117話
もう一度だけ居間には俺とスラしかいないのか再確認。まずは母さんの部屋に向かう。ノックしてから部屋に入る。
「お邪魔します~」
「あー……」
母さんはノートパソコンの前で気絶しているようだ。目を見開きながらヨダレを垂らしている。問題なし
次は陽菜たちがいる風呂場へ。
「お邪魔します~」
ガチャ
「おや?」
脱衣所に鍵がかかってると思ったら鍵がかかってないぞ?不用心な奴め。
やれやれ、今回は俺みたいな紳士だから良かったものの、不審者だったら一体どうするんだ?陽菜にはもっと自分がどれほど価値のある金髪かと言う事を理解して頂きたいものだ。
さて、どうしたものだろう。鍵がかかっていないってことはこのまま扉を開けるって事ができるってことだ。つまり覗ける。でもなー今日は本当に覗きに来たつもりは……――
「せっかくだから俺はこの脱衣所のドアを選ぶぜ!!お邪魔しま――」
バタン
「やっぱり覗きに来たわね!いつもいつもやられっぱなしの私じゃないわよ!」
「オーノー」
ドアを開けるとスク水姿の陽菜が腕を組みながら待機していた。俺が覗きに来ると思って脱衣所で待ってたんだろう。俺が陽菜の罠にまんまとかかったのが嬉しいのか少し嬉しそうな顔をしていた。
「じゃあ、今日のセクハラの罰はねー……――」
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よお――よしよし、黒とミニスラちゃんはまだ湯船に浮いてるな。後、スク水姿でずっと待機してたら体冷えるぞ?ゆっくり湯船に浸かって風邪ひかんようにな。それじゃ!」
「えっ!?ちょ、ちょっとセクハラの罰は!?」
「セクハラをしに来た訳じゃないからノーカン」
「じゃあ私のブラジャー持って行こうとしないでよ!!返せぇー!!」
俺は無意識の内に陽菜のブラジャーを右手に持っていた。
陽菜は俺の腕を掴んで離さない。お土産に持って帰りたい所だが素直に返さないと俺も帰してくれなさそうだ。
「やるじゃないか右手よ。だけどな、今日はそういうつもりで来た訳じゃないだろう?だから、ブラジャーは陽菜に返してやってくれ。ほぅら……良い子だ」
プルプル震えながら返そうとするのを拒否する右手を気合でゆっくりと動かす。
「頼むから言う事を聞いてくれ右手ぇ!そうだ、いいぞぉ!!」
「……病院行く?」
「はぁ、はぁ……。よし、確かに返したぞ?偉いぞ右手、良く耐えた!!」
◇◇◇◇◇
これで邪魔が入る事はないだろう。スラはまだソファの上でしょんぼり状態になっていた。
さて、スラのご機嫌取りをするか。
スラがしょんぼりしてご機嫌斜めになった時の対処方法は基本、スラに構って可愛がってやる事だ。
「ほ~らスラ、可愛がってやるぞ~」
うつ伏せになっているスラを起こして俺の膝の上に乗せて強く抱きしめてやる。
「ほらー機嫌直せよー?」
「……」
返事がないスラの顔を覗き込む。寝ている訳ではなさそうだ。
俺はてっきりスラが怒っているのかと思っていたがそんなことはなく、どっちかと言うと放心状態になっている感じだ。目からハイライトが消えてレイプ目になって俯いてるし
「スラの好きなイチゴ味のキャンディだぞ?」
包装を開けてスラの口にキャンディを放り込む。スラはまるで黒のように大人しくキャンディをもぐもぐし始めた。
「よしよしよーし。スラは可愛いなー!スラちゃん可愛い!」
「……」
スラの頭を抱きしめながらわしゃわしゃと撫でる。
ま、まずいな……。
これ絶対入ってるよね?みたいな態勢のせいで全身にスラの柔らかい体を感じている中、こんな至近距離で女の子の良い匂いがしてしまっては俺の理性がヤバイ。
落ち着け……スラはペット!スラはペット!スラはペット!だからどんなにもふもふしてすりすりしたって大丈夫なんだ!
「よしよしよーし!!俺はスラちゃん大好きだぞー!」
スラの手を恋人繋ぎようにして握ってやる。
俺の手よりも小さいスラの手はとても柔らかく思わずドキっとしてしまう。
流石童貞、手を握るだけでこんなにも興奮してしまうのか。
うーんダメだ。スラの機嫌が直るまで経験上後、20分はスキンシップをしてやる必要がある。このままじゃ到底理性が持つとは思えない。
出来る事ならスライム状態になって欲しいんだが今ここで頼んだって余計にしょんぼりするだけだ。
なら、俺が対策をする必要がある。
対策の為、スラを一度ポイっとソファの上に放り投げる。
まずはあのスラの良い匂いを何とかする必要がある。匂いを遮断する方法は……そうだ、マスクだ!!
あった、マスクだ!使い捨てマスクだ!しかもマスクの横にサングラスもある!これは良い、サングラスを挟んで間接的に見ることによって防御力を高めることが出来るかもしれない!
これでOKか?いいや、まだだ。スラはスキンシップして喜ぶ。ならより肌が触れ合うようにする為に服を脱ごう!ズボンを脱ごう!パンツを脱ごう!
これでOKか?いいや、まだだ。スラは俺と一緒にいることを喜ぶ。ならそれをもっと分かりやすく形にしてやろう!手錠とあとついでに目隠しだ!
これでよぉし!!
スラに目隠しをして手錠をつける。
がちゃ
しまった……!手錠は俺とスラの片腕づつにつけようと思ったが両方スラに手錠をしてしまった!
しかも手錠を外す鍵がない!?だが、あまりもたもたしていると陽菜たちが風呂から上がってきてしまう!しゃーない、今回はこれでいい!
そして全裸の俺にサングラスとマスクを俺に装・着!もう一度スラを膝の上に乗せてもふもふスタート!!
「ほぅら~、これが気持ちいんだろぉ!?ほらほら~」
口に俺の指を持っていき舐めさせる。
「ん……ちゅぱ、ちゅぽ……」
「もっと足を広げて、そう。その調子だよぉ~?」
もう片方の手でスラの太ももを撫でまわすように触ったり、服の下に手を入れてお腹や腰を撫でまわす。
「……んっ」
スラから吐息と共に小さく声が漏れる。ほうほう、ペットのくせに良い声出すじゃないか~?もしかして発情してるのかこのエロスライムめぇ!
なら、もっと気持ち良くしてやろうじゃないかぁ!
「ぐふっ、ぐふふふふふ!!」
あれ?スラの機嫌を直すつもりでやった事なんだがこれは少し違う気がするぞ?
しかも俺の股間が直にスラと当たってるせいでさっきよりもやばいやばい。理性が一気に吹っ飛びそう!
このままでいいのか!?いや、このまま行こうじゃないか!!
「てめぇ、スラちゃんに何してんだこらぁぁ!!」
今に叫び声のような大声が響き渡る。
声がした方を見ると仕事から帰ってきたのか親父の姿があった。
「どこの誰だか知らないが警察に突き出してやる!!」
「誰って俺だ――」
しまった、サングラスとマスクのせいで顔が分からないのか!?つまり、親父は完全に俺を不審者と勘違いしている。
おおおお落ち着けぇ落ち着け!!
こういった場合はそう、まずはスラを開放することだ。
スラをまたポイッとソファに放り投げて俺は両手を上げながらソファから立つ。
「私のスラちゃんに手ぇ出してこのまま帰れると思うなよ!?」
「あぁん!?いつスラがてめぇのもんになったんだぁ!?スラは俺のだ!!」
「はぁぁぁーーーん?」
「ほぉぉぉーーーん?」
親父はファイティングポーズをとり、間合いをジリジリ詰めてくる。
見た目は中年太りした哀れな肉塊のおっさんにしか見えない親父だが、昔なんかやってたらしく滅茶苦茶強い。正直、殴り合ったら俺でも勝てないかもしれない。
今はスラは誰の物かは置いておき、冷静になってもらうよう努めよう。だが、興奮してるせいで息子の顔すら忘れてしまった親父相手に言葉が通じるかどうか……
……
違うわ。マスクとサングラスかけてまるでゲーム実況者のように顔を隠してるせいか。
なら話は早い。
「待て待て、落ち着け親父。俺だよ、直人だよ。安心してくれ」
サングラスとマスクを外す。そしてドヤ顔を決める。よし、これでひとまず解決――
「安心できるかぁ!!」
「ごふっ!!??」
親父のパンチが俺の顔にヒットする。
腹が出てる飲んだくれの中年おやじにしては中々のキレの良いパンチだった。




