102話
叩き起こした黒にこれまでの事を説明する。正直、黒に説明しても問題が解決するとは思えなかったがこのままだと俺は詐欺師になってしまう。
「"……じゃあ、1ゴールド1円で。これなら分かりやすい……"」
「いや、分かりやすいと言えばとても分かりやすいがそんな簡単に決めて大丈夫なのか!?一瞬で円の価値が10%くらいになったぞ!?」
「"……んー……問題ない"」
「……そ、そうか」
売り子のスライムたちがパネルの空いている隅っこに「1ゴールド=1円!」っとペンで追記する。どうやらネットワークで全スライムに情報共有されたらしい。
「1セット5万ゴールドってことで俺は5万円払えばいいんだな」
売り子スライムに5万支払う。5万の出費は痛いが陽菜グッズの為ならば仕方がない。むしろ5万でも安く思えるほどだ。
「"あの!あのあのあの!(゜∀゜)"」
「"何でしょう?><"」
俺と一緒に並んでいたオレンジスライムが売り子のスライムにぷるぷる震えながら話しかける。スラに当てはめるとあの震え方は緊張してる震え方だな。何で緊張してるんだ?
「"せっ、セット購入者限定の特典はまだありますか!(゜∀゜)"」
「"あれはついさっき売り切れましたよ!(;´∀`)"」
「"(゜∀゜)"」
オレンジスライム、さっきまでの震えがぴたっとなくなったかと思えば今度は硬直して動かなくなった。
「……おーい、大丈夫かー?」
よほど特典がもらえなくてショックだったのだろう。試しに指でつついてみても全く反応がない。
「"なお君はお客様なのでちゃんと特典はありますよ!どうぞ!"」
「あ、ああ……悪いな」
ショックで呆然としているオレンジスライムの横で特典が入っているであろう紙袋を渡された。
「……」
よほどオレンジスライムは特典が欲しかったのだろうか、スライムに目なんてついてないのに俺が受け取った特典をガン視してるのは分かった。
まぁ、特典と言ってもしょせんおまけだろう?せいぜい陽菜のイラストが描かれたしおりとかクリアファイル程度の物だろう。
ひょっとしたら俺が立ち止まらせてしまったせいで特典がもらえなくなったのかもしれないし、そんくらいのおまけくらいくれてやろう。
「これが欲しかったんだろ?ほら、やるよ」
紙袋の中身も確認せずにそのままオレンジスライムに渡す。
「"……いいの?(゜∀゜)"」
「ああ。グッズだけでも十分満足だからな」
「"本当に、本当にいいの?(゜∀゜)"」
「しつこいやっちゃな。特典の一つや二つくらい――」
ガサガサ
オレンジスライムはもらった紙袋を開けて中身を取り出して特典を俺に見せてきた。
「"これだよ?(゜∀゜)"」
「なっ!?」
予想外の物に俺は驚いた。見せてきた物は人に見せるには少し恥ずかしい顔をした陽菜がスライムにまみれになって描かれていた何かのパッケージ。そしてパッケージにはこう書かれていた。
セット特典!! 陽菜ちゃんVS精鋭スライム(4K画質&無修正!)
「……ごくり」
生唾を飲む。これは……昨日の風呂の出来事をまとめた奴だよな?
そうか、そうだったのか。スラがテレビを真似たような実況やCMは俺に聞かせるのも兼ねてこの特典を作る為だったのか!!
オレンジスライムが欲しがる訳だ。
どうしよう……めっちゃ欲しい。気前よくプレゼントしておきながらとても取り返したい。
「……」
「"返すね(゜∀゜)"」
俺の気持ちを察したのかオレンジスライムは俺に返そうとしてきた。このまま黙ってれば間違いなくこれは俺の物になる。永遠の夜のおかずゲットだぜ!
……
…………
「"いや、やっぱいいや。やるよ。一度あげた物をやっぱ欲しい物だったからって言って返せと言うのはダメだろ"」
返された特典をまたオレンジスライムの上に乗せる。
「"でも――"」
「"正直俺もすごく欲しかったが中身も確認せずに適当にあげてしまった俺のミスだ。今回は高くついた勉強代って事で俺の為に受け取っておいてくれ"」
「"……"」
「ああ、でもな。飽きていらなくなった時は俺にくれよ?ブックオフより高く買い取りしてやる。それじゃ、俺はそろそろ戻るよ。またな」
俺はそのままグッズの入った紙袋を持って立ち去る。
……ちくしょー。ちゃんと確認しておけば良かった。まぁ確認した所で多分オレンジスライムにあげていたとは思うが……。
「"ありがとうございます!!(゜∀゜)この恩は必ずお返しします!!(゜∀゜)"」
ふりふりと体を左右に振って別れの挨拶をするオレンジスライムに応えて俺も手を降って返し立ち去る。




