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12話 高校入学日の朝の屈辱

 スラを飼い始めて4年と半年が経過


 俺、夏野直人は今日で高校生なります!

 座右の銘は"俺より弱い奴に会いに行く"

 趣味は漫画やゲーム、特に大きな特徴のない普通の男の子であります!

 ただ一つだけみんなに言えない秘密があるんだけどね☆

 それは――


 べたっー


 「……」

 

 この得たいの知れないスライムを飼っていることだ。

 目を覚ますと俺の顔を覆う込むようにスラが張り付いていた。

 一体どう寝相を悪くしたら人様の顔の上に張り付いて寝てるんだよ?

 スラに顔の全面を覆われているから当然鼻も口も塞がれた状態で全く呼吸できない状態だが、不思議と呼吸はできるため息苦しさはない。ご都合生物め。


 ぽいっ


 顔面に張り付いているスラを剥がして放り投げると何度か小さくバウンドしてころころと転がる。


 「ほんじゃあ、もう一眠りするか」


 まだ起きる時間まで1時間ある。邪魔なスラもどっかに放り投げたから快適な睡眠タイムを―― 


 ぴょんぴょんぴょーん!ぺたっ!


 「ぐむっ!?」


 放り投げたスラが跳ねてまた顔にへばりついてきやがった……



 ◇◇◇◇◇ 



 「今日の入学式楽しみだねー」


 朝飯を食ってる最中、母さんが楽しそうに喋りだす。

 今日は鈴木高校の入学日。今日から俺も高校生だ。


 「恥ずかしいからこの前の卒業式みたいな号泣はやめてくれよ」


 「はっはっはっー!いいじゃないかー直人!子供の成長を見ると親ってのは涙がほろりとするもんなんだよ!」

 

 俺が母さんに言ったことに対して、知らないおっさんが夏野家の食卓に混じりそう答える。

 

 「誰だよこのおっさん。母さん、ついに親父捨てて新しい奴を見つけてきたのか?じゃあ俺、可愛い妹希望な」

 

 「……」


 ……ちげーわ、親父だったは。久しぶりに見たせいで一瞬本当に忘れてた。。

 親父は単身赴任であまり帰ってこないから寝ぼけてる俺は親父と認識できていなかった。


 「別に弟でも構わないだろ?母さん、今夜頑張ってみようか?」


 「やだ~お父さんったら~♡」


 「朝から生々しい話やめーや。ぐれるぞ」

 

 高そうなスーツを着ている親父は俺の入学式に出席するため仕事を休んで家にいるのだろう。

 それにしても家族揃っての朝食は久しぶりだ。


 「"お父様!今日のお味噌汁ね(≧∀≦)"」


 「ん?どうしたんだいスラちゃん?」

 

 スラはホワイトボードにスラスラと書いて親父に筆談で話しかける。

 おれ?この流れ昔あったような気がするぞ?


 「"ダシがスラちゃん!"」


 あーそういえば前もそうやって俺に言ってびっくりさせようとしたよな?

 あの時の俺は確かスラに微笑みながら優しく撫でて『そんな事言って人をびっくりさせてはいけませんよ?』と言って注意したと思う。多分そんな感じだったはずだ。

 全く、優しく注意したら付け上がりやがって。


 さて、親父はスラに対してどう反応するのかしっかり見させてもらおうじゃないか。

 親父としてしっかりとしたお手本となる教育をしてくれると期待しているぞ。


 「スラちゃん、この味噌汁が美味しいのはそれだけじゃないんだ。実はこの味噌汁には昨日お父さんが風呂に入った残り湯も混ぜてる」


 「ぶふぅっ!?」


 なんてもの飲ますんだこの万年平社員が!

 冗談だろう!?冗談と言ってくれ!?早く冗談だと言ってくれないとここで俺は吐くぞ!?


 「はっはっはー!!冗談だよ冗談!!直人はただえさえ面白い顔してるんだからそんな怖い顔したらダメだぞー?」


 ダメだわこの親父。早く捨ててこないと。



 ◇◇◇◇◇ 



 「それじゃあ、行ってくるから」


 「はーい、気をつけてね~」


 俺は朝の準備を済ませ玄関で靴を履く。

 母さんと親父は奥で慌しく準備をしていた。


 ぴょんぴょんぴょん


 そして忙しくて見送りができない親に代わってなのか、スラが俺を見送りをするため玄関までついてきた。

 って言っても俺が外に出るときはいつも玄関までついてきて見送りをするんだけどな。めんどうだから来なくてもいいって言ってるのに。


 「今日の入学式、来るなと言ってもどうせ見に来るんだろう?だったら他の人に見つからないように上手くやれよ?じゃあ行って来るからな」


 ぴょんぴょんぴょん

 

 元気そうに跳ねてるスラを軽く撫でて玄関を出る。


 「お気をつけて!」

 

 「……っ!?」


 まさに玄関を出ようと瞬間、すぐ近くで女の子の声聞こえた。

 突然の事にびっくりして周囲を見渡すが女の子なんていない。

 近くにいるのはスライム一匹だけだがこのスライムは喋ることはできないはずだ。


 「……気のせいか。まぁ昨日結構エロゲーしてたからな。そういう幻聴も聞くこともあるだろ」


 だけど、さっきの女の子はどこかで聞いたことがあるんだけどなー。

 そう疑問に思いながら高校に向かう。 まぁ大したことじゃないからきっとすぐに忘れてしまうだろう。


 ……

  

 「てな感じに流れると思ったか、スラぁ!おいぃ?今の声お前だろ!?てめぇやっぱ喋れるんだよなぁああん!?」


 元気そうに跳ねてたスラがピタリと止まりぷるぷる震え動揺してる。


 「『なお君は頭お花畑だからどうせちょっと喋っても気付かない』っとでも思ってたかぁ?ずいぶん舐められたもんだなぁ!?」


 今まで簡単な筆談しかできないと思ってたから見逃してたが、まともに口聞けるなら色々知りたかったこと全て白状させてやる!てめぇ、何者だぁ!?

 

 びゅん!


 問いただそうとスラを捕まえようと手を出した瞬間、スラは目で追いかけるほども難しい速さで奥に逃げた。

 あの逃げ方は、"スラちゃん全力逃走モード"

 ああやって人間の身体能力では捕まえられない速さで逃げられる前に脅して動きを止める方法がオードソックスなのだが、一旦逃げられるとお菓子でスラを釣る作戦しかない。

だがそんな事をしていたら遅刻してしまう。

 それは避けたい。目立ってしまう。

 忍びのようにひっそり影に生きたいと思ってる俺に今からスラを捕まえる選択肢などない。


 「くっ……!!」


 まぁ良いだろう、スラを尋問にかける時間なんてこれからいくらでもある。

 仕方がない、とりあず学校に行くか。


 俺はスラごときをすぐに捕まえることができない己の未熟さに思わず唇をかみしめた。


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