第37話 エピローグ
2016/11/20 全文校正実施
日本がゲリラ軍の襲撃を受けてから1年が経った。
あの時地上にいた残りのゲリラ軍は宮田・笹塚・井田の活躍によって殲滅し、ゲリラ軍の占拠した客船を奪還した報告を受けた小泉は即座にゲリラ軍の要求を却下した事で首都奪還に成功した。
首都へと繋がる橋や高速道路や通信設備等、被害総額は恐ろしい金額になると予想されたが、そこは首都と言うべきなのか、わずか数ヶ月で通常の生活に戻れるまで回復し、ゲリラ軍が全滅した事で首謀者は不明のまま事件は幕を閉じた。
北京で療養していた大山 修は今回の報告を受けそのままダーツの世界ツアーに戻り、その時の棄権が響き結局その年は優勝出来なかったが翌年にリベンジを果たし見事世界一の称号を手に入れ、大山 修はそのままアメリカに永住しダーツの世界で骨を埋める事を決めた。
それは大島との約束であり、飽き易い性格を戒める為の真摯な選択だった大山 修は時々長野に来ては大島の墓参りに訪れ、上村達に世界中のサバイバル生活のノウハウを嫌と言う程教え嫌がる上村達をからかっていた。
田島は自身の会社を共同者に譲った。
今の会社は皆で立ち上げた会社で、どちらと言うと誘われて参加した自身の会社ではないと感じた田島は、自身がやりたい事が見つかるまで鈴森の会社で働いていて、以前の無愛想な性格は身を潜め今までは積極的に関わってこなかった営業を買って出て今は上村の開発した製品を売り込む為、世界中を奔走している。
1年前のテロ殲滅の功労者として管理職となった宮田は、以前のような単独行動は無くなった・・・と思いきや相変わらずの単独行動だったが、彼の前衛役を見る事は今後二度となかった。
井田は管制能力を買われ防衛省から内閣府に栄転し、鈴森の次席と言う役割を見事こなしている現在は小泉の右腕であり、そして最良のパートナーでもある。
増田は元の研究所に戻り引き続き宇宙研究に没頭し、そして数年後に次元操作とう言う人類が夢見た研究をやり遂げタイムマシーンを作る為の基礎を作り上げた。
それと、彼の悪趣味な服装はその後もずっと変わらぬままだった。
1年前に自衛隊に連行された荒木は、自衛隊員と共に姿を消し1年経った今でも行方を眩ましている。
復讐の可能性は引くいと言うのが鈴森と小泉の意見の一致で、荒木の捜索は中止された彼はこの世界の何処かでまた戦闘評論家として正義の味方を探しているのかも知れない。
笹塚は今までと変わらず山奥でゆったりとした生活を送っていて、唯一変わった所は正式ではないが防衛省のサポート役として月に数回程、隊員の訓練指導をしに上京している。
笹塚なりに考えた結果、彼は正義の戦争の必要性を感じ気の習得訓練のプログラムを導入したりと、今後の日本の未来を真剣に考えていた。
以前は自身の兵器で戦争を行う恐怖に耐え切れず隊を抜けた笹塚であったが、今回の戦いでこの国のシステムでは対応しきれない部分を痛感した笹塚は、戦地へ赴く兵を育てると言う汚れ役的な立場を自ら買って出た。
それは、戦争と言う恐怖に逃げた自身への罰として受け入れるかのように、今日も戦場へ赴く為の兵を育てていた。
大山 由希子と上村の関係は変わらずで、たまにいいムードになったりするがその先の関係へは進まず相変わらずの関係だった。
流光武術も引き続き鍛錬を積んでいて、無色の棒を引き継ぐ者が現れるのとタイムマシーンが出来たら、銀の棒を返しに行く為に力を付けると言った。
今日の空は雲ひとつ無い快晴で、空を見上げると思わず眩暈に襲われそうな遥か遠くまで見透かせそうな青い空だ。
今は、この長野の地で笹塚、大山 由希子、上村の3人+2人での生活を送っている。
あれから数日後に、上村は1個の遺骨を持ち長野へ戻って来たのは、混乱のどさくさに紛れて小泉の伝を使い大山達が長野の戻った数日後の事だった。
過去の世界で死んだ菅野の存在を誰も知る者は無く、上村は親友の遺骨なので一緒に住ませて欲しいと笹塚に話し大島の眠る隣に安置され、上村のみ見知る複雑な環境のまま菅野は長野の地で静かに眠る事になった。
上村の開発した無線機は瞬く間に世界中でのヒット商品になり、鈴森と2人しかいなかった会社は田島を加え今では数十人になる立派な会社になったせいもあって訓練は毎日行なえる状態ではなく、平和になったと事もあり以前に比べると訓練と言う必死さは日に日に薄れて行ったが、笹塚や大山は「それは平和になった証拠」と笑って答えていた。
上村は菅野の戦争の平和を否定したが、笹塚の同様に考える思想には意見をしなかった。
それは、菅野が言う自由の為の戦争は無差別に戦争を行なうテロにしか感じられず、笹塚の思想は戦争を止めようとする侵略に対する戦争と理解したからだ。
これに関しては賛否が出る事を上村は覚悟していた。
戦争は憎しみを生み、憎しみはまた戦争を生むその言葉通りの事をしていると感じているからだった。
だが、暴力でのみ訴えてくる事も多い今の時代で、言葉での解決には時間が掛かりすぎる場合が多すぎる。
たとえ自国が戦争へ参加せずとも、その代わりに他の国の兵士が参加するだけで日本に侵略したゲリラ軍に対してだって、結局は暴力で菅野達ゲリラ軍を殲滅したのだから言葉では解決出来ていない。
その事に関しては菅野が語った思想は間違っていなかったのだろうと感じるが、戦争の無い国で生まれたこの国では
その討論は一生繰り返される事だけは上村は分かっていたし、その答えはこれからの歴史が証明すると思っている。
ただ、不正義の平和は理不尽だらけな世の中だが一番平和かもしれないと上村は思う事もあった。
久々の休日に出掛けたいつものワインディロードは、朝の光を浴びながら上村のこの先の道を照らすかのように黒いアスファルトを光り輝き照らしていた。
「平和ってなんだろう・・・親友を自身の銃弾で亡くしても、何もかわらず平和は続くけど、罪なき人々は戦地で境地に墜ちている。平等ってなんだ。戦争ってなんだ・・・」
菅野が見た2つの世界。
ゲリラ軍として見て来た戦争と、日本に帰って感じた人間の欲望が渦巻く平和。
自分は偶然に戦争の無い平和な国で生まれただけで、一歩間違えれば物心も付かぬ前に死に果てていたかも知れない現実に、上村は今になって菅野が感じた狂気というのが分かった気がした。
つい最近まで自身が描いていた運命とは違う運命を選んだ事で、二度と再開する事は無いと思っていた大山 由希子と出会い一緒に暮らしている自分は、自身で掴んだもう一つの未来に本当は満足するべきなのだろう。
その心の奥にある小さいながらも確実に感じる痛みは、あの時感じた二度と会えないと諦めていた女性との再会と酷似している事を実感した上村は、暫くした後何かが吹っ切れたかのような晴れやかな表情で先程までの思い詰めた暗い表情から明るい表情に変わる。
「ここで妄想していてもしょうがない・・・。心に刺さっている針を抜きに行くか!」
雪景色のアルプスを眺めながら大きく深呼吸した上村は車に乗り込み颯爽と駆けて行き、その後鈴森の会社に辞表を提出し日本を旅立った。
自身の心の奥に刺さる針を抜く為に。
そして、もう一つの物語を描き始める為に・・・。
- アナザーストーリー 完 -
ここまで読んでくださってありがとうございました。
処女作の為、完成させるのが最大の目標だったので
至らない点は多々あたっとは思いますが
この作品は、正直もう少し後で出すべき作品だとも思っておりましたので
流れ次第ですが、続編が書ける環境になればいいなと
個人的ですが考えております。
それでは、この作品を通じて引き続き次回作も閲覧頂ければ幸いです。




