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 ピーンポーン!


 故郷からのメール受信後、しばらくしてインターホーンが鳴った。

 うるさすぎてお隣さんキレてしまったのだろうか。

 このまま放っておいたら母さんが応対に出るだろうが・・・ここは飼い主責任として俺が応対しないといけないな。

 スラも一緒に謝らせようとしたがインターホンの事など気にもせず何やら真剣な様子で画面を見ていた。

 仕方ない・・・俺一人で応対しよう。

 部屋を出て階段を下りる。


 すたすたすた。


 相手がお隣さんじゃなくて通報を受けた警察官とかだったらどうしよう。

 適当に説明して謝って帰ってくれればいいが・・・最悪、俺の親父アピールでもして無理矢理帰ってもらおう。

 下っ端警察官くらいなら余裕で帰ってくれるはずだ。

 役職はー・・・何だっけ・・・何か偉そうな名前だったんだが興味なさすぎて忘れてしまったな。

 とりあえず初めは下手に出て誠意を持って謝ろう。


 がちゃ


 「こんな時間に何のさ!?俺のパパは偉いんだぞ!?パパに言いつけてやるぞ!?」

 「・・・大丈夫?カウンセリング受けに行く?」」

 「失礼な、どっちかって言うと俺はカウンセリングをする方の立場だ」


 ドア開けたときに金髪が見えたから陽菜だと思って態度を変えたが・・・本当に陽菜でよかった。

 リターンのないスリルを味わうのはあまり面白いものじゃないな。

 

 「で、こんな時間に何用かね?」


 陽菜を見ると大きなダンボールを抱えていた。


 うねうねうね


 そして陽菜の体にはミニスラちゃん達がへばりついている。


 「えっ・・・話、聞いてないの?」

 「何も聞いていない」

 「ミニスラ・・・言ってないの?」


 ぴょん!ぴょん!ぴょん!


 ミニスラ達は逃げるように家に入って階段を上がっていった。 


 「とりあえず入っていい?」

 「あ・・・ああ。中に入って待っててくれ。俺、今から至急コンビニかドラックストアに行ってくるから!」


 じー・・・

 

 陽菜はジト目で俺の方を見る。


 「・・・卑猥な物を買ってきてもそれを使う機会なんてないわよ」

 「えっ?いらないの?」

 「すぅー・・・」

 「冗談です・・・お入りください」


 昔はこんな下ネタっぽい事言っても何を言ってるのか分からないようにきょとんした表情だったのに今では完全に見通されたようにジト目をされてしまう。

 陽菜よ、大人になったなぁ。





 「なお君に超重要なお願いがあります!急いでやって欲しい事があるのです!」 


 部屋に戻るとスラが慌てふためいていた。

 さっき受信したメールの事で俺にやって欲しい事があるのだろう。

 陽菜まで来てる以上、すごいめんどくさい事になりそうな予感がぷんぷんするぞ・・・


 「で、でもそれをなお君にやってもらうとしてもまだ準備ができてなくて・・・ピンチです!とにかくとってもピンチです!」

 「準備はできてるわよ・・・はい、これ」

 「うにゅ?」

 「ミニスラがスラに伝え忘れたのよ・・・」

 「そうだったのですか!それは良かったです!」


 いや、良くねぇだろ!

 何するか知らんが超重要な事を伝え忘れるなよ! 


 陽菜は持ってきた大きなダンボール箱を下ろして中身を取り出す。

 取り出したのはタブレットPCのような物だった。

 だが市販されているようなタブレットのように小奇麗な物じゃなく、スラが故郷に行くために作った車同様、ボロくて手作り感がある。

 捨てられて壊れたタブレットをベースとして修理した物で、割れている画面にセロテープが貼られていたりタブレットのふちをダンボールで補強されている。

 見た目だけなら小学生が修理ごっごで作った作品みたいな物に見えるが、恐らくこれにも機械女神の超技術が織り込まれているのだろう。

 

 「またゴミを拾ってきて作ったのか?」

 

 陽菜が少しムッとしたようになって言う。


 「失礼ね、ゴミじゃないわよ。まだがんばれる機械達よ」

 「はぁ・・・すいません」

 「そもそも、人間は機械を簡単に捨てすぎなのよ。そりゃ、人間から見たら機械なんてただの便利な道具かもしれないけど・・・。ちゃんと丁寧に作られた機械は日ごろからメンテナンスすればそうそう壊れないのよ。そもそもー・・・」

 「すいません、陽菜ちゃん!時間ないのでカットして欲しいのですが!」

 「あ・・・そうね、うん」


 ナイスだ、スラ。

 多分、あのまま陽菜に喋らせ続けていたら、俺に秘密にしてる事を陽菜自ら暴露して自爆する所だっただろう。

 

 「で、俺に何をやって欲しいんだ?労働の対価がちゃんと似合う物であれば協力してやるぞ?」


 って言っても残りのゴールデンウィークは全て俺自身の為に使うと決めたばかりだ。

 よっぽど俺の心が揺さぶられるものじゃない限りお願いを受ける気はない。


 「これでどう?」


 陽菜がダンボールからまた何かをごそごそ取り出して俺に手渡す。

 これは・・・?


 「・・・私が普段使ってる枕が今回の報酬品よ。これならOKでしょ?」


 陽菜は俺と目線を逸らして小恥ずかしそうに体をもじもじさせながら言ってきた。


 「なっ・・・!?」


 つまりあれか、今回の報酬は陽菜愛用の枕って事か。 

 これはまたレア度が高い物を報酬品として提示してきたな・・・!!

 ちゃんと俺の欲しがる物を分かってるじゃないか陽菜・・・

 ああ・・・やばいやばい・・・今すぐこの枕に顔をうずめてくんくんしたい!!

 陽菜ちゃんの香りを肺に一杯取り込み、酸素と一緒に全身の細胞に送り届けたい!!


 「一応言っておくけど、その枕にスーハースーハーした時点で依頼はちゃんと受けてもらうわよ?」

 「なっ・・・!?」


 俺は我を取り戻すと顔のすぐ近くに陽菜の枕があった。

 もう数秒もしない内に俺は幸せになっていた所だろう・・・


 だが、俺が何をすれば良いのかまだ聞いていない状況で契約してしまうのはまずい。

 こんなレアアイテムを報酬として提示して来たくらいだ・・・きっと命がけの事なんだろう。


 「まずは何をするか聞いてからだ・・・」

 「なっ・・・!?」

 

 俺は震える手で枕を陽菜に返した。

 きっと即答で受けると予想してたであろう陽菜は驚きの表情をしていた。


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