第2話 想像の現実
2016/1/9 文構成を修正実施
ここは、日本の極普通な田舎町。
上村が車を降り見上げると、そこにはこの世の物とは思えない光景が目の前に現れ、その大きさは2メートル以上あり、手は足より長く全身が黒く覆われている。
人?、・・・いや、ケモノだ。
ケモノが手に握る鈍く光る銀色の刀は、一振りで周りにいた数人の人の首を跳ねる。
その刀のスピードが異常な為か切られた者の首からはすぐに血が飛び散らず、倒れた後に洪水のようにおびただしい血を流している。
また一人、また一人と次々に襲われる人々。
逃げ惑う人、立ち竦んでしまう人・・・。
その景色は現代の平和な世界にはありえない地獄のような光景だった。
ケモノが血の滴る刀を振り払うと、血の水滴が辺りの壁や木々にこびり付く。
そして静かにケモノが私の方を振り返り上村目指して進んで来るが、足が竦んで逃げるにも動けない状態だった。
ケモノは身を捻り、刀を水平に後ろへ下げ構える。
これは居合いの構えのような物かと上村は見つめている。
「切られる!」
ケモノの攻撃に上村はぐっと目を瞑り、夢なら覚めて欲しいと願いながら唇をかみ締め祈った時脳裏に一つ考えが浮かび上がる。
自分の後部座席に、武器となる想定で常に持ち歩いていたモデルガンがある事を思い出した。
そんな物で倒せる相手ではない事は大人になった今では理解出来ると考えた時、ケモノを目前に金縛りに遭っていた体は金縛りから開放され、突然解放され動けるようになった体は前のめりに倒れそうになる。
上村の目の前で、水平に振りかざされた太刀が風を切り襲い掛かって来たが、金縛りが解けたタイミングが良かったおかげもあり、その攻撃をまるで達人のようにのけ反りながら紙一重で避け慌てて体制を立て直すと、上村はケモノに背中を向け後ろへ必死に走り距離を取る。
暫くすると上村は首筋から熱を感じ、うっすら切られたその傷口からは血が滲み、その痛みと恐怖を感じ動けなる前に上村はその場から乗っていた車へ駆け出し、車内の後部座席にある小銃を手に取り振り返る。
その銃を持ちケモノへ向けると、ケモノの後ろに居た男性が持っていた車載工具をケモノに向かって投げるが、そ工具はケモノに当たる事無く受ける寸前でまるで煙の中をすり抜け、投げられた気流に沿って散りすぐに元に戻る。
投げた人間をケモノが認識し襲いかかろうとし上村に背中を向けると、その瞬間を見逃さず上村は銃を構え、銃口の焦点をケモノの体に合わせて銃のトリガーを引く。
放たれたプラスティックの弾丸は、実銃と比べて遥かに頼りない発射音を奏で銃口から勢いよく発射され、その音に気付かないケモノの無防備な背中を目指し、先程は当てる事も出来なかったケモノの体にプラスティックの弾丸は着弾すると、ケモノの体に取り込まれるかのように体内に吸収されていった。
「当たった・・・?」
上村は唖然とした顔でその生物を見つめる。
なぜだがわからないが、工具のような金属は当たらないがモデルガンから放たれたプラスティック弾は、ケモノの体に当てる事が出来るのだ。
着弾したケモノの傷跡は徐々に腐食し始め、その皮膚は火傷を負ったような爛れた状態になり、獣は苦しそうな表情を浮かべた。
それを見て上村はプラスティック段は効果があると確信するが、自身の傷跡を見たケモノは弾道の先にいた上村に目掛け鋭い視線を向けると、上村へ先程同様に金縛りになった硬直するような視線を送り、上村がその視線を受け動きが止まった瞬間、ケモノは上村の目前まで一気に近寄って来る。
その華麗な動きを上村は客観的に見ていることしか出来ずケモノが目の前に現れた時、せっかく撃退方法がわかったのにこのままでは首を跳ねられやられてしまうのかと上村は悔しそうな表情を見せ痛さを堪えるかのように目を強く閉じると、今までの記憶が走馬灯のように思い出され人間は死ぬ間際は全てがスローになる事を感じていた。
一瞬の時間であったが、上村はこれまでの短い人生を振り返り感じる。
極普通の人生だった。
極めて普通の家族に生まれ、普通の生活をし流れるまま人生を送って来た。
後悔している事は、女性に関してもっと積極的に行くべきだったと思っている。
だが、その後上村と違う方向から自身の声に似ているが、まるで天使と悪魔がささやいているかのように声がする。
そんな人生でいいのか?
もっと人生に軌跡を残すべきじゃないのか?
このまま殺されれば、ワイドショーで同情はされテレビには出れるが記憶には残らない。
「・・・そうだな、どうせ死ぬなら一生懸命死ぬ気でやってみるか。」
その心の葛藤は時間にすれば僅か一瞬の出来事だったが、上村の中では数時間もあったような時間の中で、自分自身の心と葛藤し答えを出したかのように上村は呟いた。
我に返ると気絶していたかのようにズレていた目の焦点が合うと、視界に写ったのはケモノが既に攻撃を仕掛けている姿で、上村は無我夢中で銃のトリガーを引くと無数のプラスチック弾は相手の胸に多数の風穴を開けていた。
自分自身は諦め死を覚悟したが、心は今までの行動を無駄にしたくないと思っていて、即座に我に返らせ体を動し死後の想像よりも生き抜く現実を選んだ。
ケモノはまるで砂の様に風に舞って消えて行った。
そして、ケモノを討伐した私はその地域での英雄になった。