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119話

  「でなー、天然成分配合のシャンプーがマジ美味そうだと思って一口舐めてみたんだよ。まぁとても人間の飲める物じゃなかったが、シャンプーが美味しそうだと思うのは人間だれしも一度はそう思うだろ?」


  「は……はは。僕はそう思ったことは一度もないな」


  「だよなぁ!?普通に考えてシャンプーが美味しそうには思えないよなぁ!?やっぱそうだよなぁ!!『ハーブ配合してるから美味しそう!』なんて思ってる奴の頭おかしいよなぁ!?」


  ちっ、また騙されてしまった。また俺が変人だって思われてしまったじゃねーか。

  いつものように俺の会話をこっそり盗み聞きしている陽菜は目線をそらした。俺を騙した罰だ。後で暇があったら精神的追撃をしておこう。


  「なお君と仲良くできそうな子を見つけてきました!」


  スラが教室に戻って来た。


  「どうせ一之瀬先生か赤神ちゃんだろ?知り合い呼んで手を抜くのは良くないぞ。例え難しくても新規開拓をして幅を広げるのが営業の仕事だ」


  「は、初めまして。夏野君ですよね……?」


  「……」


  スラに手を引かれてきたのは俺の予想とは全く異なる人物。ピンク色の長い髪をした美少女ははにかむような笑顔で俺の名前を呼んだ。


  「お、おい……スラちゃんがとんでもない子を連れてきたぞ」


  「ああ。こんな近くで本物を見るのは初めてだ」


  「か、可愛い。握手とかしてくれるかな」


  「スラちゃんGJ!マジGJ!マジ俺たちの女神!」


  教室にいた全員がその美少女を見てざわついている。

  そりゃそうだ。今、大人気のアイドルが目の前に現れたら誰だってびっくりする。あまりテレビを見ない俺ですら知っているほどの有名人だ。


  「1組の白澤かなえです」



  ◇◇◇◇◇



  「どやぁー」


  俺の要求通り100%の仕事ができたと思っているスラはいつものドヤ顔に加え、ついに声にまで出して褒めてほしいとアピールしている。

  だが、今はスラに構ってる余裕なんてない。すぐ目の前にガチのアイドルがいるのだ。


  「あ、あの。スラがとんだ粗相をして申し訳ありません」


  「うにゅ?」


  俺はスラの上着のポケットに手を突っ込んで財布を取り出して現金の全てを机に並べる。諭吉が何人かいるかと思ったらたった合計300円しかなかった。

  

  「うわ……スラの持ち合わせ、低すぎ!えーっと、すいません白澤さん。今持ち合わせがたったこれだけしかないのですがどうかこれで許してください」


  「なっ、なお君!それは困ります!それは今日のボクのおやつ代です!」


  スラがおろおろしながら腕を掴んでささやかな抵抗をしてきた。


  「うるせぇ、アイドルなんて1分刻みの忙しいスケジュールをこなしているんだ。そんな忙しい人間を用もなくこんな所に連れて来たスラが悪い」


  「あの、私も前から夏野君とお話ししてみたかったので大丈夫ですよ?」


  「陽菜ーー!!かもーん!!かもーん!!」


  「ちょ!?何故に私!?」


  遠巻きで様子を見ていた陽菜を無理矢理引っ張る。


  「正直言おう。俺は情けない事にものすごく緊張している。だから白澤さんの顔すら合わせることができずにさっきからおっぱいにしか目が行かない」


  「いつもの事じゃない?」

  

  「ちげぇよ、いつもは見たいから見ているだ。だが今回は違う。顔を合わせる事ができないから目線がたまたまおっぱいに行ってしまうだけだ。見るつもりもないのにおっぱいを見続けるのはおっぱいに失礼だ。だから俺と代わってくれ」


  「おっぱいに失礼と言うより白澤さんにものすごい失礼なんだけど……。てか、白澤さんはナオと話してみたいって言ってるんだから私に頼らないで頑張りなさいよ」


  「おいおい、そんなのリップサービスに決まってるんだろ。内心『あーだりーわー』くらいしか思ってねぇよ。だから当たり障りないよう陽菜が適当に応対して帰ってもらうのが一番問題なく平和に終わるんだよ」


  「は……はぁ。えーと白澤さん。ナオはどういう人間かってのは今ので少し分かったよね?」


  「は、はい。スラちゃんから聞いていた通り、ブレない人なんだって事が分かりました!」


  

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