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アナザーストーリー  作者: りょーじぃ
第五章 最終戦編
36/38

第35話 殲滅

2016/11/6 文構成を修正実施

 船内は目も眩みそうな光り輝くシャンデリアが光を乱雑に跳ね返し、至る所にミラーボールのような円形の光を映す。


 収容人数は3000人を優に超える客船は簡単に人質として取るには絶好な場所であり、ましてや海上に出てしまえば逃げる事も出来ない孤島と化す船内へ潜入している事が見つかれば逃げ場のない監獄になる。

 上村達は大山 由希子の識別眼を使い、進入が見つからないようにそ先の風景に僅かに残された過去を確認しながら進む。


「船内の警備は手薄ね。多分、戦闘をメインで出動させているから船内にいる部隊は人質拘束だけみたいね」

「抜け道は?」

「ありそうね・・・。あの先にある部屋、あそこから船外に出られるから外から回って行けば」

「わかった」


 2人は人質か集まっている中央フロアを横目に船外へ通じる扉へ移動し扉を開ける。

 外は夕日が沈み掛け、辺りが暗くなりつつある幻想的な風景の中、大山は船の外から見える港にその光を遮る陰を見つける。


「上村、あれって・・・」


 先に気付き驚きの表情で外の港を見る大山に気付いた上村は同じ方向へ目を向けると、その目に映ったのは人の形はしていたが明らかに人間ではないと分かった。

 あれは最高神だ。


 その姿を見た辞典で見た最高神の記憶を辿る大山は、あれが第7位の最高神で不死に近い再生能力を持つエアだと思い出す。


「最高神は、有楽町で隊長達が交戦中のはずじゃ」

「いえ、宮田ミヤダ隊長達が戦っている最高神と違う。あれは、過去の世界で大島隊長が戦った最高神」

「と、言う事は、最高神はもう一体いたって事か。一旦、船を降りてヤツと戦う!」

「待って!、これは多分罠よ。敵の戦力分担を狙っているのよ」

「だからって!このままじゃ・・・」

「上村、言ったでしょ!?・・・管野を止めるのは自分だって」


 エアが客船に向かって歩き出し、このまま船に近づけば船の乗客からも被害が出ると考え持っていた鞘から剣を抜きエアと戦おうとする上村を制止した大山は、下を向き暫く考え込んだ後苦渋の表情を浮かべ上村を見つめる。


「・・・私が行く。あなたは、管野を止めて」

「だけど!」

「多分、あそこには宮田ミヤダ隊長達も向かっている筈だから一人で向かう訳じゃないわ。・・・それに、男の正体を知ってしまった私達では彼を倒せない。今、皆が上村にやってもらう事は、仲間を殺すと言う残酷で誰も出来ない役目なの。・・・あなたが、私に不安になる事はないの。最高神であればどうにかなるけど、管野を殺すのは誰にも出来ない。・・・それは、彼の全てを知るあなたしか出来ないの」

「大山・・・」


 大山の戦闘力は以前の大島並になっているが、その大島さえ倒し切れず封印せざるを得なかった最高神で、恐らく耐性後の体になっているはずのエアに対抗出来るのであろうかと不安そうな表情の上村を見た大山は、上村の剣を持っている手に自身の手を添えるとその手を握り締め持っていた剣を一緒に鞘へ収める。


「都合の良い話よね。・・・ごめんなさい。あなたに辛い思いをさせているのは、私達の方なのよ」

「大山・・・」

「・・・その先の扉に入れば、従業員通路に出るわ。そこから、制御室に行けるはずよ」


 大山は握っていた手を離すと、肩を落とし俯きながら上村に謝罪をする。


 仲間を殺すなんてありえない。

 それが、例え裏切りだろうとも。

 身内を殺める気持ちなんて分かる筈もない。

 それを、目の前の上村はこれからそれを行なおうとしているのに対し、謝罪の言葉しか思い浮かばなかった大山は、瞳に留まる涙を堪える事が出来ず目の前にいる上村の胸に飛び込んだ。


「絶対、帰って来て・・・」

「ああ・・・分かった」


 上村の胸に大山は蹲り動く事が出来ずにいた2人は、暫くしてゆっくりと後ろへ下がり上村の胸から離れ背を向けた大山は入って来た扉に一人入って行く。

 彼女の感触が残る胸に意識が集中されている上村は、この時は初めて彼女の気持ちに気付いた。


 彼女は自分の事を・・・

 掛け替えのない存在と思っていた事を。


 その気持ちに気付いた時、彼女の黒い綺麗な髪やその笑顔が全て愛おしくなった上村は、側にいて欲しい、そして側に居たい気持ちが溢れ出し、自身も大山と同じ気持ちになった。


 絶対に管野を止めて来る。

 ・・・そして、大山との約束も絶対守る。


 絶対無事に戻ってくる。


 大山が去った扉を見つめていた上村は、凛とした表情で反対側にある自身が進むべき扉に向かい走り出した。




 最高神が晴海に停泊する船に近づくが、その前に一人の人間がその進路を塞いだ。


「我は知恵の神 エア。貴様が、我を召喚したのか?」

「召喚したのは私じゃないけど、あなたを戻すのは私よ」

「ほう・・・貴様が我を倒すだと。冗談でも笑えんな」


 エアの目の前に立つのは銀の棒を持つ女性大山 由希子で、以前、大島に人知の最高神の話を聞いていた大山は、限りなく人間に近いその姿に驚きはあったが即座に冷静さを取り戻しエアを睨みながら銀の棒を高速で回す。

 銀の棒はその回転と共に周りの空気が渦の螺旋を描き、その渦が赤色の宝石に吸収されて行くのを確認した大山は、一方の片手に気を集め手の平に球体の光を出現させエアへ突進する。

 その突進に合わせエアは持っていた刀を振り上げ、向かって来る大山の間合いに合わせて振り下ろすと大山はその攻撃を銀の棒を差し出し防ぎ、エアが振りかざした刀は纏う絶対零度の真空の刃を銀の棒は風圧のオーラで抑えると、互いの威力が暴風を起こす程の激突を起こし周りにあった木々をなぎ倒し、エアの攻撃を受け止めた大山は片腕にある気の玉をエア目掛けて放つ。


 エアは気の攻撃を受け後ろへ飛びその後を大山は追撃すると、突然何かに攻撃されたかのように加速するようにさらに速度を上げ後方へ飛ばされて岩肌に叩き付けら、突撃された岩はエアの姿を型取るようにその部分が崩れ、やがて周りの岩も崩れ落ちる。

 土煙の中からエアが歩き戻って来るその体には無数の傷を負っているが、見た目程のダメージ受けていないようだ。


「・・・お前の動きは、昔、何処かで見た事がある」

「私の師匠は大島よ。600年前に、あなたと戦って封印した人物よ」

「・・・オオシマ」


 大山の攻撃の動きに、昔戦った人間を微かに思い出そうとするエアに大山が大島の事を話す。

 封印された恨みは持っている可能性はあったが、大島はエアを話せば分かる存在だとは言っていた。

 彼らは元々別世界に居たエアは元の世界に戻りたくて自身を召喚した術者を探していて、その術者を探すと言う条件でエアは封印を承諾した。

 そうであれば、術者の検討は付いている今なら協力して貰えるかもしれないと考えた大山は、エアと話し合う事を選択した。


「あなたは、元の世界に戻りたいだけと聞いています。私は術者に心辺りがあります。私達もその者を探していて、あなたとは利害が一致しているはずです。」

「・・・ふむ。あの時、我を封印した2人にそのような名前がいたな。貴様との今の戦いで思い出したが、我を封印した人物を知るのであれば協力しないまでもない」


 大山の予想通り、知識を持つエアは大山の話に耳を傾け話し合いに応じ力を借りる事に成功したが、その状況を確認している人物がいた。


「・・・まさか、それを思い出すとは、ね。では、これならどうですか、ね」


 船内のモニタからその状況を見ていた管野は、部屋の奥にあったエアの魔法陣に何かを置き詠唱を始め魔法陣に術を込める。

 管野は最高神を召喚する為に作った術紙にある細工を施し、それは体の一部を切り取り組織再生の研究サンプルとして採取したその体の一部と化学物質を融合させる事で、遠隔操作が出来るようにした。


 それは最高神の中で唯一知識を持つエアにのみ組み込んだ仕組みで、他の生物には組織再生の増幅補助程度でしか考えていなかった事が、エアに関しては魔法陣を使って脳に直接命令を下し操作するシステムを確立させ、魔法陣に一緒に置かれていた物はエアの体の一部これがアンテナ代わりとなる。


「さあ!一暴れして下さい!」


 管野の不適な笑みと共に魔法陣から発した淡い光が管野を包み、その光は一緒にあったエアの体の一部を伝って部屋の天井を突き抜け、その光を受けたエアの変化に大山の識別眼が反応する。


 それに気付いた大山は即座にエアとの距離を取ると、突如エアが刀を振り上げ襲い掛かって来たが、その攻撃は大山の手前で突如止まった事に攻撃しているエアは驚いた表情を見せる。


 大山がエアの攻撃を受け止めた銀の棒と逆の手にも棒を持っていた物は、流光武術の秘宝の中でも使いこなせた人物はファ・ソンのみである武器であった無色の棒で、流光武術最強の武器の攻撃を受けたエアは見えない棒に打たれて飛ばされる。


「エアの様子がさっきと違う・・・。さっきと違ってとても話を聞いて貰える状態じゃない」


 銀の棒を回し風圧を溜めながらエアの突然の変化に驚きを見せる大山へ、刀を構え一気に飛び出したエアに応じるように銀の棒を前に構える。

 振り抜いたエアの刀の太刀筋に沿って景色が凍り出すそれは絶対零度の真空の刃で、その刃を銀の棒の風圧で受け止めるが刃の勢いで押されると風圧を失った銀の棒は大山の手から弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされながら空いた手で即座に気を練りだし放出した大山の気砲をエアは避けるが、大山が手を動かすとエアの後方へ飛んで行った気砲は大山の手の動きに合わせて再びエアの所へ戻って来る。

 それに気付きエアは刀を持ち後ろを向き自身に背中を向けた形になったスキを付き大山が移動する姿を見ながらエアは気の玉を刀で防いだが、後ろから無色の棒を前に突き出し突進している大山の方を向いたエアは大山の攻撃を防ぎ、互いの武器をぶつけ合った状態で刀に込めたエアの冷気が刀を伝い無色の棒へ侵食し棒全体が凍りに覆われた事で棒の全容が見えるようになった。


 無色の棒自体には特殊能力はなくエアの特殊能力に対応出来ないと感じた大山は、無色の棒を一旦手放し落ちていた銀の棒を拾い一旦距離を取り片手に作った気を無色の棒へ放ち回りを覆った氷を砕いた。

 大山の識別眼でエアの攻撃を読み取りながら再び銀の棒に風圧を詰め、即座に襲い掛かるエア程の攻撃力に銀の棒を構え即座に反すると、金属の鈍い音を立て互いの武器をぶつけ合う。

 識別眼は次の真空の刃の攻撃を大山に見せ接触を避ける為上空へ飛ぶが、エアの繰り出した攻撃は大山の想像以上の威力を見せ絶対零度の刃は大山の右足を僅かにかすめると、そこから凍結が始まり右足が動かなくなる。


「しまった!」


 片足を止められ動けなくなった大山は、凍結を解く為に足に気を送りながら即座に繰り出すエアの攻撃に対応出来る時間は無くギリギリで銀の棒で刀の攻撃を受け止めるが、片手で受け止めるにはエアの攻撃は強すぎるため徐々にエアの力に銀の棒が押される。


「そこ!誰かいるか!?」


 大山の耳に納まるイヤホンから聞き覚えのある声が無線機から増田の声が聞こえた瞬間、大山の後方からエアの攻撃と似た真空のやいばがエアを襲う。

 それはエアと同じ刀から繰り出された衝撃波で、不意打ちを食らったエアは衝撃波を防ぎきれず片腕を切られたエアは後方へ距離を取り、衝撃波が放たれた方向からやって来たのは増田と田島だ。


「増田さん、田島さん!」

「どーも」

「ワイらもこっちへ参加しまっせ。最高神は、もうあれだけや。・・・しっかし、最後に最強の最高神が残ったな」

「エアの能力は冷気と風の属性で、それを合わせた真空のやいばは触れた者を凍らせる力があります」

「・・・それと、驚異的な再生能力ですね」

「・・・ええ。田島さんの衝撃波のダメージも、この短時間で回復可能です」

「これは脅威やね」



 2人は大山に近寄り、田島の衝撃波で腕を切られたエアが驚異的な回復力でその腕は既に繋がって行くのを確認しながら話す増田に、右足の氷を溶かし終わり立ち上がり銀の棒を持たない手に気を込めた大山の気は細長い棒のような軌道を描く。


「エアを倒すには、武器に気を込めて強化して打撃するしかないです。放出の気ではエアの回復能力に負けてしまいます」

「大山はん、気を使えるんでっか!?」

「大島隊長と一緒で放出系なので気を込める動作はあまり得意ではないのですが、数回くらいならなんとかなります」

「じゃー、俺が敵の気を引き付けますので、その隙に行きましょうか」

「わかりました。私は後衛でサポートしながら、攻撃の機会を伺います」

「ヨッシャ!ワイと田島はんの2枚前衛で行きまっか!」

「第二部隊らしい、前衛戦闘専用部隊の戦い方ですねー」

「ホンマや。なんでウチの部隊は前衛だらけなんやろな・・・」


 気を操る事が出来る事に驚く増田を横目に2人の前に出ながら作戦を話す田島に賛同した大山の前に増田と田島が立ち攻撃の構えを取る。


「エアが正面に真空の刃を繰り出します」


 大山の識別眼で捉えた未来を伝えたと同時に戦闘が再会される。

 エアは刀を振り抜き真空の刃を2人目掛けて放ち、その刃を半身になり構えていた田島は溜めていた力を一気に放ち刀から衝撃波を繰り出し、真空の刃と衝撃波が空中で激突する。

 やがて互いの刃は辺りを巻き込み消滅し、その爆風にも似た衝撃の中をアプスとの戦いで玄能石の棒に込められた気を使ってしまった増田は目を閉じエア目掛けて突進し短刀を突き出す。

 大山も大島と同じように他人の武器に気を留める事は出来ず、自身が持つ武器には込める事は出来るが他人の武器に気を留める事が来るのは、気の具現化が出来る上村以外いない。


「まっ、しゃーないわ。何とかするしかないっしょ!」

「増田さん、横に避けて。エアの太刀筋は上段斬りです」

「田島はん、行くで!」

「はい」


 攻撃を繰り出せないように増田は手数を増やした攻撃はエアにダメージは与える事は出来ないが、次の攻撃の足止めになれば問題なく、大山の掛け声に増田と田島は次の攻撃の確認を取る。

 接近していた増田はエアの攻撃を横に飛び避けると、向かって来ない増田に気を取られているエアの一瞬を見て田島は衝撃波を放ち、防御が一瞬遅れたエアは刀を使い衝撃波を繰り出し衝撃波をいなす。


「いやー、流石、やりますがな」

「増田さん、刀の攻撃が来ます」


 華麗なエアの刀裁きに感心する増田へ大山は次の攻撃を告げると同時に襲い掛かるエアの攻撃を、太刀筋を空気の軌道を聞き分け自身の動作を瞬時にシュミレーションし紙一重で攻撃をかわす。

 増田が攻撃をかわし後ろへ下がると、その後ろで増田を盾にして隠れていたのは田島が地面を一蹴りして上へ飛んだ増田の後ろで先程振り切った刀を逆手に持ち替えた刀を振り上げ、エアの胸元目掛けて攻撃を繰り出す。

 エアも田島同様に振り抜いた刀を逆手に持ち替え田島の攻撃を弾き返し、攻撃をした田島も距離を取る為後ろへ下がった。


「動きが早いですね。あれだと、3人の中で一番動きの遅い俺では、エアの素早い動を捕らえられない」

「大山はんの識別眼ならなんとかなると思ってたが、それでも相手の速度の方が上かい・・・」


 3人の中で一番攻撃力はあるが一番速度は遅い田島では、大山の識別眼で先読みしてもエアへ攻撃を与えられずにいて、逆に増田が入っても気の攻撃が出来なければ速さで勝っていても致命傷を与える攻撃力が足りず、大山の攻撃では気を込める攻撃には限度があり体力消耗が激しすぎる為リスクが大きい。

 謎の術に掛かってからのエアは一切話す事をしない為説得も無理だろうと考える大山は、エアの中にある何かが覚醒し凶暴化したのか、それとも管野が何かしたのかと感じてるが、大山の識別眼は考える暇を与えないと言わんばかりのエアの怒涛の攻撃が再び始まるのを即座に捕らえた。


「エアの真空の刃が来ます」

「まったく。忙しいヤツやな!」


 考える時間を与えさせないかのように間髪入れずやって来るエアの連続攻撃を田島の繰り出した衝撃波で刃を止めようとしたが、溜めが足りなかった衝撃波はエアの刃に徐々に押されはじめる。

 それを見た大山は無色の棒を振りかざし、込められた気で刃を弾き返した真空の刃は遠くの岩山に激突した衝撃と爆風が3人を襲い、それはまるで台風が通り過ぎたような強風を巻き起こす。


「大丈夫ですか」

「・・・すまんな、大山はんの貴重な1発を」

「まずは、皆さんの安全が第一ですから」

「しかし、必然だったとは言え、これであと何発くらいいけそうでっか?」

「・・・あと2発くらいですか。ただ、使い切れば私は動けないと思います」

「だとすれは、あと1発ですか・・・」


 神妙な表情になった3人の中で、即座に開放された1人が話し始める。


「大山はん、さっき気を込めた武器って何でっか?」

「ええ、これは無色の棒と言って、気配を感じ取れる人物しか持てない流光武術の最強の見えない武器です」

「見えない武器か。・・・そりゃ、凄い武器やな」

「だけど、この武器自体には特殊能力はないので、打撃だけという感じですね。でも、さっきみたいに気を込めても壊れない特殊な素材だとは思いますよ」

「なるほどな・・・。大山はん、そっちの棒の風圧攻撃は誰でも使えるんでっか?」

「ええ、こっちは宝石に風圧を込めれば使えますよ」

「みんな、ちょっと作戦があるんやが」

「作戦ですか?」

「まぁ、やってみるだけ、やってみようやないかい。今のところ、エアに有効打を与える方法が無いのは現実だしな」


 大山の持つ流光武術最強の武器の話を聞いた増田は、暫くすると何かを思ったような表情をして2人を集め作戦を告げると、その直後に大山の識別眼にエアの真空の刃が再び牙をむく姿を映す。


「エアの刃の攻撃が来ます」

「まったく・・・敵さんも待ってくれないな。」

「増田さん、こっちは俺に任せて大山さんと作戦を」

「田島はん、大丈夫でっか!?」

「さっきは溜めが足りなかっただけです。耐性は体だけですから、特殊攻撃の威力は変わらないはずです。確かに、増田さんの言う通りヤツを倒す術が無いのが現実です」


 作戦を告げる途中の2人の前へ、田島が刀を後ろへ引き半身になり構えエアの攻撃を受け止める事を告げる。

 上村と完成させたオーラヴレードは殆どが上村の努力で成り立った物であって、自分は特に何もしていなかったと感じている田島は、ただ自分は力が他の人よりあっただけで、悪く言えば、宮田ミヤダのような人間であれば使える筈だと思っていた。


 最初の生物と出会った時に田島は上村を助けたのは確かだが、今思うと自分は上村に助けられたと思っていて、不器用な性格で人との付き合いは苦手な自分があの凶暴な生物を倒した上村を見て、人の為に何かをやりたいと思いこの世界に入った。

 そして目標にひた向きに向かう上村を見て、自身も目標に夢中で取り組みたいと思い始めたその成果がオーラヴレードだったが、この結果は上村の努力成果であり自身も刀を使いこなせるように日々訓練は行なっているが、結局は上村がいなければ技を使う事が出来ないもどかしさが田島の心に襲い掛かっていた。


 これでは、今までと変わらないと・・・。


 気とはどういった物かを知らないと感じ、今思えばそういった事を上村に聞いておくべきだったと後悔している田島は、エアが真空の刃を繰り出すまでの数秒という短い間だったが目を閉じ心に訴え掛けるかのように自身の心の中に向かい神経を集中する。


 今まで、何をやっても心が満たされない気持ち。

 自身の性格なのだろうか、そのマイペースな性格で何を言われても感情など一切わかなかった。


 だが、今は違う。

 何かを守ろうと必死になっている人達を見て、自身の気持ちに大きな変化が生まれている。

 そう、上村と話したあの船上の夜から。


 上村は不思議な人物だ。

 自分で開発した技を見て恐怖で震えていたのに、彼は会って間もない自分を信じて刀を託してくれた。


 人を信じる力。

 言葉にするのは簡単な事だが、あそこまで人を信じられる人間はいない。

 悪く言えば、お人よしだ。

 だが、彼の真摯さは周りに感染する。

 彼の信念は、周りに信じる力を与えてくれるそんな感じがする。


 再び目を開いた田島の体からは、光輝くオーラが発せられた光は青白い輝きを放っていて、その光は間違いなく上村達の持つ気で、そのオーラは田島の持つ刀に集まり半身で留めていた力を一気に放つようにエア目掛けて刀を振り抜くと、その光り輝く衝撃波は真空の刃を飲み込みエアへ向かって行き危険を感じ防御に回ったエアの両腕を切り裂く。


「田島はん!アンタ、気を使えるんか!?」

「・・・いや。今、使えるようになった」

「今って・・・そんな簡単な」

「いえ、笹塚さんが研究した結果だと、気は才能も必要ですが鍛錬や切っ掛けでも覚醒すると言っていましたから、あながち間違ってないかも知れません」

「まぁ、これなら余計に作戦が練れるわな!」


 心を開いた事で覚醒した自身の能力に刀を見つめながら驚いた表情を見せる島田に大山が覚醒の根拠を話すと、回復まで時間が掛かるエアをここで叩けば倒せるかも知れないと感じながらも増田は上機嫌な表情を見せる。


「・・・なるほど、それならいいかも知れません」

「まー、他に選択件はないですしね」

「いや、田島はんの気があれば大丈夫や!」


 生半可な攻撃ではエアの再生能力に負けてしまうと考える増田は2人を呼び作戦を伝えると同時に、エアの両腕も再生を終了し落ちている刀を拾い再戦の構えをする。


「おっし!では、作戦通り行きまっせ!」

「エアが、正面に突撃してきます」


 増田の掛け声と共に戦闘配置に着いた3人は、識別眼を見開きエアの行動を予知した大山の指示と共に戦闘が始まる。

 先程の衝撃波を受けた事で接近戦を仕掛けて来る事を分かっていた増田は、大山の言葉に合わせ突進しエアとの接近戦に応じ互いの武器が交差するが、互いの武器が交差する音は金属と違う軽い音を立てる。

 その音の元は銀色に輝く銀の棒で、増田は自身の防御力を上げる為に強度が強く風圧が込められている銀の棒を大山から借り、田島に代わり前衛へ移動して来た。

 エアと交戦する増田の後ろから現れたのは識別眼を持つ大山で、2人を前衛に持って来る事で高速バトルに持ち込む作戦で、増田が攻撃を受け止め大山が無色の棒で奇襲攻撃を掛ける。

 ここまでは作戦通りで、2人の高速攻撃に防戦一方のエアは接近戦を嫌い後方へ下がり真空の刃を繰り出す為に刀を上段に構える。


「真空の刃が来ます!」


 既に識別眼で次の攻撃を予想済みの大山はエアが構える寸前に2人へ伝え、さらにエアの間合いを詰める増田の行動に早めのモーションで刃を繰り出すが、溜めの足らなかった真空の刃は見た目では分からないが今までと違い攻撃力は僅かだけだが威力を失くす事が今回の作戦だった。


 その任務を終えた増田の役目はここまでで、真空の刃が繰りだされる直前に上に飛び戦況を脱した後ろから現れたのは己の気を注ぎ込み続け強化した刀を振り上げる田島の姿で、不意を突かれたエアは即座に持っていた刀を田島目掛けて振り抜くが溜めの足りないその攻撃は田島が左手から出した鞘で弾き返される。


「うおー!!」


 刀を弾き返され無防備に近い状態になったエアの間合いに入った田島は、気合の掛け声と共に振り上げていた刀をエア目掛けて繰り出す。

 青白い光を放つオーラはまさにオーラヴレードそのものだったが、部隊の中で一番パワーのある田島が放つこの一撃は上村と作ったオーラヴレードを遥か凌ぐ程の威力を見せ、光り輝くオーラを間近で受けたエアは包まれた光の中で消え行き、やがてその光も小さくなりエアと共に消え去る。


「・・・やった」

「やった!田島さん、やりましたね!」

「田島はん、やりましたやん!」


 刀を振り抜き全ての力を使い果たしその場で膝まずく田島に向かって、歓喜の声を上げ歩み寄る2人に向けた田島の表情は、今まで見せた事のない優しい表情だった。

 今まで生きている事にこれ程一生懸命になった事はなかった田島にとって、結局は他人の会社だった今の事業だってそれ程深く考えずに生きていたが、そんな自分が今、初めて生きている実感がした。


 何かを信じ、悩み己の心にひたすら向き合う事で得られた達成感。

 それを感じた田島が2人に見せたのは、人生で最高の笑顔だった。


 だが、この騒動を嗅ぎ付けたゲリラ兵がその直後に一斉に仕掛けて来たその攻撃に、3人は即座に付近にあったコンテナの影に身を隠す。


「・・・さーて、船に入るには、アレをなんとかせなあかんな」

「俺が、衝撃波で道を作りますよ」

「ああ・・・。田島はん、それじゃ突破口は頼みまっせ!」

「田島さん、お願いします」

「はい」


 今までと違う積極的な田島の提案に嬉しそうな表情で答えた増田は、田島が刀に気を集め始めるのを確認しながら銃声の止むタイミングを見てコンテナから飛び出し、ターゲットを見つけ銃口を増田へ向けるゲリラの後ろで田島は構えていた刀を降り抜く。

 衝撃波は船の手すり部分を破壊する爆風で複数のゲリラ兵は船外へ飛ばし、直後に田島の前へ出た大山と増田が爆発で破壊され垂れ落ちた手すりを踏み台にして自慢のスピードで一気に駆け登り船上に着くと、甲板にいたゲリラ兵が数人が2人へ襲い掛かるが、訓練を受けたゲリラ兵でも今の2人で役不足は否めず、その力の差は大山の識別眼を使わなくても戦力は十分だった。

 大山は風圧を込めた銀の棒を振りかざし回りに強風が発生した風圧でゲリラ兵の動きを止め、そこを増田がプラスチックのナイフで頚椎を突き次々に兵を気絶させる。

 甲板の様子を察知し船内の扉から追加のゲリラ兵が現れるが、それに気付いた大山は即座に兵の間合に入り無色の棒を振り抜いた一撃を受けると即座に気絶し倒れ、その後に最後の兵を倒し増田も大山へ近寄る。


「大山はん、こっちは片付けたで」

「はい、こっちも終わりました」

「上村さんは、この入り口から入ったんですか」

「ここから入ると中央フロアになっていて、そこには一般客の人質が拘束されています」

「まずは、そっちを助けるのが鮮明やな」


 互いの戦況を確認する2人の後ろを追いかけ合流した田島は大山から船内の構造を確認すると、船内にいる一般人の救出が優先と話す増田の言葉の後に3人の会話は暫く止まる。


 人質解放が先か、上村の援護が先か。


「・・・大山さん。上村さんの所へ行って下さい」

「でも・・・人質解放を優先すべきじゃ」

「いや、それは俺達だけで十分です。ねぇ、増田さん?」

「そうや!ウチらだって、伊達に不死の最高神を倒した人間じゃないって!」

「増田さん、田島さん・・・」

「大切な人なんだから、あなたが一緒に居て助けてあげて下さい」

「そやで、こっちは大丈夫や、任しとき!」


 その沈黙を破った田島は、大山を見つめ迷いの感じられない真摯な表情で上村をサポートして欲しいと話し、その言葉に戸惑いの表情を見せる大山に増田は不死の最高神エアを倒した自負を語り、田島も表情を緩め優しい表情を見せる。

 2人は大山の気持ちを理解していたのもあるが、自分たちも自身をここまで引っ張てくれた上村を失いたくない気持ちもある2人は、一番頼りになり最も上村に対して適役は大山だと理解していた。


「人質の解放が終わったら、無線に連絡を入れます。その後、俺達は一旦船外へ出て人質を安全な場所まで誘導します。・・・だから、気にせずに暴れて下さい!」

「分かりました」


 打ち合わせを終えた3人は中央フロアへ通じる扉を開け内部へ潜入する。

 そして、つい数時間前に上村と別れた従業員通路の扉の前に着いた大山は田島と増田に言葉を掛けた。


「増田さん、田島さん・・・。無茶だけはしないで下さいね」

「おう!大丈夫や!」

「そっちは任せました」

「絶対、皆で無事に帰りましょう!」

「それじゃ、行きまっせ!」


 会話を終えた3人は、増田の掛け声に合わせそれぞれの持ち場に向かい走り出す。

 そして、突破口を作る役目の田島が衝撃波を繰り出した音を背中に聞いた大山は従業員通路の扉を開け、衝撃波を放った田島はフロアに居るゲリラ軍へ向けて威嚇攻撃を行い、それに便乗し増田は影からゲリラ軍をプラスチックナイフで蹴散らして行く。


 そして、個々がそれぞれの戦いへ身を投じて行く最後の戦いが幕を開ける。


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