109話
鈴木高校では個人の成績に出席日数はほぼ考慮されない。極論を言うとテストの成績さえ良ければ通常の授業を出席する必要もない。
だからめんどくさい授業を聞く必要もないとてもゆるい学校だと思ってこの学校に入学した。当初の予定では高校生と言う身分を持ちながら家でゲームや漫画を無制限にできる夢のニート生活を送るつもりだったのだ。
では何故入学式から今日まで約1か月、無遅刻無欠席でまじめに授業を受けているのか?スラの美少女化と言うイレギュラーな事態が起きたせいだろうか?さぼろうとしても容赦ない陽菜の強制登校があるせいだろうか?友達が出来て学校に来るのが楽しくなったからだろうか?
もちろんそれらの要素は俺を登校させる強い要因となっている。だが、もう一つあるんだ。それは――
「夏野の変態な方、次の英文を訳してみろ」
赤い髪のサイドテールにしてビシッと黒のスーツを着ているが中学生……下手したら小学生にも見える鈴木高校の英語教師、赤神ちゃんの存在だ。
どうやらあのちっちゃい体にツンとした態度が俺の性癖に見事ジャストフィットしてしまったらしい。つまり赤神ちゃん見たさに学校を真面目に登校しているのだ!
「おい、答える気がないんだったら分からないって言うか、無視しろよ。黙ってにやにやしながらガン見してくるのが一番困るんだが。気持ち悪いぞ」
「スラ、いくら赤神ちゃんと親しいからってなめた態度を取るのはよくないぞ?すいませんねぇ~うちのスラがご迷惑を」
赤神ちゃんの授業を妨害するなんて全く困った奴だ。
隣の席に座っているスラを突っつきながら注意する。スラは俺が使っていた中学1年の英語の教科書を片手に持ちながら必死に勉強していた。
「スラちゃんでしたか……!えーと、えーと……」
中学1年の英語の教科書と言ったがその事に間違いはない。進学校でかなり有名らしい鈴木高校でなんとスラはアルファベットを書く練習をしていたのだ。しかもbをdを間違えてる。
よく入学できたなぁおい。てかプログラミング技術持ってるくせにbとdを間違えるなよ。
「な……なお君……」
スラは涙目でちらちらと視線を送りながらぼそっと小声て呟いてヘルプを求めてきている。
だがここで助けてしまったらスラの為にならない。人間社会の厳しさを教える為に心を鬼にしよう。
そんな事より限りある時間を有効に使わなきゃいけない。赤神ちゃんの可愛さをしっかり目に焼き付けておかなければいけない。
「でも、正直あのスーツは似合わないんだよなぁ。赤神ちゃんにはやっぱり小学生が着るような服を着せたい……」
「でも、正直あのスーツは似合わないんだよなぁ。赤神ちゃんにはやっぱり小学生が着るような服を着せたい、です!」
あーやっちまった。独り言のつもりだったのに英文の訳と勘違いされてスラに復唱されてしまった。
教科書にそんなロリコンが言いそうな文を載せてる訳がないだろう。
「夏野直人……放課後、職員室な」
「……はい」




