第7話 青白い妖刀
2016/1/22 文構成を修正実施
上村達は中央道を走行している。
先日起きた生物の襲来を受けた場所の調査を行う為と、調査中の自衛隊員より生物の所有していた武器が見つかったとの報告を受け、急遽現場である長野と岐阜の県境まで行く事になり、空の移動が出来ない現在移動は電車か車に限られ、上村の私用車に宮田と二人で麓に雪がまだ残る北アルプスの山々を横目に、高速を進む。
宮田は生物が残した武器を上村が使えればと言う事だったが、上村は第一部隊の大島隊長も同じ武器を使用している事を思い出し、その事を宮田へ質問した。
「あの武器は、大島が直接討伐して手に入れた。大島と同じ接近戦が出来るタイプのお前が持てば、強力な武器になるからな!」
宮田は以前大島を嫌いとは言っていたが、その答えを聞くとあの特殊能力の実力は認めているようだと上村は思ったが、上村に大島同様の力を求めているのであればそれは無理な話で、大島は刀術の達人で自分にも同じ腕を求めるのは間違いな気がし、接近戦であればハンドガンでもいいのではと上村は考えている。
移動中の車内で、宮田に第一部隊と第二部隊のメンバーの詳細を確認した。
第一部隊のメンバーは4人で。
まずは大山 由希子。
彼女は元々防衛省所属で、元々は大島隊長の部下で大島の推薦で第一部隊に配属されたそうで、彼女は昔の同級生と話すと「全然ちがうな!」と一言。
頭ですか?性格ですか?の上村の問いに「彼女は秀才だ!お前は頭悪そうだしな!」と返答される。
まぁ間違っていませんとも、私は頭悪いチームですよ。
でもなんか、面と向かって言われると気分は良くない。
彼女は相手の数手先を読む力があり、防衛省時代もその能力を使って数々の交渉や戦闘をこなして来た才女との事で陸軍の宮田隊長も一目置いていて官僚達の間でも有名らいしく、結構美人でもあるらしい。
・・・まぁ、それは置いといて。
次に大山 修。
彼は射撃とダーツのプロ選手で長野で発生した第2生物を撃破した人物で、警察庁の推薦で配属されてそうだ。
世界を飛び回る生活を送っているので世界中に顔が売れていて、日本よりも世界ではかなりの有名人らしい。
彼の特殊能力が推薦を受けた最もの理由らしく、どんな物でも遠距離射的出来る能力で、例えばモデルガンでもその物に念を込めれば推定数十キロまで飛ばせる能力で、中二病的に言う【念射】が出来るらしい。
それって競技で使えばインチキでは?と上村は思ったが、どうやら近距離では発動しないらしく、本人も今回の襲撃時に始めて使えることに気付いたそうで、恐らくかなりの距離を狙う時しか発動しないらしい。
しかし、その能力はかなり有効で、エアガンであろうが弓であろうが生物の特殊能力の圏外からでも攻撃出来るとの事だ。
ちなみ彼女と同じ大山だがまったく関係ないそうだ。
次は鈴森 陽輔。
彼は頭の切れる作戦参謀的な役目で、大島隊長も普段は彼にまかせて別行動を取っているくらいらしい。
元はソフトエンジニアで国家公務員に中途で入り配属先は内閣官房省だったが、そこでの評価と政府はまだ正式に公表していない最初に現れた生物を撃退した時の能力を認められての入省らしい。
最後に井田 恵子。
彼女は隊のサポート役がメインで、防衛省時の宮田の部下で宮田と話が合うらしく性格はそういう系と上村は理解する。
以上が第一部隊で現在東北へ出向しているメンバーで、そして第2部隊のメンバーの一人はこれから会う予定で名前は増田 隆之。
宮田も正直よく知らないらしい。
鈴森と一緒に最初に現れた生物討伐に参加した人物らしいが、最初の襲撃の事は正式に発表されていない為政府内でも一部の人しか情報を知らないらしく、何処で発生してどのように撃退したか、政府は今だ只隠しにしている。
何処に現れたか知らないけど、結構な生物の数が出ているはずなのによく隠す事が出来ると思う上村に、宮田としても会って話がしたいと言うが果たしてあなたで話がまとまるのか・・・。
今日はこのまま現地入りして明日の朝から現場へ向かう事になり、翌日2人は生物と争った現場に着いた。
そこは草一つ生えていない焼け焦げた大地になっていて、その場で交戦した自衛隊はほぼ全滅しその後に第一部隊が助太刀して生物をほぼ殲滅したが、残り数体の生物は霧のように消えて姿が見えなくなったそうで、ガソリンの焦げた臭いなのか、それとも死体の焼けた臭いか、硫黄とも言えない鼻に来る激臭が微かに残っていた。
その視線の先に一際存在感を示す1本の刀が太陽に照らされ、青白い不気味な光を放ちながら大地に刺さりその光を放つ姿はまるで妖刀のようで、それを見た宮田はその刀を大地から引抜き刀の刃先を見る。
「どうやら大島と一緒の物だな!」
「なんか、手に取ったら呪われるとか・・・。」
「ハハ!それはないだろ!ほれ!ワシが持ってもこのとおり!」
本物の刀なんて城を見に行った時に博物館とかで見た程度だが、目の前にあるその刀は今まで見たことのない水色の刃先をしている。
宮田はその刀を振り回し、振り下ろされた軌道から水色の光が残像を残すその刀を一通り見終わった宮田は、その刀を上村の前に突き出した。
「よし!お前持ってみろ!」
「あ、は、はい。」
上村は宮田から突き出された刀を恐る恐る手に取ると、突如手から何かを吸い取られるかのような体中の血液が手に集中している気分になり、しばらくすると全身の力が抜けて崩れるように地面に膝まづいた。
「こ、これは・・・。」
「うむ!大島の刀もそうだったが、どうやらこの刀は使う者の体力を吸い取るようだな!恐らく表面から光る鈍い光は体からの気!」
「気を吸い取る?」
「そう!刀より溢れるその気で相手を切り裂く!」
その刀は使う者の気を吸い取る事でその気を刃先に纏い、プラスティック同様に生物にダメージを与えられる事が可能と言う事で、体力の弱った生物が残りの気を吸い取られる事を恐れて刀を置いて逃げざるを得なかったのではいかと推測される。
だが、その持ち主はまだ生きているのだろうかと上村は考えるが、同様に大島の持つ刀は残っている為この刀は消えないのか理由はまだ解明できていないそうで、力を取られ地面に座り込む上村に宮田は人差し指を突き出した。
「お前はこれを使いこなせるようにしろ!」
「この刀を、ですか。」
自身が刀を握った時間はおよそ僅か数秒であり、それだけ持ってただけで体中の力が抜けてしまう刀なんて正直役に立つかどうか上村は不安だったが、その不安を消し去るかののような大声で宮田は話す。
「大島はこれを、自由に使いこなす事が出来る!それは気をコントロール出来ているからだ!これは一撃必殺用の刀だ!敵に当てる時だけ気を出せばいい!だから一瞬使えればいいから、使っても今のようにヘタらない体力をつけろ!」
確認出来ている生物の動きは以外と常人でも対応出来る素早さで、接近戦の出来る上村は相手の間合いに入る事は難しく無く、その時の一瞬で刀を振るえれば問題なく、大島隊長のようにコントロール出来ればかなり有効だがこればかりは鍛錬が必要だが、とりあえずは数分使えるくらいであれば決して難しい課題ではないと上村は感じ返事をする。
「わかりました、やってみます。」
「おう!そのいきだ!!なんなら大島より持てるようになってしまえ!」
「・・・それは無理っぽいです。」
「なぬ!今から諦めてどうする!よし!今日から私と特訓するか!?」
「い、いえ!まずは自分の努力で克服したいと思っております!」
「おし!いい心構えだ!がんばりたまえ!」
上村は根性アピールをする事で宮田の特訓をなんとか切り抜けられたが、以前に言われていた課題も全然やっていないとも感じている。
この刀が使えれば百人力だし刀が振り回せるなんてちょっと夢のようで、普通だったら即逮捕だもんねと考え、よし!今日から筋トレだ!上村は誓いを新たにする。
「よし!それでは戻るぞ!」
宮田が振り向いて張り切って歩きだすが、あれ?なんか忘れてません?と上村は切り返す。
「あの・・・隊員と合流する予定じゃ」
「お!そうだ!全然忘れてた!アハハ!」
やっぱりこの人なにか抜けている・・・。
この調子じゃ、増田に最初の生物の話を聞くのも忘れてると思う。
「それでは一旦戻るか!?」
「え?でもここで待ち合わせじゃ・・・。」
「お?そうだったか!?じゃあワシは向こうでトレーニングしてくる!」
「はぁ、私はここで彼が来るのを待ちます。」
「では頼んだぞ!!」
隊長はそういい残し走り去って行った。
て言うか、あなたがこの刀持った方が持続時間長そうですけど?
なんで、あのガタイで使う武器ナイフなの?
そしてなぜ戦闘行動はアサシンなの?
素早さを追求すると筋肉って邪魔じゃないのですか?
やっぱり謎の人だ・・・。
まぁハリウッドの有名なコンマドーの映画でも、ムキムキマッチョなのにナイフで攻撃していたし。
そういうのに影響受けているのかな。
宮田と別れた上村は、近くに設営されたテントへ戻る。
テントの中は簡易的な検査が出来る設備が整然と並んでいて、白衣を着た一人の男性が黙々とパソコンの画面と睨めっこをしている。
方耳には電話を挟みながら会話をする姿に上村は誰かと連絡を取っているようだと感じ、室長との声が聞こえたのでおそらく相手は菅野だろうと推測する。
菅野はこちらの戦場後の分析とかも行っているのだろうかと考えた上村は、だとすれば菅野は多方面に仕事がありそうで大変そうだと思いながら、話を続ける男性を横に隣のテントにある休憩所へ入る。
休憩所は2人掛けソファーのような物がいくつかあり、上村はその一つに腰を掛け貰ったばかりの刀をその横に置きホルスターから銃を抜き、それを横に置くとしばし前を見つめる。
こういった時は余計な事を考えてしまう。
つまらない昔話と妄想を。
「博士は大山が楽しみしてると言っていたが、やっぱりそれは社交辞令的なものなのかな・・・。」
こういった時に上村の考える事はやはりくだらない事だったが、以前に比べれてそれはより現実に近くなった妄想だ。
今まで何処にいるかもわからなかったのだから。
「いや、でも一度は気になったかもしれないのだから、少しは本心なのかもしれな。ただ、隊長の話だと美人で官僚からも評判がいいらしいから既に玉の輿になってたりするのかな。あ、でもそんな時に私と劇的な再会!そこで歯車が動き出す!」
上村の妄想が暴走し始める。
「はぁ・・・、何を期待しているのだか。私と彼女じゃ今や月と地下モグラ並の差があるんだぞ。私はしがないサラリーマンで彼女は官僚のキャリア組じゃ、そりゃ妄想してもへこたれるでしょ。今じゃ身分が違いすぎる・・・。」
上村がソファーの上でうな垂れているその時テントの外から大きな声が聞こえる。
宮田の声は何処でも何時でも元気でうるさいが、その声がだんだん近くなり内容が聞き取れるようになると上村と大声で叫んでいて、慌てて刀と銃を取りテントの外へ出る。
隣のテントを横切る時、先程の白衣の男性は慌てた顔で電話をしていて、どうやら、宮田とその白衣の男性の言いたい事は一緒らしいく、外に出ると、宮田が真剣な表情で向かって来て話し出す。
「おい!ここから隣の県で第2生物が出たらしい!我々も向かうぞ!」
「解りました、でも増田さんは。」
「ワシはアヤツの連絡先を知らんから、後で合流するしかないだろう!敵は確認出来るだけで3体、しかも第2生物だそうだ!」
「私たちだけで大丈夫でしょうか。」
「なーに!その刀の切れ味を試しに行くには絶好ではないか!それに増田もすぐ応援にくる!」
第2生物という事は恐らく自衛隊では無理な部類で、丁度上村達が近くにいた事を知り第二部隊に応援の要請が来たそうだ。
考えている暇は無い。
第2生物が3体も居るのであれば恐らく自衛隊は数時間で全滅する戦力で、戦力減退も問題だがそれより人が死ぬのを解っているのに遅くなるのは嫌だ。
「急ぎましょう!」
上村は車のキーを捻り暖機運転もせずに速攻で走り出す。
第二部隊2名は、第二生物の発生した岐阜へ向かった。