第32話 仮面の素顔
2016/10/2 全文校正実施
太陽の光が砕けた岩の隙間から無数の矢のように差し込んでくる。
その光は目の前で対峙する2人の戦いを見守るかのように、互いの周りに光のアーチを作り明るく照らし出す光の中で向かい合っているのは笹塚と男で、その姿を見つけ後から来た宮田・ヒルダン・井田が見つけたが、2人の間に見える無数の岩肌が削られた跡が激しい戦いを物語っている。
「・・・菅野、お前の貫いている信念ってのは、この事だったのかよ」
「増田が居ない今なら耐性後のスィンだけで事が片付くと思っていましたが、まさかアイツが笹塚を連れてくるなんて。しかも、アシュルも倒すとは・・・これは予想外でしたが、ね」
笹塚は男に向かって名前を呼ぶと男は戦闘態勢に入っていた緊張感を取ったかのように肩を上げながら小さく笑い、被っていた仮面に手をやりゆっくりと外す。
仮面の内側にボイスチェンジャーが付いていて、それを外した事で本来の声を聞く事が出来た声と白髪の人物は間違いなく菅野だった。
「まぁ、計画は順調だ。・・・それに、ここまで知られているんだし隠していても仕方がない、ね」
「お前の目的はゲリラ時代の復讐か?それとも、俺達に殺された同志への敵ってところか」
「別に、そんな事は考えていません、よ。僕はただ、自身の研究を完成させたいだけ。研究者としては至極当然の事です」
「菅野!その術紙をよこせ!その最高神は不死の生物で、封印するしか倒す方法が無い生物だ!」
「だから・・・なんですか?不死の体は、人類が追い求める最高の目標ではないですか?僕は不死の軍団を作り、それをこれから証明します。・・・そして、最強の生物も」
「それにしては、行動が大胆だな。それを証明するだけなら、わざわざ日本を占拠する必要はねぇんじゃねぇかい?」
笹塚からの質問を特に躊躇する事もなく答える菅野の片手にある術紙は、回収出来なかった残りのエアの一部が既に回収されているようで、宮田の叫びにも動じない菅野は薄ら笑いを浮かべる。
菅野の目的を聞いた笹塚は予想以上の行動に疑問を抱いたが、それが相手に悟られないように話す。
不死の軍団を作り、それをアピールするだけなら中東での戦争だけで十分だと考える笹塚は、なぜ菅
野が時間を掛けてまで国を侵略する行動は笹塚には理解が出来ず、それを聞いた菅野は暫く押し黙ったが即座に4人に目を向ける。
「これで僕の目的は果たしました。・・・もう、ここに用はない」
「行かすかよ!」
そう言い残した菅野が持っていたチョークで描いた魔法陣が光りだし事に気づいた笹塚は、自身の気を地面に放ち魔法陣を破壊しようとするが、魔法陣が破壊される前に菅野はすでに姿を消し破壊された魔法陣の跡には誰も居なくなっていた。
「クソ!」
「大佐、どちらへ!?」
「菅野の向かった先はおおよそ検討が付く。多分、増田の所だ!あっちでワームホールが見つかったかの確認だ」
「大佐!どうして、菅野は増田の所へ行くのですか!?」
「増田が居るカラマイにもワームホールがあれば、菅野はそこを通って日本へ潜入する筈だ。・・・そして、日本を占拠しているゲリラ軍も同様のルートを使ってな。だとすれば魔法陣を破壊された今、わたし達はカラマイ経由でしか日本へ向かう事は出来ない」
破壊された魔法陣を見て悔しがる笹塚は宮田の質問に答えながら即座に携帯を取り出し、増田へ連絡を取ると同時にその電話へ着信が入る。
「アイツはエスパーかよ・・・」
笹塚が見た液晶表示に映し出された着信相手は増田で、半笑いを浮かべながらその着信を受けると、増田達はカラマイにいた上村達と合流し、笹塚の想像通り日本へ向かうワームホールを発見したとの連絡だった。
日本へ戻るにはカラマイへ向かうしかない笹塚達4人は、かなりの時間ロスに苛立ちを覚えながらも日本へ向かう為、ワームホールの見つかったカラマイへ目指した。
辺りは荒野が広がる人気のないカラマイの魔鬼城付近に立つ増田と荒木だ。
以前に中国から非公開ではあったが討伐依頼を受けていた荒木は、既にここへの立ち入りの許可を貰っているので造作もなく中へ入れ、暗闇から照らされる不気味に立ちはだかる無数の岩柱を見つめる荒木は何かを探すように辺りを見渡す。
「ここで、私は2体の最高神が現れました。1体は日本でも出没したナブー・・・そして、もう1対はエヌルタでした」
「これが、エヌルタの攻撃力か。・・・確かに脅威やな」
「宮田隊長の話ですと、北京で召喚された最高神はアシュルで、菅野はエヌルタを別の場所で召喚するのでしょう」
「・・・日本か」
「・・・はい。今、日本は最高神を倒せる人物は一人しかいません。ですが、一人ではとてもエヌルタに対抗する事は出来ません」
「ここらへんに、日本へ戻るワームホールがあればいいんやがな。今、日本が襲われれば敵わんな」
「菅野が人気の少ない油田に最高神を召喚した目的は、油田の占拠とゲリラ軍のルートの確保で、立ち入り禁止にすれば余計目に付きづらいですからね」
目の前に広がる荒地が以前に荒木達が交戦した時の凄さを物語っていて、岩や木など全ての物がまるで鋭利な刃物で切られたように綺麗な断面を残している。
魔鬼城は現在公安警察が立ち入り禁止にしていて、ましてや最高神発生の場所であれば容易に進入なんて出来ない事を考慮すればワームホールを作るには絶好の場所という事になると荒木は語る。
その時、増田の携帯に上村から連絡が入る。
「おう、上村か!」
「増田さん、お久しぶりです」
「もうこっち来たんかい?」
上村達はカラマイで大山 由希子と合流し魔鬼城付近へ向かっていた最中で、日本で増田が連絡した時の不在着信に気付いた上村が連絡を取ってみた時、増田達は丁度ここを離れる寸前だった為うまく合流する事が出来た。
「なるほど・・・鈴森でしたか・・・」
連絡の後増田達は上村と合流し、その面子を見た荒木はその中にいた鈴森を見て人知れず小さく呟く。
「こちらは荒木さんや。第二部隊に配属される予定だった人や」
「どうも、初めまして」
「貴方が荒木さんですか」
「貴方が、一般の方で最高神を倒した上村さんですね。噂は常々聞いていました」
「えっ!?そうですか・・・」
「初めまして」
「識別眼の大山さんですね。・・・貴方は、こちらの世界では有名人ですから」
「そうですか・・・」
荒木は握手を交わしながら語る言葉に驚きの表情の上村に薄ら笑みを見せると、隣の大山 由希子に対しても面識はないがその世界では噂で知っていると挨拶をする。
「初めまして、・・・鈴森です」
「初めまして・・・、『内閣府の切れ者』にお目に掛かれるとは光栄です」
「・・・どうも」
荒木は鈴森の存在を知っていたが初対面の挨拶を交わすが、荒木の存在感に何かを感じた鈴森は固い表情を見せる返事をする。
その後、全員でこの場所にある可能性の高いワームホールの捜索を行い、暫くし鈴森が不自然に繋がれた岩を見つける。
「大山さん」
「鈴森さん、どうしたのですか?」
「識別眼で、この岩を見て貰えますか。・・・ちょっと、この岩が不自然だったのでその先にワームホールがあれば、識別眼で残された記憶が見えるかも知れない」
「わかりました」
大山の識別眼でその先を確認すると、その先には微かだが記憶があるのを読み取る事が出来た。
「・・・この壁、内側に爆弾が仕掛けられています」
「やっぱり、予想通りですね。こんな簡単なカモフラージュで、見つけられる筈がないはずですから。・・・では、爆弾の影響を受けない横から掘る事にしましょう。・・・大山さん?どうしたのですか?」
ゲリラ軍は、いずれワームホールは見つかり後を追ってくる者がいると予想済みで、表向きは見つかり易い簡単なカモフラージュにし壁を壊す事で爆弾を発動させる起爆装置を設置する事で、ワームホールと捜索者を消そうと考えていたのだ。
だが鈴森はその罠を予想し大山の識別眼によって過去を確認し解除する事に成功し、ワームホールを発見した事を連絡した後起爆装置が働かない場所から採掘を始める事を大山に話し掛けようとしたが、識別眼で見つめ続ける大山が振るえながら硬直している事に気付く。
鈴森達は日本が占拠されているのは既に知っているので、識別眼で見えているのは恐らくその光景だろうと鈴森は思っていたが、目の前で脅える姿の大山は既に知っている情報に対しての驚きの表情ではないと感じる。
「どうしたのですか!?」
「・・・まさか・・・そんな」
識別眼で見た微かな記憶の中に出てきた人物。
ゲリラ軍を指示して日本の各地へ配置させている、菅野の姿だった。
「・・・菅野が。・・・彼が、まさか大島隊長を」
「・・・急を要していたから、まだ話してなかったんやが、ワイらが過去の世界で見たあの男の正体は、菅野や」
「菅野が!?」
「博士、が・・・」
「せや・・・。菅野は、自身の研究を完成させる為、単身ゲリラ軍に加入し最高神をも召喚した人物や」
「・・・そして、大島隊長を」
「せや・・・」
アームホールを向就けた事を鈴森から連絡を受け集まって来た増田は、その驚愕の真実を知り震える大山に今回の首謀者が菅野だと話すと、驚きとショックを隠せず沈黙する鈴森・大山に対し上村は思っていた以上に冷静になっていた。
菅野は確かに真実を隠していた。
以前、研究室で見せた彼の冷酷な表情。
あの時、彼の空白の数十年間で何かが変わったと上村が感じた瞬間だった。
理由は分からないが、彼とは今後対立するのではないかと、あの時上村は感じていて、目の前で起きた事実に上村は冷静でいられたのかも知れない。
「大山、事は一刻を争う時だ。ワームホールを探しだそう。」
「上村・・・なぜ、そんな冷静でいられるの?菅野はあなたの親友でしょ!?」
「なぜだろう・・・理由は分からない。・・・だけど、彼と再会したあの時から既にこの事を予感していたからかも知れない・・・」
自身の大切な人物を殺めたのが身近な人物だった事を知り座り込む大山を優しく抱き起こした上村は、大山の質問に答えながら岩の前に立ち持っていた玄能石に気を送り振るうと、その太刀筋は岩を真っ二つに切り裂き岩が崩れ去り薄暗い空洞が現れ、その先には源流の石で発生したワームホールが不気味な音を立て空中に穴を開き佇んでいる。
冷静な上村を一瞬睨む仕草を見せた大山は、己の仕事と言わんばかりに立ち上がり識別眼でその先は地下水道が見えると、ゲリラ軍は地下道を通りそこから主要場所へ向かったと結論する。
「・・・ゲリラ軍は、このワームホールを使い日本へ潜入しています」
「しかし、ワームホールに罠を掛ける程の慎重なゲリラ軍が、その先に罠を張っていないとは考えづらい。・・・では、同時では無く時間差で進入を遂行しようと思います」
「・・・では、私が先発隊で行きましょう。私の専任は前衛ですから、ここのメンバーであれば防御力は一番です」
「荒木はんは、気を使えるんでっか?」
「私の気は放出系や具現化系ではなく、防御系と言いますか・・・体の周りに気を纏い鎧にする事が出来ます」
「そら、特殊な気ですな」
「どうです鈴森さん、このメンバーでは攻撃力はありますが防御力はありませんし、私の気はある程度の攻撃であれば無効かする事も可能です」
「・・・分かりました。荒木さんに先発隊は任せます」
全員同時に入るのではなく先発隊と後発隊で別けて入る提案をする鈴森に、一番危険な先発隊に荒木が名乗りを挙げると、不服そうな表情の鈴森へ話し掛ける荒木に鈴森は応じる。
大山の識別眼で先発隊の行動を確認し、万が一罠に嵌った場合は後発隊がフォローに入り、安全を確認出来れば潜入部隊を送る作戦に攻撃向けではなく防御専門と語る荒木は、自身纏った気の防御はある程度の攻撃を無効化する事は可能だと話す。
後発隊が大山と増田、そして潜入部隊が上村で、鈴森は北京から向かっている宮田達が来るまで待機する事になった。
「では、お先に行かせて貰います」
「荒木はん、気い付けてな!」
ワームホールの前に立った荒木は丁寧な言葉で出発の合図をし渦の中に入り、大山は即座に識別眼で荒木の行動を確認する。
鈴森は、大山の識別眼で荒木の情報も併せて収集して欲しいと頼んでいて、彼のきな臭さは増田も感じてはいたが、識別眼の大山を知る彼は大山に情報を取られないように目を見ない等のある程度の防御方法を取り情報を得る事は出来なかったその行動に、鈴森はそれ以上に彼の異様な雰囲気が気になっていた。
政府推薦で第二部隊に配属予定だった荒木の素性は他の隊員も知らない謎のベールに包まれた人物だが、鈴森達へ提供するゲリラ軍の情報や菅野の野望をいち早く感知し知らせてもらったお陰で、日本で起きている混乱に巻き込まれる事も無く計画も順調に事が進んでいるのは確かだった。
それに、彼は一番危険の高い先発隊を率先して引き受けてくれた。
普通、何か企みを持っているのであれば自ら危険を冒すなんて考えられない。
だが、それでも鈴森の胸の奥底にある一物の不安を拭い切る事が出来なかった。
「今、荒木さんは最高神と交戦を始めました。敵は、ムンムとアプスです」
「やっぱり、敵さんもそう簡単に行かせてくれんかい!」
「私が行く!私の気を使えば、ムンムの属性に対応出来る」
やはり敵はここを通るのを想定していたらしく、ワームホール先にあった狭い地下水道に最高神を2体も放っている状況を聞き、上村が次の部隊への変更を鈴森へ要請するが増田がそれを止める。
「お前には、菅野を任せる。・・・多分、このメンバーで今のアイツと戦えるのはお前だけや。これは、上村にとっても辛い事かも知れんが、逆にワイらではアイツと戦う事は出来んやさかい」
「増田さん」
「鈴森はん!まだ、罠があるかも知れんやさかい。ここは、ワイだけで行くわ」
「・・・分かりました。増田さんが入って、暫くしたら大山さんを送ります」
「おお!頼んますわ!」
話し終えワームホールの前に立つ増田は今後の確認をし終えると即座にワームホールへ入り、引き続き識別眼で状況を確認する。
大仙陵と同じパターンであれば、エリアは暗闇で連携攻撃を繰り出しているはずで、防御力は高いが攻撃力は無いと語る荒木では手を焼く暗闇の戦闘であれば、その筋のスペシャリストの増田が行くのは正解だと感じ増田の言葉に同意した鈴森だったが、大山の識別眼には2人が別々に映っている事を聞いた鈴森は即座にその罠に気付く。
「・・・しまった!これは一つの渦から幾つかの出口にランダムで運ばれる構造のランダムホールか仕方ない!これでは別々で行った方がデメリットです、全員で一気に入りましょう!」
ゲリラ軍は移動先を決めていたがそこに送り込む人為をランダムにする事で後から来る追っ手が鈴森のような行動を取ると読んでの罠だった気付いた鈴森の叫びに、上村と大山は事の重大さに気付き即座に3人でワームホールへ飛び込んで行った。
「まったく・・・これは予想外ですね」
何も見えない暗闇の中、荒木は唯一分かっている今の状況を整理する。
分かっているのは、目の前にいるのは2体の生物。
これだけ待っても鈴森達の応援が来ないと言う事は、自分は見捨てられたか、はたまた罠に嵌ったかと考えながらも、あの者達が裏切りの行動などしない事を信じ後者の答えだと思いたいと感じる荒木は静かに目を閉じる。
「まぁ・・・それは自己都合、ですがね」
笑みを浮かべた呟く荒木が目を閉じ集中を始めると、後方から襲い掛かかるアプスの黒い槍が荒木の背中に目掛けて突き刺さったが、その槍はある位置から入り込む事はなく勢いは止まる。
これが、荒木の特殊能力の絶対防御。
己の気を全身に纏う事で絶対防御の盾を作り出す事ができ、荒木は刺さった槍を抜き取り来た方角へ投げ返すと、遥か後方でその槍を弾く音が聞こえた荒木はアプスのおおよその位置を把握する。
「・・・次は、ムンムですか。こいつも、厄介ですね」
自身の攻撃力は決して高い方ではないと自負する荒木は、2体の最高神相手では分が悪いのは明らかだと感じながら辺りを見渡すと、次の瞬間に目の前に現れたムンムが両手を突き出す姿を見てそれが蒸気爆発の構えと即座に理解し、壁に沿って張り付いている電線に手をやり引き千切り、ムンムの手に水分が集まりだした瞬間に手に持った電線をムンムの手に近づける。
集まった水分に電線が接続された先にあった10000ボルトもの高電圧がムンムの体を流れると、たとえ最高神でも化学の力には及ばず感電したムンムの体は黒焦げになり力尽きると、粉々になって消えて行った。
纏ったオーラのお陰で絶縁出来ている為に電線を持っていても問題が無かった荒木は、付近にあった術紙を探し出し破り捨てる。
次の瞬間、奥の暗闇からアプスの攻撃が来るがその攻撃は荒木にとって問題ないレベルの物で、無理な戦闘は避けようと考える荒木はムンムが居た方向の地下道を走り出しその場を脱出すた。
巨大な光が上村達を包み込むが、以前に経験したタイムトリップと違い意識が遠のく事はなく、意識を保ったまま光のトンネルを滑るように通り抜ける。
光が消えやがて周囲の状況が分かるようになったそこは、そばに川が流れているが閉鎖的な空間からここが地下だと推測される。
近くに居た大山・鈴森が奥の通路で爆発音を確認すると、そこが恐らく荒木が最高神と戦っている現場で、ランダムホールは思った以上に遠くでバラけている訳ではなさそうだと感じる。
このまま地上に出て先へ行くべきか、それとも増田と荒木を探しだすかと考える上村は、そんなに離れていないであればあれが使えると、ポケットから事前に皆に配っていたハンズフリータイプのイヤホンを取り出したそれは上村が試作として作った無線機で、これを使えば半径10キロ程度であれば通話が出来る。持っているイヤホンの発信ボタンを押す。
増田・荒木に持たせたイヤホンはペアリング済みで、発信に対しての応答が返って来くる。
「おっ?、皆か?」
「増田さん!この無線機が通じるのであれば、私達の距離は10キロ以内の所にいます。全員で地上を目指しましょう」
「わかった!ワイも上を目指す!」
上村の発信に増田は気付き返答し地上で落ち合う確認は取れたが、未だに荒木の連絡は掴めなかった。
先程の爆発、あれは恐らくムンムの水蒸気爆発で、荒木はやられてしまったのか。
それとも・・・。
「上村さん。大山さんと一緒に地上へ上がって下さい。私は荒木さんを探します」
「ですが鈴森さん、地下にはまだ最高神がいる可能性も・・・」
「それは、こちらでどうにかします。私が地上へ出ても、一番役に立たない事は知っています。地下の荒木さんと合流出来たら、私達もすぐ地上へ上がります。まずは、日本を救いましょう!」
「わ、分かりました。」
荒木の生存は心配だがそれ以上に彼の存在が気にならば自分が探せばいい事と考えた鈴森は、攻撃力のある上村達に地上を任せこっちの捜索は自身で行なう事に決め上村へ話す鈴森の剣幕な表情に、上村は押されたかのように指示に従い大山と2人で地下道の奥へ走り始めた。
2人が見えなくなった後鈴森の携帯が鳴る。
発信先は元上司の小泉で、鈴森はある事が気になり小泉に頼んで調べて貰っていた。
「・・・わかりました。ありがとうございます。そちらは大丈夫ですか?」
「ああ、私は地方にいて難を逃れたからな。これから政府も対策を練るらしいが、主要な人物が捕まっている現状じゃ頼りにならない。私が出来るのはこれくらいだが、勘弁してくれ」
「何を言いますか、貴重な情報でした。・・・それに、この状況で手配までお願いしてしまって」
「大丈夫だ、気にするな。じゃぁ、今日中には来ると思うから」
小泉との会話を終えた鈴森は、胸の使えが取れたかのように表情を引き締め直し前を向いた。
あとは、生存の確認をするだけだと・・・。
そう考えた鈴森は、地上を目指した上村達から少し遅れて荒木を探しに地下道を走り出した。




