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「やっと日常生活編やはー」
ベッドに転がり漫画をダラダラ読む。
高校生になって初めて体験する貴重な貴重なとて~も貴重なゴールデンウィークの3分2を故郷旅行に費やした為、残った自由時間は少ない。
残った自由時間は漫画とゲームとインターネットに全て捧げると決めた。
今は午後5時だから晩御飯まではベッドから何があっても動かない!
「なお君!最近ペットのさんぽを疎かにしていませんか!スラちゃんはさんぽに連れて行ってもらう事を要求します!」
ゴロゴロしてる俺の上にスラが乗り掛かってきた。
「いや・・・勝手に行ってこいよ」
スラが美少女化して1ヶ月。
スラがスライムの時はご近所さんにスラの正体がばれない様(結局ばればれだったけど)に俺が散歩に連れて行ってやったけど今はその必要はない。
もちろん外出の制限なんてかけてないから、思う存分外に出て散歩して晩飯までに帰ってこればいいだけだ。
だからてっきり散歩当番の仕事は消滅したかと思っていたのだがまさかの散歩要求をしてきた。
「機械女神を飼う時は一緒にさんぽするのが大切なんです!」
「・・・散歩どころか故郷旅行したばっかじゃん。」
「えー・・・行きたいな~さんぽ」
スラは体に抱きついてスリスリして甘えてくる。
「少しだけでいいですから~」
「・・・」
「・・・はぁ」
俺は公園のベンチに座り込む。
「ダラダラ過ごすと決めたのにスラのおねだりに負けてしまった」
スラは久しぶりにスライム状態になって公園を意味もなく、ずっとぐるぐる跳ね巡っている。
おいおい、俺よ信じられるか。
人間と同じかそれ以上の知性を持ち何千年も生きている生物がさっきから公園内を意味もなく周回して楽しんでるんだぜ?
やってる事がそこら辺の犬と同じレベルなんだぜ?
・・・まぁ俺もさっきまで一緒に意味もなく周回してたが。
辺りを見回すと日が沈んできて暗くなってきた。
そろそろ回収して帰宅しようか。
「はぁ・・・はぁ・・・そこの隣・・・いいですか」
「ん?」
やつれた声がした方を見るとそこには老人が立っていた。
年齢は80・・・いや、90くらいの高齢の老人で松葉杖を持って体を支えている。
そして、公園に徘徊してくる老人には不相応なかなり質が良いスーツを着ている。
ただの高校生の俺でも違いが分かるほどだ・・・一体何十万するのだろうか・・・?
「はい、どうぞ」
「ふふっ・・・ありがとう」
俺は少し座っている位置を横にずらす。
老人は松葉杖をついて体を震わせながら・・・"死力を尽くして座ろうとする"
これは明らかに手を貸さないとまずい。
「大丈夫ですか。私の肩に手を回してください・・・そうです。そのまま私が支えますのでゆっくり腰を下ろしてください」
俺は少し前に本やネットで介護の知識を取り入れている。
ただ、知識だけではなく実践しなければ意味がない。
むしろ、下手に知識だけ身に付けてそれをぶっつけ本番で使うほうが恐ろしい。
俺はそう言い陽菜を言い包めて練習と称し陽菜に介護される役をやってもらった。
あの作戦はなかなか良かった。
今までやってきたセクハラ作戦の中でも最高ランクの結果が得られたと思っている。
まさかこんなに早く実践する機会がくるとは思わなかったが・・・
「はぁ・・・はぁ・・・ありがとう。」
「どういたしまして」
特に問題なく老人をベンチに座らせることができた。
老人の顔には死相が出て今すぐに救急車かなんかを呼んで病院に連れて行かなければまずいと思う。
だが、死にかけの老人とは思えないほど何かこう・・・そこらの人間とは違うオーラみたいなものを感じた。
何だこの老人・・・実は滅茶苦茶すごい人間なのだろうか?
「今すぐ病院に行った方が良いと思いますが・・・タクシーか救急車でも呼びましょうか?」
「はぁ・・・はぁ・・・いや・・・大丈夫・・・大丈夫だ・・・ありがとう・・・だけど、このまま居させてくれ」
「・・・分かりました」
老人は力を振り絞るかのようににこっと笑って優しい口調で答えた。
・・・
老人をベンチに座らせた後、俺はしばらく黙ってそのままベンチに座る。
今スラを回収して退散するのも何か気まずいし、だからと言って老人に何か喋る話題も思いつかない。
多分、この老人とただの庶民の俺とは生きている世界が違う。
そんな老人相手におっぱいは最高なんですよ!って言った所でまるで会話にならないだろう。
ぴょんぴょんぴょん!
スラが俺の所に戻ってきた。
「あ~・・・まだちょっと時間あるから気が済むまでぐるぐるしてこいよ」
ぴょんぴょんぴょん!
マジで行きやがった・・・
・・・おっとまずい。
この老人にとってスライムを見るのは初めてだろう。
びっくりして心臓発作起こして死なないといいが・・・
だが老人に驚いた様子はなくスラを暖かく見守っているようだった。
幻覚でも見てると思っているのだろうか・・・めんどくさいからそのまま幻覚だと思っておいてくれ。
「ふふっ・・・普段の君はそんな感じなんですか・・・」
「えっ?」
「もっとこう・・・自分主体で皆を無理矢理引っ張るがさつな少年だと思っていたんですけどね」
「失礼ですが、あなたは私の事を知っているのですか?」
「ふふふっ・・・さぁ?」
あれか、ボケてるのか?
俺はどうしたらいいんだ。
「・・・今の私があるのは何もかも君のおかげです」
「・・・えっ?」
これはやっぱりボケてるな。
「ふふっ・・・君は僕の事をボケ老人か何かと思ってるでしょうけど」
「は・・・はぁ」
ボケてるくせに心を読まれてしまった。
・・・ん、ボケてはないのだろうか?
「でも・・・今の君があるのは僕のおかげでもあるんですよ?・・・感謝してださいよ」
「あ、ありがとうございます?」
「さて・・・そろそろ帰宅するんですよね?僕のことは大丈夫だから行きなさい・・・」
「えー・・・でも」
「大丈夫、大丈夫・・・君に迷惑はかけないよ・・・さぁ」
「・・・分かりました。スラー!そろそろ撤収ー!」
ぴょんぴょんぴょん!
スラはいそいそと跳ねて俺の膝に乗ってくる。
そのまま乗ってきたスラを抱えてベンチを立つ。
「それでは失礼します・・・お元気で」
軽く一礼して俺はその場を後にした。
「・・・ありがとう・・・ナオ・・・スラちゃん」
老人が何かを言ったが何を言ったのか聞き取れなかった。
別に主人公特有の難聴スキルではなく、老人の声が本当に小声だったから聞き取れなかっただけだ。
俺はそのまま帰宅した。




