第3話 懐かしい声
2016/1/11 文構成を修正実施
あの事件から1週間が経った。
事件のあった地区は立ち入り禁止になり住民はすべて別の地域へ移住する事になったが、移住に関しては政府が関与し今回の事件は幕を閉じ、上村は今回の事件の解決者であり数少ない目撃者である為、状況説明等で暫く警察本部へ行く事となった。
聴取の内容は今回の事件の首謀者的な者の行動や撃退までの経由などで、上村が戦闘で感じた貴属は当たることなくすり抜けてしまうが、プラスティック弾でケモノを腐食させた事も説明したが、ケモノの死体は撃退後煙のように無くなってしまった為、結局属性等に関する構造の確認は出来ず、そうなると一番近くに居てケモノを討伐した上村と、工具を投げた勇敢な男性しかケモノに関する情報を持っておらず、その他にいた周りの数十人は全てケモノの餌食になってしまっていた。
上村は、あの勇敢な男性とはまだ話もしておらず、男性は重症ではないがしばらく入院が必要らしいので、あの人のおかげでトリガーを引く時間があったのだからと上村は思い、後でお見舞いに行こうと考えていた。
とりあえず、本日の取調べが終わったので宿泊予定のホテルに戻る。
あの事件以来ケモノのような生物は今の所現れていないが、駅前のビルにある巨大モニターのニュースでは今回の事件の話をしていたり、町の会話やワイドショーではこの話で持ちきりだ。
自分は素人なのでマスコミなどの相手をしたくないと話した所、警察は上村の事は口外せず警察管内で解決した事にして貰い、その代わり会社・家族など、一部の人には説明をしてもらい、上村の勤める会社からは捜査に協力するようにと要請を出してもらうと、会社は即座に長期休暇を出したが、その時私は会社に必要ないのかなとかとちょっぴり思いをし、その事を再び思い出した上村は、少し寂しい気持ちになったらお腹が空いた。
「とりあえず飯でも食べるか。」
腹を満たす為にご飯屋を探しだす村上は、あまり好きではない人ごみの中を歩きながら都会の人の多さに圧倒されながら本日の食事場所を探る。
休日も山や遠い地方などへドライブに出かける上村も都心となると話が別で、やはり地方のこじんまりした店で一杯やる方が似合っていると思うと、多くの人が立ち止まる交差点で信号待ちをしながら、なるべく路地裏の人が少なそうなお店を選ぶ事を考え、人が少ないと料理もおいしくないと思うが、おいしくなかったら弁当でも買おうと諦めながら辺りを見渡しながら歩き出す。
暫く歩いた狭い路地の一角に漆喰の壁が美しい一軒の料理屋があり、見た目はちょっと敷居が高そうなお店だが、こう言った店は人もあまり居なそうだし、領収書をとれば警察で経費で落としてくれるって言っていた事を思い出し、「行っちゃおうか?」と上村は勢い任せでそのお店に入る。
店内の構造はU字型になっており、奥ばった部分が入り口という感じだったが、個室のお店と思いきや以外にカウンターが多いお店だ。
中に入ると、年齢は若くないと思うが美人な女将さんが案内してくれ、地方と違い首都の女性は幾つになっても美しいと感じる。
個人だとカウンターのみなのでピークになると合席になる可能性があると話をされたが、別の店を探す気力も勇気もなく、静かな店だし騒ぐようなヤツは来ないだろうと思い了承する。
注文した料理はとても美味しく、さすが海が近い(市場が近い)場所だけあり上村の住んでる山国では味わえない新鮮な料理を頂く事が出来た。
帰り道が判らなくなる可能性が高いのでお酒も控えめに飲む。
お酒をちびりちびり飲んでいると女将さんから合席のお願いをされ上村はそれを承諾し、暫くすると4人組の男女が入って来て、隣に座った男性が上村に軽く会釈をし隣の席に座り注文を始めた。
暫くしてお酒が来て4人で杯を上げる。
上村は話の内容に耳を聴き立てるが、全員がちょっと緊張しているのか会話がぎこちなく、合コンか?と心の中で人間ウォッチングを楽しんでいた。
「今日の研修ですが・・・」
暫くして少し硬い話が耳に入ってきたので、その集まりが同期の食事会だと分かると、あーだこーだと話が始まった。
上村の会社にも同期が6人居たが、7年勤めてる間に自分以外全員が辞め今は皆別々の道を歩んでいる。
1人は入社時からの友達で、会社が変わり疎遠にはなっているが年に1度2人で車で遠出したりしている。
入社した時は皆で集まってあーやって話していたなあと懐かしむと、見た感じ年齢はバラバラな事に気づき、中途の集まりかな?とも上村は感じていた。
その会話聴きながら昔の懐かしい記憶を思いだしつつ、飲んでいたお酒が無くなったので最後にお冷を貰い、それを飲み干して帰り支度をしている時、上村の後ろから聞こえてくる声に懐かしさと後部から鈍器で思いっきり叩かれたような衝撃と、体の中から確かに聞こえる鼓動が上村から血の気を引かせる。
その声に上村は聞き覚えがある。
確かにあの人の声、初恋の人の声に似ていた。
女性なのにかすれたハスキー声。
小学校の時憧れた女性は、女の子らしい声ではなくかすれた声であった。
誰からも好かれる性格でスポーツ万能で男女共に人気があったが、それに思い上がらず控えめな態度がとても魅力的な女性であった。
当時の上村はからかう事でしか愛情表現が出来ず、一度両思いになっていたであろう時も何もする事が出来ず、結局は言い寄って来た男子と付き合って上村の恋は終わったが今でも忘れられない女性で、自身の甘酸っぱい初恋の思い出でもある。
しかし上村の記憶にある彼女の声は小学生の時の声で、大人になってまで変わらないのはおかしいし。
しかも、こんな広い日本でしかも都心で出会えるなんてあり得ない。
目まぐるしく変わる己の感情の変化に耐えられず、上村は急いでその場を離れ清算を行い、領収書を作成している最中は早くその場を去りたい気分だった。
知りたい好奇心もある、だが自分はもういい年した大人だ。
過去に未練がないはずだが、今出会った所でなにが変わる。
この年になって過去に戻るなんて・・・めんどくさい。
上村は己ににいろいろな言い訳をしているが、体の熱を上げている胸の鼓動は未だ収まらなず、それをお酒のせいだと自分を言い包める。
そう、もう終わった事なんだ、と。
上村は領収書を貰うと、逃げるようにお店から出ようと店の自動ドアの前に立ち、その扉を抜けて扉が閉まる瞬間に、店の中から一人の名前が聞こえた。
「大山さん、ここの所どう考える?」
大山。
上村の思考は、その言葉に対し敏感に反応する。
その名前は、上村の初恋の人の名前だった。
店を出た前で立ち止まる上村の心臓は今にも張り裂けそうで、この気持ちは数十年前に一度経験した事のあった心臓の痛みだった。
それは中学校卒業直後に感じた、二度と会えないと思ったあの時の心臓の痛み。
「・・・。」
上村は心につかえた何かを感じていたが、それを振り切り店を後にした。
ホテルに着くまでの道を、上村は体の中で暴れている心臓の行動を沈めようと心の中で必死に呟く。
私は、あの頃と違い私は大人になったのだ、と。
そう、私はつまらない大人になったのだ・・・。