11話 進路希望調査
スラが陽菜に体操服を渡した数時間後、俺達は遅めの昼食をとっていた。
帰ってほしいんだが、陽菜達は昼食後も勉強会をするらしい。
スラはさっきから俺の膝に乗っかっていつも以上に愛情たっぷり込めたようなスリスリをしている。
きっと空気読まずに体操着を返却して俺に対する評価をドンっと底に落としてしまった事に対してのお詫びのつもりでスリスリしているのだろう。
そんなにスリスリしたって許さへんで?今日のスラの晩飯はカエルやで。
「ねぇ、ナオってさぁ……どこの高校に行くかもう決めてるの?」
カエルの下ごしらえの方法を思い出していると陽菜がおずおずと少し照れくさそうにしながら声を掛けて来た。
「何故陽菜がこのような質問をしてきたのかを次の選択肢から選びなさい」
「1.俺のことが大好きで一緒の高校に行きたい。2.俺のことが大嫌いで一緒の高校には行きたくない。3.俺と話す話題もなく当たり障りのない質問をしただけ。さぁ、どれ?」
「3番目で」
「そう……」
何かフラグ的なものがあるんじゃないかと思ったが俺しょんぼり。
べっ、別に無理して俺に話しかけなくていいし!!陽菜と喋るよりカエルの下ごしらえの方法を思い出している方が楽しいし!!陽菜よりもカエルだし!!カエル!!
「あのー、それでどこの高校に行くの?やっぱりそこそこ学力が高くて近い帝格高校?」
陽菜がぐいっと顔を近づけて興味津々そうにしながらちょっと上目遣いで質問してくる。その陽菜の動作に思わずドキっとしてしまう。
「やっぱりカエルよりも陽菜の方が好きだな」
「……え?私、ナオの基準ではそんな低レベルなランク帯にいるの……?」
「いやいや、そういう意味で言った訳じゃないんだ。今日のスラの晩飯のカエルの調理法を考えるより陽菜と話している方が楽しいって意味だ」
ぴたっ
膝の上に乗ってスリスリしていたスラの動きが止まった。
「でさ、どの高校に行くの?」
「あー……そうだなー」
なんだか随分と食い下がってくるなぁ。
だけど周り受験でピリピリしている時期にそういうの答えたくないんだよ。
学校の問題児&成績トップの俺が進学先なんて言って周りに知られたらたちまち噂になって目立ってしまう。
だから誰にも言わないようにするつもりだったが、ここまで聞かれて回答拒否をするとそれはそれで噂になっちゃうしなー。
とりあえず適当に答えておくか。
そもそもどこに進学するかを決めるなんて願書を出す期限の1週間前くらいから考えるつもりだったし。
「帝格には行く気ないな。あそこすっごい厳しいみたいだし」
そう言えば、前の進路相談の時も一之瀬先生にも帝格高校か、後どっかのしょぼそうな名前の高校の所を進められたな。
その時、俺は『高校と言うのは3年間遊ぶところです。決して一流大学を目指す為に選ぶのは間違いなのです!』と言って顔を凍らせてしまった記憶がある。
「じゃあ、校則がそんなに厳しくないような高校がいいの?」
「そうだなぁ。予定としてはどっかの私立に特待生扱いで入学して学費免除。しかも成績良ければとやかくうるさく言われる事もないような高校だな」
自分で言うのもアレだが、ないよなーそんなとこ。
「それだったら私立の鈴木高校とかどうかな!?鈴木高校!」
陽菜が目を輝かせて嬉しそうに提案してくる。
そういえば、近くにそんな地味な名前の高校があったような気がする。ああ、そうだ。
一之瀬先生が帝格高校と一緒に勧めてきた高校だ。
「鈴木高校だったら特待生学費全額免除。それにテストの成績さえ良ければある程度の出席も免除してくるから芸能活動とかしてる学生とかも通ってる所よ。校則もそんなに厳しくもないしどうかな?」
「あーそうやってネームバリューだけ求めたような高校はなぁ。どうせ金髪ピアスの馬鹿がわらわらいるような世紀末な――」
「偏差値は70超えてるからヒャッハーはないと思う」
「まじすか」
偏差値70超えって帝格高校よりも高いじゃん。
帝格高校に名前負けしてるくせにすげぇな鈴木高校。
帝格高校生「高校どこよ?おいらっち帝格なんやけど~www」
鈴木高校生「鈴木です」
帝格高校生「……う、うわあ……ああ……ああああああああああ(イスから転げ落ちる)」
みたいになるのか。
「まぁ考えておくか。陽菜はどこに行くんだ?」
「ふふーん、実は私はその鈴木高校に――」
「陽菜って馬鹿じゃん。無理だろ」
「だ、大丈夫だって!ちゃんと勉強するから!」
陽菜は理系科目だけなら俺と同じくらいの学力を持っているが文系科目が終わってる。
微分積分、交流回路、高分子化合物などなど高校レベルの問題は容易く答える天才性を見せているくせに国語とかは小学生に笑われるレベルだ。
「そういや、陽菜って日本人じゃないのか?金髪だし。それなら文系科目が苦手っていうのも分からなくはないが」
「うっ……う~ん……まぁ、そんなもんかな。だから古文とか苦手でさ~。いとおかし」
「古文どころか英語もダメだろ?この前の中間テストの英語0点だったじゃん。だとすると英語圏じゃないって事か。どこの国の生まれなんだ?」
「えぇっ~……すごく遠い所の生まれかな?いとおかし」
「別に陽菜が人参だろうが俺は気にしないが、そんなに答えにくい事なのか?」
「……いとおかし」
うーむ、気になる。
陽菜と知り合ったのはスラを飼い始めた時期くらいだったから、4年前からは日本にいたんだよな?何をそんなに答えにくい事があるのだろうか。
「ま、まぁとりあえず私の事は置いといて。この写真を見てほしいの」
陽菜がごそごそっとカバンから写真を取り出して机の上に置いて見せて来た。 写真を見てみると普段と違ったふりふりの付いたあざとい学生服を着ている陽菜が笑顔で映っている写真だった。
やべぇ、可愛い。
ただえさえ美少女の陽菜がこんな狙ったような可愛い服にプロが撮ってるであろう写真映り。
そこらへんの雑誌のモデルなんかが霞んで見える。
「ホテル代別で1発10万はいけるぞこれ」
「うわぁー……」
褒めてるのに何故か陽菜の連れの友達にドン引きされてしまった。
現実的に試算してみたつもりだが10万じゃ足りなかったのだろうか?
そうだよな、褒めるときは少し大げさに褒めたほうが良い。
「すまん、訂正する。さっき言ったのはあくまで相場だ。俺なら50万は出せる」
「うわぁー……」
何でドン引きしてるの!?何が間違っているんだ!?
◇◇◇◇◇
「で、この女神の写真を見せてどうしたんだ?宗教の勧誘か?」
「その……写真の私が着ている制服が鈴木高校の制服……」
「このフリフリの制服が?」
「うん……」
写真を俺に見せてから恥ずかしそうに顔を赤くさせている陽菜はスラに顔を顔を埋めながら喋っている。
どうやらこの写真を見せることはすごい恥ずかしい事のようだ。
「私がさ、鈴木高校に合格してナオも鈴木高校に入学したら……毎日、これが見れるよ?」
「ほうほう、そうやって俺を釣る作戦か。で、この作戦は誰の入れ知恵だ?」
「鈴木高校の教師の赤神先生って人。これならナオくらい余裕で釣れるって」
「赤神先生?知らんな」
なるほどなるほど。俺の噂を聞きつけた鈴木高校の教師が俺を入学させる為に陽菜とグルになったって事か。
だが、陽菜の口ぶりからしてあっちの教師は俺の事をよく知っているような口ぶりだったが俺は全くその教師の事は知らない。
なんだがすごい操られているような感じがするが……だが今は相手の思惑通りに乗ってやろう!
何かすごく怪しい気がするが、この可愛いフリフリの制服を着た陽菜が毎朝俺の部屋に来て耳を甘噛みしながら『おはよ♡』て言って起こしにくる夢の生活ができるのなら喜んでその罠にひっかかりに行ってやろう!
それがジャスティス!それがフリーダム!それがレジェンド!夏野直人、鈴木高校に入学します!
「うおおおおおおおお!!俺はやるぞ!俺はやるぞ!俺はやるぞ!」
「なんでいきなりそんなやる気になってるの?」
「は?何を無駄口叩いてるんだ?今は勉強会の最中だぞ?」
「え?」
陽菜がきょとんとしながら首をかしげる。
「無駄口叩いている暇があったら勉強!奴隷!勉強!奴隷!しばくぞ!」
「え?ええぇー!?良く分からないけどナオは鈴木高校に志望するって事でいいの!?やったー!」
にぱーっと笑って喜んでいる。
「志望じゃない。俺は全く勉強してなくてもほぼ入学確定みたいなもんだ。そんな事より陽菜は自分の事を心配したらどうだ?」
「う、うん。私がんばるね!」
「そうだ、その意気だ!今日は陽菜を家に帰さないぜ!!」
「……へ?」
その後、残りの夏休みは全て1日14時間の猛勉強会となって陽菜の調教が始まった。
「わ……私ぃ、もうお家に帰るぅっー!!」
がしっ!
持っていたシャーペンを置いて脱走しようとした陽菜を捕まえる。
「家に帰る暇があったら勉強!奴隷!勉強!奴隷!しばくぞ!!土日も冬休みも休もうとか思うなよ!?」
「スラ、助けて~!!もう帰りだいぃ~!!」




