111話
「ふんふんふ~ん、ヒェア!ヒェア!ヒェア!」
クラスメイトに声を掛けられたと言う喜びに職員室に行くことも忘れ駄菓子屋に立ち寄った後ルンルン気分で帰宅。せっかく赤神ちゃんのマンツーマン指導を受けれるチャンスを棒に振ってしまったのは残念だがもう結構時間も経ってしまったしなぁ。
明日行こう、明日。ひょっとしたらすっぽかした事に怒ってもっと過激な指導を受けれるかもしれないのだからむしろ今日をすっぽかしたのは正解だ。
「ただいまー」
「ある晴れ~た、日の事~魔法以上の愉快が~♪」
「……あ?」
玄関を開けるとスラが歌いながら踊っていた。
うねうねうね
そしてスラの足元でミニスラちゃんもうねうねしている。何やってるんだ?
……ああ、いつもやっていた俺を迎えに来る時に必ずやるお帰りの舞か。スラがスライムじゃなかったから分からなかった。このお帰り舞ってスライムがうねうねと踊るから可愛いのであってスラ(美少女)がやってもシュールなだけだな。
「色々~予想が~出来そうで、出来ない未来~♪」
ぼけーっとしてたら2番に入りやがった。
……
「はぁい!はぁい!はぁい!」
とりあえず俺も合いの手を入れてしばらく一緒に踊った。
◇◇◇◇◇
「ご馳走様でした。それにしてもあのスラがこんなに美味しいご飯を作れるようになるとは」
陽菜はかちゃかちゃと食器の後片付けを始める。今日の晩御飯はフランス料理店に出てくるようなコース料理だった。
スラとミニスラちゃん合わせて6匹の労働力はとても大きく、てか晩飯を作るには過剰で最近はすごい手間がかかっているような料理みたいな感じになっている。
「ふふーん!スラちゃんは捨てられないよう料理に関してはすごくがんばったのだ!」
「一応食べれるレベルだったら捨てないんじゃないの?ナオはそんなもったいないことしないと思うんだけど」
「捨てられるのは料理ではありません!スラちゃんです!」
「あっ……(察し)」
「じゃあ、陽菜ちゃんと一緒に皿洗いしようかな~」
そのまま陽菜と母さんは食器を持って台所に行った。
さてと、今から何しよっかなー。そうだ、まだあまり良く分かっていない黒の観察でもしてみるか。
ご飯を食べ終えた黒は微動だにせずに座布団の上にいた。
朝食でも思っていたんだが、黒はせんべいを1枚食べるのに30分以上費やす割にはご飯は普通のペースで食べ終えし、基本動かないけど必要があればちゃんと動くしコミュニケーションもとる。
この事から考えると、黒はみんなの輪の中に入っている時は空気読んで合わせるが、マイペースに出来る時はすごくスローライフを送る性格なんだなっと推測できる。
っとなるとあまりスラみたいに構いすぎると嫌がるんだろうか?黒をプレゼントしてきたオレンジスライムも適度に可愛がってやれって言ってたからあまりちょっかいかけるのは良くないのだろうか。
「よいしょっと。こほん、それでは時間が空きましたので黒様にお伝えしたい事があります!」
スラがソファーの上に立って腕を組みながら黒に喋りかけた。俺とミニスラちゃんはその様子をじーっと観察。
「黒様はボクたち機械女神のトップです。ですがなお君のペットになった以上、黒様には夏野家のルールを守ってもらいます!ルールは色々ありますが、それはボクが作って送信した『天才青年なお君の観察日記』の通りです!ですが、何よりも黒様にご理解をしてもらいたい事があります!」
「ちょい、ストップ。天才青年なお君の観察日記?何それ?そんなのあんの?ちょっと読んでみたいんだけど」
しばらくスライム同士の会話を観察しようと思っていたがつい横槍を入れてしまった。だってすごい気になるじゃん。
「うにゅ!?……あ、はい……また機会があれば……」
「おい、何で歯切れが悪いんだよ?見せろや」
「に、人間が理解できる言語では書かれてないので、こ、今度翻訳しときますね!」
ぷるぷる震えながら目をそらして動揺するスラ。ど、どうしよう晩御飯が久しぶりにドッグフードになってしまう、みたいな顔をしている。
「はぁー。俺、結構スラの事信じてたのになぁー。なのにスラは俺に見せられないひどい物を書いてなんだなぁー」
「ち、違います!そうじゃありません!『天才青年なお君の観察日記』には『なお君攻略方法』とか『なお君からの緊急逃亡方法』、『晩御飯ドックフード回避方法』などなど、なお君に知られるととても困るのです!なので決して悪口とかが書いてる訳じゃありません!ペットが飼い主の悪口なんて書きません!」
「へ~」
スラはソファから降りて俺の膝にほっぺを押し付けてスリスリしてきた。スラなりの愛情表現だ。
「……はっ!?これではボクの威厳が!こほん、黒様にご理解してもらいたい事、それは――」
またソファーの上に立って腕を組みをする。忙しい奴だ。
「なお君のメインペットはこのボク、スラちゃんであり、黒様はなお君のサブペットと言う事です!つまり、ボクがなお君の一番のペットなのです!」




