第33話 潜入
2016/10/16 全文校正実施
ここは東京都心。
上空は報道・軍事のヘリなどの無数の飛行物体が飛び回る姿は、まるで空飛ぶ乗り物が多く飛び交う未来の世界のような光景だった。
菅野率いる中東ゲリラ軍は、首都官邸や警察賞など首都機能の重要部分や、病院や原発といった国の生命線に関わる各地へ源流の石を各地にばら撒き入口を作る奇襲戦法を用いた事で、意図も簡単に首都機能とライフラインを我が手中に収めた。
しかし、占拠した後のゲリラ軍は声明などを一切公表しておらず、政府は自衛隊を出動しゲリラ軍のアジトを必死になって探している。
「向こうからの声明は一切出ていないのか!」
壁回りはコンクリート剥き出しの不気味な小部屋にテレビが1台のみ置いてあるここは都心にある地下室で、テレビ電話を行なっている内閣政務官の小泉はテレビで繋がっている内閣官房長官の管 英義に東京の現状を報告し、地方公演で東京を離れていた時に襲撃を受けた為難は逃れたが他の内閣大臣は全て襲撃に会い拘束された事で首都の機能が完全に停止した事に焦りを見せる管をよそに黙々と語る。
「はい・・・。占拠された各場所には自衛隊を配置しておりますが、先の派遣で日本には自衛隊員がおりませんので威嚇程度しか出来ない状態です。・・・恐らく、相手は私達の行動を読んでいるかと思われます」
「敵は内部に居ると言うのか」
「・・・源流の石を発見し、謎の生物対策省の研究室長だった人間」
「元、生物対策省の人間とは・・・菅野か」
「最近前国に関わっていた彼なら、この状況を作る事は可能かと思います。元同僚だった彼らも、現在中国へ渡っているらしく現在日本にいるのは田島さんのみです」
「彼に連絡は?」
「取れましたが地方にいるらしく、東京へ来る手段がありません。・・・それに、彼は戦争に関しては素人です。生物が出現すれば要請は出そうと思いますが、ゲリラ軍相手では厳しいかと思います」
唯一日本にいた田島は、講習会で地方へ出張中だった為東京へ戻る手段を失っていたが、生物を倒せる実力を持つ田島でもゲリラ軍相手では力にはなれないと話す小泉は、嵐の前の静かさを感じる冷静な表情で呟く。
「・・・ですが、鈴森からは連絡はありましたが」
「ぬっ!鈴森か・・・お前、鈴森と連絡を取っていたのか!?」
「いえ・・・。この緊急事態の今は藁にもすがる思いでありましたので、戦闘要員としてOBにも連絡を取った迄です」
「ヤツは、上官の指示を無視した無法者だ!そんな人間に国を任せられるか!」
「ですが、大臣が帰郷出来ない今は残った戦力で戦わなくてはなりません。それこそ相手の思うツボです」
小泉の言葉に苦虫を噛んだ様な苦い表情に変わった管は、自身の命令に背いた鈴森と喧嘩別れをした腹いせに省を解体したそんな仲の相手に助けを請う事に屈辱を感じながらも、東京へ戻る術を失くし何も出来ないままでも国はおろか自身の首も危険と感じる。
退職後も鈴森の連絡は取っていた小泉はさっきも調べ事の依頼を受け連絡したばかりだったが、それを知られるのも後々不都合もあると考えそこは伏せていた。
「鈴森の情報ですと、ゲリラ軍は源流の石のワープ機能を使って各場所へ侵入したと思われます。今、彼らもその源流の石のワームホールから東京へ到着しています」
「・・・お前、鈴森に力を借りろと言うのか!?」
「彼が内閣府でも優秀な切れ者なのは、内閣府へ呼んだ大臣が一番ご存知なはずです。今は決別し外部の人間ではありますが、彼の力に我々が救われた場面が多々あったのは確かです。今は、いがみ合っている場合ではございません。長官がこちらへ来られない以上、我々がこの都市と国を守らなければなりません」
「・・・好きにしろ!」
東京へ向かっている鈴森達を協力者として迎え入れる事を語るその凛とした小泉の態度に、何も出来ない管は最終的には折れた。
これで鈴森の依頼を実行する事が出来ると安どの表情を見せる小泉は、部屋を出て早速それぞれの手配を始める。
自身の身も危険である事には変わりはないが、今の東京で動ける政治家は自身しかいないと感じる小泉は、まず同志を集めゲリラに対抗する勢力を作る事を始めた。
小泉は先祖代々続く政治家の末裔で、親の地盤を引き継ぎ若干30代で当選し『新しい波』と呼ばれた小泉は、悪く言えば親の七光りの二世議員だ。
だが、本人はそう言われるのに嫌気が差し時々見せる単独行動に、内閣府の政務官には就いてはいるが党内部では異端児扱いされ、なれ合いを好む歴代の祖先達とは違い毛嫌いされていた。
しかし、その異端児ぶりが有権者に好評であった為に党も手放せない。
小泉は、そんな状態の政治家だった。
正直、小泉はそんな事はクソ食らえ程度しか思っておらず、まだ若い自分が日本を変える為に政治家になる事を誓ったその信念があれば今はいいと小泉は思っている。
そして、この日本を変える為には鈴森は必要だと感じる小泉は、省を去った後に聞いた彼が官房長官を敵に回し自身の進退を賭ける程の信念を見せた事に今でも違和感を感じている。
自身の片腕として働く鈴森はとても頼もしく頭の切れる秀才だったのは確かだったが、正直、小泉は鈴森にそこまでの根性はないと思っていた。
だが、謎の生物対策省に入省してからの彼は己の信念を貫き、その為なら上官にも牙を剥くその姿は今の自分と凄く似ていると感じ取れた。
今の鈴森は頼もしい。
素直にそう思えた小泉は、この地下を拠点に各自衛隊と連携を取り鈴森達とゲリラ軍から主導権を奪い返す為に奮闘を続ける。
薄暗い地下水道を上村と大山 由希子は走る。
途中に何人か警備らしきゲリラ軍と遭遇し大山が識別眼と棒術で気絶させたが、ゲリラ軍もランダムで移動してきた為、数人が合流できずに彷徨っているのだろうと思える。
「増田さん今、地上に出ました。豊洲駅付近です」
「わかった。ワイもそっちの方を目指すわ」
久々に出た外の景色はどんよりとした空と同様で、町の明かりは全て消え人通りもないゴーストタウン状態の風景だった。
増田との連絡が取れているのであれば互いの距離は結構近い距離いるのは間違いないと感じるが、鈴森とは連絡が取れなくなってしまった事で、荒木との合流を目指す鈴森とは距離が離れた事を上村は感じる。
側にある商業施設を集合ポイントにした上村達はその場に身を隠し、ゲリラ軍もこういった場所には居ないらしく人もいない閑散とした建屋で2人は近くにベンチに座り増田を待つ事にした。
「・・・ねぇ、上村は菅野のした事を予想していた?」
「博士は昔からその優しい性格とは違って、自分の信じた道を付き進む時の力は凄かったんだ。今している事は世間的には許されざる犯罪だけど、久々に会った時に感じた研究者としての彼が今信じている道なんだ、と。・・・正直、こうなる事を予想していた訳じゃないんだけど、仮面の男が彼だと分かった時、今までの出来事に納得してしまった自分がいたから・・・」
菅野が最高神を召喚した事も戦場に立ったのも自身の研究を成し遂げる為の信じる道がその先にあると考えた結果で、その信念を簡単に曲げる事の出来ない人間である事を知っていたからだと想定出来たと話す上村は俯く。
「・・・出来れば、話をして欲しかった。私でどうにかならない事かも知れないけど、彼の心の闇を取り去る事が出来ていれば、今のようになっていなかったも知れない。・・・その後悔は残っている。・・・こうなった以上、博士を止めるは私しかいないと思っている。私がアイツを止める」
「上村・・・」
機密を聞き出そうとした自身を冷徹な目で見つめ追い返したあの時に菅野に心の闇を見たが、それは数十年と言う長い年月を生きて来た分だけ経験する理不尽さで、それを抱え生きて行くのが大人の世界であり、政府の秘密をこれ以上話せないと言った彼の心の闇を理解出来なかった事に寂しさと共に悔しさを感じていた。
暫くすると増田が2人の所へやって来て、その後すぐに連絡のつかなくっていた鈴森も追いついた。
「荒木さんは、見つからなかったのですか」
「いえ、荒木さんは今回の移動ルートを確保してくれたので、先にその入り口に向かってもらっている所です」
「荒木さんが移動ルートを?」
「ゲリラ軍が占拠している地下道には、恐らく最高神も居るはずです。だから、その上を走るケーブルダクトを使ってヤツラの拠点へ行く作戦です」
ゲリラ軍がうろつく地下水道の上を走るケーブルダクトを通る作戦を話す鈴森は、ゲリラ軍は客船を乗っ取り晴海で停泊しその中に菅野もいるとの情報と、ここから晴海まで距離はないが橋を破壊されていて陸上からの進入は不可能だと伝える。
だが、荒木が見つけて来たケーブルダクトは晴海ふ頭の菅野のアジトまで繋がっているルートであれば、その幅には最高神も存在する事は出来ず同時にゲリラ軍との遭遇率も圧倒的に少ないと話す。
その直後に鈴森へ有楽町付近でゲリラ軍と戦闘中だった自衛隊から着信が入り、突如現れた最高神とも戦闘を始めたと連絡を受け、ゲリラ軍の交戦は自衛隊でもなんとかなるが最高神はこの場の誰かが向かわなくては壊滅状態になると考える。
しかも荒木から地下にはまだアプスが残っているとの情報も入っている現状も考慮し悩んだ鈴森は、通話が終了した後3人に視線を合わせる。
「鈴森さん、地上にも最高神が現れたって・・・」
「・・・上村さんは、引き続き菅野を探して下さい。私と荒木さんの所へ行きましょう。・・・相手は、おそらく最強の最高神です。地上の最高神は、増田さんと大山さんでお願いします。」
「ですが、それならいっそ全員で向かった方が・・・」
「それではアジトへの潜入が遅れてしまいます。荒木さんが見つけたこのルートだって、何時までもゲリラ軍が野放しにしておく筈はありません」
「鈴森さん・・・」
カラマイで見たあの光景。
あれほどの破壊力を持つ最高神がもし地上に降り立ったとなればと考える鈴森は、自身の話す指示が無謀な事だと分かっていたが、神妙な表情の鈴森の言葉に2人は無言で頷き受け入れる。
「・・・おーい・・・聞こ・・・かー!・・」
その時、範囲ギリギリの無線が皆の耳に入る。
ノイズ混じりだったその声は、やがてその声は聞き取れるようになると同時に聞き慣れた声が聞こえる。
「おー!!皆、待たせたな!!」
「宮田隊長!それに、井田さんと笹塚まで」
「どうも」
「わたしは、増田から今回の件を聞いてな。しょうがねぇから長野から中国へ行ったて訳だ」
「いやー、カラマイまで行くのに時間がかかってな!あっちでも最高神が出てな!・・・それと、菅野と会った」
「菅野とですか!?」
そこに現れたのは宮田と井田と笹塚で、上村はカラマイの洞窟に無線機を置いて宮田達が来たら持っていってもらうようにワームホールの諸注意と共に置手紙を書いて来ていて、それを装着しながらの探索だったので思った以上に早く合流する事が出来た。
北京にいる大山 修は完治するのにまだ時間が掛かり、ヒルダンも自国の建て直しの為、トルコへ戻ったと言う事で、地方にいる為東京へ戻る術を失っている田島以外のメンバーが揃った。
久々の再会も程々に本題へ戻した宮田からの言葉に、今回の首謀者を既に知っている上村はその名前に驚きを見せた訳では無くその場にいた理由に疑問を持ったが、その理由を言わんとばかりに宮田が話を続ける。
「600年前に大島と修が封印した最高神が、アイツの欲しがっている『不死の最高神』と言う訳だ!」
「不死の最高神・・・」
「だから、アイツは北京に現れ最高神を復活させ術紙を回収しに来た。ワシたちで別の最高神アシュルを倒す事は出来たが、アイツはエアを回収し日本へ戻った!」
「と言う事は・・・」
「アイツは、どこかで必ず不死の最高神を召喚して来る筈だ!」
宮田の話す不死の最高神が菅野に連れ去られた事で、相手の手持ちのカードはゲリラ軍とも戦わなければならないこのメンバーでは厳しいと全員が実感するが、その中でも冷静な表情を変えない鈴森は沈黙が支配するこの場に一石を投じる。
「・・・敵は、この地下道にいるアプスと地上の最高神とゲリラ軍と不死の最高神・・・そして、菅野です。隊長は地上で最高神を抑えて貰えますか」
「・・・ああ!分かった!では、こっちの3人で地上へ出て、エヌルタと交戦する!」
「増田さんは、大山さんと共にアプスの討伐と術紙の破壊とエアとの対戦に備えて下さい」
「わかった」
「上村さんは、私と荒木さんの所から菅野の所へ向かいましょう」
「・・・分かりました」
普通であれば、こう言った場合は隊長である宮田が指示を出すのが常識だが、彼の作戦能力を認める宮田は、あの時以来変わった彼の表情と覚悟を感じ指示に反応する表情を見ながら、何があっても協力と皆を守る事を心に誓う。
だが、その中で一人曇った表情をする大山 由希子は意を決した表情で鈴森を見る。
「・・・鈴森さん、私を上村のバックアップに回して貰えませんか」
「大山さん、どうしたのですか?」
「アジトまでに罠が無いとは限らない。・・・この目が必要になる筈です」
「鈴森はん、ええやないですか。地下道にはもう罠はないやさかい。暗闇なら、ワイの能力でどうにかなる」
「鈴森、ついて行かせてやってやれよぉ」
真剣な表情で話をする大山を見てニヤッと口元を緩める増田の表情に続いて、大山の決心の真意を理解する笹塚からもからかい調の声が上がる。
「・・・分かりました。大山さん、上村をお願いします」
「はい、鈴森さん、ありがとございます」
「まぁ・・・そう言う事でしたら致し方ないですよねー」
「な、なんですか!その言い方!」
大山の言葉と笹塚達の表情からある程度理解した鈴森は口元が緩んだ口調でその意見を聞き、それに気付いた大山は頬を赤らめ鈴森へ向かって怒っているが、やはりそれに気付かない上村はさすがモテナイチームの人間だった。
「おーし!皆、日本を奪還するぞ!」
「おー!!」
士気を上げるのは自身の仕事と感じる宮田から決起の掛け声が上がり、それに続き回りのメンバーが返事を返し、こうして菅野率いる最強軍との戦闘が始まった。
上村と大山 由希子と鈴森の3人は、地下水道の上部にあるケーブルダクト通路の入り口前に立っている。
先に来ていた荒木は、ダクト内を通り易くする為ローラの付いた乗り物を用意してあり、元々1人用だった事もあり見た目は少々狭い感じは否めない台座に乗る2人に鈴森が話し掛ける。
「2人共、無理だけはしないで下さい。・・・そして、絶対帰って来て下さい!」
「分かっています。絶対成功して戻ってきます」
「・・・上村さん」
「何ですか?」
2人に激励の言葉を掛けた鈴森は慎重な趣で上村を呼ぶと、自身のスーツの内側に手を伸ばし一丁の銃を渡す。
「・・・相手は人間ですので、これは有効です。それは、あの時対峙した上村さんなら良く知っている筈です。あくまで、護身用で済んで欲しい物ですが・・・」
「正直・・・それは私も一緒です。親友に銃口を向けるなんて、非現実的な事なんて・・・。だけど、これが本当の戦場であれば致し方ない事です」
大島や宮田でさえ相手の間合いに簡単に入る事は至難の業な実銃があれば戦闘が優位だと言う事は先の戦闘で上村も分かっていたが、実弾の取り扱いどころか人間に銃口を向ける事など有り得ない一般人であった上村にそれを渡す事を躊躇する鈴森に、自身に待ち受ける戦争と言う現実に覚悟を決めていたと話す上村は、鈴森が小泉経由で仕入れたガバメントを受け取る。
2人が乗った台座は後ろから押されると下り坂の勢いもあって簡単に前に進みだし、やがて速度が上がるに連れ2人の姿が見えなくなって行く姿を鈴森と見守る荒木は、先の見えない闇へ吸い来れて行った2人が消えたと同時に口を開く。
「彼なら、菅野を止める事が出来るでしょう。・・・さすが鈴森さん、抜け目の無い人選だ」
「・・・やはり、貴方は私の事を知っていたのですね」
「・・・何の事ですか」
鈴森が返した言葉に、表情を曇らせた荒木と互いに向き合う。
鈴森は荒木と初めて会った時から、胸騒ぎを感じていた。
それは、敵の侵入と言うよりも誰かに利用されている感じであった胸の疼きであったが、荒木から発せられた自身を前から知っているかのような口調で全てを把握した鈴森は自身の感じていた確信をここで得た。
「・・・あなた、一体何者ですか?」
「一介の、掃除屋と言った筈ですが?」
「政府の隠密機関は、宮田隊長が主に受け持っている。増田さんは、そこまで知らなかったみたいですけど、元内閣府の人間の私は、そんな事を調べるのは造作もないんですよ」
「・・・」
「そして、あなたの素性も調べました。・・・あなた、私たちを利用しようとしていませんか?だから、私もあなたを利用させて貰いました」
「荒木さん、あなたを、テロの共謀罪で逮捕させて頂きます」
鈴森は持っていた銃を荒木に向けるが、その行動に対しても微動だにしない荒木は先程と同じ表情のまま鈴森を見つめる。
「・・・証拠はあるんですか?」
「あります。簡単に言えば、あなたは知り過ぎていた。政府ですら把握できない情報を・・・しかも、寸分野狂いも無く正確に。それは、あなたの情報源がゲリラからだからではないのですか。あなたは、菅野と共にゲリラ軍を動かし国内の各地で生物を召喚した。それが、あなたが第二部隊に合流出来なかった真実だ。しかし、省が解体されると共に姿を消した菅野にあなたは焦った。ここまで協力したのに裏切られた・・・と」
銃のスライドを引き薬室に弾丸を装着されたにも関わらず、いつも通り冷静な表情を崩さず無言を貫く荒木に鈴森は話を続ける。
「あなたの推薦は政府でもあり・・・菅野でもありましたね。あなたの話していた能力も、菅野の研究で得た物でしょう。」
荒木を謎の生物対策省へ推薦したのは政府と言う事になっていたがそれは菅野の作戦で、菅野は別人として政府の人間の弱みを握り交換条件として荒木の入省を持ちかけ、その人間を殺害する事によって真実を闇に葬った。
鈴森が荒木の素性を調べた時に推薦人の人間の不審死に疑問を覚えたのが始まりで、元上司の小泉からその政府の人間は何かに脅えた生活を送っていたとの話で、荒木は表向き掃除屋として非公開の物件に対応していると言っているが、今回の首謀者が菅野だと知ったと同時に彼の正体が菅野と繋がりがある人物だと確信した。
その言葉に初めて表情を強張らせた荒木は、自身の現在の表情を知らないのか口調だけはこれまで通りだったが額には汗が見える。
「・・・ほう、そこまで調べ上げたのですか」
「今の状況が、確かな証拠だ。あなたは、私の実弾に対して気の防御を使わない。ムンムやアプスの攻撃をも防げる能力なら、小銃の実弾なんて問題ないはず。それも、隊長達が証明してくれています」
「・・・あなたの言うとおり、私の力は玄能石を使っての力です。これを使えば最高神の攻撃だって防げますがこれには重大の欠点がありましてね、動き易さを考慮し一番バランスの良い石のサイズにすると、1回しか使えない事ですかね」
「・・・あなたは一体何者なのですか」
「その質問は何回目ですかね。・・・いいでしょう」
実弾は気の壁を作れれば防げる事は大島や宮田が証明しているが、荒木はそれを使わず
銃口から目を背けられずにいる理由は先の戦闘で気は使い果たしたと言う事で、鈴森の指摘を受けた荒木はおもむろにスーツの内ポケットから1粒の石を取り出したのは玄能石で、自身のスピードを活かしながら使う重量としては1回の使用が限界だと聞き、恐らく日本・・・いや世界中の情報を知るであろう荒木の存在に怯えながらも表情に出さない鈴森に、一度ため息を付いた荒木は再び鈴森を見る。
「・・・私は、ゲリラ軍の諜報部隊として日本に侵入していた人間です。名前は荒木ですがハーフの生まれで、名は『アラキ』。私はカンノの同志として中東戦争での敗北後国を追われ、彼と共に日本へ逃げました。この地で再起を誓い、その日が来るまで地下の世界へ潜み、カンノはその頭脳で再び研究職へ戻り、私は裏の世界で情報収集を行なっていました」
荒木の正体は日本に潜伏していたゲリラの諜報機関の人間で、荒木は鈴森が小泉に荒木の情報収集と連行の依頼を出していた事で奥から数人やって来る自衛隊の姿を確認しても表情を変えず鈴森を見つめている。
「カンノが源流の石を解明し過去の世界の最高神を召喚出来た時、彼は自身の研究と合わせて数々の発明品を作った。召喚術紙・玄能石・異常再生能力などがそうです」
「・・・そして、菅野が突然居なくなり焦ったあなたは第二部隊に言い寄り、そして利用した」
「・・・ま、結局は貴方に利用されて終わりましたがね。これこそミイラ取りが何とか、ですかね。貴方が来た時から、既に私の計画は狂っていました。地方に住んでいる貴方なら、この包囲作戦で東京へ侵入出来なくなっている筈だったのですから」
やがて到着した数人の自衛隊員に囲まれ手錠をされ肩を担がれ連行される荒木に、これまで協力的だった彼の正体をワザと隊員へ話さず心の中にしまっていた鈴森は困惑の表情を向ける。
「荒木さん!あなたの話した言葉はどこまでが本心ですか?・・・正義の味方が欲しかったのは、本当なのですか」
「・・・」
「さぁ!来るんだ!」
増田に荒木の事を聞いた時、自身の所へ尋ねた理由は正義の味方が欲しかったと言っていた事を思い出し、彼がいなければ増田は間違いなく戦場に参加する事が出来ず戦局は大きく変わっていた行動は敵側である荒木にとって裏切りの行為に近いはずで、もっと汚いやり方があった筈だと感じる鈴森は荒木の逮捕の場に誰も立ち合わせなかった。
彼は間違いなく自分達の恩人だと感じている鈴森は、今も続く心の葛藤と今まで胸につかえていた感情を晴らしたいと言わんばかりの大きな声で去り際の荒木へ叫んだが、その叫びに荒木は一度立ち止まるが目線だけ鈴森の方へ移したまま無言を貫き自衛隊員に連れて行かれる姿を瞬きせずに凝視する鈴森に近づく男は、元上司であり今東京で自由の利く数少ない政務官の小泉だ。
「・・・アイツめ、最後にお前に攻撃したまま去ったか」
「ええ・・・参りました。さすがにこの心理状態では、私はとても戦場へは向かえません・・・」
「アイツは、その手に関してのプロだ。お前のような性格に与えられる攻撃を知っている。なぁに、宮田さん達が何とかしてくれるだろ。お前は出来ることをやったんだ。引き続きお前のやれることをすればいいんだよ」
荒木の正義と凶器に鈴森は動揺を隠せないでいる姿をみた小泉は、荒木の去っていった闇の方を見ながら話し掛けると、鈴森は玉を込めた銃のマガジンを抜きスライドを引き中の弾薬を取り出した銃を見つめながら話す。
「・・・そうですね。私には、この役は似合いませんね」
銃を持つ手を震わせながら必死に口を開く鈴森は、自身を奮い起こす為に震える手で冷たい銃を強く握り絞めながら小泉を見上げる。
「・・・上村と大山 由希子が、菅野のいる客船へ向かいました。地上の最高神は、ジャンヌダルクが地下水道は増田が交戦しています。私達は、周辺のゲリラ軍の殲滅と一般人の救助に向かいましょう!」
「ああ!やっとお前らしくなってきたな」
正直まだ荒木の魔法は完全には溶けていないが皆命を掛けて戦場へ赴いていると感じた鈴森は、ここでのんびりしている暇はないと自身へ気合を入れ小泉と一緒に地下水道を走り出した。
上村達はケーブルダクトを通りそのまま海底に入り地上に出たその先の光景は、目の前に広がる海原に巨大な豪華客船が佇んでいる。
荒木から貰った内部図面を見ながら鈴森の連絡を受けるが、その情報は少し古い物なので注意するようにと話し連行時は無線を切り一部始終を皆に伝えていなかった鈴森の真意は、万が一地図に罠がある可能性を感じながらも彼の事をまだ裏切り者とは思っていなかった。
上村と大山は船内に潜入し、何処かにいるはずの菅野を探しに向かった。
- 現代編 終 -




