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アナザーストーリー  作者: りょーじぃ
第五章 最終戦編
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第34話 最後の最高神

2016/10/22 文構成を修正実施

 暗闇が支配する地下水道で重なり合う乾いた金属音が響き渡るそこでは、増田とアプスが互いの武器を交わらせながら攻撃する隙を探っている。


 アプスは大島によって倒されている為、現在現れている状態は耐性後の状態になっている為、増田のナイフの攻撃ではアプスにダメージを与えられずにいた。


「アイツの耐性は、大島隊長の攻撃を受けての再生だからな。やっぱり、ナイフじゃ無理か」


 再び暗闇の中へ向かって行くアプスはその姿を消し、暗闇の中から同色の槍を

 増田目掛けて無数に放出する。


「また、その攻撃か!ホンマに、よう懲りんやっちゃな!」


 増田は目を閉じて槍が通ることで切り裂かれたように広がり音を発する変調を逃さないように集中し、やがて音が甲高い音に変わり変調音の最小音量の部分を増田は聞き取り、そこが槍の先端だと確信した増田はその音を頼りに襲い掛かる槍をナイフで叩き落とす。

 最後の1本を落とした次の瞬間に増田の後方で空気の流れが変わったのを感じる空気は、先程の槍の音と違い空気が切り裂かれる音が鈍く先端が鋭利ではない事が確認出来たが、切り裂かれる量が多くそれは面積が大きいと言う事を表しているそれがアプスの触手だと感じる。

 増田の攻撃回避能力を見破ったアプスは、槍の攻撃に乗じて背後に移動し打撃を加えようとしている行動に、音を聞き分ける事に関してはまだ経験が浅い増田では動き回りながら複数の音を見分けるのは至難の業で、増田はアプスの触手の攻撃を受けたが空気の違いに気付いた為に攻撃が直前で分かり両手を出し防御する事で直撃は避けられた。

 弾き飛ばされた増田は地下水道の側壁に背中から勢いよく当たり、壁に暫く張り付いた後這うように地面へ落ちる。


「・・・くっ!直撃は避けたが、あの攻撃はヤバイわ。だが、同時に聞き分けるのは難しいな。・・・だったら、これしかないやろな」


 増田はローブの中から橙色に光り周りには気を覆う玄能石で出来た棒を取り出す。


「防げないなら、こちらから行くしかないな!玄翁石で出来る攻撃は恐らく1回限り・・・なんとしても当てないとな!」


 玄能石の棒を逆手に持ち攻撃の構えを取る増田は、耐性で強化されたアプスの体に自身の攻撃が有効か不安だったが、玄能石の棒の長さは短刀並で攻撃を与える為にはそれなりの距離まで詰めないとならないと覚悟を決めた増田は、棒を逆手に持つ事で振り下ろす力を増そうと考える。

 無数の触手を持つアプスに対し至近距離へ詰めるのは自慢の俊足を使っても難しいと感じているが、襲い掛かる触手を避け突き進んだ増田が肉眼でアプスが確認出来る距離まで近づく頃にはアプスの周りには既に触手が戻って来ている状況に、やはり攻撃せずに触手を避けるには無理があったと実感する。


「・・・増田さん、横へ飛んで」


 攻撃を諦め一旦距離を取ろうとした増田の耳に聞こえた声に即座に反応し横に飛んだ直後、自身の進んで来た暗闇から風を切って運ぶ楕円の真空が物凄い勢いで増田の横を通り過ぎる。

 それは鋭利な刃物を異常なまでの速さで振り抜く事で発生する衝撃波で、それを受けたアプスの触手数本は突然消えてしまったかのように芸術的な切り口を残し触手が消える。

 その衝撃波が来た方向の暗闇から足音が聞こえ、やがてその先から現れた長身な体とガッチリした体格の手には大島と同じ刀を持つ人物は、いつものように穏やかな表情の田島の姿だった。


「田島はん!こっちへ来れたんかい!?」

「えーと・・・政治家の小泉さん?に、ここまで案内してもらったんで」

「さすがは鈴森はんやわ。お陰で助かったわ」


 都市部へ行くには高速や橋は全て破壊され通行不能だったが海上からの潜入なら可能と考えた鈴森は、小泉がゲリラ軍と戦う為に派遣させた自衛艦で田島を連れて来たと感じ自身の干していた前衛の助っ人に感動する増田の前でアプスと対峙する。


「あれは、前に戦った生物と一緒ですよね?」

「いや、多分耐性が付いているから、ワイの武器でないとトドメは刺せない」

「・・・分かった。では、俺がヤツの動きを止めます」

「自分、頼もしいな!じゃぁ、任せたで!」


 この状況でもマイペースを貫く田島に頼もしさを感じた増田は、やはり自分は一人だと切羽詰ってしまい考えがネガティブになっていた事で動きが萎縮してしまっていたのに気付く。

 これまでの研究も一緒で、そのせいで進まない経験は多々あると感じた増田は、あの時も荒木に言われたが自身の篭ってしまうこの状態での田島の存在は自身に取って重要な存在になった。

 いつもの勢いが戻った増田は深くしゃがみ込みバネのように力を溜め一気に足を伸ばすと、スプリングが開放されたかのように猛スピードでアプスへ突進し、アプスの触手をかわしながら徐々に間合いを詰めるが、次第に触手が塞ぐ面積が広がり先程同様に前は完全に塞がれる。

 だが、それこそが2人の作戦であり、その状況に陥っても先程と違いテンションを変えない増田は田島へ叫ぶ。


「田島はん、今や!そこから11時の方向やで!」

「分かった!」


 既に攻撃の構えをしていた田島は増田の言われた方向へ向きを変え、半身に構え引き溜めていた体を戻し後ろへ引いていた腕を振り出す。

 その振り出した手には刀があり、その刀は豪快なスイングと共に閃光を発し切り裂いた空気が暗闇へ飛んで行った。

 アプスは向かって来る増田を返り討ちにする為に向かって来るタイミングに合わせ触手を繰り出す触手が増田に触れる瞬間増田の姿が消え、代わりに現れたのは一筋の閃光で、その閃光はアプスの触手を切り裂き後ろに道が出来た道をなぞりアプスの間合へ入る。


「このー!!!」


 増田は地下水道の天井を蹴り逆手で持った棒をアプスの脳天目掛けて振り抜いた攻撃はアプスの頭部に突き刺さり、その棒は勢い良く地面まで突き抜け体正面は大きく開いたアプスは足元から崩れて行き、やがて紙屑のように粉々になり消えていった。


「やった!」

「よし!そしたら術紙探すぞ!」


 処理の余韻も程々に2人は近くにあるはずの術紙を探し、暫くして発見した術紙を破り捨てる事でアプスを完全に消し去る事が出来た。


「よし、これで残りは1体や」

「・・・でも、なんか数がおかしくないです?」

「なんでや?上村が過去の世界で破った術紙は6枚。今ので1枚で荒木はんが1枚、隊長達が中国で2枚、そして、地上の交戦中のヤツで1枚・・・あれ?」


 術紙の残り6体に対して残り1枚の存在を思い出せないでいる増田達は、その未確認の最高神の存在を詳しく聞いていなかった。

 その最高神を倒したのは大島と大山 修のみで、そもそも現代の世界では忘れ去られた最後の最高神は7番目の最高神にして最強の再生能力を持つ、今は管野が回収をしているエアだった。




 地上の様子は現代の日本では考えられない光景が繰り広げられていて、普段は閑静な埋立地である有明はゲリラ軍と自衛隊が銃での撃ち合いが行なわれ、飛び散る血と無数の死体が辺りに異様な臭いを撒き散らしていた。

 しかし倒れているのはゲリラ軍の死体ではなく自衛隊の者のみで、トルコ派遣で人数が減っていてゲリラ軍の人数に比べれば数十倍以上の差があったのは確かだったが、その差の真の原因は銃弾を受けたゲリラ軍は暫く動きを止めるが再び何も無かったかのように銃を持ち打ち続ける奇妙な現象からであった。

 これが管野の研究で得た『人体組織再生』の成果で、人体の再生能力を極限まで上げる事で銃弾を受けた部分は即座に再生し、心臓を打ち抜いても変わらない能力を使いゲリラ軍は徐々に自衛隊を圧倒している。


 そして皇居も近い有楽町では、最高神の中でも最強とされているエヌルタが桜田門と半蔵門と次々に破壊して行く。

 エヌルタの能力は上村達と同じ気を使える事で、戦争の神と言われる由縁の通り上村達が使っている気の原点はこのエヌルタから始まっていると言われている気を操る第一人者のエヌルタの力は強力で、片手から発せられる気は桜田門付近の警視庁や各省庁の建屋が意とも簡単に消えて行った。

 近くの人間は全て避難済みで国会議事堂前でエヌルタを待ち伏せしている宮田ミヤダ達が、やがて外務省の屋根が高く舞い上がった先に見える2本の腕以外に背中にもう2本腕と長い尾を持つ両生類に似た外観で二足歩行を行なう生物でありエヌルタを待ち受ける。


 やがて現れた背中にある腕で不気味な光を放つ長い鎌を持ち霧にも似たオーラを発するエヌルタの姿に、その鎌の切れ味の恐ろしさを魔鬼城の光景を見ていて知っている宮田ミヤダ達は既に訪れている恐怖と戦いながらエヌルタを睨む。


「大佐、隊長。あの鎌には気を付けて下さい。恐らく広範囲攻撃だと思われます」

「おお、わかってるよ」

「おうよ!」

「隊長はエヌルタを抑えて下さい。大佐は隊長の援護を。まずは敵の特性を見極めます」

「おっしゃー!来い!!」


 井田は魔鬼城で見た岩の切れている方向が一定方向だった事を思い出し、エヌルタの持つ鎌の攻撃範囲は広範囲に及ぶと想像し2人に伝える。

 井田の指示を聞いた宮田ミヤダはエヌルタに向かって叫び挑発し、エヌルタは宮田ミヤダ目掛けて片腕を繰り出すと、それを宮田ミヤダは気のシールドを作り押し留める。

 エヌルタの片腕と宮田ミヤダの力は互角で、両手で行かれると恐らく攻撃を食らうと考えた井田は笹塚に指示を出す。


「大佐、エヌルタの空いている腕に遠距離攻撃を。あと1分、隊長との均衡が続けばエヌルタの懐に入ってください」


 井田の言葉に笹塚は片手に気を溜め放ち、エヌルタが宮田ミヤダ目掛けて襲おうとしていた片手は笹塚の気砲によって後ろへ弾き飛ばされ、不意を突かれた事で宮田ミヤダとの均衡が崩れない事に業を煮やしたエヌルタが一旦距離を取る為に腕を元に戻そうとする動作を見逃さなかった井田は即座に笹塚へ叫ぶ。


「大佐、今です!」


 井田の掛け声に合わせ宮田ミヤダは後ろへ飛び距離を取った後ろから入れ替わるように刀を構え飛び出してくる笹塚に、エヌルタは2本の腕の手を重ね笹塚に向かって振り落とす。

 その攻撃は既に予測済みだった笹塚が体を仰け反りながら避けると、両手を振り抜いたエヌルタは無防備になるのは井田の戦力どおりだったが、次の瞬間に井田の心に一物の不安が宿る。


「大佐!下がって!!」

「何だって!?」


 その不安の理由が分かり井田は笹塚へ叫んだが時は既に遅く、エヌルタの肩より生える2本の腕で持つ不気味な鎌を笹塚が攻撃を避け無防備のエヌルタの間合いに入った瞬間、目で追えない速度でその鎌を振ったその攻撃は田島の衝撃波に似ていたが威力は段違いで、三日月の形をした波動が笹塚目掛けて襲い掛かる。

 笹塚の後ろを過ぎた波動はやがて後ろにあったビル郡を巻き込むように、波動が通った後の上部は全て無くなっていた。


「大佐!!」

「・・・井田、落ち着けよ。まだ戦いは終わっちゃいねぇよ」


 井田の悲痛な叫びが聞こえる。

 井田の声に反応してエヌルタの衝撃波をギリギリ交わしたが全てを避け切る事が出来ず左腕を無くしていた笹塚は、自身の着ていた服の一部を剥ぎ取り肩付近で強く巻き応急的に止血を行なう。


「大佐!戻って下さい!次は私が前に出ます!」

宮田ミヤダ、何言ってんだよ?やられたのは左腕だけだ。まだ、利き腕は残ってるぜ」

「大佐・・・」


 宮田ミヤダは左腕を無くした笹塚へ交代の要請をするが、この状況で笹塚は普通では考えられない笑った表情を見せながら右腕を前に伸ばし刀を目前に構えるその姿に、宮田ミヤダは息を呑んだ。

 宮田ミヤダの元上官である笹塚は直接関わり合いが無くても国の仕事をしている鈴森や増田でも知る人物だったが、宮田ミヤダの同期やそれより下の年齢の人達は【戦闘の大佐】の二つ名は有名でも、宮田ミヤダ自身も実際にその戦いを見た事は無かった。


 宮田ミヤダがその戦いを見られるチャンスを得られたのは、中東での宗教戦争鎮静の為に組織された戦闘部隊ジャンヌダルクに派遣された時で、井田達と共に戦った宮田ミヤダから見た笹塚の実力は戦場で管制の指示通り動くスムーズさであり、それは戦闘の先を読める力だったと感じている。

 全ての未来を読める大山 由希子の識別眼が現れてからはその存在感は薄くなってしまったが、戦闘で培養された識別眼と同等の予知能力を持つ笹塚の特殊能力は戦場のみで効果が発揮される特異性の物で、自身よりも一回り以上もある年のせいもあり体がついて行かない部分もあったが、井田や宮田ミヤダが絶望に思えたエヌルタの攻撃を片腕のみの犠牲で済んだのだのも、その能力を持つ笹塚であったからこそだと実感する。


 止血処理した切られた左腕の付け根からは布を通して真っ赤な血の色が染まるのを目にした笹塚は、自身の出血量を考えるとそう長い時間は持たないと感じる。


「・・・まったく、年は取りたくねぇな」


 自衛隊を辞めたあの時は、早く時間が経ち自分が役立たずになりたいと思っていた。

 そうすれば、あんな恐ろしい兵器を作らずに済むからだと。

 しかし、今はこの硬直している時間さえ惜しい。

 いつからだろう・・・山奥でひっそり暮らしていた家に居候が3人も出来て騒がしい毎日だが、こんなに毎日が充実しているのは。


 一人は、妄想ばっかりしてやがるし。

 一人は、金に関して細かいし。

 一人は、それを遥か空から見て笑っているし。


 隠居して静かに暮らしたい。

 そう思っていたのに今じゃ、あの騒がしさが愛おしい。


 あんなに嫌っていた国に協力し、今じゃ戦闘なんて懐かしい事もしている。

 自分は、もう十分生きたと思った。

 戦争とは言え、大勢の命を奪い殺人兵器を作ろうとした事に罪滅ぼしをしようなんて別に思っていないが、ありえない出来事を想定し馬鹿真面目に行動をするヤツらに、なぜか心引かれていった。


 ただ、仲間を守りたい。

 今の自分にあるのは、その信念だけだ。


「・・・おもしれぇ。人生ってのは面白れぇなぁ!」


 笑みを浮かべる刀に気を込める笹塚に気付いたエヌルタは、その攻撃に対抗するように自身の両手に気を込め始める。


 その状況に指示を出そうとするが頭の中が真っ白になってしまい何も出て来ない井田は、目の前で攻撃の機会を伺う伝説の【戦闘の大佐】を見つめる事しか出来なかった。


 先に仕掛けたエヌルタは両手に集めた気を目の前の笹塚目掛けて放ち、笹塚はその気を自身の気を込めた刀で受け止める。


「なめるなー!!」


 気合に押されたエヌルタの気は笹塚の刀に弾き飛ばされたが、同時に笹塚も自身の込めた気と一緒に飛ばされる。

 上空に飛ばされ無防備同然の笹塚は再び気を込めるが、受けた傷が深さを考えれば己の生命を脅かしかけない程体力は低下し先程よりも気の量が低く、気を弾き飛ばしたとは言えエヌルタの鎌が控えているのを知っているはずの笹塚の表情は先程と変わらず笑ったままで、側から見れば死を覚悟しているかのような開き直りにも見えた。


 獲物を捕獲するかのような鋭い視線で間合いに入ってくる笹塚を後ろに控えている鎌を振りかざそうとしているが、笹塚は無抵抗に地面に向かい落ちていきながらエヌルタに向かって一言発する。


「ばーか。わたしは、一人でじゃねぇんだよ」


 絶望の状況でありながら、表情を変えずエヌルタへ話す笹塚の先には一人の男がいる。


 宮田ミヤダだ。


 この流れを予想した宮田ミヤダは、気配を消し笹塚の下へ入る事でエヌルタの視界から姿を消していた。

 宮田ミヤダが構える攻撃は強化系の最強技で、全部の気を拳に集中し最強の拳に強化する技で、笹塚を影にエヌルタの懐へ潜り込んだ宮田ミヤダは、渾身の一撃をエヌルタの腹部目掛けて拳を繰り出した。

 その強化された拳はエヌルタの腹部を貫いた宮田ミヤダの背中に降りた笹塚は、この攻撃までの間に込めた気を移した刀を右手一本で上段に構え再びエヌルタ目掛けて飛び立ち、エヌルタの頭上から振り抜く。


 宮田ミヤダの攻撃で腹部を貫かれ、笹塚の刀からの気で粉々にされたエヌルタの姿は砂の様に消えて行き、その後術紙も同様に粉々に消えていった。

 エヌルタの術紙は本人の体内に入っていて、それであれば術紙を破壊される心配もなかったが、本体が倒された場合は術紙も同時に破壊される為復活が出来ないデメリットもあった。

 最強の最高神であるエヌルタに管野はこの方法を実施したが、最高神と術紙の両方を同時に破壊された事でエヌルタは二度と出て来られなくなった。


 着地したそのまま倒れ込んだ笹塚に宮田ミヤダが駆けつける。

 先程の気の攻撃で自身の生命力を使い果したかに見えた宮田ミヤダは、笹塚の体を揺すりながら目に涙を浮かべるが、目を開けた笹塚が泣きそうな宮田ミヤダを見て呆れた声で話す。


「勝手に殺すんじゃねぇよ・・・。まだ、大島に来るなって言われたからな」

「大佐・・・そりゃ、そうですよ!」


 いくら笹塚でもこのままでは命の危険は免れないと考える宮田ミヤダの後ろから、井田が2人に走り寄って来る。


「隊長、確か築地に中央病院があった筈です。癌病棟ですが、応急処置なら出来ると思いますので行きましょう」

「さすが井田だな!」


 笹塚の様態を見て近くにある病院を探し出していた井田へ信頼を寄せる言葉を送る宮田ミヤダに対し、最後の攻撃は戦闘を積んだ者の勘でしか対応できない事だと井田は感じる。

 戦術として積み上げるだけであれば造作も無いが、それを瞬時に戦場で練り対応する能力は少なくとも今の自分には無理で、それを2人はこの危機的場面で簡単にこなしてしまったと感じる井田は、二つ名を背負う人間の強さと、そして苦悩を感じた。


 近くにあった車を使い笹塚を病院まで運ぶが、幸いこの病院はゲリラ軍の侵略を受けておらず血液等もあったが、有明の戦闘で負傷した自衛隊員が次々に運ばれて来たそこは戦時中の野戦病院のような風景で、笹塚と気付いた隊員が慌てて病棟へ連れて行き、処置と輸血を行なう事でようやく落ち着いた。


「お前達、わたしはとりあえず大丈夫だ。他のヤツが来るのを待っていたら間に合わない。お前達で地上戦を加勢して来い」

「いや、しかし・・・大佐を残すのは」

「・・・もうお前は立派な指揮官だ。そろそろ、わたしから卒業してお前が皆の道を開く役をやれや」


 戸惑う宮田ミヤダに笹塚は呆れた表情をする。

 宮田ミヤダにとって上司でもあり師匠でもある存在の自分を大佐と呼ばせたままだったのは、あの時と変わらない不安な2人対しての負担を軽減させる為の配慮だったが、宮田ミヤダも井田もこれまでの戦いで人間として成長したと笹塚は感じている。


「もう、お前達もわたしを大佐と呼ぶな。わたしはもう、ただの一般人で既にわたしの手を離れている。・・・今度は、お前達自身が他の人間の道標みちしるべになれ」

「大佐・・・」

「ほらほら、行った行った。一般人のけが人は大人しく養成してるからよ」


 笹塚の話に押し黙ったまま立ち竦んでいる2人に残った右手で追い払う仕草を見せ、その場を去る事に躊躇している宮田ミヤダへこれまで見せなかった優しい表情を見せる。


「・・・もう、わたしは大差ではない。笹塚と呼べ」

「すぐに戻ります!・・・笹塚!」

「ああ!一応、待ってるぞ」


 それを見た宮田ミヤダは最初戸惑いの表情を見せていたが、やがて何時もの調子で返事をした宮田ミヤダとの短い会話を交わしたその言葉は、師弟の関係ではなく同じ目的を持つ同志としての会話だった。

 先程と違い晴れた気分のように軽い足取りで出て行く2人を、笹塚は見えなくなるまで見つめていた。


「まったく・・・迷惑なヤツらだよ。まっ、これでわたしの荷物が降りたかな」


 その言葉とは裏腹に笹塚の表情もあの2人同様、晴れやかな気分になっていた笹塚は横たわっていたベッドで目を閉じ眠りについた。


 宮田ミヤダと井田は車に乗り自衛隊が交戦している有明を目指すが、途中の道や橋も破壊されていて移動する術を失う。


「くそっ!ここまで来て、何も出来ないとは!」

「隊長・・・あれって」

「ああ!何だ!?」


 悔しがる宮田ミヤダに対し、何かを見つけ唖然とする井田に焦りで語尾が荒くなる宮田ミヤダは井田の指差す先を再度見直し頭が冷める。


「・・・おい、もう1体いるのかよ!「おい!最高神は今のが最後じゃないのか!?」

「はい、鈴森さんもそう言っていましたけど・・・」


 ここ浜離宮から見えた晴海の埋立地に現れた、人間と同じ形をしているが異常な盛り上がりの筋肉が明らかに人間ではない事を物語っている最高神の姿に驚きを隠せずにいる宮田ミヤダの叫びに答えた井田は、万里の長城の古北口で菅野と交戦した時、なぜそこに菅野が居たのかを思い出す。

 持っていた双眼鏡で確認した井田は、晴海で暴れている最高神があの大島でさえも倒す事が出来ず封印でしか押さえる事が出来なかった驚異的な再生能力を持つ生物であるエアだと確信する。


「間違いありません。あれは、中国で管野が回収した最高神です!」

「何!?」

「なぜ、中国に現れた最高神が晴海に・・・。あっ!あそこには上村さん達が居ます」


 ケーブルダクトから脱出し晴海ふ頭にハイジャックされた客船へ向かう上村と大山 由希子は最高神と交戦しているのを確認した井田は、晴海に居る援軍の誰かに連絡を取れればと思い無線機を取り出し発信信号を送る。


「もしもし、増田や!」

「増田さんですか!?よかった。今、晴海で上村さん達が最高神と交戦中です。相手は、驚異的な再生能力を持つエアです」

「晴海に最高神やな!了解や。こっちは豊洲付近で、晴海へはもうすぐ着くから任せてや。さっき鈴森はんから連絡があって、地上戦が押されているらしくて、出来ればそっちへ加勢出来へんか?」

「分かりました。そっちへは私達の方が近いですので、隊長と私はここで鈴森さんと合流して有明を目指します」

「ああ、そっちは任せたで!」


 井田の呼びかけに返答したのは増田で、田島とアプスを倒し地下水道を通ってゲリラ軍を倒しながら晴海へ向かっている増田達へその先に現れている最高神の事を話し、井田達は鈴森と合流しゲリラ軍に苦戦を強いられている有楽町の自衛隊への援軍へ向かう。

 携帯電話が使えないこの場面で上村が作ったこの無線機は抜群の効力を発揮していて、無線機の電波帯は従来のホッピング機能を改良しゲリラ軍のジャミングを自動で避けられる為、この戦場で唯一可能な通信手段として重宝されていた。

 増田と通信を終えてから暫くして鈴森と通信が出来るようになり、3人は浜離宮で待ち合わせる事にする。


「笹塚さんは大丈夫ですか!?」

「左腕を切断していますが、今は築地の総合病院で応急処置は済ませました」

「分かりました。私達は戦闘用で使う手術の設備は持っているから、これから病院へ向かいます。隊長はこの船を使って下さい。今の有明の状況は良くありませんが、私達は築地で負傷者の治療を行ないますので、必ず無事でここへ帰って来て下さい」

「ああ!任しておけ!」


 鈴森は救援部隊が宮田ミヤダ達が移動で使った車に機材を入れ替え乗り込むながら宮田ミヤダと短い会話を終えると、互いに陸路と水路の別れ移動を始める。


 増田と田島は最高神エアを、宮田ミヤダと井田はゲリラ軍と戦いを始め、元謎の生物対策省の隊員達と最高神との最後の戦いが今始まろうとしていた。


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