118話
「でねー昨日食べたケーキが美味しくてさー」
「へぇ、今度私も連れて行ってよぉ」
「いいよー」
休み時間。俺の周りではクラスメイトがそれぞれグループを作り楽しく談笑している。一方、俺は平日の喫茶店でサボっている営業マンみたいな感じで一人でダラーンとしていた。
「昨日の株価的に考えて僕の意見をまとめると――」
「それは良い意見だ。僕もそれには賛成だよ」
……むぅ。
「昨日のサッカー見た?あれすっげー興奮したよな?」
「見た見た。あの逆転劇はマジ感動したって!」
……はぁ。
ごそごそとポケットからスマホを取り出してボタンを押す。
「オーケーグーグル。友達と会話」
ピコーン
「……ふむ」
グーグルさんに友達関連の事を聞いたのは果たして何度目だろうか。もう数えきれないほど尋ねたがいつも答えは同じだ。
認めたくはないがどうやら俺にはほんのちょびっとだけ……微粒子レベルの少なさだがコミュニケーション能力が足りていないらしい。
「ふふ~ん!」
「……」
そんなぼっちな俺の前にいるのはドヤ顔してこっちを見てくるスラ。昨日、中々機嫌が直らなかったから渋々スク水着用なら一緒に風呂に入っても良しと許可してやった所、一気にご機嫌度がMAXに達したようで今もこうやってそばにいる。
まるでご主人様の命令を待っているペットみたいだ。いや、比喩表現を使わなくてもまんまこいつはペットか。ならずっと待機状態にさせとくのはもったいないから何か適当な命令でも出しておいて運用しておくか。
「命令だ。俺と友達になれそうな奴を連れてこい」
「分かりました!」
ビシッと敬礼をするといそいそと素早い動作で教室を出て行った。まぁ、あまり期待はしておかないでおこう。どうせ連れてくるのは一之瀬先生か赤神ちゃんだろう。
「夏野」
「rdtfyぐひじょkpせdrftぎゅhじおk!!??」
「ご、ごめん……。驚かせてしまったか?」
横を見ると、山坂がいた。ま、まさかあの山坂から俺に喋りかけてくるとは思わなかった。
「ぜっ、全然!?全然驚いてねーから!でも、ちょっ……ちょっと待ってくれ!心の準備をするから!オーケーグーグル、山坂と会話!」
ぴこーん!
駄目だ。流石のグーグル先生もそこまでは教えてくれないらしい。
「……僕と喋るのがそんなに緊張することなのか?」
「いやいやいや、なんで緊張するんだよ?俺たち友達だろ!?オーケーグーグル、今日の天気!」
ぴこーん!
よし、今日の天気は晴れか!良くやったグーグル先生!これで話題が作れた!
「いやぁ~今日も良い天気っすね!!」
「あ、ああ……」
「……」
「……」
あかん、会話が続かねぇ。合宿の時はいつもよりテンション高かったからノリで何とかなったけどこうやって改まって会話をするとなるとついテンパってしまう!友達と喋るのはこんなにも高度な技術を要するとは!
何か話題、何か話題を見つけなくては……そうだ!ひ、陽菜!陽菜を呼ぼう!
女子グループの中で楽しく談笑している陽菜にアイコンタクトでメーデーを送る。このままでは俺が墜落してしまうんだ!
(た・す・け・て!)
「……ふっ」
陽菜は一瞬俺を見てにやりと笑うと俺のことなんか気にもせずに談笑を続けていた。
後で覚悟しておけよ陽菜!後でこっそり陽菜の弁当の箸を舐め舐めしてやるからな!そりゃあもう、ベロンベロンに舐めまくってやるからな!
ベロベロベロベロ!
「だ、大丈夫か……?」
どうやら俺はシャーペンを陽菜の箸に見立ててベロベロ舐めてたようだ。すごい心配そうな顔で俺を見ていた。
「あ、ああ。大丈夫だ。周りの人間に心配されてるって事は俺はいたって正常な証拠だ」
「そ、そうなのか?」
「それで一体何の用だ?」
「実は昨日渡しそびれしまったんだが、これを……ゴールデンウィーク中にフランスに行ったからそのお土産を――」
「フランス!?まじで!?すげぇな、おい」
「親に無理やり連れていかれただけだよ」
山坂から綺麗に包装された箱をもらう。お土産にしてはかなり大きい。こりゃお土産っというよりお歳暮だな。丁寧に開けるとすごく手の込んだ洋菓子だった。
「ほうほう、また随分高そうな物をお土産に選んだな。いくらくらいしたんだ?」
「日本円で1万4千くらいだったと思う」
「14万!?うせやろ?」
「いや、1万4千な……」
高そうだなーっと思ってたが実際すごい高級菓子だった。友達からお土産なんてほとんどもらった事なんてないが、最近友達なんてほとんどいなかったが友達に渡すお土産ってもしかしてこれくらいが相場なのか?
友達同士のお土産なんて現地ですくって来た砂くらいで十分だと思っていたがどうやら俺が間違っていたらしい。
「もぐもぐ……うめぇ!」
「そ、そうか。良かった」
「……あーその。悪いな。友達にお土産を渡す習慣なんてなかったから俺は何にもやる物ねーわ」
「いやいや、僕が勝手にやった事だから気にしないでくれ。ところで夏野はゴールデンウィーク、どこに行ったんだ?」
「宇宙」
「……え?」
山坂は開いた口が塞がらないような感じで驚いている。
「説明不足だったな。宇宙に打ち上げられてスラの出身地の星に連れていかれたんだ。それにしてもこのお菓子うめぇな!もう1個!」
「え……ええ!?」
「後、仮想現実にも行ったがあれも旅行って言えば旅行みたいなもんだな。それにしてもゴールデンウィーク中にフランスかー。なかなか誰でもできる体験じゃねぇな。せっかくだから詳しい話聞かせてくれよ?」
「むしろ夏野に何があったのか聞かせてくれよ!?」




