101話
売り場では抱き枕、Tシャツ、マグカップなどなど陽菜グッズが10種類以上取り揃えている。さて、どれを買おう。いや、そんなこと考えるまでもないじゃないか。
「釣りはいらないから全部のグッズを5個ずつくれ」
財布に入っている全ての現金、53200円を売り子のスライムに渡す。オレンジスライムの言っていた為替レート通りだと高く見積もっても2万以上余分に渡す事になるがそのくらいサービスだ。良い物を作った職人への敬意を込めたチップみたいなもんだ。
3セット分は自分用、1セットはスラにやって残りの1セットは山坂にプレゼントするとしよう。
「"すいませんが、お一人様1個ずつが決まりですので(;´∀`)"」
「"そ、そう……。じゃあ1セットずつで」
「"ありがとうございます~。お釣りはー……んー?分からないのでこのくらいで"」
そしてお釣りとして俺の手元に帰ってきたのは……53000円。つまり百円硬貨2枚が1セット分の代金と言うことになる。
へー……200円で1セット分買えちゃうのかー。お得だなー。
…………
いやいやいやいや、安過ぎね!?
200円って事は20000ゴールドだろ?俺がさっき計算した時、1セット50000ゴールドだったぞ?30000ゴールド足りねぇんだけど!?
てか、分からないって何が分からないんだよ。正確な為替レートが分からないのか?それならそれでいいよ。納得しておく。でも、まさかお釣りの計算、小学生レベルの算数ができないとかじゃないよな!?……こいつらならその可能性も十分あるのが恐ろしい。
そう思っている間、スライムは大きな紙袋を持って俺に渡してきた。紙袋には半脱ぎになっている陽菜が描かれていた。
「"どうぞ!"」
「……ありがとう。ところでさっき代金として200円持ってっただろう?あれ、俺が思うに――」
「"もっ、申し訳ありませんでした!!やっぱりちょっとおかしいかなーって思ってたんですよ!!(°◇°;)"」
「やっぱ、そうだよな?まぁ、そんな小さいミスくらいあるある。気にするな」
なんだ、ただの計算ミスか。少し安心した。ただえさえ不釣り合いだと思う為替レートなのに200円で50000ゴールド分の品が買えてしまったら本当に申し訳なくなる。
不足金額300円か……小銭は持ち合わせてないから千円札渡すか。
もう一度ポケットから財布を取り出し――
「"はい、100円お返しします(;´∀`)"」
「……は?」
スライムはふよふよと100円を浮かして俺の手に握りしめさせた。俺に100円が返却されたのだ。
……分からない。このスライムが何をどう考えて百円を返してきたのかが想像もつかない。
俺が前提として考えていた為替レートが違うのか?金額的に考えると1円で500ゴールドになるのか?
「……あのさ。確認したいんだけど1円で何ゴールドになるんだ?」
「"分かりません!(。-`ω-)"」
「……さっき俺の後ろにいるオレンジスライムが1円100ゴールドって言ってたから、代金は500円が妥当だと思うんだが?"」
「"そうですかー。オレンジスライムちゃんの基準では1円100ゴールド何ですね!参考になります( ゜д゜ )ノ"」
オレンジスライムちゃんの中では……?何それ?お前がそう思うんならそうなんだろうお前ん中ではな、みたいな言い方。
まるで為替レートがスライムによってそれぞれ違うみたいな言い方じゃん。まさかまさか――
「じゃあ、参考に聞きたいんだが君は1円で何ゴールドになると思ってるんだ?」
「"250ゴールドですね!><"」
「……分かった。ちょっと待ってな」
「"(;´∀`)?"」
スゥー。ハァー。
大きく、そして深く深呼吸する。額に頭を当てて十分に落ち着き、そしてゆっくりと思考する。
……一体どうなってんだ故郷の経済は……?
どうしてこんなんで経済回ってるんだ?俺が経済に理解がないからこれがおかしいと思うだけなのだろうか?
まぁ、それならそれでいい……だが、一つだけ絶対におかしいと断言できる事がある。
「1円で250ゴールドだったら……代金は200円で合ってると思うんだが?何で俺に100円返したんだ?」
「"……やっぱり200円で合ってましたか( ゜Д゜)"」
「……」
「"やっぱりおかしいって思ってたんです!私、これでも算数には自信あるので!∩(゜∀゜∩)"」
「……ははは」
そしてスライムはさらに100円を俺に渡す。その謎の行動が俺には理解できず呆然としてしまう。
……何でこの話の流れで俺に100円渡した……?……why?
「"これで200円ですね!もう間違えません!(。-`ω-)"」
「お願い黒様起きて!!もう俺だけじゃ対処できない!!」
もう何振り構ってなんかいられない。ぺしぺしと黒を叩いて無理やり起こす。
まさかこんな事で機械女神のトップに頼らないといけないことになるとは思わなかった。




