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106話

  「……」


  結局、だらだら過ごすと決めた貴重なゴールデンウィークの全てをスラ関係に費やしてしまった。得られるものは多少あったが失った時間は戻らない。

  時計を見ると時刻は午前6時。もう2時間後には学校だ。山積みになってるゲームや漫画……消化できなかったなぁ。


  どたどたどた!


  誰かがとても慌てたようにして階段を上って部屋に近づいてくる。こんな朝から何だ?騒々しい。

  

  ばたん!


  「はぁ……はぁ……!た、大変だ直人!スラちゃんの様子がおかしいんだ!すぐに来てくれ!」


  おや、てっきりスラかと思ってたら部屋に入って来たのは親父だった。いつも何考えているかよく分からないアホ面をしている親父だが今日は息を切らしながらとても真剣な顔になっている。


  親父が言ってたことを理解する為にまだ寝ぼけている頭を回転させる。えーっと、なんて言ってたっけ。スラの様子がおかしい?


  「ははっ、何を今更。スラがおかしいのはいつもの事だろ?」


  「いつも面白い子だけど今日はそういうのじゃないんだ!とにかくすぐに居間まで来てくれ!」


  「どうせ大したことじゃねぇって――」

 

  だが、こんなに慌てた親父を見るなんてなんて初めてだ。もしかして居間では俺の予想以上に大変な事が起きているのだろうか?


  「すぐに行く」


  何があったか知らないが俺も急いで向かった方がいいな。察するに一刻も争う事態なんだろう。 

  

  「おおっと、その前に朝の盛り上がった股間の息子を何とかしないと――」


  どんな緊急事態だろうがまず、男が朝一番にすることをチンポジ直し。まずは股間の血液を全身に巡らせるように精神を集中させ――


  「そんな事どうでもいいから早く来てくれ!」


  「何だよ、何だよ。俺の股間の息子よりもスラの方が大事だってか?ええんか?孫の顔が見たかったら息子の股間の息子にもちゃんと気を配れよ?」


  「いいから早く来い」


  親父が焦りの表情から一気に怒りの表情に変わる。そんな顔を家で見るのは初めてだ。


  「はい」


  本当に久々に親父に怒られて俺しょんぼり。

  これで全く大したことなかったら盛り上がった股間の息子をスラのほっぺに押し付けてすりすりしてやるからな!



  ◇◇◇◇◇

 


  「見てくれ!スラちゃんが真っ黒になってるんだ。しかも喋りかけても全く反応がない!スラちゃん、スラちゃん!大丈夫か!?頼むから返事してくれ!!おーい!!」 


  「ああ。そう言えば忘れてた」


  急いで居間まで来てみると、親父はソファの上にいる黒いスライムに心配そうに喋りかけていた。なるほど、そういう事か。


  この黒いスライムはスラの故郷から地球に帰って来た時にもらったプレゼントの中に入っていたスライム。機械女神のトップの黒だ。

  そのことを全く親父に説明してなかったら黒をスラだと勘違いして慌ててるってことだな。


  「もしかしてこれがスラちゃんの寿命なんだろうか?……そんな……あんまりだ……私は親として娘に何にもしてやることが出来なかった……!」


  「いつの間にスラが娘になってるねん。ペットだって。ペット」   


  「ああっ……!!ああああああっーーーー!!」


  親父は突然黒を抱きしめて号泣する。黒は特にこれといった抵抗もせずなすがまま親父に抱かれていた。

  

  「……」


  声を掛けづらい。早く誤解を解かないといけないのは分かってるんだがここまで本気の号泣をされるととても声を掛けづらい。

  ってか大人げねぇなぁ。仮にスラが死んだとしてペットが死んだくらいでそこまで号泣することはないだろう?おっさんになったら涙もろくなるとは言うが本当にそうなんだな。

 

  「ううっ……!!こんなにスラちゃんとの別れが来るくらいだったら仕事なんて辞めてもっと時間を作るべきだった!!」


  「スラちゃんとの別れって何ですか!?まさかとうとう捨てられてしまうのですか!!」


  台所からエプロン姿でスラがやって来た。どうやら朝食を作ってたらしい。


  「スラちゃん……!!ああっ!!生きていたのか!!」


  「お父様!!どうかここに置いてください!!スラちゃんのおやつを減らしてもいいですから!!」  


  「……私がスラちゃんを捨てるわけだいだろうっ!!スラちゃんは私は娘なんだ!!家族なんだ!!」

 

  「……お父様っ!!」

  

  「スラちゃん!!」


  がしっ!


  スラと親父は力強く抱きしめ合う。


  ……何だこれ?


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