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アナザーストーリー  作者: りょーじぃ
第三章 過去の世界編
26/38

第25話 召喚の真実

2016/8/19 文構成を修正実施

「ここは一体・・・」

 

 暗闇のフロアから光に包まれ転移させられた大山 由希子は、先程の迷宮と同じ石が敷き詰められた上に倒れていた。

 

 今までと違うと感じられるのは、現代的な明かりがある部屋の中央には六亡星が描かれた魔法陣の紙が無数に散らばる研究所の様な光景と、その床を見ると自身の下にも魔法陣がチョークのような白い粉で描かれていて、恐らく自身が掛かった罠は魔法陣を使った転移する罠だと大山は感じる。

 

「・・・生物を戻す為の渦に、とんでもないのが紛れ込んだな」

 

 辺りを見渡す大山の後ろに、全身を黒いローブで覆い顔は黒い狐の様な絵が描かれている仮面を被っている人物の気配に気づいた大山後ろを振り返るが、それだけであればどの時代の人物だが特定できなかったが、この時代に有り得ないボイスチェンジャーで声色を変え発する声は言葉を話すロボットのように機械的でぎこちない声色をしているその様子に、人物が男性である事とこの世界の人間ではないと言う事を大山は確信する。

 

「・・・ま、僕の作業が終わるまで暫くそのまま待っていくれよ」

「あなたは何者なの!?その変声期はこの時代にはない物、あなたも私と同じ現代からタイムトリップでこの世界へ来た人物なの」

 

 その男は、大山にその事を告げると背中を向けその先にある作業台へ戻って行く後姿を確認した大山はこの場を抜け出そうとするが、大山を囲む魔法陣の外側に見えない透明な壁が立ち塞がり人力ではどうにかなりそうも無く、大山の武器は謎の人物が向かっている作業台の横に当て掛けられていた。

 自分の手元には一切何も残っていない状態で魔法陣の中でもがく大山を見て、作業台に辿り着いた男が振り向く。

 

「その魔法陣は結界魔法陣だから力での脱出は不可能だよ。まぁ、大人しくしていれば

  危害を加える気はないよ」

 

 その男が話すようにチョークで書かれたその結魔法陣大山の力ずくでは破れず、恐らく外部から魔法陣を壊すか結界を破るような術が必要だと感じる大山は、あの男が発した「生物を戻すはずだった」の言葉に目の前にいる男が術者だと同時に理解する。

 もし目の前の男が政府の者であれば、政府は生物の暴走を止められないでいるはおかしいと考えた大山は、結界を叩いていた手を止め作業台で黙々と作業をしている人物に話しかける。

 

「変声器なんて、この場所に近代的な物存在するはずが無い物をなぜ。・・・あなた、この時代の人では無いわね。政府の手の者なの?それともタイムトリップを知っている私達とは別の組織の人間なの?」

「・・・源流の石はね、使い方次第で時間の調整が可能だ。普通に使えばこの時代にタイムスリップするようになっているが、調整次第で地点間を繋ぐワープ装置にもなる。政府は後者を作ろうと考えて失敗し、タイムトリップ装置しか作れなかった・・・ただ、それだけの事だよ。僕をあんな無能な集団と一緒にしないでくれるかい」

「あなたは、政府の人間ではないの?石の秘密やタイムトリップも知っているのに」

「・・・その問いに答えるのは、まだ(・・)出来ない」

 

 大山の言葉に応えた男は会話終えると黙り込み再び作業を始め、大山は謎の男が描いている紙を目にすると、それは大山の持っている最高神を召喚したであろう召喚術紙と同じものだと気付き、大山が南京で見た術紙との違いは最後に書いてあったアルファベットの文字にみで、男が描いている紙には【J】と【K】と【L】と書いてある。

 あの単語は何を意味する物なのかまで理解は出来なかったが、あの目の前にいる人物こそが最高神、生物を召喚した術者だと大山は確認する。

 

「あなたが最高神を召喚しているのは分かっている。私も南京で生物を倒した時に同じ紙を見たから」

「それはそうだよ。あれは僕が貴方へ送った刺客だったからね・・・」

「やっぱり、あなたが生物を、最高神を召喚している召喚士なのね」

「東北でパダトとシャマシュを戻そうとした時、思ったより源流の石の光が強すぎた影響で余計な物まで連れて行く羽目になってしまったよ。邪魔な存在だった君達は個々に転移場所を変える事で戦力を分散し、刺客として生物を復元し向かわせたのさ。・・・けど、まさか倒すどころか、最高神を召喚する術紙自体の謎をも解明したのは想定外だったが」

 

 大山の言葉を聞いた男は半身だけ大山の方へ向き、答えるその表情は仮面を被りその表情は伺う事は出来ないが一瞬で凍り付くような殺気を感じ、その口調は薄気味悪い笑みを浮かべて話し掛けているようで、その雰囲気は不気味さを漂わせていた。 

 東北での光は自身が引き起こし大島達を過去の世界に引き込み、同時に生物も仕向けたと話す男に対し、そのせいで天寿を全うし幸せな人生を送るはずの命までを奪った目の前の男の行為によってどれだけ歴史が変わったかを感じ、その事に憤りを覚えた大山は男に向かって叫ぶ。

 

「あなたの理不尽な行動で、どれだけの人の未来が失われたと思っているの!」

「・・・だが、救えた未来もあるのではないですか?ユンファはお前のお陰で今のところは道を踏み留まってはいるよ」

「そ、それも元々の運命だったはず。その為に、多くの犠牲を払っているのは事実よ!」

 

 男の言葉を聞いた大山は、確かに南京での出来事でユンファを少なからず救い出す事は出来たと感じるが、未来を案じたファ・ソンやシャマシュによって滅ぼされた村、他の弟子が貰うはずだった銀の棒など、大山がこの世界に来た事によって人々に影を落とした事の方が遥かに多く、それを考えれば自分はこの世界へ来るべき人間ではなかったと心の葛藤を感じながらも目の前の男を鋭く睨む。

 

「私はこの世界に招かれざる人間です。この時代の人間では無いあなたも、早急に術紙を破棄し現代へ戻るべきです!」

「・・・ようやく、全ての最高神を呼び出せる召喚術紙が出来上がったのだ。なのに、破棄しては勿体無いだろ?お前はこの世界に来て最高神が全部で12体なのは知っているな?・・・だが、その術紙を全て繋げる事でもう一体最高神を召喚する事が出来るのだよ。見たくはないか!12体の最高神の頂点に立つ究極生物を!生物研究を志す僕は、それをせずにはいられないです」

「13体目の最高神・・・」

「これまで召喚したムンムで9体、あと3体召喚すれば全ての最高神を召喚した事になる。お前達がエアとナブー以外は全て消滅させたが、召喚紙はここにあるから、残りの3体を召喚し全ての紙を合わせれば・・・この世は面白い事になるぞ!!」

「そんな事をすれば、本当に世界は・・・過去、現在共に滅ぼされてしまうわよ」

 

 目の前の男は半身で聞いていたその体を大山に向けながらゆっくりと大山へ近づき呟くように話し掛けるが、最後は興奮気味になり何を話しているか聞き取れなかったが、男の話だと存在する最高神は第2生物と新種の生物で、先程のフロアにいたのはアプスとムンムで、名前が出て来ないのは戦闘中か、既に大島達の手により討伐されかと推測し、男の話を聞きながら興奮気味に叫ぶ大山は心の底で冷静に現状の整理を行なう。

 自身の予想通りであれば最高神は全部で12体存在し、最高神は粉々になり消えれば術紙があっても最暫く出て来ない。

 そして12体の全ての術紙を合わせると最高神で最強の13体目の最高神が現れ、それは辞典には載っていないがどちらにせよ只者ではないはずで、今の短い会話である程度情報を得る事が出来たが、この魔法陣を抜け出せる方法が見つからずにいる大山は、目の前で戸惑う姿に男が高笑いしながら去っていく姿を見ている事しか出来なかった。

 

 アプスとムンムを倒しその先にある石室へ向かう為フロアを走る5人は、宮田ミヤダが見つけた狭い道をひたすら進み、増田達も大山 修の鷹の目を使い大山 由希子の居場所を探し出す。

 

 先程のアプスの戦闘で気は殆ど使い果たしてしまった上村は今まで気を使った連戦の経験が無く、大島へ気が回復にはどれだけの時間が必要かを尋ねたが、それは人それぞれだと言われ的確な答えは得られなかった。

 連絡係として笹塚と田島に現代へ戻って貰ったが、ただ大山を助けたい一心でここまで来てしまったが自分が戻った方が良かったのではないかと今更になって少し考える上村は、自身は少し深追いし過ぎていないかと不安を過らせる。

 

「大島隊長・・・。やっぱり私が戻った方がよかったではないですか」

「お前が選んだ事だ、最後まで責任を持て。それに、お前の気だけが頼りでここに残している訳ではない。・・・それだけは忘れるな」

「は・・・はい」

 

 少し強張りながら話す上村に対し、前を向き歩いたまま答える大島の答えに、上村は少し戸惑いを見せながら返事をした。

 笹塚の弟子でもある大島は、自身の責任で行動をするのであれば最後までやり通せと話すのは笹塚の教え通りだと思うが、その答えは笹塚から教わったそれとはまた違った何かを自分に期待しているのは伝わった上村は少し悩ましい表情をする。

 

 やがて、狭い通路が今までの2倍ほど広がり圧迫感が無くなり、再び広大なフロアに辿り着いた5人の目の前に石で出来た巨大な扉が聳え立っていた。

 

「あちゃー。こりゃ、田島はんが居ないとダメちゃうか?」

「いや、この石程度なら私が切り捨てる」

「大島隊長、大丈夫でっか!?」

「この程度の壁なら造作もない」

 

 困った顔の増田の前を通り過ぎながら話す大島が扉の前に立つと、持っていた鞘を腰に付け体を捻り半身になる居合いの構えを見せる。

 ゆっくりと呼吸を整えた後、閉じていた目を鋭く見開くと同時に鞘に収めた刀に手を掛け、捻ったゴムが戻るような鋭い勢いで半身だった姿勢が一気に正を向くと、鞘から抜かれた太刀筋が閃光を放ち一瞬で石の扉の中を通り抜けて行くと、暫くして目の前にある石の扉に一筋の傷が現れ、その切り口からずれ落ち土煙を上げ崩れ落ちる。

 

「ひゃー、隊長凄いですなぁ!」

「ここは・・・」

「多分、ここは大仙陵の石室だ!」

「ですが・・・これは一体」

「ああ・・・。この時代のものとしては、考えられない光景だな」

 

 その先にあったのは間違いなく大仙陵内にある石室だっただが、目の前に現れた信じられない光景に一行は驚きを隠せなかった。

 先程のフロアと同程度の広さの部屋だったが、そこには過去の天皇が埋葬されている豪華に飾られた石棺もある先程までと違う風景に、その場所時代を感じる風景を感じる。

 だが、そのフロアの先にはLEDで照らされた明かりがあり、奥には実験でも行なうかのような作業台があり、これは明らかにこの時代ではなく現代から持ってきた物だと5人は実感する。

 

 その風景の先にあるステンレス製の長方形の作業台に黒いローブを身に纏う一人の男が立っていて、顔は仮面を付けていて確認は出来ないが仮面は狐の絵が描かれていて、困惑する上村達の存在に気付いた男は少し面度臭そうな感じの雰囲気を出しながら向かって来る。

 

「思ったより早い到着で驚いているよ。・・・そうか、大島が間に合ったのか」

「お前が術者か?」

「さすがは大島ってところだね。まさか、エンリル討伐とエアを封印するとはね。貴方が一番厄介だと思い、手強いのを送った筈だったのにね」

「・・・やはりお前が術者か。その事は、まだ修しか知らない事だからな」

「それはそうだよ。この世界では、僕が物語の作者だからね」

「貴様、私と同じ時代の人間だな。・・・やはり、政府の手のモノか?」

「・・・まったく。その質問は2回目だよ」

「2回目?」

 

 その人物は大島の存在に気付くと、先程までの気だるい雰囲気とは違い不気味なオーラを放ちながら話し始める。

 自身を知るような口調に疑問を持った大島は、目の前の男が今回の生物召喚の首謀者だと実感し質問をすると、気だるそうに答えながら男は奥を指さし、その先にはオーラのような壁が張り巡らされ捕らえられている大山を見つけ上村は叫ぶ。

 

「大山!貴様が大山をここへ連れて来たのか!?」

「いいや、あれは元々生物をここへ戻す為の物で、アイツが勝手に入って来たんだよ」

「上村!それに隊長!無事だったのですね!そいつは、生物を召喚して源流の石の秘密を知る人物です。そこの魔法陣が残りの最高神です!」

「貴方、ちょっと喋り過ぎですね・・・」

 

 上杉の叫び声に気付いた大山 由希子は、隣に居た大島にも気付き目の前の男の情報を話し始めると、それを阻止する為に男は持っていた術紙を大山 由希子へ向け、その魔法陣は大山の周りを包み大山の姿が見えなくなった。

 

「大山!」

「ちょっと黙って貰っただけです。では、あなた達の相手をしましょうか」

 

 魔法陣の中に飲まれた大山 由希子の名を叫びながら向かって来る上村に、男は纏っていた白衣の中から銃を取り出し上村に向けトリガーを引く。

 男の銃口から飛び出したのは実弾で、その弾丸は向かって来た上村のこめかみをかすめフロアの奥へ消えて行き、飛び道具を使う事を知った上村は不意に男の間合いに入る事を躊躇しその場で動きを止めると、それを見ていた大島は男が自分達討伐部隊の特性を全て把握している事を実感する。

 

「・・・なるほどな、幾ら我々討伐対でも実弾が一番効率良いからな!コイツ、ワシらの全てを知っているな!」

「まったくですわ・・・。ワイの持っているプラスチック製の武器じゃ、普通の人間相手ではどうしょうもないわ」

「まぁ・・・確かにモデルガンとプラスチックのナイフじゃ、普通の人からみれば只の痛い人ですよね。私の持っていた刀は田島さんへ渡していますし、私自身の気力はまだ回復していません」

「・・・だとすれば、この刀ぐらいしか戦う術はないと言う訳だな」

「貴方は、実弾を持つ僕に勝てるとでも思っているのですか?」

 

 今までの相手が生物であれば全員の持つプラスチック製のナイフやモデルガンで対応可能だったが、人間のましてや大人であれば特殊プラスチックナイフでは致命傷は与えられない事を知る宮田ミヤダと増田は、いくら異常なまでの身体能力を持っても弾丸のスピードには敵わないと感じる。

 

 自身も気力も回復してないと話す上村を含む全員が男の住戸の前に立ち竦む中、その威圧にも怯まず鞘から刀を抜いた大島へ向け、男は躊躇無く大島目掛けて銃の引き金を引く。

 しかし、その弾丸は大島が作り出した気の壁が立ち上がると乾いた音を立て弾き飛ばされた。

 

「やはりな、今まで物理攻撃も防げていたのだから、実弾も防ぐ事は可能だな」

「お前・・・その存在が、邪魔なんだよ!」

 

 実弾となると、その威力に気が持つかは未知数だったが、大島は気が実弾を防御出来る事を体を張って証明し冷徹な目で睨む大島に対し怒りに震える男は、白衣の中からもう一丁銃を取り出し2丁体勢を作り叫びながら動き出した男は、先程よりも俊足で移動し両手の銃を連続して放つが、それを大島は気の壁を作り防いで行く。

 

「あはは!守ってばっかりでは攻撃出来ないよ」

「分かっている、馬鹿者が」

「しまった!」

 

 大島へ向け連射しながら笑う男がその気配に気付いた時には既に男の背後に現れた宮田ミヤダは、右手にありったけの気を込め男目掛けて殴り掛かり、その拳を男はかがんで避けたが宮田ミヤダは伸ばしきった腕を下へ叩き付け再び男へ襲い掛かる。

 油断していた男に宮田ミヤダの渾身の一撃が繰り出されたが、その時作業台から眩い光が天井に向けて発せられ光から現れた腕が宮田ミヤダの攻撃を受け止めると、続け様に出て来たもう一本の腕が宮田ミヤダの体を捕らえ弾き飛ばす。

 

 宮田ミヤダを飛ばした腕が現れた光の中からボロボロのローブに身を纏い腕が4本ある死に神が現れ、その姿を見た男は再び冷静さを取り戻し高笑いした。

 

「あははは!成功した!これが新しい生物【月の神】スィンだ!コイツは最高神の幻想獣の中でも上位の生物だよ」

「なるほど、ヤツがスィンか・・・。増田、その生物は幻惑を見せる生物だが、敵を見ないお前の能力なら戦えるはずだ。イケるか?」

「分かりました!もちろん、行きまっせ!」

 

 召喚された生物の名を聞いた大島はその名が辞典にも乗っている最高神スィンで、その能力は幻惑を使う生物だと理解すると、幻惑を見せるのであれば耳で戦う増田なら対応出来ると考えた大島は増田へ敵の能力を話すと、それを聞いた増田は目を閉じながら得意そうにスィンの前に出るその姿に男が高笑いする。

 

「馬鹿が!目を閉じて戦える相手だと思っているのか!」

「お前もうるさいヤツだな。お前の相手は私だ」

「フン!減らず口を!」

 

 男が目を閉じた増田に銃口を向けたそのスキに大島が高速移動で男へ接近すると、男は後ろに下がりながら大島の刀の間合いに入らないように移動し、その場から居なくなった事を確認した上村は大山 由希子を、大山 修は宮田ミヤダの救護へ向う。

 

 フロア奥で倒れる宮田ミヤダを起こした大山 修が見たその体は、スィンの攻撃をもろに受けた脇腹が深くえぐれていて、宮田ミヤダ程の人間がこれ程までにダメージを受けるのを見た大山 修は動揺を隠せないでいる。

 

宮田ミヤダ隊長!大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。・・・ちょっとモロに貰ったからな」

「アイツは・・・今までの生物とはケタが違います」

「だが、増田一人では倒せない相手だ。我々も加勢するぞ!」

「はい!」

 

 痛々しい傷は残っていて何時もの勢いは無いが無事を確認した大山 修が生物のいる場所を見つめ弱音を吐くが、その表情を見た宮田ミヤダは再び何時もの強気を取り戻し増田へ叫ぶと、その勢いに乗るように大山 修は答えスィンと増田が交戦する戦場へ戻る。

 

 スィンは足が無く空中をさ迷っていて足音と違い空気の音を見分けるのは難しく、増田はスィンの移動する風切り音と腕を振り出す音、その一つ一つを聞き分け己の記憶に刻み込む為、自身の全神経を聴力に注ぎ戦っている。

 最初はスィンの攻撃を避けるだけだったが、相手の動きをある程度把握し出した増田は次第に手数も増え互角の戦いへ移行していく。

 ただ、宮田ミヤダを弾き飛ばした力は脅威で、あの攻撃を食らえばひとたまりも無いと感じる増田は、相手の攻撃に最新の注意を払いながら攻撃の機会を伺う。

 

 4本あるスィンの腕は攻撃を繰り出す腕と次に備える腕とで別れており、その腕を駆使し攻撃と防御を行なう為このままでは攻撃の機会が現れるのは難しいと増田は感じる。

 上村の気はまだ戻っていないだろうし、増田が笹塚から譲り受けた玄能石の棒は気を込める事で初めて強度と攻撃力が付くので、このまま使い続ければやがて玄能石は破壊されてしまうと考えた増田は、玄能石の棒を懐にしまいハンドガンと短刀に持ち替えてスィンに向かう。

 この攻撃が効くかは分からないが今やれる事はこれしかないと感じる増田は、無数に飛び出す腕を避けながらスィン目掛けてハンドガンを打ち放つその玉は、当たるどころかスィンの1本の腕の指に止められ即座に投げ捨てられる。

 

 呆気にとられ停止した増田の一瞬を逃さなかったスィンは、増田目掛けて腕を突き出して突きを食らわし、増田は間一髪それを避けたが、伸ばしきったその腕は即座に横に移動し、避けた増田の顔の側面を捉えると、攻撃を受けた増田は勢いよく飛ばされ

 中央にあった作業机に直撃する。

 勢いの無い攻撃とはいえ、最高神上位の攻撃となればかなりのダメージで、増田はどうにか立ち上がったが今のダメージで正常に戦えるには時間が掛かりそうな状態であった。

 

「・・・しまったな。まだダメージが残っとるわ」

 

 よろめきながら呟く増田に容赦なく攻撃を続けるスィンへ大山 修は念射の矢を連続して放つが、その矢を2本の腕で意図も簡単に受け止め残りの2本の腕で再び増田を狙うその間に宮田ミヤダが立ちはだかり、スィンの攻撃を自身の左腕で受け止める。

 

「さっきはいいのを貰ったからな!こちらからもお返ししないとな!」

 

 スィンの一撃を左腕で受け止め弾き飛ばしたスィン目掛けて連続攻撃を繰り出す為身を捻らせて力を溜めた宮田ミヤダの右腕がスィンに直撃するが、その瞬間にスィンは霧のように姿を消した事で拳は空を切った。

 

「・・・これが幻惑か」

 

 目で相手を追った攻撃では幻惑のスィンを捕らえたに過ぎなかったと理解した宮田ミヤダは、増田のように目を閉じれば攻撃は効くが普通の人間では敵を捕らえる事は不可能だが、目で相手を追えば幻惑を見せられその攻撃は空を切るだけだと感じるが、ここで宮田ミヤダは思う。

 スィンは、なぜ大山 修の攻撃をかわせないでいるのかと。

 

 その答えは鷹の目で、鷹の目は心の目で相手を捉える為スィンに攻撃を加える事が出来るのだと感じ、そんな優秀な目と増すだの耳があるのであれば攻防の一番強い自分が攻撃に出るべきだと宮田ミヤダは考えながら2人へ向かって話し掛ける。

 

「修!、増田!お前達、ワシの目になってくれんか!」

「隊長の目に、でっか?」

「なるほど・・・。私が宮田ミヤダ隊長の目となり、増田さんが耳となって攻撃をかわすと言う事ですね」

「ああ!ワシならヤツ攻撃にも耐えられるし、この中では与えられるダメージも大きい!だが、目で追うワシではアイツの幻惑に騙されるだけだ!お前ら2人でワシの目と耳になってサポートしてくれ!」

「せやけど・・・隊長程の人が、突然なぜです?」

 

 一人で大体の事柄は片付けてしまう程の実力者である宮田ミヤダからの要請に2人は正直驚きを隠せないでいたが、それは宮田ミヤダをある程度知る人間であれば当たり前と言われるほど、宮田ミヤダは戦場へ出てもパーティ戦を行う事などなく単独で行動をする【アサシン】の通り名を持つ実力者であるからであったが、宮田ミヤダがそうなったのには訳があった。

 

 入隊して間もない頃の宮田ミヤダは、学生時代に柔道で鍛えられたその恵まれた体格から戦場の中では常にタンク的な役割で隊員の壁として皆を守っていた。

 その彼を変えたのは、井田・笹塚・ヒルダンと共にジャンヌダルクに所属し数々の修羅場を潜り抜けていた時で、当時も宮田ミヤダタンク役として最前線で活躍し、その自信と驕りが自身で立てた無謀と思える作戦により強制的に隊員を巻き込んだ。

 そして戦地でゲリラの罠に嵌り、戦術なんて関係なくなった戦場ではタンク役としての使命も果たせず目の前で多くの仲間が撃たれ死んでゆく姿を見た宮田ミヤダは、自身の判断ミスで多くの仲間を戦死させてしまったと後悔する。

 

 残りのゲリラ軍を片付け戦況をひっくり返したのも宮田ミヤダで、多くの仲間の命が奪われ自身の感情のコントロールが麻痺した彼は覚醒し、己の気配を完全に絶つ能力を開花させ潜んでいたゲリラ兵を1人で全て片付けた。

 その瞬間、【アサシン】宮田ミヤダが誕生した。

 

 ジャンヌダルクでは笹塚や井田などが戦場で活躍し称賛を浴びたと同時に、宮田ミヤダの能力も驚異的な殺傷率を誇っていたが、幾人の仲間の死の上で目覚めたその能力に宮田ミヤダはこの能力に後ろめたさを感じていて、それが常に単独行動する理由でもあった。

 笹塚が退職し自身も隊をまとめる存在になった事で自分が直接戦う場面も無くなった宮田ミヤダは、それ以降も隊をまとめる役割を行いながらも自身は常に単独で行動していて、第二部隊入省後もそれは変わる事はなかった。

 

「・・・お前は、相変わらずだな」

「・・・いえ、今は隊長ですし、なにかと面倒は増えました!」

「そうじゃなくて、その性格だよ。お前は昔から真面目過ぎるんだよ。あの時の戦場は、誰も予想出来なかった事を分からないバカじゃねぇだろう」

「・・・しかし、あの時、井田や大佐も連れて行き戦術を組めば仲間は死なずに済んだはずです。私が、タンクがいれば大丈夫だと思った。・・・あれは、自分の驕りが生んだ失敗です」

 

 笹塚がワームホールへ入る前日、上村の所へ向かう前に笹塚は宮田ミヤダの所へ来ていた笹塚は、あの時から変わらない真面目すぎる一本気な性格と曲げられない信念に彼の時計は止まったままだと感じている笹塚は、彼の今後を杞憂きゆうしていた。

 

「わたしはな、上村に会うまでは、お前と同じであの時で時が止まったままだったんだよ。このままが一番居心地がいい・・・確かにそうだ。だがよ、それはただお前が現実に目を向けたくないだからじゃねぇか?」

「そんなつもりはありません!・・・ですが、私が仲間を見殺しにした、それは現実だと感じています・・・」

「この世界に居るんだから、死はある程度覚悟の上だ。死んでった仲間はお前を恨んじゃいねぇ。それに、来なくても時間が経てば解決出来るかも知れねぇのに、こんな泥臭い世界に上村は自からこの世界に足を踏み入れたんだ。ヤツはその場で立ち止まらず、己の覚悟で未来を切り開こうとしてる。・・・それは死んだ仲間も同じように、お前にそれを望んでるじゃねぇか」

「・・・大佐、私の選んだ道は間違っていたのでしょうか」

「そんな事は知らん。・・・ただ、今のアサシンと呼ばれるお前よりも、タンクと呼ばれていたお前のほうが、わたしは未来を感じるのは確かだがな」

 

 笹塚の言葉は、過去の失敗を引きずり止っているだけで犠牲になった仲間の為に生き抜こうとしない宮田ミヤダにやさしくも突き刺さる言葉だったが、自身の話を終えおもむろに席を立ち入り口の扉に向かいノブに手を掛けた笹塚は、背を向けたまま立ち止まる。

 

「・・・わたしはヤツに未来を見た。だから、ここへ来た。お前はもう少し、仲間や部下を信じてやってもいいんじゃねぇか?」

 

 笹塚は静かに扉を開け部屋を去る姿を見つめる宮田ミヤダはこの年で己を変える事なんて出来るのかと感じるが、目の前を去っていった自分より年上の人物は、政府がどれだけ説得の交渉に行っても了承しなかった生物討伐の為に軍へ戻り、自ら危険を犯しワームホールへ進入する決意をした笹塚の覚悟と未来を見た感覚を覚えた当時を思い出し己を奮い立たせる。

 

「ワシは、元々は戦闘はタンクだ、お前らを必ず守る!」

宮田ミヤダ隊長!今の攻撃は腕2本で来ています。あと2本は私の念射で対応するので、合図で攻撃して下さい!」

「ああ!任しておけ!」

 

 空中から落下し襲い掛かるスィンに対し、宮田ミヤダはスィンの幻惑に掛からないように目を閉じ左腕を手前に出すと、その手から現れた光は流れるように下へ落ち宮田ミヤダの目の前に巨大な光の盾を作り、その盾を手に取り向かって来るスィンに向け衝突したスィンの勢いを止める。

 スィンの攻撃を気の盾で受け止め力比べになった宮田ミヤダの様子を確認した大山 修は、念射された2本の矢をスィンが受け止めた直後に宮田ミヤダに合図を送る。

 

「今です!」

「ぬおぉぉぉ!」

 

 宮田ミヤダは、右手に気を込めて押さえ付けているスィン目掛けて殴り掛かり、その拳をスィン避けようとするが、風の流れを読んだ増田がスィンの次の行動を読む。

 

「隊長!アイツしゃがみますぜ!」

「分かった!」

 

 増田の言葉に即座に反応した宮田ミヤダが繰り出した腕は、攻撃を避けたスィンの上で止まり伸ばし切らずに止まり、腕の勢いを全て殺した拳はそのまま下へ落下しスィンの脳天を直撃する。

 

 宮田ミヤダの気は大島や上村とも違う強化系の気で、気を纏う事で己の拳を強化する強化系は放出や具現化は出来ないが、気を溜める事で拳の力を調整出来るその威力は絶大で、気の攻撃をまともに受けたスィンは粉々になり消え去った。

 

「隊長!やりましたやん!」

「やりましたね、宮田ミヤダ隊長」

「ああ・・・」

 

 まだダメージの残る増田は、満足に動ける状態ではなかったが宮田ミヤダに向かって大声で叫び、大山 修も安堵の表情を浮かべながら宮田ミヤダへ話す。

 その姿を見て、こうして喜びを分かち合っていると当時を思い出しながら、能力をくれた仲間達が見せたかったのはこの景色だったのかもしれないと宮田ミヤダは感じる。

 

 皆の為に盾になる。

 それも悪くないと、2人の顔をみながら感じていた。

 

 同じフロア内では大島が謎の男との戦いを続けていて、その近くの作業台付近を駈ける上村は大山 由希子が捕らえられている魔法陣の所へ向かい、そこから魔法陣のある所までは数段の階段を下りる。

 その階段手前には上村の背よりも低い壁を通り過ぎたその時、壁に魔法陣が貼られていたそれが最高神召喚に使う術紙だと即座に気付いた上村は、大仙陵とアルファベットが記載されていた術紙が並べてあった事で初めてその意味を理解し、そのアルファベットが生物の発生番号でAからIまで書かれ壁に張られた8枚と、机にあったJからLまでの3枚を合算すれば出現する筈の最高神の数で、アルファベットが数字の変わりをしているのが分かる。

 

 これが術紙であれば破壊すれば生物は召喚出来なくなると考えた上村は、壁に貼ってあったAからIまでの術紙を持っていたナイフで順に切りつけ、傷の付いた術紙は次の瞬間突然燃え上がりその紙が消えると同時にその火も消えて行き、その行動に気付いた男が大声を上げ上村に向かって来る。

 

「キサマ!何をしている!せっかくの研究成果を、どうしてくれるのだ!」

「そんな物を存在させても、いずれかお前にも被害が回ってくるだけだ」

「そんな事はどうでもいいのだよ。僕は、ただ過去も未来も全て混乱させたいだけだからね」

 

 上村に叫びながら向かってくる男の後ろを大島が追走して追って来るが、その行動は予想外の動きであった為に2人の距離は縮まらず、目の前に現れた男に上村は怯まずに続けて術紙を切りつける。

 男の反応を見ると予想通りで、多分この術式が無くなれば生物はこの世界で生存出来ないと考えた上村が6枚の術紙を切った所で男がその場に到着し、上村へ銃口を向け目の前に立ちはだかり、大島は到着した勢いのままに上村へ銃口を向ける男目掛けて刀を振り抜く。

 

「上村、お前なぜ大山の所へ行かなかった!」

「すみません・・・。途中でこれを見つけたので」

「召喚術紙か、それは私の持っている紙と一緒のヤツだな」

「やっぱり・・・大山の話ですと、術紙を破れば最高神はこの世界には居られないと聞いています。あの男が生物召喚の主犯者なら、これを破れば現代の生物もいなくなるはずです。あと、あのアルファベットは召喚した順番で、現代の生物の出現順と一緒のはずです」

「・・・なるほどな。上村、取り敢えずここまでにしておけ。6枚破れば現代の生物は全滅しているはずだし、残りは私達が倒した分と作業台にある召喚されていない分だけだ。ここは私が引き付ける、お前は引き続き大山を助けろ」

「わかりました」

 

 男へ一撃を交わし事で上村へ向けていた銃口を大島に変えトリガーを引き弾き出された弾丸を、放出した気で作り出した壁で弾丸を防ぎながら上村の行動に怒りを見せていた大島だったが、上村の口から出た術紙の話を聞き納得し引き続き大山の救助を指示し、階段へ移動する上村目掛け銃口を向けた男が引き金を引こうとするが、そのタイミングで大島が男に突っ込んで来た事で戦闘が再開する。

 

 その戦闘を背に上村は数段の階段を降り、大山 由希子の居る魔法陣へ向かって行った。

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