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悪霊狩り  作者: 仙人
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一:プロローグ

 渋谷駅に降りた北島守は、109ビルの脇を過ぎ道玄坂を登り始めた。

 今日は朝からシトシトと雨が降っていたが今は止んでいる。師走も半ば過ぎなのに、それほど寒くはない。

時間は午後二時。約束は午後二時三十分だった。

 渋谷という街はどこも若者たちでいっぱいだ。

 道玄坂上には産業地(料理屋・芸者屋・待合茶屋)の入口があり、目印に交番が建っている。


 北島の目当ての場所は、道元坂上から入って円山町の検番(三業組合の事務所)があったビルの近くにあった。そこは九階建の春名マンションと呼ばれている。一階は店舗となっていて三軒の店が入っている。その中の左端の事務所がそれで、看板を見ると不動産屋であることがわかる。

 十五分ほどはやかったが北島はドアをあけて中に入った。

 「いらっしゃいませ」と事務員の若い女性の声がした。

 北島は約束の物件を見せて欲しいと伝えた。



 北島と事務員の女性は、井の頭線の神泉駅に近い真新しい賃貸マンションの入り口に立っていた。

 北島には、すでにこのマンションに住んでいる人間以外の「妖しい物」が観えていた。彼のうつろな目は、このマンションが建つ前のボロアパートの全景までもとらえていたのだ。


 事務員は彼の職業を知らない。不動産屋の社長武山からこの物件までの案内をすればよいと説明されてここに来たのだ。彼女は北島にここで何をするのか聞いてみた。

 だが、北島の口はまったく開かなかった。

 『そういえば先ほどまで人通りが絶えなかった道路にまったく人の気がなくなった』と思って彼女は周囲を見まわした。まだ午後三時前だというのに急に薄暗くなってきたようだ。それからかなり冷えてきた。

 やがて黒で統一された服を着こなし、かなり引き締まった北島の体から金色のオーラがほとばしり出た。彼の髪が逆立っている。目は裏返って白眼となった。口は不気味にゆがんでいる。そして彼の周囲にだけ激しい風が吹いているようだ。

 彼女はその状況がすべて観えたため、おもわず数歩後づさった。背中が道の反対側の壁にぶつかった。そこで彼女は改めて北島をみて唖然とした。


 その時、北島の口は大きく開けられていた。そしてその口に向かってマンションの内部から白光の帯が飛び込んできたのだ。

 その帯は数秒続いた。

 そしてすべてが一瞬にして元に戻った。

 北島は彼女に先ほどまでとは正反対の慈眼をむけてささやいた。


「もうもどりましょう。」


 彼女は壁にはりついたまま、自然にうなずいていた。



 事務所のソファーには社長の武山と向い合せに座した北島は、茶をすすりながら武山に報告をしていた。

 武山は現金の入った封筒を差し出した。北島は少し微笑むと封筒を胸ポケットに収めて立ち上がり、事務員の彼女に片手をあげてそのまま外に出て行った。

 彼女の名は松本利沙という。実は武山の娘である。事情あって武山は妻とは離婚している。その妻が最近急死したため娘を引き取り事務員として働いてもらっているのだ。


「利沙はまだこの会社に入ったばかりで彼のことは知らんだろう。私もお前に教えておくのを忘れてしまった。」


 利沙は、父である社長の言葉にいちいちうなずいた。


 「北島という男は、悪霊専門の退治屋なんだよ。だが彼は拝み屋や霊能者なんてものじゃない。彼のことを神通術師というらしい。神通術とは世のため人のために神とともに修行した技と術を使うことを意味しているらしい。」

「住んでいるところは不明なんだが、連絡はすぐにつくという変わったやつだ。彼とは二年ほどの付き合いなんだ。不動産屋などやっていると結構物件によっては幽霊話がついてまわるんだよね。」


 利沙はまだ心臓がドキドキしている。


「今日の物件の話は利沙も知っているだろう。」


 そういわれた彼女は思い当たることがあった。先日も例のマンションの客からマンションの玄関に一ヶ所だけ水たまりがあったという苦情があったのだ。管理部の者にすぐに拭きとらせたのだが、翌日もまた水たまりがあったということだった。

 その他にも玄関で突如足をすくわれて倒れるという事故が数件よせられていた。


「社長、そのことと幽霊が関係あるのですか?」

「それがあるんだ。実はあのマンションの前身のアパートで、電力会社の職員の女性が湯船に沈められて殺されているんだ。」

「まさか、そのことで・・・」


 社長はハゲ頭を手でなであげ、父親らしいやさしげな顔を彼女に向けて大きい声で強調した。


「そのまさかなんだよ」


 節くれだった短い指で湯飲みをつかんで茶を口に運び、一口ずずーっとすするとこのように説明した。


「利沙はまだ聞いておらんだろう。実は人殺しがあった直後からアパートでずぶ濡れの幽霊を見たという人が沢山出てな、ついにそのアパートは人が住まなくなり取り壊されて今のマンションに変わった。でも幽霊は残っていたようで相変わらず奇妙なことが起きて困るとちょくちょく私の耳に入っていたんだよ。」


 社長は声の調子を一オクターブ低く変え、凄みのある声を出した。


「血まみれの姿で入口を出たり入ったり、時にはうめき声を出して脅かすこともあったそうだ。」

「・・・というのは、ウソッ」


 彼女はガクッとした。


「社長ーおどかさないでください。」


 社長はエッヘッヘッヘッと笑いながら続けた。


「とにかく、観える人には何かが見えるらしい。つまりだ、変な噂が広まる前に手を打ったというわけさ。利沙も彼が何かするところを見ていたんだろう。実際はどうだった?」


 そこで彼女は詳細に先ほど経験したことを話した。

 話が終わると社長は一言つぶやいた。


「それでよい。」


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