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110話

  「いやっほー!!夏野、ちょっと飲みに行こうぜ、飲みに!!」


  ホームルームが終わり放課後になると同時に一之瀬先生が飲みに誘ってきた。進学校の教師が生徒を飲みに誘うと言う異常事態だが誰も驚きもしない。

  何故ならば一之瀬先生は進路指導と言う建前の元、自分の請け負うクラスメイト一人一人に声を掛け半ば強制的に居酒屋に拉致されているからだ。一体何故処分されないのだろうか。


  「あー悪い。赤神ちゃんに呼ばれてるから今から職員室に行かないといけないんだ。その後でもいいか?」


  「え~!?今すぐ飲みに行きたい!行きたい!行きた~い~!」


  「……」


  こんな駄々をこねて生徒を飲みに誘うダメな奴でも一応教師、敬語を使うのは当然なんだが『社会に出たら10歳くらいの年齢差なんて同期みたいなもんだ!』と言う一之瀬先生の謎の主張によりプライベートで一之瀬先生に対して敬語を使うのは禁止されている。

  だから教師に向かってタメ口で喋る不良って訳じゃないんだぞ?


  「ほら、これ貸してやるから今日はこれで我慢してくれ」


  「ご飯ですか!?ご馳走になります!!」


  丁度良く隣にいたスラをぐいっと持ち上げて渡そうとする。ご飯を食べれるスラは嬉しそうにどや顔をしていた。

  一之瀬先生的にも美少女と二人っきりて飲みに行けてお互いwinwinだろう。だが、俺の予想と違って一瀬先生はあまり嬉しそうではなかった。


  「チェンジ。スラちゃんにはもう何度も奢ってやってるだろう?」


  「うにゅ!?」


  一之瀬先生のばっさりとした一言でスラは傷つきしょんぼりとしながら陽菜の所までとぼとぼと歩き、そしておっぱいに顔をうずめた。羨ましい、俺が同じことしようとしても突き飛ばされるだけなのに。


  「陽菜ちゃん~一之瀬君がスラちゃんいじめしてきました~」


  「はいはい、よしよし」

  

  陽菜は甘えてきたスラの頭を優しく撫でて宥めた。 

  さて、スラの顔に埋められている陽菜のおっぱいの形をもっと見ておきたいがそれよりも今は気になる点がある。スラには何度も奢っている?スラの行動を逐一見ている訳ではないが基本俺のそばにべったりといるスラがそう何度も飯を奢られる機会なんてなかったと思うんだが。

  それに一之瀬君って何だ?……もしかして――


  「スラと一瀬先生って昔から面識あるのか?」


  「ん?スラちゃんとは入学してきた日が初対面だぞ?ああ、もしかして俺がスラちゃんと親しいからって嫉妬してるんだな?なんだ、夏野もそういう可愛い所があるんだな~!」    


  いつも通りへらへらと笑いながら喋る。


  「とにかく、赤神先生に呼ばれてるんだったら行って来たらどうだ?赤神ちゃん待たせると怖いぞ~?あ、そう言えば山坂とはまだ一度も飲みに行ってなかったな!飲みに行こうぜ!」


  一之瀬先生はそのまま山坂が座っている席まで移動する。山坂はとても嫌そうな顔をしていた。


  「教師が生徒を飲みに誘うなんてあまりにも非常識だとは思わないのですか?」


  「そう固く考えるなよ山坂ぁ~。何せ俺と山坂は教師と生徒の関係である前に俺たち友達だろう?だったら飯くらい一緒に食いに行くだろう!」


  「はい?あの、僕が一之瀬先生といつ友達になりました?」


  「俺と夏野は友達で、そして夏野と山坂は友達だ。それに間違いはないだろう?」


  「は……はぁ」


  「だったら必然的に俺と山坂は友達だ。先生の俺が言うんだから間違いない!じゃあ、行こうか!」


  「すいませんが全く意味が分からない――」


  「あ~あ~。俺は悲しいな~!夏野のマブダチの俺が悲しむときっと夏野も悲しむだろうな~!」 


  一瀬先生はすっごい大げさな身振り手振りを使ってアピールする。サッカーで相手にこかされて転がった時に対して痛みもないのに大げさに痛そうにするくらい大げさな演技だ。

  いやいや、俺関係ないやん。一之瀬先生が悲しもうが俺は全く悲しくないで?


  「……分かりました、行きましょう」


  「やったぜ!いこうず!」


  山坂はちらっと俺を見た後、観念したのか荷物をまとめて一之瀬先生の後についていった。

  

  一之瀬先生はあんな教師だが侮れない所があるな。俺はまだ山坂と友達になった事はまだ一言も言ってないぞ?普通、教師が生徒間の交友関係なんて逐一見てないと思うんだが。

  まぁ、どっちにしても山坂にとっては良い機会だろう。存分にオラついたDQN教師に揉まれてくるがいい。


  「じゃあな夏野、先に帰るは」


  「またな~」


  「あっ!?あっ!あっ!……ぐへへえ!」


  今までロクに別れの挨拶がなかった男子グループたちからの自然な挨拶に俺きょどる。まるでモンスターの鳴き声のような返事しかできなかった。

  ……失敗してもうた、まさか向こうから声が掛かってくるとは予想もしていなかった。


  だが、後悔と同時にとてつもない幸福感が沸き上がる。

  入学してきて1カ月、少しずつだが確実にこのクラスは変わってきている。やっと俺の素晴らしさに気が付いたって事だ。 


  「ブラはもっと柔らかい素材のブラの方が良いと思います!このブラでは陽菜ちゃんのおっぱいの柔らかさを存分に生かし切れていません!」

  

  「余計なお世話よ!」


  陽菜は恥ずかしそうにしながらおっぱいにへばりついていたスラをぐいぐいと引きはがしていた。

  あっちはあっちでいつも通りの平常運転だ。

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