?」
「……ちっ。で、この公式を使って練習問題2番を解くのだがその解き方は――……」
学年主任から取りに行っても良いと言う許可の意味を含めた舌打ちを頂戴し、静かに席を立つ。
そしてドアをガラガラと開けて5組へ向かう。
重い足取りで5組に到着すると担任の一瀬先生が授業をしていた。
「お、20分でリタイアか?思ったより遅かったじゃないか。3分くらいでトイレに行ってきますとか言って逃げてくると思ったんだけどな。まぁ、後は俺の方から言っておくから座れよ」
「……いや、学習道具を取りに来ただけです。すぐ1組に戻ります」
「……嘘だろ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見てくる。
相手にしてあまり長居ると学年主任に嫌味を言われそうなのでここは軽く流してテキパキと荷物をまとめて1組に戻ろう。
あ、そうだ。戻る前に一度スラにミニスラちゃんが人質ならぬ神質になってる事だけは知らせておこう。
まぁ今回捕まった相手が赤神ちゃんなら問題なんて何もないとは思うんだが……。
ただそれを言ってしまうと、問題ないのにその問題の解決の為にこうやって俺が苦労する羽目になってるのはおかしな話なんだけどな。
「スラ、かもーん。授業の邪魔してすいませんでしたー。失礼しますー」
「うにゅ?もしかしてさっきの友達紹介の追加ご褒美ですか!」
教室を出ようとするとスラがいつものように嬉しそうにトコトコ後ろからついてくるのを確認して廊下へ。
◇◇◇◇◇
ざっくりと簡単にスラの頭でも分かるように今まで起こった事を話す。
「赤神ちゃんがミニスラちゃんの事をばらす……ですか」
話終わるとスラは何やら良く分かってなさそうにしながら首を傾げる。
「うむ、その反応でやっぱり大した問題はない事は分かった」
「うにゅ!?えー……えーっと……えーっと……そう、違います!これはすごい問題です!赤神ちゃんがもしミニスラちゃんの事をツイッターとかに書き込んだら大問題です!それはもう、機械女神全体の問題なのです!」
「ほう、でも『赤神ちゃんがミニスラちゃんの存在を世間にばらしたら赤神ちゃん自身の首をしめる事になるのになんでそんな事するのだろう?』みたいな感じで首を傾げてたじゃん。そりゃそうだよな。だって――……」
「違います!さっきのはですね、なお君が難しい事言ってたから分からなかっただけです!とにかくこれは大問題なのです!」
「そうか大問題か。そんなに大問題なら機械女神のトップの黒に連絡しなきゃな」
黒に連絡する為にスマホを取り出して自宅に電話を掛けようとする。母さんが出れば黒に代わってもらってもらえばいい。
黒に代わった所でスライムだから話せない(話さない?)だろうが、事情を説明するくらいは出来るだろう。
てな訳で電話帳から自宅を探そうとするといきなりスラが腕にしがみついて妨害して大そうに慌ている。
「だ、大丈夫です!黒様にはボクの方から言いますのでなお君は安心してください!」
「いやいや、大問題なんだろう?だったら俺が言った方がいろいろ確実だ」
「いえいえボクの方から説明させてください!じゃないと話が色々こじれてしまいます!」
「ミニスラちゃんが捕まった責任でスラが怒られるからスラが説明したいってなら分かるが、俺が話すと話がこじれるからスラが話す?一体何がこじれるんだ?ん?」
「うっ……そのっ……さっきの追加ご褒美はチャラにしていいので今回はボクが黒様に話すって事で……」
さっきから言ってる追加ご褒美って何やねん。そんなもんはなから無いんだが。
まぁ、確認したい事は済ませたからこのくらいにしておこう。思った以上に話し込んでしまったしな。
「分かった。じゃあ俺は俺にできる手段でミニスラちゃんを救出するからそっちの方はまかせた」
「了解です!でも、無理に救出しなくても大丈夫ですからね!暇な時にやるサブクエストくらいの感覚でお願いします!」
「へいへい」
これでミニスラちゃんの事は放っておいて赤神ちゃんの脅しを無視しても良い事になったが、白澤さんの頼み事はまだ残ってる状態だ。
そっちの方もサクッと終わらせてさっさと楽になろう。




