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「うおおおおおお!!」
俺は覗きポイントへ直接ダッシュで向かう。
まさかNPCが仕事放棄した挙句、陽菜の覗きを先に越されるとは思いもしなかった。
本来ならば無理矢理覗きポイントに向うと衛兵が目の前に現れてプレイヤーを強制排除する設定にしているが、その衛兵が覗きに向かってるんだから大丈夫だろう。
覗きポイントまで全力で走っていると赤い鎧に派手な仮面をした男が立っていた。
間違いない、フロ・ノゾイタルだ。
「やぁ、君が来るのを待っていたよ」
「ぜぇ・・ぜぇ・・・待っていた?」
フロ・ノゾイタルが俺に話しかけてきた。
俺を待っていただと?
ここは既に衛兵がやってくるプレイヤー排除領域だ。
まさか・・・これはNPCが独自に仕掛けてきた罠なのだろうか!?
ここで排除されたら陽菜のフロを覗きに行くことができない!
どうする・・・賄賂を渡してみるか?
「ではこのエロの刻の果てまで共に行こうか、なお君」
「・・・」
あ・・・分かっちゃった。
もうこいつ衛兵の仕事をする気がないな。
フロ・ノゾイタルはそのまま覗きポイントを目指して歩いていった。
俺はそのまま奴について行った。
「君には協力してもらいことがあるのだよ、なお君」
覗きポイントに到着する目前、フロが俺に喋りかけてる。
「・・・協力?後、なお君やめーや」
いい年した男になお君と呼ばれるのはなんか嫌な感じになる。
「露天風呂の女将が覗きポイントに兵を置いて守っているのだよ。そこで、私と共に出撃して兵を排除して欲しい」
「俺はそんなイベント作っていないんだが?」
「世界はもう、既に君の手から離れているのだよ」
「何かカッコイイ事言ってるけど、やる事はただの覗きだからな?」
「あそこ見ろ、なお君!」
「なお君やめーや」
覗きポイントを見ると、背中を丸め杖をついているアフロの老婆がいた。
今にも天寿を全うしてしまうんじゃないかと思えるほどの高齢だったが、何かとてつもないオーラを感じるような気がする。
「何っ!?女将が直々に防衛だと!?」
フロにとって想定外の出来事なのだろう。
わなわなと体を震わせて動揺する。
俺はてっきりゴロツキみたいな傭兵みたいなのが出てくると思っていたから意外だ。
うーん・・・困ったぞ。
罪もない老婆を実力行使で排除するのは後ろめたさを感じる。
「奴のステータスを確認してみるがいい」
「ステータス?」
言われるがまま老婆のステータスを確認して見る。
俺自身が作ったゲームなのでそこら辺のやり方は教えて貰わなくとも自分で簡単にできる。
「・・・なっ!?レベル514!?何かの間違いだろう?」
「んっふっふっふっ・・・私もよくよく運のない男だな」
俺が作って配置したラスボスの魔王はレベル100だぞ!?
なんであの老婆が魔王の5倍近くあるんだよ!?
もうあの老婆が世界を救えばいいんじゃないかなぁ!?
いやいやいや・・・そこまで慌てることでもないじゃないか。
このゲームの衛兵のレベルはゲームプレイヤーが無理矢理力ずくで女の子に酷いことをしないようにレベル1000に設定している。
つまり魔王の10倍のレベルを持った衛兵を味方にしているのだ。
老婆がレベル514だろうが万が一戦闘になったらこっちの圧勝だろう。
「君に言っておきたい事がある」
「なんだ?」
「今の私のレベルは・・・5だ!」
「はぁっ!?」
ステータスを確認してみると確かにレベル5だった・・・ゴミめ。
しかも俺が衛兵用に付けた特殊スキルも全くなくそこら辺の村人NPCと大して強さに差がない。
「私は過去を捨てたのだよ」
「つまりあれか?衛兵を退職してしまったせいか!?」
まじかよ・・・そこまでのシステムは全く考慮してなかった。
そもそも勝手に退職する時点で予想外だったが・・・
ってことは今の俺達の編成はレベル1の主人公とレベル5のNPCの弱小PTってことになる。
「戦闘ではまず勝てないって事か」
ならば急いで他の手を考えなければいけない。
俺が作戦を実行してから既に50分近く経過している。
遅くとも5分以内には覗かないと陽菜は風呂から出てしまっている可能性が高い。
考えろ・・・考えろ。
徹夜で作業をしていたせいかイマイチ良い案が出てこない。
時間だけがこくこくと流れる。
「レベルの違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!」
「ちょっと待て・・・俺が今良い案を考えてるから」
一応、俺の考えたゲームシステムは本人の身体能力や判断能力で戦闘の優劣を大きく決める仕様となっている。
だから本来ならば多少レベル差があっても数の暴力でなんとかなるようにはなっているのだが今回はあまりにもレベル差が大きく開きすぎている。
てか、もう戦闘前提なんだな・・・お前。
ちゃかりヒートホークみたいな物を手に持って準備体操しちゃってるし。
「フロ・ノゾイタル!出撃する!」
「ちょ!?・・・なぁにやってんの!?」
他に良い案がないかと考えている間にフロは老婆に向かって一直線にダッシュした。
どうやら老婆と戦うようだ。
「んっふっふっふっ・・・見せてもらおうか!老婆の性能とやらを!」
「キュルルルリンッ!!赤い・・・鎧!?フロ・ノゾイタルなのか!?ちぃっ!」
老婆は突撃してくるフロをすぐに察知して自分でニュータイプみたいな効果音を口ずさむ。
老婆もノリがいいな・・・
そのままフロが全速力で走り老婆との距離が5メートルまで縮む。
「速い!?」
俺は思わずぼそっと言ってしまう。
フロは現実世界の人間では出せない速さで走っていたからだ。
あれがレベル5っておかしいだろ!?
絶対に街人NPCの強さじゃないだろう!?
俺は開きっぱなしになっていたフロのステータス画面を見てみると、スキル欄に「通常の3倍」と書いてあった。
・・・こんな設定作ってないんだけどなぁ。
人工知能、自由すぎるだろう・・・
あの機械女神どもが作った人工知能って事を考慮するべきだった。
老婆は手に持っていた杖をフロに向ける。
すると杖の先から眩しいピンク色の光が発せられる。
まるでチャージをしているような感じでエネルギーが溜められているのが分かった。
えっ・・・それってもしかして!?
「こいつぅ!」
ドキューン!
杖の先からものすごい威力をしそうなビームがフロ目掛けて放たれる。
ビームは正確にフロを狙う。
ビームの太さは半径1メートルくらいだろうか、このまま何もしなければ間違いなくフロに直撃してしまう。
「当たらなければどうと言うことはない!」
フロはビームが来るとすぐさま土下座をしてビームが体の上を掠めて通り過ぎた。
なんで土下座なんだよ、そこはもっとかっこよく避けろよ!
そして回避されたビームはそのまま俺の方に向かってくる。
そう、フロの後ろには俺がいるから今度は俺がどうにかしないといけないのだ。
えっ!?これ、やばくね!?やばくね!?
「当たらなければどうと言うことはない!」
俺もとっさに土下座をしてビームを回避する。
危なかった危なかった・・・・もう少し遅かったら間違いなく俺は直撃だった。
ドーン!
「うおっ!?」
回避した直後、物凄い衝撃波が後ろから来て前に吹っ飛ばされてしまう。
体が吹き飛ぶレベルのビームってどんなだよ!?
俺は体に着いた砂を手でぱっぱと払いながら後ろを確認する。
「ま・・・まじで」
すると、さっきまで身を隠していた森が焼け野原になっていた。




