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機械女神スラちゃんの飼育日記  作者: エエナ・セヤロカ・ナンデヤ
第二章:スラちゃん故郷出頭編
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99話

  「……はぁ」

  

  俺は小さくため息をつく。

  裁判の弁護をする為に大切なゴールデンウィークを消費して故郷に来た訳だが、俺はほぼ何もしないで事態が収拾してしまった。

  まぁ、報酬品は既にもらってるし(黒にあげちゃったけど)人間に武器を向けた罰が反省文400文字とクエスト1つで済むなら安いもんだろ。


  ん、クエスト?クエストって何だ?

  ……いや、深く考える必要もないか。どうせ大した事じゃないだろうし。


  「以後ちゃんと気をつけます……許してください……」


  スラは反省文の続きを呟きながら書いていた。


  「……どうしましょう。がんばって書いてみたのですが後200文字くらい足りない……」


  「それ、原稿用紙1枚の半分くらいしか書けてないってことだよね!?どんだけ反省してねぇんだよ!?」


  「は……反省はしてます」


  その後スラはう~う~苦しそうにうなりながら反省文を書く。

  たった400文字の反省文を書く作業なのに、まるでビアンカかフローラどっちかを選ばなければいけないってくらいの悩み方をしている。


  「"がんばれ? がんばれ?"」


  苦悩しているスラに対し、スライムたちはスラにべったりと貼り付いたり、旗をふりふりしたりして応援している。

  

  「"りんごむいたよー。あーん"」


  「いただきます!あーん。……もぐもぐ。おいしいです!」


  「ってこらこら、あまりスラを甘やかしたらダメでしょ」

 

  その光景はとても見ていて微笑ましいものだった。


  正直故郷に来る前、スラは他の機械女神からどんな扱いを受けているのかと少し不安だった。

  学校では上手く立ち回ってクラスのマスコットキャラだが、基本スラはいじられキャラだからな。故郷ではいじめられてたりとかしてないだろうか気になっていたのだ。

  だけどもうそんな心配する必要はないな。スラは他のスライムを先輩方って呼んでいるが、この光景を見ていると先輩よりももっと親しい関係にあるということは誰にだって分かる。


  さて、もう裁判は中止したから俺が口を挟む必要もないが俺の言いたかった事くらいはこいつらに言っておこう。

  

  「スラ」


  「何でしょう!もしかして反省文を書くのを手伝ってくれるのですか!」


  「……そんくらい一匹でがんばれよ。話したいことがあるんだがこの中で一番リーダーのスライムはどいつだ?」


  「リーダーですか?別にプロジェクトが立ち上がっている訳ではないのでリーダーはいませんよ?誰でもいいので話してくれたらネットワークで全員に共有できますので適当に誰にでも話しかけてください!」


  「……じゃあスラと司法取引したスライムはどいつだ?」


  「司法取引はグループ会話を使って300人以上で話したので良く分かりません!でも強いて言えば赤スライムちゃんがこの中で一番先輩です。どうぞ」


  スラからひょいっと赤スライムを渡される。さっきテレビを物理で直してたこいつが一番先輩だったのかよ。


  「"あ?なんだ?"」


  赤スライムは俺の膝に乗って少し跳ねる。

  スライムのくせにそれぞれかなり個性が出てるがその中でもこの赤スライムは一番口が悪い奴だな。

 

  ……口が悪い?


  「おい、スラ。もしかしてこの赤スライムって俺たちが故郷に来るときに飲酒運転してぶつかってきた奴じゃ――ぐふっ!?」


  突然顔面にスライムをぶつけられたような感覚……赤スライムが攻撃してきやがった!


  「なお君!」


  スラが慌ててやってきて俺の耳元でこそこそと喋る。


  「あの件は示談してなかった事にしてるんです。この事が他の先輩方にバレると赤スライムちゃんの裁判になっちゃうので……」


  「そ……そうか」


  周りのスライムに聞こえないよう小声で喋っているつもりなのだろうが俺の体にもたくさんスライムがべったり貼りつかれているから聞かれてると思うんだが……。

  それをスラに言ったところで聞かれてたらもう手遅れか。


  気を取り直して赤スライムと話をしよう。


  「えーっとな。裁判が中止になった以上、スラの弁護をしても仕方ないんだが俺の言いたい事は言っておくぞ」


  「"ほう"」


  「不良とトラブルになった時、スラが助けてくれた事に俺はとても感謝している。正直、スラがいなかったら取り返しのつかない事になっていたかもしれない。確かにスラのやった事は少し行き過ぎた所もあったかもしれないがそれに対しての反省文を課すならば、あの状況になってしまった俺であってスラじゃない。それでもスラが悪いって言うならばどっちにしてもスラの監督責任者である俺が責任を取るべきだ」


  「"……"」


  「だから司法取引で反省文を書かされる事になってしまったが、俺はスラが反省文を書く必要なんて全くないと思っている。人間に武器を向けた事は確かに問題だが――」


  「"おい、夏野。お前勘違いしてるぞ"」


  「……勘違い?」


  赤スライムはうねうねと体を横に振りながら言ってくる。

  俺は一体何の勘違いをしてるって言うんだ?スラが必要以上に過剰防衛したって事じゃないのか?


  「"むしろあの時スラがやった事はGJだ。仮に不良の片腕一本吹っ飛ばそうが私はスラを罰する気なんてない"」


  ……今何て?片腕一本やっても問題ない?

  いやいやいやいや、それこそ裁判だろう!?そこは罰しておけよ!?それで無罪は駄目だろう!?


  「"腕の1本2本、後でいくらでもくっ付けられるからな。問題はそこじゃない。問題はスラが怒られると思って私たちに報告しなかった事だ。おい、待て!"」

 

  「うにゅ!?」


  こっそり逃げようとしていたスラを赤スライムが捕まえてずるずると部屋に引き戻す。

  

  「あの時は故郷と連絡をとることができなかったんじゃないのか? 合宿が終わった後、スラが変なガラクタを作って初めて故郷と連絡を取れるようになったと思ってたんだが」


  「"私たちは戦争する為の機械女神だぞ?もしもの時に備えて緊急連絡する方法は常に持っているのにスラはそれをしなかった"」


  「そ……それは……緊急連絡をする必要もない事だと思ったので……」


  「"で?合宿が終わった後、事後報告ってか?"」


  「は……はい」


  「"本当に……本当に事後報告する気はあったのか……?バレてなかったら事後報告すらせずにうやむやにする気じゃなかったのか……?"」


  「……」


  スラはプルプル体を震わせて目を泳がせる。

  なるほど、そういうことか。ただ、元気にしてますっと連絡を入れる為だけの目的ではなかったのか。

 

  ……てか、怒られると思って連絡しなかった事に関して裁判されてたら俺がどんな弁護しようが勝ち目なんて万に一つもねぇよ。

  あれれー?これはもしかしてー?


  「スラ、一つ聞きたいことがあるんだが……連絡を入れなかったから裁判になったって事もスラは知っていたんじゃないだろうな?で、スラにとって都合が悪すぎるから俺にそこらへんの説明をしなかった……」

 

  「そ……そ…………それは…………」


  「報告、連絡、相談。報・連・相は大事だっていつもいつも俺、言ってるよなー?」


  「……」 


  どうやらスラは自分の処理能力を超えたようで完全に固まっている。 


  「あーあ。だからナオには言っときなさいって言ったのに……」

  

  陽菜が小さくため息をつく。


  「"おい金髪。お前は不良と揉めたトラブルはいつ知ったんだ?"」


  「ええっ!?私!?私はー……私はー合宿の後に知ったのよ。うん、何もかも全部終わった後よ!」

  

  いや、確かトラブルが起きた直後には陽菜は全部知ってたはずだ。さては身を守る為に嘘をついたな?

  陽菜は俺の方を見てアイコンタクトを送ってる。

  ああ、分かるぞ分かるぞ。『黙っててくれ』って言いたいんだろう?

  今度俺と添い寝してくれたら黙っててやるっと念を込めてアイコンタクトで返事をする。


  こくっ


  陽菜が小さく頷く。

  よっしゃ!添い寝権ゲットや!絶対陽菜分かってないだろうが頷いたんだから言質はとった!言質はとった!

  いやっほーーー!!


  「まぁ、終わった話だ。それに陽菜は関係ないだろう?」


  「"いや、関係――"」


  「それよりも……それよりもだ。スラちゃんの方だよな~。ねぇ、スラちゃ~ん?」


  「……は……はい」


  「ねぇ、スラちゃんのご主人様ってだ~れぇ~?」


  「……な……なお君です」


  「その大切な大切なご主人様を騙そうとスラちゃん今どんな気持ち~?」


  「……そ……その」


  「許して欲しい?ねぇ、許して欲しい~?」


  「……すみませんでした。許して……欲しいです」


  「じゃあ、許してあげちゃうよ。だって俺、超優しいしぃ~?」


  スラは固まったまま動こうとしない。長い付き合いだから分かってるのだろう。

  許すと言っておきながらペナルティをくらうだろうと言う事を。


  「スラちゃ~ん。反省文、400文字はもう書けたかなぁ~?」


  「は……はい。大体、書けました」


  「そっかぁ!良かったねぇー!じゃあ後……3600文字、がんばろっかぁ?」 


  「3……3600文字!?」


  「書けるよねぇ~?」 


  「か……書けます」


  計4000文字、原稿用紙10枚分。今から6時間もあれば十分書きあがることができるだろう。

  てか、6時間でチャラにできるなら生ぬるい方だろう。

  ……まぁ400文字で四苦八苦するスラにとっては……。


  スラは絶望の表情をしながら小さく頷く。そしてスラはかつてないしょんぼりした様子を見せながら机に座りなおして鉛筆を手に取る。

  そして何故か他のスライムたちも震え上がってプルプルしていた。

  

  「ナオ、気持ちは分かるけどちょっとやり過ぎじゃない?もうちょっとだけ減らしてあげようよ。せめて2000文字くらいにしてあげない?」


  「……えっ?」


  そしてさらに何故か陽菜に文字数を減らされるように頼まれる。

  その表情はスラに対してすごく同情的だった。


  ……そこまで無茶な事言ってるつもりはないんだが。

  えっ?もしかして俺がおかしいの?  


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