100話
スラの反省文を書く作業を見続けても暇だから一人で外に出て散歩をする。
散歩してくると言った瞬間、スラが目の色を変えて付いて来ようとしたが陽菜がそれを阻止。
今頃、陽菜と他のスライムたちに見張られながら超絶しょんぼり状態で反省文を書いている所だろう。
「今日もいい天気ですね」
「"……"」
「最近、だんだん暖かくなってきましたね!」
「"……"」
「何かご趣味はありますか?」
「"……"」
返事がない、ただの黒のようだ。
部屋から出る時、ひょっとしたら危ない事もあるかもしれないから念のために持ってけと陽菜に手渡されたのは黒だった。
機械女神のトップが直々に俺の護衛をするVIP待遇を受けてるが、さっきから喋りかけても返事がない。実質一人で散歩だ。
有名ゲーム会社のスライムと違ってこっちのスライムは目や鼻や口といったものがないから表情が全く分からない。
だから動作でその時のスライムの気持ちや考えを予想するんだが、黒の場合はスラと違ってほとんど動かないし喋らないからいまいち何考えてるのかが分からない。どうやって接すれば良いんだ?
「おーい、そこのスライムさんや」
広場にいたオレンジ色のスライムに声をかける。
「"何かね?何かね?(゜∀゜)"」
声を掛けられたオレンジスライムはぴょんぴょん元気よく跳ねながら近寄ってくる。中々イキのいい奴だ。
「さっきから黒に声をかけてるけど返事がねーんだ。今の黒の気持ちを代弁してください」
「"寝落ちしてます(゜∀゜)"」
「……そうか、ありがとう」
そりゃ寝てたら返事が返ってこない訳だ。
てか、おいおい。俺の護衛はどうしたんだよ?早速護衛の仕事放棄しとるやん。俺、何のために運搬してるんだよ?
受け取った時には動いてなかったからこの分だと手渡された時点で既に寝ていたかもしれんな。
「"それじゃあ、買い物があるので!(゜∀゜)"」
オレンジスライムはふりふりと体を左右に振って別れの挨拶をする。
……ん?買い物?……気になる。
地郷高速道路の時は日本円で払ったが、スライム同士の買い物の時もそうなのだろうか?
ひょっとしたらドングリを通貨として使っているかもしれないし、物々交換で買い物をしてるかもしれない。
うーん、とても気になる。
どうせ行く当てもないから俺も付いて行こうか。
「もし迷惑じゃなかったら暇つぶしに俺も買い物に付き合ってもいいか?」
「"おおおおおお!!(゜∀゜)"」
オレンジスライムはスラがやってるいつもの喜びの舞を踊って感情を表現している。どうやら俺が付いてくるのが嬉しいらしい。
そうそう、そうやって動いてくれたら分かりやすいんだよ。
ぴょん!ぴょん!ぴょーん!
喜びの舞が終わったと同時にそのまま俺の肩に飛び乗る。
飛び乗ってきた衝撃で体のバランスが崩れないようずっしりと構えたが、飛び乗って来たオレンジスライムからはほとんど重量を感じられなかった。
「"ポケモン、ゲットだぜ!(゜∀゜)"」
それが言いたいが為に肩に乗ってきたんかい!
◇◇◇◇◇
肩に乗ってるオレンジスライムのナビに従って10分くらい歩くとまたスライムたちが行列を作っていた。
「この列に並べばいいのか?」
コクコク
オレンジスライムは頷く。どうやら並んで何かを買うらしい。
一体何を買うのかは知らないけどまた並ばなきゃいけないのか……。
だがここまで付いてきておいて今更別れると言うのもマナーが良くないし……数十分で買える物だといいけど。
ひょい
「"はい(*´ω`)"」
「ん?」
列の最後尾に並んでいたスライムが俺に最後尾と書かれたパネルと渡そうとしてきたので受け取る。
「何を買うつもりなんだ?」
「"限定品!(゜∀゜)"」
「限定品?何の?」
「"女の子にそんな事言わせるなんて恥ずかしい!(゜∀゜)"」
「……」
……スライムのくせに何言ってやがるんだこいつは。
◇◇◇◇◇
行列は朝の炊き出しと同じかそれ以上に長く、また数時間並ばなきゃいけないのかと覚悟していたがさっきよりもスムーズに流れ、30分も経たない内に列の先頭辺りが見えてきた。
何を売ってるのか確認してみると故郷放送局と文字が大きく掲げられて金髪美少女のイラストが遠くてもはっきり見えるほど大きく描かれていた。
まるでコミケの企業ブースみたいだな。てかあのイラストの金髪美少女って……陽菜だよな?
故郷放送局……陽菜のイラスト……まさか!
売り場に掲げられているメニューが読めるほどの距離まで列が進む。
そこには陽菜ちゃんストラップや陽菜ちゃんお風呂ポスター、陽菜ちゃん抱き枕などなど数多くの種類のグッズが売られていることが確認できた。
しかも全体的にエロい。あの抱き枕とかほぼ見えかけやん!
つまりこいつらは陽菜グッズを買う為に行列を作って並んでいたっと言う事か。
これはとんでもないラッキーだ。俺も滅茶苦茶欲しい!
「なぁ、あのグッズって俺も買えるのか?」
「"お金さえあれば(゜∀゜)"」
「金?日本円なら数万くらいあるけどそれでいいのか?」
「"レートは1円で100ゴールド!(゜∀゜)"」
「100ゴールド?聞いたことないな」
オレンジスライムに促されてメニューを見直すとそれぞれのグッズに価格が書かれている。例えば、抱き枕だったら10000ゴールド、Tシャツなら2000ゴールド、ストラップなら500ゴールドと書かれていた。
数字的には1ゴールド=1円の等価ならあのメニューに書かれている価格も妥当だと思うが、オレンジスライムが言うからには1円=100ゴールド。
つまりたった100円であの抱き枕が買えるって事になる。Tシャツだったら20円だ。
まぁ、機械女神の力で地球で人が生産するよりもはるかに安価に物が作れると仮定したらこのくらいの値段が妥当なのだろうか?
「日本と故郷に国交なんてないと思うんだが為替レートってどうやって決めたんだ?」
「"地球では1ドルで100円くらいなんでしょ?なら大丈夫でしょう(゜∀゜)"」
「あのあのあの!?まさか……まさかなんだけど、1ドル100円だから適当に真似して1円で100ゴールドにしたって事じゃないよな!?ちゃんと色々考えて決めたんだよな!?」
「"なお君!今は目の前の事に集中して!(゜∀゜)"」
「……えっ!?でも――」
オレンジスライムは俺の言ってることを無視して電卓を取り出してぱちぱちと数字を打って何かを計算し始めた。
「"今月のおやつ代を切り詰めて……んー……予算ギリギリOK!(゜∀゜)"」
どうやら欲しい物と予算の兼ね合いをしていたようだ。
為替とか経済とか全く興味がないらしい。
後、電卓使う必要ねーだろ。頭に入っている超高性能のCPUをほんのちょっぴり使えばあっという間に計算できるだろう。




