122話
休み時間が終わったと同時に赤神ちゃんに引きづられ1組の教壇の前に立たされる。
まさか本当にクラス変更させられるとは思わなかった。てか、いくら何でも行動が早すぎる。
「えー、入学して一カ月くらい経ったがそろそろ学校にも慣れてきて色々退屈してきただろ?新しい刺激が欲しいだろうと気を利かせてお前らにプレゼントだ。しばらく夏野を1組で授業を受けさせる事になった。おい生贄――……いや、夏野。ぼけーとしてないで自己紹介くらいしろ」
赤神ちゃんが急かすように肘で俺の横腹をぐりぐりしてくる。そして新しいおもちゃを見つけたかのようにニヤニヤとしている。おもちゃになる俺の方はたまったもんじゃない。
こっちはやっと友達も作れて自分の居場所を確保しつつあったのにこんな仕打ちはひどぎる。
「流石にいきなりのクラス変更は問題ありませんか?」
「問題ない」
「職権の乱用だと思いませんか?問題だと思いますよ?」
「問題ない」
「その身長でジェットコースターとか乗れるんですか?」
「問題な――……ぶっころすぞ?」
適当に答えてると思っていたが、意外と聞いていた。
「ほら、覚悟決めてさっさと挨拶しろって。授業できねーじゃねーか。それにずっとここに立ってるつもりか?目立つの嫌なんだろう?」
「……」
特に見たいものがなかったから視線をずっと赤神ちゃんのロリボディに固定していたが、ここで初めてクラス全体を見回してみる。するとかなりの奴らから注目を浴びていたのに気づく。とても居心地が悪い。
白澤さんのお願いならともかく、赤神ちゃんの悪ふざけに付き合うつもりなんてないから今すぐ逃げようと思っていたが、それだと悪目立ち過ぎてしまう。仕方がない、ここは1コマだけ授業を受けて次の休み時間にすぃーっとフェードアウトしよう。
「夏野直人です。赤神先生の計らいでこのような貴重な経験させてもらう事になりました。何かとご迷惑をお掛けするかもしれませんがどうかよろしくお願いします」
とてもシンプルで当たり障りのない挨拶を淡々とこなして、軽く頭を下げる。そして頭を上げてもう一度見回すと白澤さんが少し嬉しそうにしながら俺の方を見ていた。
何やら凄い期待されてそうだが、悪いな白澤さん。1時間後には俺はもういない。
「……面白くねーな。借りてきた猫みたいになってたら連れてきた意味ねーじゃん。……まぁ、いい。席はここな。喜べ、特等席だ」
「はい?」
赤神ちゃんがよいしょっと席を持って配置したのだが、その場所がおかしい。用意してくれた席は何故か教卓のすぐ隣に置かれてた。しかも、席の向きが逆。つまり、他の奴らと顔が向き合うよう対面に置かれていのだ。
「ばっ、場所おかしくありません!?それにほら、これじゃあ黒板見えないじゃないですか!まともに授業が受けれないですよ!」
「黒板見えようが見えまいがいつもまともに授業受けてねーだろ?漫画やゲームしかしてねーんだからどこに席があろうが大丈夫だろう」
赤神ちゃんの授業だけは真面目に受けていたが、どうやら他の授業の態度は筒抜けのようだ。当然と言えば当然か。
……まぁ、いい。どうせ少しだけの我慢だ。今は大人しく従っておこう。
「一応忠告しておくが、どうせ後で逃げるつもりなんだろ?」
「……逃げたらどうします?停学や退学くらいじゃ脅しにもならないことくらいは知ってますよね?」
赤神ちゃんは無言で何も答えない。その代わりにクスクスと笑いながら見下すような目で見てきた。
……はったりにしては何かとても嫌な予感がする。まるで全てを見透かされているような感覚だ。
静かに席に座ろうとすると、赤神ちゃんが俺の耳元で小さな声で言ってきた。
「私は知られたらいけない夏野の隠し事を知っている」
「……隠し事?俺の性癖がスク水黒二ーソだって言う事くらい5組の連中は皆知っている。まさかその程度で――……」
「これ、夏野のだろ?」
「……なっ!?」
赤神ちゃんがポケットからゴソゴソと取り出すとこっそりある物を見せてきた。それを見た瞬間、平然を装う事もできずに驚いてしまう。何故ならそれは……
「夏野、これは何だ?」
赤神ちゃんが手に掴んでいるのはミニスラちゃんだったからだ。




