103話
「親切な人からプレゼント。ブドウ味のアメ玉1つもらう。ふふ~ん、このゲームはボクの独走状態なのだ!」
「よぉスラぁ。随分楽しそうだなぁ?」
「なっ、なお君!?」
陽菜グッズが陽菜に見つからないよう上手く車に隠した後、スラの様子を見るために病室に戻ってきたらスライムたちと遊んでいやがった。
「こっ……これは違うんです!手作りで作った人生ゲームの遊び方を先輩方に教えていただけです!デーモンストレートってやつです!」
「……デモンストレーションな。反省文、見せて見ろ」
「ま……まだ途中なので……」
机の上にあった原稿用紙を手に取る。書かれていた文字数は400文字原稿用紙2枚分だけだった。
俺が病室を出てから戻ってくるまで2時間くらいだろうか。つまり、病室を出る前に既に原稿用紙1枚分は書き上げていたから2時間で400文字しか書けていないってことか。
「……」
ざっくり読んでみても小学生並みの反省文。とても人間よりはるかに長生きしてる奴が書いてるとは思えないほど幼稚な文だ。
だがこの反省文に気になるところが一つある。それはこの原稿用紙が濡れて乾いたような跡が所々見受けられる所だ。これは――
「途中で寝落ちしてついたスラのヨダレか?」
「寝落ちはしてなかったわ。多分、泣いてた時の涙が原稿用紙についちゃったんじゃないかな?さっきまで号泣しながら書いてたから……」
陽菜が答える。スラの顔を見ると目を真っ赤にしていたから本当に号泣しながら反省文を書いていたんだろう。
「なんで反省文ごときでそんなに号泣しながら書いてるんだよ?」
「うにゅ~……」
「いや、うにゅ~って言われても。……まぁ、ちゃんと反省したって事は分かったから後3200文字は許しておいてやるよ」
「本当ですか!やったー!」
パン!パン!パン!
「うわっ!?な、なんだ!?」
周りからいきなり発砲音みたいな音がしたので反射で身を低くする。いきなり何だ!?
「"スラちゃんおめでとう~"」
「"お勤めご苦労様!"」
「"よっ、反省王!!"」
「ありがとうございます!これも先輩方のおかげです!スラちゃん、この経験を生かして現場ではもっとがんばります!」
どうやら発砲音は周りいたスライムたちが一斉にクラッカーを鳴らした音だった。部屋にいた全スライムがクラッカーを使ったせいで部屋中に紙吹雪と煙が舞った。
スラもそうだが、お前らたかが反省文ごときで大げさすぎじゃね!?
◇◇◇◇◇
「なお君、陽菜ちゃん。準備は出来ましたか?」
「……ああ」
地球に帰る為に乗って来た車に荷物を積み込む。来るときはお菓子で車内がキツキツだったがそのお菓子は全部スライムに配ってなくなったから大分余裕がある。後はわらわら集まってるスライムに別れの挨拶を済ませたら全部終わりだな。
……
「なぁ、スラ……」
「何でしょう!」
「その……あれだ。帰るのは良いんだが……オチも何もないんだが?結局俺、ここに来て何も活躍もせずに終わっちゃうんだけど?何かこう、敵との壮大なバトルみたいなのは何もないの?」
「そう言われましてもなお君もご存じの通り、先輩方は全員なお君の味方なのです!戦いたいのでしたら敵役になってくれるスライムを募集してみますか?」
「いやいやいや、そんな茶番したい訳じゃねーんだよ。ほら、もっとこう……あれだ。困難やピンチを乗り切る物語みたいなものをだな……」
「アヘられそうになった陽菜ちゃんを助けたじゃないですか!」
「だからその言い方もうやめてよ……恥ずかしい」
「……そうだ。司法取引では反省文と何かクエストをする必要があるって言ってただろう?あのクエストは何なんだよ?」
初めはスラを守る為に(陽菜のぱんつに釣られただけだが)機械女神と壮大なバトルみたいな事をするんだと思って気合入れて来たのに結局故郷に来てからやった事は茶番みたいな事しかやってねーじゃねーか。これじゃあスラの里帰りに付き合っただけじゃん。
「クエストはもう少し準備が必要らしいです!ついでに、クエストはあれです!」
「ん?」
スラが空に向かって指差す。かなり遠くにいてよく見えなかったがそこには鳥みたいな生き物が空を飛んでいた。
ギョエーギョエー
耳を澄ますとどこかで聞いたことがある不快な音が聞こえる。……これはスラが作ったガラクタと同じような音だ。
「あの鳥がどうしたんだ?」
「あれは昔、先輩方が暇つぶしで造った機械ドラゴンなのですがとても乱暴なので困ってたのです。そしてその機械ドラゴンを討伐するのがボクに課せられたクエストです!」
「あーはいはい」
「あの機械ドラゴンのせいで何度も故郷を焼き尽くされたり、ボクも食べられそうになったりしました!」
「ふーん」
いまいち盛り上がらないな。何というか、所詮はお前たちが暇つぶしで作った機械ってことだろ?結局、また茶番みたいなもんじゃん。
「あの機械ドラゴンを討伐する為に機械女神30人が戦闘もーどで殺す気で戦ったことがあるそうですが勝てなかったそうです!」
「戦闘もーど?あの鳥ごときに機械女神30匹が本気出して勝てなかったのか?」
「ですです。ついでに言いますとここからでは遠くて見えづらいですがあの機械ドラゴン、全長3キロあります」
3キロもあるんかよ。ここからじゃ実感できないが戦艦10隻縦に並べたくらいの大きさがあるんか。
「……って言ってもずっと放置してるんだからそこまで危険って訳じゃないんだろ?」
「こっちからちょっかいかけなかったらそこまで危険ではないですが……。下手に手を出すと死んじゃいます。蘇生装置を使っても蘇生できない完全な死です」
スラの表情から見るに、あの鳥は本当に関わったらヤバイ奴って事は分かった。ってことはさっき俺に黒を持たせたのは機械ドラゴンから俺を守る為だな。
「まぁ、本格的に討伐するのは数千年後くらいの予定なのでその時は手伝ってもらってもいいですか?」
「……数千年って俺はとっくに寿命で死んでるんだが」
なんだ、少しだけ焦ったがどうやら俺には関係ない話のようだ。どうぞ好きなように戦ってくれ。
「うにゅ?寿命?」
スラは首をかしげて俺の言ったことを分からなそうにしていた。
人間の寿命は100年くらいしかねーんですわスラさん。




